YOASOBI、初のCD「THE BOOK」からわかる“YOASOBIらしさ”とは?

YOASOBI | 2021.01.06

 “ヒット”とは時代の空気を半歩先のセンスで体現し、時流の波にのったタイミングによって生まれる現象の賜物だ。ヒットに値する作品を生み出すには、日々のたゆまぬ努力とオリジナリティの獲得が必要である。“小説を音楽にするユニット”として結成されたYOASOBIは、2020年最もヒットしたアーティストであることは間違いない。2019年12月15日にリリースし、現在ではストリーミング再生回数が3億回を突破した代表曲「夜に駆ける」のみならず、その後も定期的に良曲をリリースし続けた。その実力はボーカリゼーション、作品力ともに本物だ。チームスタッフによるマーケティングや企画力など、総合力も高い。

 そんなYOASOBIが、CD作品をリリース前ながら、2020年12月31日大晦日、第71回NHK紅白歌合戦にてテレビ番組で初の生ライブを披露した。フレッシュながらも安定感ある佇まいがお茶の間を魅了し、YOASOBIという才能がオーバーグラウンドへ解き放たれた瞬間だった。



 そして2021年、満を持して1st EP「THE BOOK」が1月6日にリリースされた。

 1曲ずつ大切に公開されてきた全楽曲、さらに新曲も収録したYOASOBI初のCD作品「THE BOOK」。完全生産限定盤としてCD+特製バインダーというギミッカブルな仕様にも注目をしたい。デザイン性にもこだわられ、インデックスシートを収集したくなる素晴らしき試みだ。まるで“一冊の本”のような初のCD作品のリリースにあたって、コンポーザーAyaseとボーカルikuraに話を聞いてみた。
――2020年、Billboard JAPAN総合ソングチャートの年間チャートで「夜に駆ける」が1位となりました。長くチャートに入り続けていましたよね。それって、楽曲が愛され続けていることに他ならないことだと思います。

Ayase:怒涛の1年でした。制作スパンもどんどん短くなって、求められるレベルもあってプレッシャーが無かったわけではないのですが、でも、割と楽しくやっていけましたね。
ikura:必死に食らいついていった1年でした。私生活では学校もあり、音楽活動との両立で毎日死にそうになっていたんですけど、でも、音楽で忙しくさせていただけることは幸せなことなので、たくさん歌えて嬉しかったですね。
――前回インタビュー取材時(https://music.fanplus.co.jp/special/2020031504877a44d)におっしゃられていましたが、Ayaseさんは、広い家に引っ越せたんですか?
Ayase:ははは(笑)。引っ越せました。ありがたいことですよね。音楽を作る環境は変わっていないんですけど、こたつの上で狭っくるしく作っていた時より開放的になりましたね。部屋をうろちょろしながら曲を作ることができるようになりました。
――それは良かった。ちょうど2020年はコロナ禍へ突入したこともあって、住環境によるクリエイティブ活動への影響は大きそうですよね。
Ayase:そうかもしれませんね。家具もこだわって好きな空間にして、のびのびと作業できるようになりました。
――YOASOBIは、“小説を音楽にするユニット”という明確なコンセプトがありながら、小説を音楽や歌詞に表現する際、Ayaseさんによるフィルターを通すことで独自のクリエイティブが生まれたと思っています。その世界観にikuraさんが、さらに繊細な歌い回しなどを表現されたことでオリジナリティの獲得へと至りました。そんな奇跡的なクリエイティブの掛け合わせが、YOASOBIが強度の高い作品を生み出し続けている理由だと思っているのですが、おふたりは“YOASOBIらしさ”についてどうお考えですか。
Ayase:理想としていたのは、ひとつのイメージに縛られることなく、いろんなジャンルや世界観の曲を表現したかったんです。“遊び”のなかでやっている感じを忘れたくなくて。それがこの1年で、チームでも確立できるようになったと思っています。究極的には、僕とikuraがいれば“YOASOBIらしさ”だと思うんですよ。
――それこそ、小説が楽曲の原作であるという、ある種制約でありながらも、その制約をAyaseさんがクリエイティブを生み出す源として楽しまれていますよね。
Ayase:そうですね。YOASOBIとは別軸で、ボカロの曲にするかは置いておいて、日々曲を遊びで作ることもあるんですけど、それはそれで楽しいんですよ。でも、YOASOBIで曲を作るときは小説が原作で、自分のなかには無い誰かのストーリーを曲にしていくという、YOASOBIでしかない作り方だからこそ感じる楽しさがあるんです。もちろん難しさもあるんですけど、その分達成感もあるんですよ。みんなで作り上げているというね。
――ミュージックビデオ、イラスト、小説、そしてプロモーションなど、すべてがYOASOBIの世界観を構築されている大事な要素となっています。
ikura:“何度も美味しい”という感覚が“YOASOBIらしさ”かなと思っています。小説を音楽にするというテーマ自体もそうですし、映画化や漫画化など広がりもありますし。小説以外にも広がっているんですよ。いろんなことができるプロジェクトなんですよね。楽しむ順番も、ミュージックビデオから観て楽しむも良いですし、いろんなバリエーションがあるんですよ。
――YOASOBIの「夜に駆ける」は、それこそピアノをフックとしたボカロ文化圏の流れを強く感じましたが、実は2曲目「あの夢をなぞって」は、90年代っぽいバンドサウンドであったり、ティーンカルチャーにこだわられることなく世代を超えていくことも意識されていたんじゃないかなと。後半、ボカロ文化圏的な展開にもなるんだけどね。

Ayase:原作小説を音楽としていかに表現できるかが大事だと考えていました。自分たちにジャンル感を立ててしまったら、そのブランドを守らなくてはいけなくなってしまいますから。小説を音楽に表現すると決めているからこそ、逆に制限なく音楽的の幅は広いのかもしれません。それがまた“YOASOBIらしさ”になってるんですよね。
ikura:レコーディングへ臨むときは小説を読み込んで、自分なりにどう歌っていくかを考えて。Ayaseさんから楽曲が届いたら、Ayaseさんは小説を読んだときに“どんな音作りにしようと思ったのかな”、“歌詞はどういう風に解釈したのかな”と考えて。“だとしたらYOASOBIのikuraはどう解釈すべきか”、というのを言葉、一言一句大事に歌ってきましたね。
――楽曲の解釈について、ふたりで話されたりはするんですか。
Ayase:レコーディングの時ですね。ikuraちゃんが解釈してくれた表現を、レコーディングの際に受け取って、ああ、こういう風に感じたんだなって。
――ikuraさんへ曲を伝える仮歌は今もボーカロイドで作られているんですか?
Ayase:そうです。
――ああ、となると歌唱表現でikuraさんに委ねられていることは大きいんですね。
ikura:そうですね。Ayaseさんが思うYOASOBIとしての一番いい歌い方は、ボーカロイドで表現されていたりするんですよ。なので、このやり方はいいなと思っています。
――それがまたオリジナリティの源となっているんですね。YOASOBIは、この1年、SNSを通じてファンとのコミュニケーションをしっかりとされてきました。ツイキャスも楽しいし。
Ayase:2020年において言えるのは、リアルに誰かと会うイベントが組みづらくなりましたから。音楽があって、でもライブありきやイベントありきで増幅させていくという手法を今は取れないので。2020年以降は、音楽のみで裸で戦わないとけないんですよね。そんななかでも、自分たちの音楽を“如何に届けていきたいか”という熱量でいっぱいなんです。それこそSNSでのファンとの交流もそうだし、広く深く知ってもらうためにね。こんな状況だからこそ、熱意は変わらずに、考えることを止めずにちゃんと頭を使って、でもブレない部分を大事にして。そして、今という状況をネガティブに捉えすぎないことも大切だと思っています。
ikura:SNSはYOASOBIのスタッフアカウントと、私たちのメンバーアカウントがあって。スタッフアカウントが細かい告知などをやってくれているので、私たちは人間性というかパーソナルな部分、身近に感じてもらえるようなことを大事にしてきました。もともとYOASOBIはミュージックビデオがアニメーションだし、ライブもやってないし。ちゃんとした顔出しをするのも遅かったので。楽曲を好きになっていただきつつも、親しみを持ってもらうにはSNSは大事にしなきゃって最初から考えていました。
――こうして2021年1月6日に、1st EP「THE BOOK」がリリースされました。この1年の集大成だと思うのですが、完成されてみてどんな気持ちですか。
Ayase:ああ、いろいろやってきたなあって感じです(笑)。これまで配信でずっとシングルを出してきて。それらが作品としてEPとしてまとまるのは、この1年の歴史を感じますね。YOASOBIを知れる“一冊”になったなと思います。バインダー付きでインデックスで世界観を表現するなど、本のようなこだわりもYOASOBIらしいし。それこそ「夜に駆ける」しか曲を知らないようなライトな方にも手に取りやすい作品になったと思います。
ikura:マスタリングを終えて、EPを1曲目から最後まで通して聴いたときに繋がりを感じられたんです。短編だったものがやっと“一冊”になったというか。現時点での集大成であり名刺代わりの1枚になりました。サブスクで聴けるからこそ手に取りたいCD作品になったと思います。特製バインダーもこだわりましたので。
――特製バインダー付きで1st EPのタイトルが「THE BOOK」って、YOASOBIらしい世界観の提案になっていますよね。バインダーがとてもいいアイディアで。楽曲を聴きながらインデックスシートで歌詞やデザインに没入する楽しみ方が良くって。
Ayase:僕らのチームとして“他とは違うことをやりたい”という思いが強くあって。もちろん難しい挑戦ではあるのですが。CDをYOASOBIで出すのであれば、まずしっかりと考えた上で面白い仕組みで出したかったんですよね。紅白出演を経て、リスナーの世代もどんどん広がってきているので、人生における大事な“一冊”になってほしいですね。
――バインダーというスタイルが素晴らしいなと思ったのが、今回1曲目が「Epilogue」からスタートするじゃないですか。2曲目がアンコールだし。ラストがそれこそ「Prologue」ですからね。もちろんこの流れで聴くのも最高なのですが、実は逆から聴いてもすんなりと聴けるんですよ。曲順としての意味合い的には逆からの方が正しそうだし。それこそバインダー仕様だったら曲順をインデックスで入れ替えられますもんね。プレイリスト時代らしいというか、天才だと思ったもん。

Ayase:あ、その発想はなかった(笑)。
ikura:まだやったことなかったです(笑)。でも、自分の好きなようにコレクションできますから。オタク気質な日本人向けだと思います。インデックスカードを集めたくなるんですよ。
――うんうん、海外アーティストは思いつかない仕様だと思いますね。しかも、超音楽的な仕様だと思いますし。
Ayase:店舗特典で新たなインデックスも用意してますから。「Prologue」が今回ラストなのは、むしろここからが本当のスタートなんだって気持ちなんですよね。
――あ、そういうことなんだね。あと、2020年12月18日に配信リリースされた新曲「ハルカ」もとても良くって。イントロ感からハートフルなサウンドのテイストがあって。本作の原作小説は、鈴木おさむさんだそうですね。そう考えると、改めてYOASOBIっていろんなコラボレーションが出来る存在ですよね。言っちゃえば、過去の作品ともコラボできるもんね。

Ayase:無限の可能性を感じますよね。いろいろなチャレンジが出来ます。
ikura:そうですよね。ちなみに、YOASOBIのikuraは、小説の主人公として歌うことを意識してきたのですが、「ハルカ」の主人公はマグカップなんですよ(笑)。ついに“マグカップきたかあ”、と思いました(笑)。とってもいいお話なんですけどね。家族愛や親から子への愛を原作小説『月王子』を読んだときに感じて。なので、マグカップの気持ちではあるんですけど、そこには無償の愛というか普遍的な感情があって。細かいニュアンスを含めて歌で表現しました。
Ayase:原作小説が、ひとつのマグカップが女の子の人生に寄り添って、最後には割れてしまうという話なんですけど。すごくハートフルで、あたたかくて。マグカップが女の子との思い出を遡るんですよ。回想していくシーンがあって、そこを表現する際にバラードではないなって思って。ハッピーなものであって欲しいという気持ちが生まれて、それでキャッチーさを出したかったんです。木琴や鉄琴を使ったのはマグカップからの連想で構成しました。原作からのイメージを忠実に表現したイメージですね。
――改めて、2020年最も注目された楽曲「夜に駆ける」についてもお訊きしたいのですが、本作は楽曲を完成させるにあたって何度も何度も試行錯誤を繰り返されたそうですね。
Ayase:「夜に駆ける」を作るということは、YOASOBIの1曲目を作ることでもあったので。そもそも原作小説があって、それを音楽にするというベースを作り上げることだったんですね。バランス感だったり、どういう風に表現しようかってゼロイチが大変でした。音もそうなんだけどやっぱり歌詞かな。小説とリンクさせるにしても、どういう風に表現するのかって。完全に小説をたどる風にするのか、それとも主人公の目線になりきって自分の想像を交えて書くのか。僕の感情を入れるべきなのか。そんなバランス感を大事に考えていきました。毎回、原作が違うので毎度毎度大変ではあるんですけどね。とくに1曲目「夜に駆ける」は、何度も何度も考えましたねえ(しみじみと)。
ikura:最初は、手探りで何もわからないところからのレコーディングだったんです。本番のレコーディングはAyaseさんと会うのも2回目ぐらいだったので、まだコミュニケーションもままならなかったので、しかも小説を音楽にするという難しさもあって。7時間8時間、いやもっとか……。チーム全体で、何が正解かを探しながら、いろんなパターンを試しました。
――なるほどね。それがヒットしたって、めっちゃ嬉しいことですよね。今回、インスト含む全9曲がEPに収録されていますが、無茶な質問になりますが今日時点ではどの曲が一番お気に入りですか。僕は、ローファイヒップホップ感ある「たぶん」が好きで。ミュージックビデオや小説とのバランス感も絶妙なんですよね。

Ayase:もし選ぶとしたら、どうしたって「夜に駆ける」かな。でもあえて外すとしたら僕も「たぶん」ですね。クオリティや愛に関しては全曲均等なのですが、ただ「たぶん」に関しては完成するスピードが早かったんです。「夜に駆ける」は2~3ヶ月かかったんですけど、「たぶん」は1時間ぐらいで作れて。僕自身、原作小説に近しい体験があったので、原作から楽曲を作るという流れのなかに自分がいたことが作品化しやすかったんですよね。今後、自分自身も人生でいろいろなことを経験していくだろうし、いろんな原作を小説にしていくと思うんです。その都度、自分の人生にリンクするところもあるんだろうなって気がつけた曲なんです。そんなスタンスを確立できた曲ですね。
ikura:わたしは「群青」ですね。合唱という新しい試みがあって。所属している、ぷらそにかのメンバーが参加してくれて。レコーディング現場にいた感じは、なんか家族と仕事の人を合わせるみたいな不思議な感覚で(笑)。

――ははは(笑)。
ikura:ソロやぷらそにかでの活動もあるのですが、YOASOBIとして頑張っていくにあたって背中を押してもらえた曲ですね。ボーカルレコーディングも今までよりだいぶ早く終わって。5曲目の作品にして、自分の感覚とAyaseさんの感覚がより一致したような気がしたんです。それが楽しかったし、嬉しかったんですよ。
――うんうん、エモーショナルなナンバーですもんね。では、最後に2021年のYOASOBIの活動はどんな感じになっていきそうですか。
Ayase:より加速して駆け上がっていく1年にしたいです。YOASOBIにしかできないことを、YOASOBIらしく楽しみながらやっていきたいです。
ikura:2021年も、YOASOBIだからこそできる遊び心満載のチャレンジを追求していきたいです。自分に限界を作らず表現していきたいですね。
――ありがとうございます。では、今後の活躍を楽しみにしております~。

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】





YOASOBI 1stEP『THE BOOK』クロスフェード

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リリース情報

THE BOOK

THE BOOK

2021年01月06日

SMEJ

01.Epilogue
02.アンコール
03.ハルジオン
04.あの夢をなぞって
05.たぶん
06.群青
07.ハルカ
08.夜に駆ける
09.Prologue

お知らせ

■配信リンク

「THE BOOK」
https://orcd.co/yoasobi-thebook



■コメント動画




■ライブ情報

YOASOBI 1st LIVE『KEEP OUT THEATER』
2021/02/14(日)
※詳細は後日発表

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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