向井太一 2ndフルアルバム『PURE』完成

向井太一 | 2018.11.27

 シンガーソングライター・向井太一の2ndアルバム『PURE』――彼が愛してやまないブラックミュージックの要素を多彩に反映しつつ、幅広いリスナー層に届き得るポピュラリティを鮮やかに開花させている作品だ。蔦谷好位置を“Co-Produced”に迎えた「Answer」にKREVAが参加しているなど、上の世代のアーティストとのコラボレーションもたくさん実現しているこのアルバムについて、本人に語ってもらった。

EMTG:とてもいいアルバムです。
向井:ありがとうございます。今までの作品と違って、僕よりも上の世代のみなさんに参加していただきました。ストリングスを生で録ったりもしていますし、1段階スペシャルな内容になったと思っています。
EMTG:上の世代の方々と制作した過程で新鮮な刺激がたくさんあったのでは?
向井:ありました。打ち合わせは、緊張してガチガチでしたけど(笑)。でも、純粋に音楽が好きな方々ばかりなので、とても楽しかったです。
EMTG:「Answer feat. KREVA 」も、素晴らしいコラボレーションですね。
向井:僕、KICK THE CAN CREWが好きでしたし、ソロアルバムも1stから聴いていたんです。ウチの母親もすごく好きなので、親孝行ができたのかもしれないです。
EMTG:お母様に報告しました?
向井:はい。電話越しで泣いていました(笑)。
EMTG:(笑)ヒップホップ、レゲエ、R&Bとかが流れている家庭で育ったんですよね?
向井:そうなんです。小っちゃい頃はブラックミュージックしか聴いていなかったです。今回のアルバムを当時の自分に聴かせたら、ひっくり返るでしょうね。
EMTG:いわゆる「J-POP的」とされるものの先を行っているサウンドをキャッチーなものにすごく昇華している点が、今作の大きな魅力ですよ。
向井:海外のオントレンドなサウンドのアプローチもありつつ、メロディとか歌詞の世界は、どちらかというと歌謡的な部分で攻めていきたいんです。今までもそうだったんですけど、今回もそこは考えていました。
EMTG:「Ego」「午後8時」「ポートマン」とか、ものすごく洗練されたサウンドです。
向井:ありがとうございます。「ポートマン」にプロデュースで参加していただいたShingo.Sさんは、ずっとJ-R&Bをやっている方なんです。僕が中学の時に初めてステージに立って人前で歌った曲もShingo.Sさんが手がけた曲だったんですよ。だから、こうしてご一緒できたことに独特な感慨があります。
EMTG:この曲、コーラスもきれいです。
向井:今まではコーラスワークをあまりしなかったんですけど、こういうのもちょっとずつ好きになってきています。
EMTG:曲毎に歌声のアプローチをかなり変化させていますよね?
向井:はい。今回、歌い分けもすごくできたと思っています。例えば、「午後8時」は、「距離感が近い」というようなイメージの歌い回しと声の質感ですし、今までと違う雰囲気なのかもしれないです。
EMTG:「Pure」の中で出てくるソウルシンガーのような熱くてパンチの利いた歌声も印象的です。
向井:もともとバンドをやっていた時代にファンクとかソウル系の音楽性だったので、僕のベースになっているのは、実はこういう歌い方なんです。
EMTG:隠し持っていた秘密兵器が出た感じでしょうか?
向井:そうですね(笑)。歌声は、幅広くなったと思います。『24』(2016年11月にリリースされたEP)の頃とかは、どちらかというと「歌モノ」というよりも「インスト」という感じの声の使い方だったんですけど、最近、海外のものを聴いても、もうちょっと歌力みたいなものを出す人が増えてきているので、自然に影響されたのかもしれないです。
EMTG:柔軟にいろいろ吸収するのが好きですよね?
向井:はい。わりと「J-POPでありたいな」ということも思っていて。今って、自分は「このジャンルのアーティストだ」と言い切れる人は、なかなかいないんじゃないかなということも思いますし。サブスクリプションとか、ネット社会になっていますから、いろんな新しいものが入ってくるようになっているじゃないですか。
EMTG:国境もあまり関係なくなっていますよね。
向井:そうですよね。日本のアーティストが、海外でバズることも普通に起こるようになってきていますし。
EMTG:海外でも活動したいという意欲はあるんですか?
向井:あります。今年の5月にやった中国でのワンマンライブも印象的でした。初めて行く土地で700人くらいのお客さんが来てくれたんですけど、僕の日本語の歌詞を全部熱唱してくれたんですよ。なんとなくブルーノ・マーズの気持ちがわかりました(笑)。
EMTG:(笑)「Answer feat. KREVA」のプロデュースで参加している蔦谷好位置さんは、ブラックミュージックがルーツにある向井さんの、「J-POPでありたい」というのを具現化する上でとても心強い存在だったのでは?
向井:はい。蔦谷さんも、もともとヒップホップ畑の人ですからね。
EMTG:蔦谷さんは、たしか『関ジャム』の番組内で向井さんの「Siren」をほめてくださっていましたよね?
向井:はい。取り上げていただけて、とても嬉しかったです。最近、芸能人とかミュージシャンのみなさんが僕の曲をSNSとかで紹介してくださることがあるんですけど、不思議な感覚になります。「プロになったんだなあ」って(笑)。
EMTG:(笑)「Answer feat. KREVA」も、プロならではの素晴らしいクオリティです。
向井:ありがとうございます。懐かしい感じもあるけど古くないものになっていると思います。「答えのないもので答えを探す」というのがテーマなんですけど、KREVAさんのようにクラブでフリースタイルをやっていた方が武道館でやったり、フェスのヘッドライナーをするようにもなっていった姿は、まさに僕が見つけたかった答えなんです。だから、この曲でラップをしていただけて、とても嬉しかったです。
EMTG:Takuさん(☆Taku Takahashi)がプロデュースで参加している「Break up」も、とても洗練されたサウンドですね。
向井:2ステップ感がしっかりありつつ、ストリングスのポップ感もあって、古い印象にもなっていないこの感じは、まさにTakuさんですね。クラブミュージックの要素をしっかり持ちつつ、歌謡的な哀愁みたいなものも出ていると思います。
EMTG:この曲は、とても切ない恋愛について描いていますね。
向井:これはノンフィクションです。(笑)
EMTG:今回のアルバムの歌詞は、向井さんのリアルがすごく反映されているというお話を聞いているんですけど。
向井:はい。全部が実際に自分に起こった出来事や、それに対して自分が思ったこと、自分が伝えたいメッセージなんです。
EMTG:世相を捉えた「Secret」や「Haters」とかも、実体験に基づいているんですか?
向井:はい。今まではこういうことを歌詞にするのは抵抗があったんです。自分の物差しで物事について言っても、間違っているのかもしれないという想いがあったので。でも、ファンのみなさんから「落ち込んだ時に曲を聴いて元気をもらってます」とか言っていただけるようになって、「勇気づけて支えられるような人になりたい」と思うようになりました。「曲を通じて様々なことを感じていただける職業なのだから、発信したいことを発信しないままでいるのは違うな」と。
EMTG:「Haters」の歌詞の切れ味がすごいですね。ネガティブな言葉を放つ人に対して《いつか君に届きますように!》って歌っているのが実に粋じゃないですか。
向井:「君が聴きたくなくても聴こえてくるような位置にまで行けますように!」ということです(笑)。
EMTG:(笑)歌ったり、曲を作るのはもともと好きだったと思うんですけど、歌詞に関してはどうだったんですか?
向井:結構、苦手でした。文学的ではなくて、感情的でダイレクトな表現になるタイプなので。「Gimme」でも《人の嫌がることはしちゃいけません》って書いていますし(笑)。昔、僕が聴いていたR&Bの観点からすると、こういうのはダサいなと思っていたんですけど、今はこういう変なひっかかりみたいなのは、僕らしいなと思うようになりました。
EMTG:向井さんの曲は、MVも毎回すごく良いですよね。「Pure」のMVが面白くて、何度も観ています。
向井:ありがとうございます。MVは、アート的な部分でも観られるようなものにしたいと思っているんです。MVやアートワークも良くないと、曲の聴こえ方も変わると思っていますから。
EMTG:モデルもやりますし、インスタへの投稿もたくさんしていますし、音楽に付随した様々な活動に対しても積極的ですよね?
向井:はい。今回のアルバムのアートワークも、全部自分でディレクションができて満足です。
EMTG:好奇心が旺盛なんでしょうね。
向井:そうなのかもしれないです。僕はファッションも、アートも、映像も好きなので、それが全部自分の職業に作用するのが嬉しいです。今は、ミュージシャンもセルフプロデュース力をすごく問われる時代になっているんですよ。それがないとなかなか広がっていけないと思っています。
EMTG:絵を描いたりするのも好きですか?
向井:好きです。昔、漫画家になりたかったんですよ。でも、人物の顔が同じ角度からしか描けなくてやめました(笑)。
EMTG:(笑)リスナーは、いろんなきっかけで向井さんの音楽を聴くようになっているんでしょうね。
向井:そうだと嬉しいです。「向井太一を聴いてると、イケてる感じがするよね?」みたいなことでもいいんです。それは音楽への愛情を培う大切な下地にもなると思うので、そういう喜び、楽しさとかを届けられる存在になりたいと思っています。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

PURE

PURE

2018年11月28日

TOY’S FACTORY

01.Secret (Co-Produced by BON3AI)
02.Crazy (Co-Produced by BON3AI)
03.Break up (Co-Produced by ☆Taku Takahashi)
04.Haters (Co-Produced by mabanua)
05.Agony (Co-Produced by CELSIOR COUPE)
06.Answer feat. KREVA (Co-Produced by 蔦谷好位置)
07.リセット (Co-Produced by CELSIOR COUPE)
08.午後8時 (Co-Produced by grooveman Spot)
09.ポートマン (Co-Produced by Shingo.S)
10.Pure (Co-Produced by 高橋海)
11.Ego (Co-Produced by Chocoholic)
12.Gimme (Co-Produced by grooveman Spot)
Bonus Track. Siren (Co-Produced by tofubeats)

お知らせ

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『王様ランキング』

アニメーションの監督さんとかと食事をする機会があったんですけど、お話をする中で『王様ランキング』を教えていただいたんです。ウェブ漫画で、まだ完結していないんですけど、すごく面白いんですよ。



■ライブ情報

向井太一 “PURE TOUR 2018-2019
[2018]
12/12(水)マイナビBLITZ赤坂
[2019]
01/11(金)仙台enn 2nd
01/18(金)札幌KRAPS
01/25(金)福岡DRUM Be-1
01/26(土)伏見JAMMIIN’
02/01(金)大阪BIGCAT

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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