3markets[ ]、約1年ぶりとなる2nd Full Album『ニヒヒリズム』

ゆびィンタビュー | 2021.01.09

 「大型フェスに出られなかったら今年こそ解散!」ということを言いつつスタートさせた2020年の活動。5月には渋谷クラブクアトロでの初ワンマンも決定していて、エネルギッシュに前進し続けるのかと思っていたが……春先から世の中全体が大変なことになり、諸々のライブは延期、中止。このような中で生み出されたのが2ndフルアルバム『ニヒヒリズム』だ。直面した状況から自ずと湧き起こった「虚無感」が根底にあるものの、この作品が醸し出しているトーンは、決して暗いものではない。絶望の果てに笑みを浮かべながら光を求める姿が、あらゆる曲に刻まれている。メロディの良さ、歌詞の斬新さ、演奏の切れ味の良さも際立っている今作について、メンバーたちに語ってもらった。

PROFILE

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3markets[ ]


 通称“スリマ”。カザマタカフミ(Vo/Gt)、矢矧暁(Gt)、金子セイメイ(Ba)、masaton.(Ds)の4名からなる日本のロック・バンド。2014年10月10日に当初の“3markets(株)”から現名称へ名を変えて活動を再開。2017年12月にカザマのブログを書籍化した『売れないバンドマン』が話題に。翌2018年に2ndミニ・アルバム『君の心臓になりたい』、2019年に3rdミニ・アルバム『さよならスーサイド』をリリースし、2021年1月に約1年ぶりとなる2nd Full Album『ニヒヒリズム』をリリース。

  • 今回のアルバムはカザマさんが精神的にどん底にいた頃に作ったと聞いています。
  • カザマタカフミ(Vo/Gt)

    どん底でしたね。
  • まあ、3markets[ ]は、特定の時期に限らず、どん底的なことをいつも言っているバンドですけど。だって、ここ4年くらい、毎回、取材の度に「会うのはこれで最後かも」的なオーラを出していたじゃないですか。
  • 金子セイメイ(Ba)

    そういうオーラを出してるのはこの人(カザマ)だけです(笑)。
  • (笑)。アルバムが完成してよかったです。カザマさん、「メンバーから売れる曲を書けって言われた」って言っていましたよね?
  • カザマ

    セイメイさんに言われました。
  • 金子

    言ったっけ?
  • カザマ

    言ったよ。それで俺、「言えなき子」書いてきたんだから。
  • 金子

    そうだっけ? 全然覚えてない。「言えなき子」は、「メロディがいいなあ」って思った。
  • 今作は全体的にキャッチーですよね。
  • 矢矧暁(Gt)

    たしかに、ポップというか。
  • カザマ

    「聴きやすいものを作ろう」という話はしていました。いつの間にかそれを忘れてたね?
  • masaton.(Dr)

    違うんだよ。できなくなったの。
  • 矢矧

    そうだった。「それだと俺らにはいいものができない」みたいになったから。
  • カザマ

    でも、聴きやすいと思うけど。
  • 矢矧

    今までの感じとポップの間くらいになったのかなと思います。
  • 改めて思ったんですけど、演奏が抜群にかっこいいですね。演奏のかっこよさって、ポップさの形のひとつだと思います。
  • 金子

    わかる! そうなんですよね。僕らもっとバンドマンにモテていいはずなんですけど。
  • バンドマンにもモテないんですか?
  • 矢矧

    「バンドマンにも」ってなんですか、その質問?(笑)。
  • カザマ

    単純に社交性がないだけです。
  • 金子

    社交性がないことはなくない?
  • カザマ

    そうかな?
  • masaton.

    俺は社交性ないから。
  • まあ社交性のことは、とりあえず置いておいておきましょう。例えば「OBEYA」の演奏、すごくいいじゃないですか。スリリングな間を挟んでくるこの感じ、痺れます。
  • 矢矧

    音源聴いててもハラハラします。「こけるんじゃないか?」っていう感じですから。
  • 金子

    「OBEYA」は結構昔からできてて、ライブでやったこともあった曲なんですけど。その時は正直、こんないい曲になるとは思ってなかったです。
  • カザマ

    この曲、他のインタビューで「洗濯できてる時点で汚部屋じゃないですよ」って言われました。
  • <裏返しのトレーナーと脱ぎっぱなしの靴下を 洗濯機に全部ぶち込んだ>という歌詞があるから?
  • カザマ

    はい。まあ、「前向きになってるから洗濯できるんですよ」って僕は思ってるんですけど。「洗濯機を回すと明日にはきれいになってるから」っていう、僕の中では前向きな曲なんです。
  • 独特なトーンで前向きさが醸し出されている曲ですよね。あと、いいラブソングが多いというのも、今作の注目すべき点です。「言えなき子」「A子」「君が太るべきたった一つの理由」とか。
  • カザマ

    「言えなき子」、めちゃくちゃいい曲だと思ってます。「家があなたのものだから別れないでよ」って言ってるけど、本意はそこにはないんです。
  • 曲がりくねった言い方をしているけど、愛に満ちた曲だと思いました。
  • カザマ

    ありがとうございます。僕、愛しかないんで。
  • カザマさん、彼女が恐ろしいという旨をよく話しますけど、結構上手くいってるのが、なんとなく曲から伝わってくるんですよね。
  • カザマ

    これ、カットしてほしいんですけど……最近、毎日洗濯してるんですよ。彼女の分も。そしたら「今日もしたの? 水道代いくらになると思ってるの?」って言われました。「嘘だろ?」と思って。
  • 矢矧・金子・masaton.

    ええーっ?(騒然)。
  • カザマ

    しかも水道代払ってるの俺……。「お前の中に鬼がいる! お前の中の鬼を退治するために俺は来たんだ!」ってつい言っちゃったら、「鬼は退治するところが、桃太郎がどうのこうの」みたいな感じで、「なんだこいつ」って思いました。
  • 非常に心温まるエピソードですが、文字にするのはNG?
  • カザマ

    まあいいんじゃないですか。えっ? 書くんですか?
  • 矢矧

    俺らは別に構わないよ。
  • カザマ

    WEB記事だから大丈夫かな?
  • 矢矧

    失礼だろ!(笑)。
  • (笑)。まあとにかく、核に温かい愛がある曲が、今作にはいろいろあります。「A子」も、いいですね。しっとりと始まったと思ったら、突然<このあばずれ>。しかも、こんなこと言っているのに、妙にグッとくるんですよ。
  • カザマ

    「初めての相手って忘れない」っていうことを描きたかったんです。
  • 「君が太るべきたった一つの理由」も、優しさに満ちています。
  • 金子

    これはほんとそうですね。
  • カザマ

    太ってる人ってコンプレックスが強いことが多いから、自信持ってくれたらいいなあって思ってます。「見た目じゃないんだよ」って、いい男アピールをしてると言いますか……。まあ限度はありますけどね。健康を害すほど太るのはどうかと思います。
  • 「言えなき子」「A子」「君が太るべきたった一つの理由」は、今作の3大ラブソングと言っていいでしょう。
  • 金子

    そう言われればそうですね。今回、全体的にメロディがいいっていうのも感じてます。なんでだろう?
  • カザマ

    あなたが「そういうの作れ!」って言ったから。ほんと覚えてないの?(笑)。ショックだったんだから。「売れる曲とは?」みたいになって。
  • 売れる曲を追求した結果、こうなるところがやっぱり3markets[ ]ですね。
  • カザマ

    それは、売れないということですか?
  • そんなこと言ってない(笑)。メジャー感があるのに、切り口が非常にユニークなのが、3markets[ ]らしいっていうことです。
  • カザマ

    はい(笑)。
  • masaton.

    最初、みんな歌詞聴かないはずだから、メロディラインだけメジャーっぽくっていうことでしょ?
  • カザマ

    うん。そういうのは絶対にあるよね。だから「耳触りを良くしよう」って、ずっと言ってたんです。
  • 矢矧

    今回、それを合言葉のように言ってたね。
  • 「愛の返金」もメロディがすばらしいですね。これもラブソングと言っていい気がします。
  • カザマ

    そうですね。憎しみと愛は、表裏一体なんです。これ<リメンバーミー>って言ってるんですけど、「お前のことを忘れるな」とか「私のことを忘れないで」じゃないんですよ。人生で誰かを好きになることって何回もないじゃないですか。だから「好きだった気持ちまでなかったことにするのはやめよう」っていう気持ちなんです。
  • 途中のポエトリーリーディング的なところも、狂おしい想いが伝わってきます。
  • 金子

    ここの部分、もともとのイメージはLUNA SEAだったんです。
  • 「ROSIER」?
  • 金子

    そうです。ベースのJさんのパート。
  • 「ROSIER」は、Jさんが英語でポエトリーリーディングをする部分がありますよね。
  • 金子

    はい。だから僕、「やって」って言われたんですけど、全然できなくて(笑)。それで、今のこの形になりました。
  • 意外な事実(笑)。あと、応援歌が生まれているのも、今作の驚きでした。
  • カザマ

    応援歌? どれですか?
  • 「整形大賛成」です。自己評価が低い人が自分自身を鼓舞している曲ですから、ある意味、応援歌ですよ。
  • カザマ

    言われてみればそうですね。僕は今まで他人をリスペクトすることがなくて。そもそも自分のこともリスペクトしてなかったので。だから「まずは自分のことをリスペクトしよう」と思って、サビができたんです。
  • カザマさん、最近、考え方が前向きな感じに変化してきているって聞いていますけど、そういう変化が表れた曲?
  • カザマ

    まさにそうですね。これきっかけで「キレイなカザマタカフミ」が出てきたんです。
  • 『ドラえもん』の「きこりの泉」に落ちたジャイアンが「キレイなジャイアン」になる、あのイメージ?
  • カザマ

    はい。
  • 「キレイなカザマタカフミ」の誕生の経緯を語っていただけますか?
  • 矢矧

    聞きたい! まず、いつから「キレイなカザマタカフミ」なんですか?
  • カザマ

    2020年の10月はまじで精神状態がやばくて、「バンドをやめたい」って、みんなに話をしていたんですよね。
  • 金子

    「活休したい」って言ってたよね?
  • カザマ

    うん。ほんとどん底だったんです。そのまま「やめるか、やめないか?」っていう微妙な空気のままだったところで、ある時、シャワーを浴びたんですよ。そしたらなんかひらめいて、気持ちがひっくり返ったっていうか……なんて表現すればいいんだろう? ほんと上手く話せないんですけど。そこから毎日やることを決めて、テーブルの上を片づけたり、毎日自分を褒めてるんです。
  • 矢矧

    まじで?
  • カザマ

    パソコンを朝開いて、自分のことをむりやり褒めるようにしています。
  • 金子

    ひとりごと言ってるの?
  • カザマ

    ひとりごとも言ってる。「まじで天才だ」とか。でも最近、そこも乗り越えちゃった。「天才だっていうのは他人と比べてるからであって、そんなこと言ってたら誰かのことをリスペクトなんてできない」って。なんかちょっと気持ち悪いんだけど、自分の世界線が変わった感覚がある。
  • みなさん、「キレイなカザマタカフミ」の誕生に気づいていなかったんですか?
  • 矢矧

    全然です。
  • カザマ

    今、僕はもともとのカザマタカフミじゃないんですよ。
  • 矢矧

    すげーな!
  • 金子

    目がピカピカのキレイなジャイアンみたいになってるんだね?
  • カザマ

    そう。
  • 金子

    今日のミーティングで最初に言った言葉が「みんなの力を貸してほしい」でしたからね。「かっこいいー! そんなこと言うタイプだっけ?」って思ってた(笑)。
  • masaton.

    俺、「どうしたんだろう?」って思ってた。
  • 矢矧

    僕らも1ヵ月くらい会ってなかったから、変化に気づいてなかったんですよね。
  • キレイなカザマさんが反映されているから、「整形大賛成」は比較的新しい曲ということになりますよね?
  • カザマ

    一番新しいと思います。
  • ポエトリーリーディングっぽかったり、突然悲し気なコーラスが始まったり……不思議な曲です。
  • masaton.

    「何聴かされてるんだろう?」ってなりますよね。
  • 金子

    これはアルバムのバランスをとるために作った曲なんです。きれいな曲ばっか多かったので、「1個わけのわからない曲を作ろう」ってことになったんですよね。
  • なるほど。あと、暗いことを歌っているはずなのに、妙に温かいものを感じる曲がたくさんあるのも、今作の魅力だと思いました。「罰ゲーム?」「サイゼ」「たからくじ」「¥1,000,000」とか。
  • 矢矧

    「¥1,000,000」は、歌詞だけ見ると怖いですからね。「罰ゲーム?」は、一番古い曲?
  • カザマ

    そうだね。
  • 矢矧

    前々回のアルバムくらいの頃からあるから。2回くらいボツになった曲です。
  • 「罰ゲーム?」のこの感覚、すごく心当たりがあります。割り箸がうまく割れなかった程度のことが、「俺はもうダメだ……」っていう絶望に繋がる場合もありますから。
  • カザマ

    この曲、1番と2番で2回、うまく割り箸が割れないんですけど、同じ状況でも見方によっては笑えたり、笑えなかったりするんですよね。これがまさに今の俺。「感じ方次第だよな」って思うので。
  • 笑いと悲しみって表裏一体ですからね。
  • カザマ

    ほんとに。
  • 「サイゼ」は、どういう経緯で生まれたんですか?
  • カザマ

    YouTuberにディスられたから書いたんです。YouTube Studioでにらめっこしたら、相手がこっちの目を一切見てくれなかったことにムカついて書いた曲です(笑)。
  • (笑)。落ち込みつつも、ギリギリの瀬戸際で人生を諦めていない感じがする曲です。
  • カザマ

    諦めてはないですね。
  • 「たからくじ」ですら、妙に希望が湧きますもん。この人、<明日から>とか言いつつ、明日からも何もしないんでしょうけど。
  • カザマ

    そうなんですよ。これ、「明日からやらない」なんです。「明日から頑張らない勇気」っていうのも出していこうかと。
  • こういう曲って、不思議と元気が出るんですよね。
  • 矢矧

    そういう感想、よく言われます。
  • 金子

    「3markets[ ]を聴くと気分が落ち込みます……」っていうのもよくありますけど。
  • 矢矧

    「落ち込んでる時に聴くと最高」っていうのもありますね。
  • カザマ

    人によるっていう感じです。
  • 僕は3markets[ ]の曲を聴くと嬉しくなります。「この人、なんだかんだブツブツ言いながらも、結構ちゃんと生きてるじゃん」って感じるから。
  • 矢矧

    前向きに聴こえますよね。曲を最後まで聴くと。
  • 今作も、ポジティブなアルバムと言っていいんじゃないでしょうか?
  • カザマ

    そうですね。「虚無感をぶっとばそうぜ」っていう曲たちですから。
  • 『ニヒヒリズム』というタイトルもそういうこと? 「ニヒリズム=虚無主義」に「ヒ」がひとつ足されて、笑ってもいるじゃないですか。
  • カザマ

    そういうことです。
  • ジャケットのアートワークも笑っていますもんね。女性のビキニのお尻にもなんとなく見えますけど。
  • カザマ

    ああー、その見方、いいですね!
  • 「キレイなカザマさん」は、今までもずっと3markets[ ]の中にいたんだと思いますけどね。昔の曲にもそういうところが表れていたし、どん底の時期に作ったアルバムもこうなったんですから。
  • カザマ

    その通りです。気づくかどうかというだけだったんですよ。生きてたんですから、完全には絶望はしてなかったということなのかなと。半年後もこれだったらスピリチュアル本でも出そうかな。
  • 金子

    ええーっ?
  • カザマ

    だって、半年後もこの状態かわからないよ。また絶望している可能性もあるんだから。どうなるか知りたいよね。半年後もこうだったら本と同時発売でCD出すかも。『自己啓発 嫌われない勇気』って(笑)。
  • (笑)。数日前に別件でお会いした時も「俺、売れます」って言ってたじゃないですか。
  • masaton.

    そうなんですか?
  • 金子

    「売れたい」は、今までも言ってたけど。
  • カザマ

    「売れたい」って言ってるやつは一生売れないんです。でも、お金は別に欲しくない。何のために売れたいのかといえば、ここまでやってこられたメンバーやお客さんを喜ばせてあげたいから。自分はもう十分「ありがたい」って思ってるから。この発言、キレイなカザマ過ぎる?
  • こうなってくると、いよいよ3markets[ ]は、次のステップに進むかもしれないですね。
  • カザマ

    今までは、そう感じてなかったということですか?
  • いいバンドだという確信は、ずっとありました(笑)。
  • 矢矧

    発言の粗探し(笑)。
  • カザマ

    一瞬、汚い方のカザマが出てしまった(笑)。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

ニヒヒリズム

ニヒヒリズム

2021年01月06日

miyatakegeinou

01.愛の返金
03.言えなき子
04.A子
05.君が太るべきたった一つの理由
06.整形大賛成
07.罰ゲーム?
08.サイゼ
09.たからくじ
10.¥1,000,000

お知らせ

■マイ検索ワード

カザマタカフミ
等身大パネル 作成
今、コロナで物販に立てないから、等身大パネルを作ろうと思ったんです。全員だと高いんで、セイメイさんのだけ(笑)。



■ライブ情報

ニヒヒリズム ファイナルワンマン公演
「来世も夏休み」

05/27(木)渋谷CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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