レビュー

Eve | 2020.03.09

Eveが最新アルバム『Smile』を2月12日にリリースした。ネット発音楽シーンがロック&ライブシーンを巻き込み、メインストリームを飲み込んでいく決定打となる一枚だ。

圧倒的な成長と覚醒。Eveらしさであるファンタジックな音世界とリアルを投影したメッセージ性が進化、いや深化と言うべきか。本作には、ロッテ ガーナチョコレート"ピンクバレンタイン"テーマ「心予報」、JR SKISKI 2019-2020キャンペーンテーマ「白銀」などタイアップ曲も多数収録されているが、本作を決定づけているのはポップサイドだけではなく、ダークサイドのEveが持つパーソナルな精神性にある。まさに挑戦的な二面性を持つサウンドメイクだ。



ターニングポイントは、アルバムにも収録し先行配信した「闇夜」(TVアニメ『どろろ』第2期エンディング・テーマ)だった。ジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャンなど、オルタナティヴR&Bとリンクする、先鋭的なトラックと心の奥底を照らすようなストーリーテリングは、最新作『Smile』2曲目に収録された「LEO」によってさらなる深みへと突き進む。



「LEO」のラストでEveは“唸れよ 応答してくれよ たまたまそちら側に居て 何も知らないだけ”と、リスナーに投げかける。目を背けてはいられない社会問題における課題をポップミュージックとして噛み砕く。“気づいて欲しい人間”と“気づかなければいけない人間”という視点。システムが疲弊し、とりこぼされていく人たち。切実なる叫び。そんな葛藤が届くボーカリゼーションの妙だ。



なお、本作を語る上で1曲目「doublet」が持つ“よく似たものの一方”という意味にも着目したい。児童小説『不思議の国のアリス』の作家ルイス・キャロルが“ことばの梯子”という、言葉を連想していく遊びを発案。そこからインスパイアされた考え方が作品に盛り込まれている。そう、Eveの楽曲は常に二面性をもっている。本作『Smile』のジャケット・アートワークが涙を流しているようにも見えるのもその表れなのかもしれない。悲しみや絶望を抱えているからこそ笑顔に強い意味が生まれ、願いの強さを感じるのだ。

Eveは、これまでも“もう一人の自分という表裏”として“人外(ZINGAI)”というアイコンを表現してきた。二面性の視点は、「LEO」における“愛”と“孤独”、「レーゾンデートル」での“夢”と“現実”などにも見受けられる。その真意は、SEめいたインストでの12曲目「ognanje」という曲タイトルが、ヨーロッパの伝承で、人間の子どもがひそかに連れ去られたとき、その子のかわりに置き去りにされる“取り替え子”という意味を持つことを考えれば、片面だけではなくどちら側の立場にも立って物事を考えるべきという強靭なメッセージ、“気づき”を与えてくれる。2020年、必ずやリアルタイムで聴くべきアルバム作品の誕生だ。


【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】




■ライブ情報

Eve Live Smile
05/23(土) ぴあアリーナMM

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

リリース情報

Smile

Smile

発売日: 2020年02月12日

価格: ¥ 2,800(本体)+税

レーベル: TOY’S FACTORY

収録曲

01.doublet
02.LEO
03.レーゾンデートル
04.虚の記憶
05.いのちの食べ方
06.闇夜
07.朝が降る
08.心予報
09.白銀
10.バウムクーヘンエンド
11.mellow
12.ognanje
13.胡乱な食卓

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