Mr.FanTastiC、原点に立ち返ったシングル「&」と、これからについて
Mr.FanTastiC | 2020.12.16
2019年6月、結成からわずか1年というスピードでメジャー・デビューを果たすという“スタートダッシュ”(デビュー・アルバムのタイトルにもなっている)を見事にキメた4人組ロック・バンド、Mr.FanTastiC。彼らはメジャー・デビュー2年目となる2020年もその勢いのまま“絶走”(メジャー・デビュー・シングルのタイトル)を続けるはずだった。
しかし、そんな彼ら――いや、彼らを含め、多くのバンドが直面したのがライブはもちろん、これまでと同じようには活動できないというコロナ禍の残酷な現実だった。
「ライブをするために曲を作っている」と語る彼らMr.FanTastiCのことだ。さぞかし落ち込んでいることだろうと思いきや、久々に対面したメガテラ・ゼロ(Vo)によると、コロナ禍においても音楽を楽しむことを忘れることはなかったというのだから頼もしい。ライブができない状況を、自分たちを見つめ直す絶好のチャンスと考え、バンド・アンサンブルに磨きを掛けながら曲作りに励んできたという。
今回、リリースされた「&」を皮切りに、これから作品ごとにテーマを決めたシングルをどんどんリリースしていくというチャレンジは、新曲をたくさん作る中から出てきたアイデアなのだろう。
今回はR&B~ファンクの要素が色濃い3曲が揃ったが、「何をやりたいのかわからない」と周囲を驚かせるぐらいいろいろなことをやりたいと、バンドは意欲を燃やしている。類稀なる歌唱力と超絶テクを誇るバンドだ。「無所属・無属性・自由型ロックバンド」と自ら掲げたキャッチフレーズにふさわしい曲の数々を届けてくれるんじゃないかと今から大いに期待しているが、まずはフィジカルとしては1年2ヵ月ぶりのリリースとなる「&」について、メガテラ・ゼロに話を聞かせてもらわなければ――。
- ――2020年は大変な年になってしまいましたが、お元気でしたか?
- メガテラ・ゼロ:いやぁ、すっごい元気ですね。筋肉痛がなくなりました。
- ――あ、ライブがなくなったから?
- メガテラ・ゼロ:そうです。ライブでむちゃくちゃジャンプすることがなくなったので、足の筋肉が疲れることがなくなりました。だから回復には良かったと思います。去年はずっとライブやツアーで各地を回っていたので、体に鞭を打ってじゃないですけど、けっこう無茶をしながら、「体を休める暇がないよね」という話を、みんなでちょうどしていた矢先のコロナ禍だったんですよ。
- ――ああ、なるほど。
- メガテラ・ゼロ:だから、メンバー全員、体がすっかり回復して、そろそろライブができないフラストレーションが溜まってきたと思います。
- ――6月に配信限定シングル「Always the best day」をリリースしたり、公式YouTubeチャンネルで『ミスラヂ』というラジオ番組を始めたり、Mr.FanTastiCが活動を止めることはありませんでしたが、以前、「ライブをするために曲を作っている」とおっしゃっていたMr.FanTastiCだけに、ライブができなかった今年は、さすがに悔しい思いをしたり、落ち込んだりすることもあったんじゃないかと思うのですが、いかがでしたか? もちろん、その思いがバネになったところもあると思うからこそ、こんな質問をさせてもらうわけですが。
- メガテラ・ゼロ:もちろん、ライブがしたいという気持ちはずっとありましたけど、ライブができないから落ち込むということはなかったですね。僕らは、自分たちが音楽をやりたいからやっているんです。だから、ライブができないなら曲を作ればいいと気持ちを切り替えて、ライブができない時間を、曲作りや曲の作り方を見直すことに使ってました。見直すチャンスが来たと思ったんですよ。だから、マイナスと言うよりは、全く違う形のプラスが多かったんじゃないかと思います。
- ――曲の作り方の、どんなところを見直したんですか?
- メガテラ・ゼロ:主にDVDを見直しました(笑)。メンバー全員が影響を受けたMR.BIGの『サンフランシスコ・ライヴ』をまた見たんです。で、俺、歌いすぎだと反省しました。これはダメだ。もっとバンドに弾かせないといけない。もっと俺、黙らないといけないと思って、「もっと弾けよ」ってメンバーに言うようになりました。Mr.FanTastiCはメンバーが死ぬほど楽器がうまい。それを見せることがメインのバンドなので、歌を聴かせることよりもいかにギターとドラムをかっこよく見せるか、改めてそれを考えるようになりました。これまでは、ある程度は歌も聴かせようと思っていたんですけど、4月に歌がメインのユニット、BLUES DRIVERのアルバムをリリースしてから、Mr.FanTastiCに取り組んだとき、自分が目立つよりもメンバーを目立たせたほうが絶対おもしろいと思ったんです。それから新曲をいっぱい作っているんですけど、今、めちゃめちゃおもしろいです。
- ――「&」の2曲目に入っている「HOWEVER」は、まさにそういう考えから生まれた曲ですね。
- メガテラ・ゼロ:最初は「一番簡単な曲を作ろう」ってスタジオでみんなで作り始めたんですけど、一旦メンバーそれぞれで持ち帰ろうってなって、「もっとかっこつけて」とつっくん(Gt)とナナホシ管弦楽団(Gt)に言ったんですよ。演奏でかっこつけると、やっぱり難しくなってくるんですね。だったら、いっそのことギター・ソロだけじゃなくて、ドラム・ソロも入れて、演奏で持っていってくれって感じでできあがっていきました。僕が考える理想に近づいている感はありますね。だから、MVを撮る時も「俺はほぼ映さなくていいから」ってお願いしたんです。代わりに「ギターとドラムをかっこよくしてくれ」って。
- ――ダメなバンドはボーカルが「俺が俺が」ってなりがちですよね。
- メガテラ・ゼロ:全員がかっこよく見えたほうが、バンドはかっこいいと思うんですよ。それこそMR.BIGはボーカルのエリック・マーティンと同じくらいポール・ギルバート(Gt)、ビリー・シーン(Ba)、パット・トーピー(Dr)の名前も知られていたじゃないですか。それを目指しているんです。
- ――MVを作るぐらいだから、今回、リード曲として一番推したいのが「HOWEVER」?
- メガテラ・ゼロ:今回の3曲の中では、演奏隊も一番楽しいと思います。3曲目の「Envy & Clap」はライブでずっとやっていて、必ずと言っていいほど盛り上がるんですけど、「HOWEVER」はそれに勝つ曲になってくれるんじゃないかな。
- ――ふじゃん(Dr)さんのドラムの手数がめちゃめちゃ多くて。
- メガテラ・ゼロ:あそこまでは頼んでなかったんですけどね(笑)。「ドラム・ソロをとりあえず入れて」と言ったら、「ギターの2人に負けてられない」と思ったのか、めちゃめちゃ叩き始めて、ばかだなぁと思いました(笑)。いや、もちろん、いい意味で。
- ――じゃあ、メンバー全員がノリノリだったわけですね。
- メガテラ・ゼロ:そりゃもう弾きたがり、叩きたがりの人間たちですから(笑)。バンドを組んだ頃は遠慮していたところもあったんですけど、ライブの回数を重ねるうちに「楽器隊がむちゃくちゃ目立てば、こいつは歓んでくれる」って気づいてくれたようで、最近はもう僕が納得できるかっこよさを叩きつけてくれるので安心してます。
- ――「HOWEVER」は作曲がバンド名義になっていますが、今までそういう曲ってありましたっけ?
- メガテラ・ゼロ:いや、今まではつっくん、ナナホシ、僕がメインで作って、それをみんなでっていうやり方で作ってきたんですけど、「HOWEVER」はスタジオで、全員で一から作っていきました。そういう作り方は、考えてみれば、この曲が初めてですね。
- ――そういう作り方をしてみる何かきっかけがあったんですか?
- メガテラ・ゼロ:MR.BIGですね(笑)。彼らのライブでビリー・シーンとポール・ギルバートのソロ・バトルがあるじゃないですか。そんなせんでもうまいことはわかるのになと思いながら、ここまでやるからこそかっこいいのかと思って、「じゃあ、俺たちも音で殴り合ってみるか」って僕が提案したら、みんなすぐ賛同してくれたんです。
- ――曲の元ネタは誰かが持ってきたんですか?
- メガテラ・ゼロ:いえ、僕が「ノリはこんな感じで」って軽く言っただけで、後はその時、みんなで気持ちいい流れを作っていっただけでしたね。
- ――そういう曲の作り方はどうでしたか?
- メガテラ・ゼロ:楽しいですね。3人もやっと気づいてくれたと思います。「ここまで目立っていいんだ」って。今も引き続き曲を作り続けているんですけど、どんどん目立とうとしてきてくれるんで、すごく助かってます。
- ――でも、そういうやり方だと、誰かが作った曲をみんなで練り上げるよりも時間がかかりますよね?
- メガテラ・ゼロ:いや、我々はどちらの作り方も同じですね。演奏隊がうまいと、何でもできちゃうんで簡単なんですよ(笑)。
- ――さて、今回の「&」はフィジカルとしては1年2ヵ月ぶりのリリースとなるわけですが、新曲をいろいろ作った中から、「HOWEVER」も含め、なぜ今回の3曲になったのでしょうか?
- メガテラ・ゼロ:わがままにやってる曲をメインに、ちょっととがってるところをまとめたのが今回のシングルなんです。今後、こんなにふうにそれぞれテーマを決めてシングルをたくさんリリースしていこうと考えているんですけど、その1発目です。
- ――なぜ1発目に、とがっている曲を?
- メガテラ・ゼロ:MR.BIGがとがってるイメージなので(笑)。
- ――そこはやっぱりバンドの原点だから、と。
- メガテラ・ゼロ:そうですね。ライブにしても、演奏にしても一番とがっているのは、あのバンドだと思うので、そこに近いものを1発目に出してしまえば、そこからはJ-ROCKでもJ-POPでも何でも出せるだろうっていう。演奏隊がうまいからこそ、全部できるってところを、これからシングルで見せていきたいと思ってます。何がしたいのかわからないと言わせられるぐらい、いろいろやってみたいんですよ。
- ――「Envy & Clap」は、ライブの人気曲だそうですが、いつ頃作った曲なんですか?
- メガテラ・ゼロ:バンドを組んで、最初に作った曲の中の1曲です。それからずっとライブでやっているんですけど、そう言えば、CDに入れてないと気づいて、今回、慌てて入れました(笑)。一応、歌詞もとがっているからちょうどコンセプト的にもぴったりだったんですよ。
- ――Envy(妬み)とClap(手拍子)という組み合わせがユニークですよね。そこにMr.FanTastiCというか、メガテラさんの人間性が表れているんじゃないかと思うのですが。
- メガテラ・ゼロ:英語がわからないからこその、この組み合わせですね(笑)。つっくんから「メガちゃん、これ、どういう意味で書いたの?」って聞かれて、「エンビー&クラップって語呂がいいからとえりあえず歌ってたんだけど」って答えたら、「英語でも日本語でもないで」って言われました(笑)。
- ――なるほど(笑)。他人を羨む気持ちって誰しも持っているものじゃないですか。そういうネガティブな気持ちを、ライブで声を出して、手を叩いて、発散しようという意味があるのかなと想像したのですが。
- メガテラ・ゼロ:いやぁ、ただの語呂合わせですね。けっこうそういう歌詞が多いです(笑)。
- ――でも、歌詞よりもまずは曲を聴いて、楽しいと思って踊ってもらえればいいというスタンスなんですもんね。
- メガテラ・ゼロ:そうです。よくよく聴いたら、歌詞は暗いけど、歌うとなんか楽しくなるってなれば、後付けですけど、いいかなって思いました。
- ――「ウィスキーハロウィン」と同様に「Envy & Clap」のスウィングするリズムは、Mr.FanTastiCの得意とするところですね。
- メガテラ・ゼロ:最初に「Envy & Clap」があって、それがライブでずっと盛り上がっていたから「ウィスキーハロウィン」を作ったって流れなんですけど、こういうヨコノリのリズムはライブでハジけやすいんですよ。ソロも入れやすいみたいで。あと、ふじゃんがすごく楽しそうなので、ふじゃんが楽しそうに叩いていると、僕らも楽しくなる。そういう意味で、演奏していても楽しい曲調なんです。
- ――メガテラさんが曲を作った時からこのリズムだったんですか?
- メガテラ・ゼロ:そうです。弾き語りで作っているんで、弾きながら楽と言うか、歌いやすいリズムがこれなんです。
- ――とがっているところをまとめたということですが、1曲目の「Night & Day」は曲もさることながら、歌詞がかなり辛辣です。歌詞のモデルになった女の人がいたんですか?
- メガテラ・ゼロ:あぁ、いえ、浮気の相手止まりで本命になれない人。あなたはそれでいいのか?という曲なんですけど、誰かをイメージしたわけではないです。ツイッターを見てると、そういう人がけっこう多くて、よく炎上しているんですよ。歌詞の<ミセスファイヤー>はそういう意味なんですけど、そしたらナナホシがそれに合うどろっとした曲をくれて。彼はそういうメロディが得意なんです。だから、作りやすかったですね。
- ――そうかツイッターなんですね。
- メガテラ・ゼロ:きっかけはナナホシの曲というところが大きいですね。「デリヘル呼んだら君が来た」という曲もナナホシなんですけど、男女のドロッとした関係をかっこよく聴かせるという意味では、その曲をイメージしながら、うまい具合に曲と歌詞がハマッたんです。そしたら、レコード会社の上の人が気に入ってくださって、「これをMVにしよう」って最初に言われたんですけど、「<ダッチワイフ>って歌ってるからダメです」って断りました(笑)。
- ――ダッチワイフはMr.FanTastiC的にはNGですか?(笑)
- メガテラ・ゼロ:いや、NGと言うか、言葉的においしくない。MVにしづらいじゃないですか。それにそこばかり注目されても、曲の真意が誤解されると言うか、この曲を作っている時に思ってたんですけど、最近のラブソングって大体浮気の曲じゃないですか。元カノのことを思い出してんじゃねえよって聴きながら思うことがあって、浮気を正当化することに対する抗議の思いも込めているんです。浮気されたんだったら、別れるか本命になるかどっちかしかない。あとは恋人がいるんだったらその人一筋で行けよっていう。ナナホシと電話でそんなことを話してたら、この曲を作ってくれたんです。
- ――「HOWEVER」の歌詞も今の世相に対するメガテラさんの意見ですよね?
- メガテラ・ゼロ:「Night & Day」と同じです。<いつも誰かのLIFEを貪り食って生きてる>と歌っているんですけど、今までの恋愛経験を曲の中で美化して、浮気を正当化するなよっていうこれも最近流行りのラブソングに対する抗議の歌です。
- ――なるほど、確かにとがっていますね。
- メガテラ・ゼロ:おまえらが素直なラブソングを歌わないなら、俺が歌おうと思いました。だから、そのうち、どラブソングをテーマにしたシングルをリリースします。結婚しようぜぐらいの曲が出ると思います。
- ――ところで、とがった3曲に「&』というタイトルを冠したのはどんなところから?
- メガテラ・ゼロ:「Night & Day」と「Envy & Clap」。タイトルに&が2個あるから、「HOWEVER」にはないけど、まぁ、いいかって決めました。
- ――え、ほんとに?(笑)
- メガテラ・ゼロ:ほんとにそれで決めました(笑)。
- ――なるほどねぇ。さっきこれからテーマを決めてシングルをどんどんリリースしていくとおっしゃっていたので、ここから&、&、&って続いていくってことなんじゃないかと想像したんですけど、何にでも意味があるとついつい思っちゃうのは職業病なのかな(苦笑)。ところで、今回の3曲、それぞれに聴かせ方が違うと言うか、曲の幅広さという意味では、3曲それぞれに違う魅力がありますが、R&B/ファンクの要素という意味では共通していますね。
- メガテラ・ゼロ:共通点という意味では、それよりも暗い感じの音ですね。そこは合わせました。ただ、今回のような曲調のほうが楽しいんですよ。聴いているほうも楽しくないですか?
- ――そう。だから、久々のシングルなので、「絶走」のようなアンセミックなロックで来るのかと思ったら、そうじゃないんだとちょっと意表を突かれました。
- メガテラ・ゼロ:真っ直ぐな感じではなかったですね。もちろん、拳を挙げる系の曲もかっこいいと思うんですけど、ノリノリで歩いていく感じの曲のほうが好きなので、そういう曲を増やしていきたいですね。ただ、楽器隊がしんどそうだなっていう。でも、やってもらいますけどね(笑)。
- ――なるほど。お話を聞いて、現在、バンドがどういう方向を向いているのかがよくわかりました。来年の活動予定については、はっきりとは言えないとは思うんですけど、とりあえずは、さっきおっしゃっていたようにシングルをどんどん出していこうと考えているんですよね?
- メガテラ・ゼロ:そうですね。はっきり言っちゃっていいと思うんですけど、来年は今年の倍どころじゃないくらい曲をリリースすると思います。めちゃくちゃ出そうと思ってるんですよ。メンバー全員に無理をさせるつもりです(笑)。いや、ほんとにそうしようと思っているので、余計にバンドの動きが見えるはずです。楽しみに待っていてください。
- ――最後に。以前おっしゃっていた「単純に楽しいから音楽を作り続けている」という気持ちはメジャー・デビューから1年半経って、変わりましたか。それとも全然変わらないですか?
- メガテラ・ゼロ:まったく変わらないです。楽しいからというところでしかやっていないですね、ほんとに。楽しくなくなったら、すぐやめます(笑)。でも、楽しめなくなることがないと自信を持って言えるくらい全員が向上心の塊と言うか、Mr.FanTastiCには「音楽のために死ねるぜ」っていうメンバーしかいないんですよ。
【取材・文:山口智男】
Mr.FanTastiC - HOWEVER[MV]
リリース情報
&
2020年12月16日
ポニーキャニオン
02.HOWEVER
03.Envy & Clap
お知らせ
マッチョ
筋肉マッチョを見るのが好きで。家で筋トレするだけって、理想があまりわからないじゃないですか。だから海外のWWEとかジョン・シナとかマッチョな人を検索して、「こうなりたい!」って、最近毎日検索してから懸垂をやってます。なんか、見ただけで筋肉ついた気がします。でも最近そればっかり調べてるせいで、検索履歴見せたら変に思われるんじゃないかなって(笑)。なのでこれはあまり見せられないなと。