Eveが『Smile』で吐き出した本心とは――満たされない心と救いを求める心

Eve | 2020.03.11

これまでボーカロイド曲、BUMP OF CHICKENやRADWIMPSなどのJ-POPのカバーを公開して、親しみやすいポップなアイコンで人気を集めていたEveだっただけに、Eveから心の闇を描いた「ドラマツルギー」が生まれたのは、あまりにも衝撃的だった。しかし、『Smile』が2月12日にリリースされて思うのは、同曲は、伏線程度のものに過ぎなかったということ。それを顕著に表しているのが、『Smile』のうち、ラストを締めくくる重要な楽曲「胡乱な食卓」。ちなみに私は、Eveが今年の1月11日に東京国際フォーラム ホールAで開催した「Eve winter tour 2019-2020[胡乱な食卓]」に、足を運んでいる。


【Eve winter tour 2019-2020[胡乱な食卓]】
スクリーンいっぱいに映ったツアータイトルから、沸き起こる大勢の拍手。足元を揺らすほどの重低音を伴うなかで繰り広げられていくムービーに目を奪われていると、その中央下にポッと灯ったように青く煌めく存在。それが、Eveだった。

ポップが炸裂した「白銀」や「心予報」、闇の中に光が射す「朝が降る」などが、『Smile』で主張したいメッセージだったのであれば、ジャケットを飾る人外も笑顔にすればいい。ただ、革新的な楽曲が、厭世的な「LEO」や「胡乱の食卓」である限り、光は見えない。あるのは、涙だ。

ステージをはみ出していく螺旋状のライティングと、祈りのようなリリックとが相俟って、心に眠る気持ちが歌声を超越した1曲目の「LEO」をはじめとして、この日のセットリストは、既発表から未発表の楽曲を含む全20曲で構成。いまでは、代表作である「トーキョーゲットー」、「ナンセンス文学」、「アウトサイダー」も連投していく。

<「良い子にしてれば笑顔でいれば」/居場所なき感情は彷徨って>と、愛に恵まれず、心がねじ曲がっていく主人公を描いた「胡乱な食卓」。この“良い子”や“笑顔”は、いってみれば、Eveのポップなアイコンの姿そのものと捉えることができる。カバー曲を歌うことで自身の本音をずっと歌で表現してくることのなかったEveは、その間ずっと、大衆の偶像となった自分と、本来の自分との狭間で、自身への葛藤を抱えていた。例えば、それは、大人になったはずなのに、いまだに親には子供扱いされる環境に居る人や、無理をしながらも上手いこと生きている人などにも通じる話だ。様々な矛盾と戦う人たちの心は、日に日に、浸食されていく。ここではじめて、すっかり心に穴が空いた主人公が、形を変えながら浮遊する何者かを飲み込んだことを機に、涙を流す人へと覚醒する「LEO」のMVに繋がる。その映像はまるで、一度深く空いてしまった心の穴は、何かで満たしても、なかなか塞がらないことの象徴。思い起こせば、Eveはいつだって自身の楽曲に、穴が空いた心を綴っていて、ライブでも、「僕はネガティブな人間」と話していた。いまとなれば、その思いも言葉も、本来の自分を皆には知ってもらいたい、という救いを求める本心だったのだと感じる。



「やっぱり、家で動画をあげて曲を作って聴いてもらってるだけじゃなくて、こうやって面と向かって、ここに居るみんなとこの時間を共有できるのは、すごくすごく大切なことなんだなと、改めて今日も歌っていて思いました」「まだ元気ですか? みんなよりも元気じゃないよ、僕(笑)……最後、みんなで一緒に歌おう!」

昨年の12月から今年の1月にかけて、タイアップに繋がった「白銀」(JR SKISKI 2019-2020 キャンペーンテーマソング)や「心予報」(ロッテ ガーナチョコレート“ピンクバレンタイン”テーマソング)は、テレビCM、コンビニ、駅構内などの様々な場所に展開され、街をポップなEve色に染めた。その2曲を通して、Eveを知った多くの人達にも、Eveは、ポップの強度が高いアイコンとして映っている。だからこそ、『Smile』で、<生まれよう/応答してくれよ>と救いを求める「LEO」や、「胡乱な食卓」といったこれまで以上に自身の深い闇を大きく反映した作品を、反動的に作らざるを得なくなったのではないだろうか。

「ライブの数は少ないんだけど、今日のライブも、バンドメンバー、照明、映像、スタッフ、そして、ここに集まってくれたみんなが居て、初めて成り立つものだと思うので、そういうものを大切にしながら、これからも一つずつ丁寧に作っていきたいなと思います」

Eveは、確実に歩みを進めるとともに、常にもうひとりの自分と戦いながら曲を生み出している。例え、心が満たされることはないとしても――。

【取材・文:小町碧音】

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リリース情報

Smile

Smile

2020年02月12日

TOY’S FACTORY

01.doublet
02.LEO
03.レーゾンデートル
04.虚の記憶
05.いのちの食べ方
06.闇夜
07.朝が降る
08.心予報
09.白銀
10.バウムクーヘンエンド
11.mellow
12.ognanje
13.胡乱な食卓

お知らせ

■ライブ情報

Eve Live Smile
05/23(土)神奈川 ぴあアリーナMM

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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