Maison book girl初のベスト盤『Fiction』からわかる高密度な5年間とその変化

Maison book girl | 2020.06.25

 初のベストアルバム『Fiction』。約5年間に亘るこれまでの活動の中で発表された代表曲の数々は、唯一無二の表現スタイルを切り拓き続けているMaison book girlの魅力を、高密度で体感させてくれる。変拍子、幻想的な音像、イレギュラーな展開など、前衛的な手法を取り入れつつ、美しいメロディ、ハーモニーへと昇華している姿に、改めて驚嘆するリスナーがたくさんいるはずだ。新曲の他、様々なアプローチによる新録、新バージョンも収録されている本作について、メンバーたちに語ってもらった。

――タイトルに「_(アンダーバー)」が付いている曲が、新録や新アレンジですよね?
コショージメグミ:そうです。
和田輪:「_」が付いているものは、ライブで披露したことがあるバージョンになってたりするんですよね。
コショージ:例えば、「rooms」は、アルバムの『yume』に入れた時も新しくなって「rooms_」だったので、今回は「_」がふたつ付いて、「rooms__」なんですよ。
井上唯:新たなことをやっていたり、新曲も入っていたりするので、ベストアルバムっていうより、新しいアルバムを作ったような感覚もありますね。
矢川葵:今までの活動の中でいろんな試行錯誤をして、ライブでも様々な演出をしてきたから、こういう新しいアレンジとかをすることができたのかなと思います。
――全体のコンセプトに関しては、プロデューサーのサクライケンタさんと何か話しました?
コショージ:普段のアルバムのようなはっきりとしたテーマはなかったんですけど、「Fiction」という新曲から、何かを感じていただければという感じです。「Fiction」は、“この5年間のまとめ”みたいな感じですから。
――選曲は、メンバーのみなさんも意見を出したんですか?
井上:選曲は、サクライさんとコショージ?
コショージ:基本的にサクライさんでしたね。最初の段階では「blue light」も入っていたんですけど、曲数が多くなっちゃったので少し絞ることになって、いつの間にか代わりに「townscape」が入っていました。サクライさんは、「townscape」が、めっちゃ好きなんですよ。
――「my cut」が入っていないのを意外に思う人は、おそらくいるでしょうね。
コショージ:「my cut」も途中の段階まではリストに入っていたんですけど、よく考えたら『yume』に「MORE PAST」(「my cut」のアコースティックバージョン)を収録したんですよね。だから、「入れ過ぎじゃない?」っていうことになって、リストから外れました(笑)。
――そういう事情でしたか(笑)。「karma」が入っていないのも意外でした。
和田:そういえば、「karma」も入らなかったんですよね。
コショージ:でも、入れたらくどくない? 同じのが2曲入るみたいな感じになるから。
和田:そうなんだよね(笑)。
――でも「karma」は、収録されているとも言えるわけですよね。「river」は、「karma」のトラックで、「cloudy irony」の歌詞をアレンジしたものを歌っている曲ですから。再構築された「karma」とも言うべき「river」は、今年の1月のLINE CUBE SHIBUYA公演で披露しましたよね?
コショージ:そうです。あの時の曲です。
――「snow irony_」は、キーが変わりましたよね?
和田:はい。キーが上がったんですよね。
コショージ:昔の曲のキーが低くて、歌いづらいというのを、生バンドでライブをやり始めた頃から感じるようになっていたんです。だから、「せっかく録り直せるんだったら、キーを上げたい」っていうことになりました。
矢川:「snow irony」は、ブクガの中ではもともと明るめの曲でしたけど、キーが上がったことによって、より明るくなりましたね。
コショージ:昔の曲を改めて録ったりしながら感じたんですけど、新しい曲の方が歌いやすいというか。昔の声で歌ったものをまた歌うとなると、昔の音源の感じに引っ張られて、今の自分らしく歌うのが難しかったりもしましたし。
井上:最初の頃は、「上手に歌おう」って頑張っていたというか、与えられたものをやるので精一杯だったんですけど、できることが増えるにつれて、歌うのが楽しくなったというのも、この5年の間の変化かもしれないです。
――みなさんは、4人それぞれの歌の個性も、かなり強いですよね。例えば、葵さんは、独特な声の震わせ方をしますし。
矢川:もともと自分ではあまり気づいていなかったんですけど、サクライさんに「葵ちゃんっぽく」って言われて、「私には、そういうのがあったんだ」って知りました。そういうのが、いろんな曲に入っているんです。
井上:最初の頃の「bath room」なんかは、「誰がどこのパートを歌ってるか、わからない」って言われることが多かったんですけど、最近は「それぞれの歌の個性がある」って言われるようになって、嬉しいですね。今回、新しくなった「bath room_」も、ハモりが入ったりして、改めて良い曲になったなあって思います。
――先ほど少し触れた「river」は、新録とか新アレンジというレベルではないニューバージョンですよね。LINE CUBE SHIBUYA公演で初めて聴いた時、ものすごく驚きました。どういう経緯で、こういう大胆な再構築が行われたんですか?
コショージ:あれは、ライブの構成を考えている時に思いついたんです。なんでそうしようと思ったのかはわからないんですけど、「そういうこと、できるんじゃない?」ってなって、サクライさんに相談したら、「できると思う」と。「karma」も「cloudy irony」も、ミキティー(ミキティー本物/二丁目の魁カミングアウト)が振付をしてくれた曲ですけど、新しい振付師さんに曲を再構築していただくのは、とても難しくて。拍が合わなかったりもして、2回くらい振付を直したんですよね。
――ブクガって、ライブの展開がタイムリープになっていたり、パラレルワールドをイメージさせる感じになっていたり、複数の時空が入り混じったり、ワープしたりする感じがあるから、「river」も、そのイメージが反映されている……というか、パラレルワールドで活動しているブクガの「karma」として、僕は解釈しています。
コショージ:そういう感じをイメージして、やっていますね。ライブの演出とかは、技術さんが頑張ってくださることが多いんですけど、ステージに立つ私たちの側も何かできるんじゃないかなと思って、そういうギミックをやってみたのが「river」です。
――ベストアルバムの話から少し逸れてしまいますが……LINE CUBE SHIBUYAの時の「bath room」は、サウンドが逆回転したり、スローダウンした末に、真っ白な衣装が血糊で染まったのが衝撃だったんですけど、あれはどういう意図だったんでしょう?
コショージ:「Solitude HOTEL 7F」のアンコールの時に水を被ったんですけど、あんまりお客さんから見えなかったんですよね。だから1月の「∞F」の時は、「最後にどう持って行くか?」って考えて、あの演出になりました。血糊なら見えますからね。
――ブクガって、いろいろな仕掛けを盛り込みますよね。例えば、今回収録されている新バージョンの「闇色の朝_」も、1番が終わった後に無音状態がしばらくあって、また1番を頭から歌い始めたり、タイムリープ的な構成になっているじゃないですか。
井上:「闇色の朝」のMVが、これに近いバージョンだったんです。評判が良くて、こういう形のものを作ったということなんだと思います。ブクガは、曲で遊びがち(笑)。
――(笑)。遊びつつ、唯一無二のかっこよさを確立し続けてきたのが、ブクガの軌跡だと思います。「ブクガってかっこいい!」っていう自信は、みなさんもありますよね?
コショージ:………………あります。言わされてしまった(笑)。
――(笑)。このベストアルバム、濃密な活動の軌跡を辿った末に、新曲で締め括られる構成が、すごく清々しいです。
井上:「Fiction」は、4人それぞれの歌い方が前面に出ていて、アルバムの終盤にぴったりな曲だと思います。
和田:変わっているスタイルの曲を歌ってきたからこそ、こういうストレートな伝え方の曲が成り立つようになった感覚もありますね。メンバーそれぞれが歌えるようになって、気持ちを乗せられるようになったのかなと思います。ブクガって、変拍子に関して言われることが多いんですけど、一番難しいのは、サクライさんが作る独特なメロディなんですよ。
コショージ:ストレートな曲も歌うようになったのは、もしかしたら、サクライさん自身の変化もあるのかもしれないですよ。ブクガを始めた最初の頃のサクライさんは、まだ大森靖子さんのバンドのメンバーになっていなかったですし。そういう経験も、音楽的な変化とかに繋がったのかもしれないです。
井上:人造人間が、バンドをやったことによって人間に近づいた感じ? 『ドラゴンボール』に出てくる人造人間18号が、どんどん人の心になっていった感じというか(笑)。
――唯さん、とんでもないことを言っていますが(笑)。あと、ポエトリーリーディングも、ブクガならではの表現として、どんどん確立されていきましたよね。今作を締めくくる「non Fiction」も、コショージさんの書いた詩が、心地よい余韻を残してくれます。
コショージ:ポエトリーリーディングがシングルとかアルバムに入る時は、作品全体をイメージして書くことが最近、多かったんですけど、今回はベストアルバムということもあって、そこは考えなかったというか。「non Fiction」は、「Fiction」と世界観は、割と同じものがあると思います。
矢川:ポエトリーリーディングをいろいろやってきた中で、メンバーそれぞれの役割みたいなのもイメージしながらコショージが書いてくれるようになっているのを、読みながら感じるようになりましたね。
和田:最初の頃は、私自身がポエトリーリーディングというものに馴染みがなかったのもあって、よくわからないままやっていたんですけど、だんだん楽しくなっていきました。自分で読むのも楽しいですし、音楽としての面白さも感じるようになっています。
コショージ:今回、詩集が付くんですよ(初回限定盤B)。「non Fiction」以外の、今までの11曲です。これもぜひ読んでいただけたらと思います。
――ベストアルバムを出した後の活動に関しては、何か考えていることはあります? 本来ならば、7月までツアーが続く予定でしたけど。
コショージ:もともとの予定だと、そうだったんですよね。最初の頃は、何ヶ月かしたらまたライブができると思っていたので、「早くやりたいなあ」って思っていたんですけど、人の命が関わってくることだから、ただライブがやりたいっていう考え方ではなくなりました。
井上:お客さんにライブハウスやホールで観ていただくならではの熱量とかは、生配信とかにはないですけど、映像とかで表現できることは、あるんじゃないかなあ……とか。
コショージ:「何か別の表現の仕方を見つけたい」って考えるようになりましたね。いろいろ考えているので、その点に関しては、待っていてください。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

Fiction

Fiction

2020年06月24日

ポニーキャニオン

01. bath room_
02. snow irony_
03. lost AGE_
04. cloudy irony
05. river
06. sin morning
07. faithlessness
08. townscape
09. rooms__
10. 言選り_
11. レインコートと首の無い鳥
12. 狭い物語
13. 夢
14. 長い夜が明けて
15. 闇色の朝_
16. 悲しみの子供たち
17. Fiction
18. non Fiction

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