今の時代を“煽動”するキタニタツヤが『DEMAGOG』で世の中に提示するものとは?

キタニタツヤ | 2020.09.04

 “民衆煽動家”をタイトルの意味とする、最新アルバム『DEMAGOG』を完成させたキタニタツヤ。今更説明するまでもないが、これまでボーカロイド・プロデューサーとしての活動、ヨルシカのベーシストとしての活躍、メンバーである3人組バンドsajou no hanaでの躍進など、様々な顔を持つ才能豊かで切れ味の鋭い若き表現者だ。そんな彼が自らのオリジナリティを見つめ直し、やるべきことへ立ち向かったのが本作『DEMAGOG』だ。ディストピア化する現代社会に対する批評的スタンスを持つアルバムは、コロナ禍である2020年3月以降に制作された新曲で表現されている。社会の歪みから内面世界へ切り込むなど、本気のメッセージ性を感じる鮮烈な作品だ。


――先日、渋谷クアトロでやられた初の無観客での配信ライブを終えてみていかがでしたか?(https://music.fanplus.co.jp/liveReport/202007155302fe104
キタニタツヤ:すごく楽しかったし、普段できないことができたのでうまくいって良かったなって思っています。でも、ライブってお客さんと一緒にやりたいですよね(笑)。いつものライブを、よりやりたくなりました。
――今回、アルバム『DEMAGOG』が素晴らしくって。キタニさん、いろんな表現の幅を持つクリエイターだと思っているのですが、本作を通じて“キタニタツヤらしさ”に、より磨きがかかってきたなと思いました。コロナ禍以降で制作されたことの影響もありました?
キタニ:それがメインなワケではないんですけど、影響を受けたり引っ張られた部分はあるかもしれないですね。歌詞を書いていたタイミングだったってことで。でも、今までも思っていたことっていうか“人間同士の内輪揉め”というか。お互いに悪いところを見つけて石を投げ合うみたいなことって、普通にSNSが普及して以降みえていたことですよね? それはいつか問題として扱うべきだなって思っていた事が、コロナ禍以降、より顕在化されました。目につきやすくなりましたよね。たとえば、やむを得ない理由があってマスクをしていない人がいたとしても、そこに対して石を投げてしまう感じというか。
――そんな世の中のもどかしさを、キタニさんらしくパンキッシュにクールにオルタナティブ・ロックなセンスで表現をされていますよね。しかも統一性を感じさせるサウンド感で。
キタニ:ネオ・オルタナティブ・ロックをやりたいなとは思っていて。ロックがなんだかんだ好きだなって。それこそ、前作がちょっとシティでアーバンなことをやったので。僕の曲ってジャンル的にはとっちらかっていると思うんですけど、今回はマスタリングでがっつり歪ませる色付けになったことが、アルバムの色として統一感につながっているかもしれないですね。どんなジャンルをやるにしても、最終的にロックなものにしたかったんです。
――今の時代のオルタナ感が出てますよね。マスタリングで、ビリー・アイリッシュの作品を手掛けグラミーに輝いたジョン・グリーナムが参加されたことは大きかった?
キタニ:今回は、いろんなクリエイティビティをアルバムに結集したかったんです。関わる人の数を増やしたいなと。楽器演奏に関してもプレイヤーの方を招いて。これまで自分一人でやることが多かったのでその反動ですね。作品のうまみを複雑にしたかったんですよ。味わい深くなっていくかなって。あと、歪むってロックにとって大事ですよね。
――ロックだよね。本作『DEMAGOG』というタイトルから明確ではあるのですが、アルバムを生み出すにあたってのコンセプトやキーワードで大きかったことは?
キタニ:コンセプトありきで作ったアルバムでした。“DEMAGOG”っていうのは大衆を煽動する人ってことで。普段、あまりいい使われ方をする言葉ではないんですが、今回イメージしたのは”強い人”の像ですね。そこに言葉をあてるとしたら“DEMAGOG”だなって。映像的なイメージとしてはドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」な感じで。ジャンヌ・ダルク的な。強い人がいて、そこに弱いものが集まって“行くぞ!”っていう。そんな引っ張っていけるアルバムにしたかったんです。
――楽曲から強さを感じる要素って、そういうことなんですね。日々報道や政治もブレブレな迷える時代ですが、音楽からパワーを貰えるなと思いました。
キタニ:人の弱い部分にフォーカスを当てるけど、最終的には解決策を提示して終わるアルバムを作りたかったんです。独りよがりじゃダメだなって思うようになってきたところはあるんですよ。たとえば、6曲目「デマゴーグ」という曲でシンガロングできるパートを作りました。アルバムの中で、いろんな面で“こんな嫌なことがある”と伝えた後に、じゃあそんな悪夢みたいな嫌なことに対して、どんな解答を出すかっていう曲で。アルバムの中で一番大事だし、聴いてくれる人に伝わってほしい曲でした。そこは一方通行になってはいけないなって。
――ああ、それでライブ感あるナンバーになったのですね。とてもオーディエンスがみえる曲なんですよ。
キタニ:聴く人の存在に引っ張られているかもしれません。ライブやりたいですね(笑)。
――5曲目までは、けっこうヒリヒリした曲が多いなかで、「デマゴーグ」ではストリングスの可憐さであったり、歌詞で<美しさに祝福を!>という言葉があってギターソロの高揚感に酔える感じというか、いい曲ですよね。
キタニ:「デマゴーグ」は、人様に届かなくてもいいかもって思っていたところもあって。わざわざ聴きたいと思ってくれる人にだけ届いてくれたらなって。実際、手応えを感じた曲はそれ以外の方だったりもするんです。なんだろう、テンション上がる仕掛けをいつも考えているんですけど、「デマゴーグ」に関しては音楽をエンタメに昇華しようということを一切考えなかったんですよ。
――おお、なるほどね。でも、このピュアな面がみえるストレートな曲調だからこそ、僕にとってはキタニさんの音楽において触れてみたかったところを垣間見えた感じがたまらないですね。刺さりました。
キタニ:音楽的には自己満なところもあるんですよ。だからこそ気に入っている面もあって。ははは(笑)。
――うんうん。それこそ、先行して出された「ハイドアンドシーク」もめっちゃカッコよくって。ノイジーなギター、エフェクティブな声の使い方など、こだわりの強いギミッカブルな要素があって。ミュージックビデオも目を惹くカッコよさで。PERIMETRONのOsrinさんが映像ディレクターなんですよね。

キタニ:そうですね。これが一番最初にできた曲で。ここからアルバムのコンセプトをたてました。これを作った時は何も考えてなかったんですけど、ただなんとなく、前のアルバムを作り終えたときに、次作るならロックをやりたいし自分の原初的なところに戻りたいなって思っていました。前のアルバムは“気楽にいこうぜ!”じゃないですけど、“イージーゴーイング!”な考え方の歌詞が多くって。でも、元来無理やりそう思わないと出来ないタイプの人間なんで。純粋にシンプルに物を考えようとすると卑屈になっていくところがあって。暗い方に引っ張られていってしまうんです。
――それをやろうとしたのが『DEMAGOG』なんだね。
キタニ:そう、それで出来たのが「ハイドアンドシーク」なんです。歌詞で<彼は天井から見ている>ってフレーズがあるんですけど、その言葉は僕がボーカロイドをやっていたときに同人で生まれて初めて出したアルバムのタイトルなんですよ。
――そっかぁ!
キタニ:昔から思っていたことを、あらためてシンプルに書こうって思って。お天道様がどこかで見ているみたいな窮屈さじゃないですけど、そういうことを言いたいなって。だからこそシンプルに作為的なことも考えず歌詞を書いて、それに引っ張られてサウンドが生まれてきました。音的にも、ギターを弾きたい!ってなったんですよ。でも、昔弾いてたギターの感じとは少し違うんですね。そんな変化が現れたら面白いなってのと、あと精神性はオルタナティブ・ロックっていう。でも、ビートはブラックっぽくってミクスチャーな要素もあって。
――声の使い方がまたいいんですよ。
キタニ:そこは敢えてですね。あと、2番でめっちゃ曲が変化するのはオペラっぽくて面白いなとか。あ、そこは作為的かな(笑)。
――深みと驚きを感じました。そして、アルバムでは「パノプティコン」、「デッドウェイト」、「人間みたいね」、「悪夢」と、だんだんと内省的な世界へ向いていくという。そして、「デマゴーグ」で開けてっていうのはとてもコンセプトアルバムとして明快であり、ここでエンディングを迎えてもいいのに、7曲目にダークな「泥中の蓮」をラストに用意しているのがさすがだなって。

キタニ:そう思っていただくのは狙い通りですね(苦笑)。
――ははは(笑)。オルタナなサウンドであり、エピローグというか現実世界は続いていくってことですよね。
キタニ:ひねくれているんですよ。6曲目「デマゴーグ」で終わればいいのに(笑)。
――「デマゴーグ」で終われば、オアシスのライブみたいな大団円だったのに。
キタニ:ははは(笑)。「デマゴーグ」は僕の理想像ではあるんですけど、ちょっとだけ綺麗事が入っているんですよ。でも、それで良かったんです。「デマゴーグ」はカタカナのキタニタツヤとしての意思表明なんです。「泥中の蓮」は本名の漢字での自分というか。“そんなに世の中甘くないけどもがいていこうぜ”っていう、個人のシンプルな気持ちというか。
――うんうん、そっか。
キタニ:音楽的にもやっぱり自分はこうだよなっていう。いい意味で聴く人を裏切っていきたいなって。
――そんななかにも、次につながる気持ちや言葉もあってグッと心を掴まれますね。いいアルバムになりましたね。
キタニ:ありがとうございます。あらためて自分の音楽って男臭いなって(笑)。無理に飾らずシンプルになったからか。
――アーティストが世に解き放つ思想、思考がこんなにも明確に表現されたアルバムは貴重だなと思います。それは、キタニタツヤの底力ですよね。違う組み立て方をしたら湿っぽいフォークな世界観にもなると思うんですけど、そこはキタニさんの乾いたサウンドワークで完全に2020年、“いま”の音になっているんですよ。ネオ・オルタナ感ですね。そういえば、リリースタイミングでまたオンラインでライブ映像の配信もするんでしょ?
キタニ:いまは、なかなか生のライブがやりづらい時代なのでオンライン上で惜しまずいろんなことをやっていきたいですね。アルバム作ったらやっぱりライブをやりたくなるんですよ。オンラインはね、いい距離の近さというか。手軽にキタニタツヤを楽しめるぜっていう感じを出していきたいです。なんか、アーティストとの距離って今どき遠くてもしょうがないっていうか。近ければ近いほどいいと思っているので。
――なるほどね。太字級ないい言葉をいただけました。
キタニ:ははは(笑)。ありがとうございます!

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

tag一覧 J-POP アルバム インタビュー 男性ボーカル キタニタツヤ

リリース情報

DEMAGOG

DEMAGOG

2020年08月26日

ソニー・ミュージックレーベルズ

01.ハイドアンドシーク
02.パノプティコン
03.デッドウェイト
04.人間みたいね
05.悪夢
06.デマゴーグ
07.泥中の蓮

お知らせ

■マイ検索ワード

アップライトベース
いま、めちゃくちゃ欲しくって。今回のアルバム『DEMAGOG』は、ギターを買ったことによってサウンドが引っ張られたので、楽器を買うってモチベーションとしてでかいんです。音楽を作る原動力になるんですね。そういえば、これまでベースで飛び出したチャレンジをしたことがなかったので挑戦してみたいなって。年内に買います!



■ライブ情報

キタニタツヤ 2nd Oneman Tour 2020
“DEMAGOG”DAY 1、DAY 2

11/05(木)東京 恵比寿LIQUIDROOM
11/06(金)東京 恵比寿LIQUIDROOM 有料配信有り

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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