今の“神はサイコロを振らない”の在り方とは――1st Digital EP「文化的特異点」からひもとく

神はサイコロを振らない | 2020.11.30

 「夜永唄」がSNSを中心に大きな話題を集め、2020年、一気に知名度を上げた“神はサイコロを振らない”が1stデジタルEP「文化的特異点」をリリースした。配信リリースされたバラード曲「泡沫花火」「目蓋」のほか、ロックバンドとしての存在感を示すアッパーチューン「パーフェクト・ルーキーズ」「導火線」、シリアスな歌詞が印象的な「遺言状」、さらに「夜永唄 From THE FIRST TAKE」「泡沫花火 From THE FIRST TAKE」を収録。メジャーシーンに進んだバンドの現状と本作の制作について、ボーカルの柳田周作に訊いた。

――1stデジタルEP「文化的特異点」がリリースされました。「夜永唄」のヒットによってバラードのイメージも強い“神はサイコロを振らない”ですが、本作ではロックバンドとしての強さもしっかり出てますね。
柳田:そうですね。「夜永唄」の反響もそうですし、メジャーデビューしてからも「泡沫花火」「目蓋」とバラードが続いて。それはもちろん自分たちの武器だし、これからもバラードは出していきたいんですけど、メンバーと話すなかで「刺々しさ、激しさもしっかり見せていこう」ということになって。やっぱり自分たちはロックバンドだし、今回のEPの制作を通して、解き放たれた感じはありますね。「パーフェクト・ルーキーズ」のリリックビデオの撮影でも、メンバーがエビ反ってたり、カニみたいに股を開いてたり、海産物展みたいになってたんですよ(笑)。
――(笑)。それくらい激しい曲を求めていた、と。柳田さんにとってロックの入り口ってどんなバンドだったんですか?
柳田:中学生のときにJ-POPよりのアーティストを聴き始めて、高校になるとテクニカルなバンドに興味を持つようになって。SIAM SHADE、FACTみたいな、テクニカルで変拍子も入っていて、なおかつ激しい曲をずっとコピーしてたんです。その頃は、ボーカルではなくてギターだったし、どちらかと言うと楽器隊のカッコ良さに魅了されてましたね。大学に入ってからは一人で弾き語りを始めたんですけど、ルーツはロックバンドですね。
――なるほど。EPの1曲目「パーフェクト・ルーキーズ」は、まさに「これぞロックバンド!」なアッパーチューンですね。
柳田:「このタイミングで、こういう激しい曲が絶対必要だ」という話をしたんですよ。しかもすごくキャッチーで。いままでの神サイは切なくて暗い曲が多めだったんですけど、これからたくさんの人と出会うためにも、「パーフェクト・ルーキーズ」みたいなタイプの曲が必要になると思ったので。ただ聴きやすいってだけではなくて、メンバーの技も散りばめられてますね。歌詞も気に入ってます。今日もリリックビデオを見ながら来たんですけど、我ながらおもしろい歌詞を書いたなって(笑)。
――初めてギターを持ったときの衝撃から始まって。
柳田:そこから現在までの人生を詰め込みました。親友の実家に白いビンテージのストラトがあって――そいつのお父さんのギターなんですけど――それを持って鏡の前に立ったときに、電撃が走ったんですよ。エレキギターの重みを体感して、ビビビビ!って来てしまって。そこから小遣いとお年玉を貯めて、エレキギターを買って、幼なじみと一緒にバンドを組んで。ドラムのヤツのお父さんが建築士で、空き家を改築してスタジオにしてもらって、そこでめっちゃ練習してたんですよ。高校3年までやってたんですけど、結局、1回もライブをやらないまま終わってしまって。
――青春映画みたいですね……。
柳田:(笑)。その後、弾き語りをやって、神サイがはじまって。今年5年目なんですけど、すごく濃い5年間だったんですよ。バンドが終わりそうになったこともあるし、いろんなことを乗り越えて、今はすごく前向きにバンドをやっていて。辛かったこと、苦しかったことも含めて財産になってるんですよね。起きたことすべてが宝物というか。「パーフェクト・ルーキーズ」は、それを思い出しながら書きました。
――2曲目の「導火線」もエモーショナルなロックチューン。ファンクの要素も入っていて、かなりミクスチャーな曲ですよね。
柳田:そうですね! ミクスチャー的な曲も好きだし、ヒップホップは通ってないんですけど、ポエトリーリーディング的な要素もあるので。男っぽい曲だし、楽器陣にもグッと来るポイントが多いんですよ。自分的にいちばんの聴きどころは、2番のBメロに入る直前のドラムのフィルですね。フレーズもカッコいいし、タムの鳴りもすごくて、ドラムの亮介(黒川亮介/Dr)をはじめてベタ褒めしました(笑)。ギター、ベースもかなりテクニカルだし、カッコ良くて。デモ音源は僕が打ち込みで作ってるんですけど、いつも「この通りに弾かなくていいよ」って言ってるんですよ。「どうしてもこのフレーズはやってほしい」ということもあるけど、「ここは行ける!」と思ったら自由にやってほしいので。
――3曲目は「遺言状」。すごくシリアスな感情を描いた曲だな、と。
柳田:今年の10月くらいに書いた曲で、レコーディング当日まで歌詞が決まってなかったんですよ。自分の精神的にもギリギリの状態で……。今って、生きることに対して光を見出しづらいじゃないですか。それでも僕は「曲を聴いてくれる人を救いたい」と思うし、なんとか人の気持ちを励ましたいと思って。手紙を書くような感じで書いてたんですけど、気が付いたら、自分に向けてるような感じになってました。
――2020年の現状も反映されているんですね。
柳田:はい。ボーカルの先輩と飲んでるときに、「負のオーラは伝染する」という話になって。今年はひどいニュースが多かったし、本当にカオスだったので。ライブハウスで戦ってきたバンドのなかにも、活動休止したり、メンバーが脱退することが本当に多かったんですよ。
――ライブがまったく出来ない時期が続きましたからね……。
柳田:そうなんですよね。ただ、「遺言状」はただ暗いだけの曲ではなくて。<無色透明の幽霊が 死ねないまま唄をうたって>という歌詞があるんですけど、僕は歌で救える人がいる限り歌い続けていきたいし、そこに薄っすらとした光を感じているんですよね。
――EPにはバラード「泡沫花火」「目蓋」も収録。アッパーな曲が並んだ前半とのコントラストが強烈ですね。
柳田:おもしろいバンドですよね(笑)。やっぱり「夜永唄」が大きかったと思います。すごくたくさんの人に聴いてもらえたし、バンドのことも知ってもらえて。SNSを見てると「『夜永唄』は好きだけど、バンドには興味ない」という人もいるんだけど(笑)、それでも全然嬉しいんですよ。ちょっと前まで、全然少ない集客でライブをやってたバンドの曲を好きになってもらえるなんて、そんなこと普通はないと思うので。実際「夜永唄」は、ふだんはバンドの音楽を聴かない人たち、ライブキッズではない人たちにも知ってもらって。新しい道が開けた感覚がありますね。
――EPには「夜永唄」「泡沫花火」の”THE FIRST TAKE”バージョンも収録。今や大人気のYouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEに出演したことも大きかったのでは?
柳田:うん、ホントに。家にいながらにしてアーティストの魂の一発撮りを見れるって、すごいことだなって。ライブがなかったぶん、こういう映像を求めていた人が多かったんだと思うし、マジで素敵な企画ですよね。THE FIRST TAKEの収録は、めちゃくちゃ緊張したんですよ。ライブで緊張したことはないんですけど、あの時は歌い終わった後も震えが止まらなくて。名だたるアーティストの方々がすごい歌を歌ってきたし、収録にはピアニスト、バイオリニストの方もいて、「俺がしくったら、おじゃんになる」という責任感もあって。バンドのメンバーがいなくて孤独感も感じてたし、マジで緊張しました……。
――すごい体験ですよね、ホントに。10月に『ミュージックステーション』にも出演しましたが、こちらはどうでした?
柳田:もちろん緊張したんですけど、メンバーがいたから、楽しかったですね。いつも一緒にやってるやつらがいてくれるだけで、思い切ってやれるので。演奏し終わって、ハイタッチしたり(笑)。
――素晴らしい(笑)。EPのタイトル「文化的特異点」というタイトルは、「偶発的な出来事や、それ以前にはいなかったタイプの人物による革新的な(革命的な)行動や思想の表明などにより、その後の文化を一変させた事象」という意味だそうですね。
柳田:「今の神サイの在り方って、どうなんだろう?」と考えながら、いろいろ調べているうちに辿り着いた言葉なんです。この言葉を見つけたときに、「まさに今の神サイじゃん!」と思って。本来バンドって、ライブハウスでツアーをやって、口コミで広がるっていうのが正統派じゃないですか。僕らもそうやってがんばってきたけど、広がり方がイレギュラーだと思うんです。初めて曲がバズったのもYouTubeだったし、今年は「夜永唄」がSNSで拡散して。バンドを知ってもらうためだったら、どんな手段でもいいと思うんですよね。もちろん音楽は超真剣にやってるけど、同時にYouTubeの公式チャンネルでおふざけ動画、おもしろ動画もアップしてるんですよ。
――「ドラマシリーズ」とか「ドキュメントシリーズ」とか、バラエティ要素の強い動画もありますからね。
柳田:そうなんです(笑)。神サイのやり方をよく思ってない人も少なからずいると思うんですけど、いろんなやり方を試して、どんどん新しい時代を作っていきたいんですよね。ちょっと前までガラガラのライブハウスでやってたバンドが、いきなりMステ出るなんて、めちゃくちゃイレギュラーじゃないですか。
――イレギュラーだし、夢がありますよね。
柳田:そう感じてもらえたら嬉しいですね。以前は「武道館でやりたい」って言ってたんですけど、最近は言わないようにしてるんです。目標を決めて、それが叶ったら、そこがゴールになってしまう気がするので。
――来年はさらに飛躍の1年になると思います。もう少し、ライブができたらいいですけどね。
柳田:すぐに状況が変わるとも思えないけど、ちょっとずつやってきたいです。今年、神サイの曲を聴いてくれた人がめっちゃ増えて。そういう人たちに会いに行きたいんですよね。生まれ故郷の宮崎でライブをやったことがないので、来年はぜひやりたいです!(笑)
【取材・文:森朋之】


「パーフェクト・ルーキーズ」「導火線」「遺言状」のリリックビデオ三部作を”神はサイコロを振らない YouTubeチャンネル”にて毎週金曜日21:00よりプレミア公開することが決定。

神はサイコロを振らない「パーフェクト・ルーキーズ」【Official Lyric Video】

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リリース情報

文化的特異点

文化的特異点

2020年11月27日

Universal Music / Virgin Music

01.パーフェクト・ルーキーズ
02.導火線
03.遺言状
04.泡沫花火
05.目蓋
06.夜永唄 - From THE FIRST TAKE
07.泡沫花火 - From THE FIRST TAKE

お知らせ

■配信リンク

1stデジタルEP『文化的特異点』
https://www.universal-music.co.jp/kamisai/tokuiten/



■マイ検索ワード

小森雅仁
いまイケイケのレコーディング・エンジニアの方ですね。これまでのワークスを見ると、藤井風さん、YOASOBIの幾田りらさん、HYDEさん、Uruさん、宇多田ヒカルさん、米津玄師さん、Official髭男dismさんなどの名前が並んでいて。宇多田さんのライブ映像作品(『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018』)の撮影で、臨場感を出すために壁に貼るタイプのマイクを大量に用意したらしくて。とにかくこだわりがすごいんですよね。神サイでもいつかお願いしたいです。バンド以外の音を使っている「遺言状」みたいな曲、小森さんと一緒にやったら絶対いいと思うんですよね。



■ライブ情報

FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY
2020/12/26(土)・27(日)・28(月)
大阪 インテックス大阪
※神はサイコロを振らないは12/28に出演

COUNTDOWN JAPAN 20/21
2020/12/27(日)~31(木)※28日(月)を除く
千葉 幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール
※神はサイコロを振らないは12/27に出演

NAGOYA SOUND PRESS SHOW 2021
2021/01/16(土)愛知 ダイアモンドホール

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