カネコアヤノにとって「音楽」とは。自然体で鳴らすその本質を真正面から探る。

カネコアヤノ | 2020.05.18

 もしあなたがまだカネコアヤノを知らないのならば、どうか今すぐにでも彼女の歌に触れてみてほしい。世界がひっくり返るとか、そんな大仰なことは起こらないかもしれない。けれど、ポッと灯る何かがきっとあって、それはあなたの心や頭の中、あるいはあなたの目指す先をほのかに明るく照らすだろう。弾き語りとバンド形態でライブ活動を行い、2018年に『祝祭』、2019年には『燦々』と2年連続でリリースしたアルバムが、それぞれCDショップ大賞の入賞作品に選ばれるなど、ますます注目を集めるカネコアヤノ。4月1日には両A面ニューシングル「爛漫/星占いと朝」をリリースした彼女が奏でる音楽と同様、嘘のないまっすぐな言葉をお届けしたい。

――リリースを明日に控えて、今はどんな気持ちでいらっしゃいますか。(※このインタビューは3月31日に行われました)
カネコアヤノ:うれしいし、楽しみです。
――よく“自分の作った曲は子供みたいなもの”って言うじゃないですか。“その子が世の中に出て、いろんな人たちのもとに行くって考えるとワクワクもするし、ドキドキする”っていうお話を伺ったりもするんですが、そういった感覚はあります?
カネコ:子供みたいな感じでもありますし、でも、みんなに届くってなった時点で、それぞれの受け止め方、育て方をしてくれたらそれでいいかなって私は思ってます。特に今こういう世の中だからこそ、ほんの少しの希望というか光みたいになれればいいかなって。普段から、例えばつらい帰り道に私の歌を聴いてちょっとでも気持ちが楽になるとか、そういう材料になれればいいなって思ってるので。
――そうしたなかで、今回の両A面シングルが世に出るわけですが、「爛漫」と「星占いと朝」、この2曲はいつ頃作られたものなんでしょう?
カネコ:覚えてない……。作ったのは去年です。『燦々』のあとですね。
――例えば「爛漫」には“椿”というワードが出てきますよね。安直かもしれないですが冬をイメージしまして。
カネコ:でも実は椿って冬に限らず咲く花なんですよ。種類によって違ったりするんです。
――知りませんでした! ということは冬に作った曲というわけじゃない?
カネコ:この季節に作ったからこの歌詞になった、みたいなことはあんまりないんです、私は。「今は春だから、春の曲を書こう」とか、そういうのがなくて。季節に関係なく、いつ聴いてもそのときの気持ちになれたらいいんじゃないかなと思ってるんですよね。もちろん季語的な感じでそういう言葉が出てくる歌詞もあると思いますし、季節も含めて過ごしてる時期や、そのときそのときに関わってる人によってもできる曲は変わると思うけど、「この季節でこうだったから、こういう気持ちになって」みたいなものはないかな。
――季節とか、そういった外側の要因には左右されないということですかね。
カネコ:自然と桜が目について、それをそのままアウトプットして歌詞になることはありますし、影響されてないわけではないと思うんですよ。ただ「春だから春の曲を書かなくちゃ」「こういう時代だからこういう時代のことを歌わなきゃ」とはならないっていう。桜の歌詞を書いたとしても、それはふと「桜がきれいだな」と思ってるだけなので。
――では、この曲が生まれるきっかけみたいなものはあったんでしょうか。
カネコ:そういうのもないです。普通にご飯を食べたりとか寝たりとか、生活してるのと同じように音楽を作ってるから、「これがもとになって作りました」とかはっきりしたものはないんです。「次はこういう音楽を作りたいから作ろう」みたいな確信的なことが私はできないですし。
――「爛漫」を聴いたときにすごく強い意志みたいなものを感じたんです。<わかってたまるか>というフレーズや、<お前>という2人称もとても新鮮に響いてきて。なのでカネコさんの中で大きく動くものや変化があったのかなって勝手に想像していたんです。
カネコ:特に自分で意識するものはないですね。おりてきたからそう書いただけっていうか。聴いた人それぞれに想像していただければ、それで大丈夫です。
――サウンドに関してはいかがでしょう。
カネコ:メロディと歌詞は同時に書いてますけど、曲のアレンジに関してはバンドメンバー(林宏敏[Gt]、本村拓磨[Ba/Gateballers、ゆうらん船]、Bob[Dr/HAPPY])とみんなでやってます。ボイスレコーダーにそのまま吹き込んだものをスタジオで弾き語りして「こういう感じです」って、大体のイメージだったりは、身振り手振りで伝えたりして。みんな、それを汲み取ってくれる人たちなので、結果としてこうなってるわけですけど。
――「爛漫」はサウンドにも芯の強さを感じたんですよ。シリアスなようで朗々としているし、懐の深さもあって、聴き手に力を与えてくれるような。そのへんはどうやって練り上げていったのかなって。
カネコ:制作のときの記憶があんまりないんです。エンジニアさん(濱野泰政)も含めてアレンジしてるんですけど、その方に「暗いけど明るいんですよ」みたいなことは言ってたのかな。とにかく基本的にはそういう漠然としたことを伝えて、あとはメンバーたちと一緒にいちばんしっくりくるものを探していきます。
――バンドで作る良さってなんですか。
カネコ:楽しい。それだけだと思います。バンドが、音楽が楽しいからやってるだけ。もちろん煮詰まることはありますけど、それを抜けたときが楽しいんじゃないですかね。作業が全部終わって、作品として発売、ってなったときに振り返ったら煮詰まったことも楽しかったと思えるので。実際、楽しいことって、ずっと楽しいから楽しいわけじゃなくて、ずっと不安だし苦しいから、楽しいときはめっちゃ楽しいんじゃないでしょうか。
――じゃあ完成した曲を聴くときは楽しいの極みでしょうね。
カネコ:うん、楽しい。というか、本当にかっこいいなと思ってます。いい音楽だなって思って聴いてます。
――ただ、「楽しい」はもちろんあるとして、カネコさんが曲を作る原動力みたいなところも知りたいんです。やっぱり音楽という形にして表出する、世に出すというのは、何かしらを届けたい、伝えたいという想いがあるからだと思うんですよ。
カネコ:それが言葉にできないから歌にしてるんだと思うんです。喜怒哀楽全部ですけど、とにかくもどかしい感情を言葉にできないから、詩を書いて歌を作ってます。
――そのうえで、受け止め方は聴いた人に委ねたい、と。
カネコ:委ねたいです。感じ方はみんなそれぞれでいいって思ってるし、作り手の私がこうって言ったらそれにしかならなくなっちゃうから、あんまり言いたくないんです。
――わかります。私もカネコさんの音楽はいちいち解説を要するものではないと思ってはいるので。ただ、純粋な興味としていろいろ聞きたくなってしまうんですよね。例えば「星占いと朝」にしても、「どうして星占いなんだろう?」とか、「“星占い”と“朝”はどういう関連性だろう?」「朝のワイドショーなんかの星占いのコーナーが関係あるのかな」とか……。

カネコ:朝だから星占いとか、そんなに直接的な連想はないですね。なんでそうなったのかっていう理由も特にないです。こうやってしゃべってるみたいに、家でひとりで考えてるときに出てきただけで。でも聴く人が「朝=星占い、エモいなぁ」って思うなら、それはそれでいいです。
――タイトルや歌詞の言葉だけでなく、曲のキラキラした感じもすごく聴き手のイメージを刺激する曲だなと思いました。朝、紅茶を飲んでいて、少し離れたところにあるテレビにはワイドショーが映っていて、その画面の端っこに“今日の○○座は……”って流れてる、みたいな。窓からは爽やかな光が注いでいるのに、なんだかちょっと切なさも孕んでいるような、どうしようもなく美しい一瞬が脳内にパーッと描かれて。
カネコ:それでいいと思います。個人個人の受け取り方で生まれるものは、それでいいと思うし。ただ、私はこうです、とは言いたくないかな。ほんとにただ料理するのと同じように書いてるだけで、料理みたいに献立があるわけでもないんですよね。食事して、排泄して、寝て、っていうのと同じように曲を書いてるから、説明ができないんですよ。
――ごくごく自然な生活の一部なんですね。もっと言えば意識せずとも呼吸しているのと同じような。
カネコ:そうですね、やらないと死んじゃうから書いてます。
――死んじゃいますか。
カネコ:人間という形として生きてくことは可能でしょうけど、魂が死ぬんじゃないですかね。
――生きるのと同じサイクルで。ちなみに曲を作ってるときってどんな感じでいらっしゃるんでしょう。
カネコ:普通にテンション上がってるときもあるし、悲しい気持ちで書いてるときも、怒って書いてるときもあります。それってつまり暮らしと一緒じゃないですか。怒った気持ちで友達と会って愚痴をこぼしたり、悲しい気持ちで眠ったり、そういうことと一緒なんじゃないかなって。
――聴き手のことは考えますか。
カネコ:作ってるときは考えないです。自分のことしか考えてない。でも、そのときそのときをちゃんと記録したいからレコーディングするし、リリースもうれしいからするし、ライブだって好きだからやりますし。そうなった以上はみんなと共有できたほうがうれしいなとは思いますね。
――先ほど「歌うのが好き」とおっしゃいましたけど、それを自覚されたのはいつ頃でした?
カネコ:3年前くらいですかね。
――え! わりと最近じゃないですか。
カネコ:苦手意識のほうが強かったんですよ。下手だっていうコンプレックスとか、苦手だな、恥ずかしいっていう感情のほうが強かったから、それ以前はあんまり歌うのは好きじゃなかったです。
――聞きかじったところによれば、ご友人の勧めで音楽の道に入られたんですよね? そこから音楽に対してどういうスタンスでいらしたのかなって。
カネコ:最初は、当時のギタリストの方と、今も一緒に制作をしているエンジニアの方、音楽をやる上でいちばん信頼しているふたりが褒めてくれるのがうれしくてやってましたね。そこから大学を卒業して、でも就職もしてないし、音楽をやるならやるって腹を括らないとそろそろヤバいなって。なので自分が好きなことをイチから考え直したんですよ。私はたぶんお仕事的にやるのは無理だから、だったら本当に好きにやってみようと思って今に至るという感じで。もっと好きになるためにはどうしたらいいかなってたくさん考えました。
――そもそもから音楽や歌は好きだったんでしょう?
カネコ:好きでした。ただ、人前がイヤ。
――リスナーとして小さい頃から音楽は聴いていましたか。
カネコ:小さい頃は聴いてないです。お姉ちゃんのピアノぐらいですかね。そのあとはわりと気づいたら聴いてたっていう感じで、私はあんまりそんなにルーツみたいなものはないんです。これが衝撃的な出会いでした、みたいなのはなくて。曲を作ったのも、友達にバンドやろうよって言われたから、無理やり作っただけでしたし……。ただ、今の私とはたぶん全然違いますし、そのときのことはあんまり好きじゃなくて。もちろん、こうやって音楽をやるきっかけになった日々ではあるけど、『祝祭』『燦々』というアルバムや、「爛漫」という曲ができた今の私とはだいぶ人間性が違うから、そのときを振り返るのはいつか自分の年表を書くぐらいになってからでいいかなって。
――やっぱり『祝祭』というアルバムができたことは、カネコさんご自身にとって大きいことだったんでしょうね。
カネコ:はい、大きかったですね。
――しかも、その後『燦々』というさらに素晴らしいアルバムを生んだということも、きっと自信になられたんだと推測しますが。
カネコ:そうですね。自信というか、気に入ってはいます。
――この2作がそれぞれCDショップ大賞の入賞作品に選出されたことについてはどう感じていらっしゃいますか。
カネコ:光栄だし、うれしいです。自分の名前が載るなんて思ってもなかったから『祝祭』のときは信じられない気持ちでしたし、『燦々』もすごく光栄だなって思いました。
――つまりカネコアヤノの音楽を聴いて、いいな、素敵だなって共鳴する人が大勢いるということで。それってうれしい一方で、プレッシャーになったりしませんか。求められるものがより大きくなるという意味でも。
カネコ:求められることをこっちが考えてしまったら、すごくつまらないものになる気がするから、できるだけ自分は自分のままでいようと思ってます。プレッシャーも別に感じてないですね。シンプルにうれしいし、これからも音楽を続けよう、やめてたまるか、と思う大きなひとつのきっかけになりました。どこまで楽しくこのままやれるかが、たぶん難しいから……いや、難しくないか。とにかく、このままずっと楽しくやるつもりです。
――息を吸うように、ご飯を食べるように。
カネコ:そうやれたらいいなと思ってます。さっきも言いましたけど『祝祭』も『燦々』もバンドメンバーのみんなと本当にただ楽しくレコーディングしました。特に斜に構えて何かをやったわけでもないし、あえて変なことをしようとしたわけでもなくて。そういう作品がみんなに聴いてもらえたというのは本当にうれしいこと。そういうふうにこれからもできたらいいですね。 
――カネコさんにとって音楽は狙って作るものではないんでしょうね。
カネコ:狙って作れる人は素晴らしいと思いますよ、それが才能というものなんだろうなって。だけど私はできないので。
――そうやって生まれた音楽にご自身も励まされたりするんでしょうか。
カネコ:自分がうれしかったり、自分がまず泣けないときっと世には出さないです。
――ところで今、新型コロナウイルスの影響でライブを行う場を設けることが非常に難しくなっています。カネコさんも公演延期を受けてYouTubeでライブ生配信もされていましたが、無観客で演奏して歌うのはどんな感じでしたか。
カネコ:寂しいですね。ライブとライブ配信が別物だとは言いたくないですけど、やっぱりライブがしたいなっていう気持ちが募るものではありました。今、ちょっと先が見えないので、なんとも言えない感じですけど、シンプルに人々の体温があるところでライブをすることに意味があるんだなって改めて思いますし。そういう空気が充満してるのがライブハウスだし、そこで音楽をやるのが楽しいので。
――待っている人たちに何か伝えたいことがありましたら、ぜひ。
カネコ:限られた中で自分の脳みそを使って考えて光を見つけるしかない、そうやって心を殺さないようにして今を耐えるしかないって思ってます。みんな、自分で考えられるから、考えてほしいなって思う。これが収束したときに、私は必ず歌うし、そういうハッピーな瞬間がこの先に絶対あるから、そこに向けてどうにか今は負けないこと。おいしいご飯を食べるとか、今は配信もあるし、ネットで動画とかも観られるから、ある意味、吸収できるときだと思ってもらえたらいいのかなって。音楽もたくさん聴けるし。あと、できるだけ太陽を浴びてほしい。朝起きたらカーテンを開けるとか、それだけでもきっといいと思うので。
――「爛漫」も「星占いと朝」も日々、心を救う一助になる音楽だと思います。
カネコ:そのひとつの材料になればうれしいです。

【取材・文:本間夕子】

tag一覧 J-POP シングル インタビュー 女性ボーカル カネコアヤノ

リリース情報

爛漫/星占いと朝

爛漫/星占いと朝

2020年04月01日

1994

[DISC1]
01.爛漫
02.星占いと朝

[DISC2(バンドライブ音源収録)]
LIVE「TOUR 2020 “燦々”」(2020.02.09 福岡BEAT STATION)
01.花ひらくまで
02.かみつきたい
03.布と皮膚
04.さよーならあなた
05.愛のままを
06.燦々

お知らせ

■マイ検索ワード

Amazon 猫砂
普段Amazonくらいしか見ないですけど……猫の砂とかかな。重いから。



■ライブ情報

カネコアヤノ ワンマンショー 2020春
-大阪公演-

07/24(金・祝)大阪 大阪市中央公会堂
※弾き語り公演

カネコアヤノ ワンマンショー 2020春
-東京公演-

08/04(火)東京 中野サンプラザ
※バンドセット公演

カネコアヤノ TOUR 2020 “燦々”
<バンド・沖縄編>

12/06(日)沖縄 桜坂セントラル

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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