teto、2ndシングル「正義ごっこ」に秘められた真意とは?
teto | 2019.04.24
昨年は初のフルアルバム『手』をリリースし、全国ツアーも大盛況で終えたteto。フルアルバム以来となるリリースは、4曲入りのシングルだ。まるでカラーの違う楽曲が並んでいるのだが、よくよく耳を傾けると、そこにはまるで背骨のように、あるテーマというか意識のもちかたが記録されていることがわかる。そしてそのテーマは、もちろんtetoというバンドを読み解く上での重要なヒントになっていく。「正義ごっこ」とは何か、以下の小池貞利(Vo&Gt)の言葉から感じてほしい。
- EMTG:年末にはフェスにも出て、年明けには『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2019』があったじゃないですか。ああいう場では、tetoを追いかけてきた人ではないお客さんを前にライブすることになると思うんですけど、そういうところでやるにあたって何か感じたことはありますか?
- 小池貞利(Vo&Gt/以下、小池):この人たちにはどういうふうにすればわかってもらえるんだろうっていうのは思いますけど、わかってもらえねえんだろうなっていうのは結構ありますね。それは、あっち目線だったら俺がわかってあげられない、向こうからしたら「なんで小池は俺のことわかんないんだろう」って言えることなんで。お互いが理解し合うことはできないなっていうのはありながら、もうちょっと歩み寄れたらいいなって思いますけどね。その歩み寄っているところがいちばん人間っぽいところなので。そこはもうちょっとがんばろうってずっと思ってますね。
- EMTG:じゃあ、自分から歩み寄ってる感覚もあるんだ。
- 小池:ありますね。歩み寄ってなかったら、別に自分のやってる音楽じゃなくていいんですよね。やっぱり、自分の音楽は伝えようとしている音楽だと思うんですよ。言葉も、メロディも。ちゃんと……同じ土俵で勝負しているというか、世の中と。本当は……その土俵に乗らないでやれることが俺はいちばんいいなって思うんですけど、それだと自己満足で終わっちゃうので。まあ、土俵のぼったり降りたりしている感じですね、今。
- EMTG:ちょっと変な質問なんですけど、自分ではtetoのやっている音楽って特殊なものだと思います? 普遍的だと思います?
- 小池:普遍的であってほしいんですけど、特殊だと思います。
- EMTG:どういう部分が特殊?
- 小池:うーん……まあ、ほんと客観的に思うのは、自分自分しすぎなところがあって。やっぱ自分本位なんですよね。自分の世界だけの話なんですよ。それがたまたま、端っこでも分かってくれる人がいるというだけで。普遍的なものはもっと窓口が広いっていうか、誰もが考えていることを……だから、わずらわしい音楽だなって思いますけどね。扱いづらい音楽をやってるなって思います。そこは蓋をしておいたほうがいろいろ丸く収まるところだったりもするなって僕は思うんで。それを掘り起こしちゃうと、もっとめんどくさいことがボロボロ出てきちゃいそうなことを歌ってるなって自分でもたまに思うことがあるんで。蓋しといたほうがいいんだろうなって思いながら作ってますね。
- EMTG:それはなんで掘り起こしちゃうんですか?
- 小池:掘り起こしたいから、ですね(笑)。なんていうんだろうな、自分が偏屈なところがあるからじゃないですかね?
- EMTG:それって、自分をわかってほしい、自分の存在を認めてほしいみたいなことではないんですか?
- 小池:自分をわかってほしい……まあでも、普段からわかってほしいわけじゃないんですけど、自分がやる音楽ぐらいはわかってほしいみたいなことはありますね。全部見透かされても気持ち悪いだけなんで。単純に音楽だけでわかってもらえたらいいなとは思ってます。
- EMTG:そういう意味では、今回のシングルは、『手』で「tetoってこういうバンドなんだ」ってわかったつもりになった人がたくさんいたとして、その人たちをびっくりさせるものになったなって思います。
- 小池:ああ、確かに。
- EMTG:4曲ともバラバラだし、確かにtetoなんだけど、「これtetoなんだっけ?」っていう部分があって。なんか煙に巻かれた気分になる。
- 小池:なんかやっぱ、人の理解の範疇のできごとってそんなに楽しくないですからね。予想できないほうがいいと思うので。次何変なことするんだろうな、ぐらいで思ってくれたらいいんですけどね。この4曲って、成り行きで集まった4曲なんですか? それともコンセプチュアルに作っていった曲?
いや、かき集めたらこの4曲に意外と共通しているところがあったって感じですかね。作ってる時期が結構近かったんでそうなったのかなって思いますけど。 - EMTG:作ってみて、「新しい感じのができたな」って感覚はありました?
- 小池:ない、ですね(笑)。音楽面として見たときは、作り方を変えれば音は変わるので当たり前なんですけど、結局人が作るものなんでその人が出ちゃうから、あんまり変わんないんだなって思ったりしますね。
- EMTG:1曲目の「夜想曲」は結構ダークで激しめの音になっていて。これまでのtetoでは鳴らしてなかった音だと思うんですけど。このアレンジはすんなりできたの?
- 小池:そうですね。パソコンで作ってるんで、それをメンバーに送って、こんな感じで……っていう。
- EMTG:《愛や憎しみ、欲望までも全てを飲み込んで/混ぜて満たしてゲロになるまで全てを吐き出したい》って、僕は音楽をやってることとか表現をすることについて言ってるのかなと思ったんですが。
- 小池:まあ、そのときの自分っていうだけで、日記みたいなものなんですよね。それは前と変わっていないと思うんですけど。ただ、最初に言ったように規模も大きくなってきて、自分の言いたいこととか分かってほしいっていうこともだんだん増えてきたりもするので。そういう自分の心境ですかね。
- EMTG:最後のサビでゲロが「光」に変わるじゃないですか。「光になるまで吐き出したい」って考え方って、結構意識が違うように思うんですけど。ここはメッセージになっている気がするんでうよね。
- 小池:いやでも、自分の話ってだけなんですよ。自分が納得できる形で終わらせたいので、人生を。っていうだけですかね。
- EMTG:納得できる人生ってどういう人生?
- 小池:楽しいことがやれればいいなって。
- EMTG:今はどうですか?
- 小池:あんまり楽しくはないですね(笑)。若いときのほうが楽しかったなって思います。何も考えないでいい感じが……みんなそうですよね、別に(笑)。いろいろ見えちゃうものも増えるし。
- EMTG:なるほどね。《いずれ朽ちて無くなってしまうまでなるがままで歩いていくのです》てまさにそういうことだと思うんですけど、どうも話聞いてるとサダくんは「なるがまま」ではいかなそうな人だなって(笑)。
- 小池:でもなんか、諦めみたいなところがありますからね、一種の。否定的な意味じゃないですよ? だったらバンドなんかやって表現なんかする必要ないんだから。でも、覆らないものは覆らない、変わらないものは絶対変わらないし。
- EMTG:そこに対して抗うとか闘うとか、そういう態度もあると思うんですよ。
- 小池:まあ、ゼロではないです。
- EMTG:そういう部分と「なるがまま」っていうのがどういうバランスでサダくんの中にあるんですか?
- 小池:やりたいことやって、それが別にうまくいかなかったらいかなかったでしょうがないなっていうぐらいの感覚。そんなに真剣に考えてないので。そういう意味での「なるがまま」かもしれないですね。
- EMTG:なるほど。2曲目「ラムレーズンの恋人」はそれこそ日記的な、日常の風景を切り取った曲なんですが、こういう歌詞を書くときは自分の実体験がベースになってたりするんですか?
- 小池:それはどっちでもいいんですよね。聴いた人が「どっちなんだろう?」って思ってるぐらいがちょうどいいっていうか。でもこの曲は……1曲目と対比するというか、やわらかくなればいいなって思ってました。漫画とか本を見る感じの曲になればいいなって。BGMになってもいいなっていう。
- EMTG:ドラムの音色がすごく印象的ですよね。
- 小池:ああ、めちゃめちゃ変わってますね。なんか、眠いときに意識が朦朧としているくらいの感覚の音でよかったんですよね。遠くでなんか鳴ってるな、ぐらいの。それが、この歌詞とメロディができたときに、そういう音がこの曲の表現として向いてるんじゃないかなと思ったので。
- EMTG:現実なのか夢なのか、想像なのか現実なのか、その境界線がぼやける感じというか。
- 小池:僕がそれを言っちゃうとつまんなくなっちゃいそうですけどね。でもそうですね。映画とかドラマとかバラエティ番組とかでも「これはフィクションです」って出さないとダメなの? って思っちゃいますね。
- EMTG:ああ、出さないと本当だと思う人が出てくるんですかね。
- 小池:ねえ? どっちでもいいですからね、楽しませてもらったり、それで心が動くっていうのは変わらないわけだから。
- EMTG:《嘘や本当はさておき、あの日々があったような》って歌っていることですよね。だからそういう部分で1曲目と通じる部分はありますね。
- 小池:それを飲み込もうっていう。嘘でも本当でも俺は飲み込むよってことを1曲目では言ってるわけだから。だからじつは似たようなことを言ってるんだなって思いますけどね。
- EMTG:3曲目の「時代」は本当にシンプルにいい曲だなって思いますね。すごく視点が高いというか、大きな視点で歌っている曲ですよね。
- 小池:この曲だけはやっぱり他の曲とは違いますよね。おおまかな部分は1年半前ぐらいに作った曲なんですけど、自分なりにいろんな人の気持ちになってようやく歌えるようになったというのがあって。ようやく完成させることができました。
- EMTG:そして4曲目の「こたえあわせ」という曲、これがラストにあることですべてがつながる感じはありますね。それまで正義と悪とか、夢と現実とか、対立していると思われているものについて歌われていて――。
- 小池:全部どうでもいいんですよね。
- EMTG:そう。で、「こたえあわせ」という曲でなんでも答え合わせをしたがるお姫様が出てくるっていう。
- 小池:結局、どっちでもいいんだよねっていう。あなたが感じたことが答えなんだってところですかね。
- EMTG:この曲でも「どうでもいい」って言ってますもんね。
- 小池:それはネガティブな「どうでもいい」じゃなくて、人間なんてみんな結局自分の平和が欲しいので、それ以外はどうでもよかったりするじゃないですか。だから僕も大抵のことはどうでもいいんですけど、それがそのまま出てる曲なんじゃないですかね。
- EMTG:というか、このシングル4曲のテーマでもありますよね、それは。物事には両面があって、片面だけ見てもしょうがないよっていう。
- 小池:お金ですら裏表あるじゃないですか。単純に物理的な裏表もあるんですけど、使われどころも裏表があるし。人間なんて裏表どころじゃ済まされないだろうなっていうのはよく思いますね。だから好きにしてください、っていう。
- EMTG:なるほどね。で、その4曲をパッケージしたシングルに「正義ごっこ」っていうタイトルが付いているわけですけど、ここまでの話を聞くとなんでこのタイトルなのか分かりますね。でもおもしろいなって思うのは、わかってほしいっていうときには、優等生的な正解を出していくほうが早いじゃないですか。でもそれは絶対にしたくないっていうのがサダくんの中にはあると思うんですよね。
- 小池:それは自分の偏屈なところでそうなるんだろうなっていうのはあるんですけど、やっぱり、自問自答を繰り返すごとに……いいだけの人なんていないですからね。
- EMTG:うん。
- 小池:だからそんなに答え合わせなんかしなくていいのにとか、正義と悪なんてどうでもいいのにっていうのが出てきちゃってるかもしれないですね。
- EMTG:そういう曖昧な部分とか両面性を飲み込んだ上で、分かり合いたいとか歩み寄りたい、そのためにコミュニケーションしたいということなのかなと。
- 小池:バンドをやっているかぎりは歩み寄りたいし、歩み寄ってもらいたいですからね。でもそのために飲み込まなきゃいけないことがちょっと増えてきちゃったりするんですよ。単純に見てくれる人が増えたっていうこともあるでしょうけど、誰かにとって正義じゃないものも飲み込まなきゃいけないこともあるし、それを自分では正義だと思って飲み込むこともあるので。そういう覚悟をもってこれからも歩み寄ったり寄られたり、したいですね。
【取材・文:小川智宏】
リリース情報
正義ごっこ
2019年04月24日
UK.PROJECT
1. 夜想曲
2. ラムレーズンの恋人
3. 時代
4. こたえあわせ
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