生命力、生々しさ、生と死――“循環”を描いた新作『theory』の到達点とは。

おいしくるメロンパン | 2021.02.01

 以下のインタビューでもメンバー自ら「到達点」という言葉を使っているが、おいしくるメロンパンの5作目となるミニアルバム『theory』は、たしかに彼らが描いてきたもの、鳴らしてきたものが、究極的に突き詰められて生まれた作品だ。「生と死」という重いけれど普遍的なテーマに真正面から取り組み、楽曲のイメージに徹底的に寄り添って音を重ね、そしてアートワークも含めて作品全体としてのフォルムにもこだわり尽くした、これぞおいしくるメロンパンという1枚。これは彼らにとって新たな始まりになりそうな予感がする。

――かなり手応えのある作品ができたなという印象なんですが、皆さん自身はいかがですか?
原駿太郎(Dr):そうですね、手応えはめちゃくちゃあります。『flask』から一気に段階が上がったというか。音楽的な技術も、曲の構成とか雰囲気も、全部一気にレベルアップしたなっていう感じがあります。ドラムも「変わったフレーズを叩きたいな」みたいなのは前からあったりしたんですけど、今回はただ単に変わってるだけじゃなくて、より曲になじんでいるというか。
――うん、それは本当にそうですね。曲にすごく寄り添うドラムだなという感じがします。翔雪くんはどうですか。
峯岸翔雪(Ba):これは到達点だなって思ってまして。これまで『hameln』が到達点だったんですけど、その次の『flask』でよくわからなくなって。でも今回で、『flask』で到達したかったところに到達できたなっていう感覚もあったりします。ほかでは出せないCDになったなというのは、今回特に感じますね。だから、より「届け!」って思うんですよね。でも、「受け入れられるのかなあ」とも思うんですよね、すごく。
ナカシマ(Vo/Gt):時代と逆行してるっていうかね。
峯岸:俺は先を行ってるって思いたいんだけどね。それはちょっとうぬぼれになっちゃうんだけど。でもいいものは作っているし、あとは「届け!」って思います。
――ナカシマくんは?
ナカシマ:手応えは、本当に今まででいちばんあります。ちゃんと新しい扉が開けたなっていう感じと、おいしくるメロンパンってこういうバンドだったなっていうのを改めてちゃんと形にできたっていう意味で、すごく自己紹介にも適してるような。名刺代わりになるようなアルバムになったと思います。
峯岸:そうね。まずはこれを聴いてほしい。
――「透明造花」と「架空船」という2曲を去年配信でリリースしたんですけど、そこと今回のミニアルバムはどういうふうにつながっているんでしょうか。
ナカシマ:「透明造花」と「架空船」はとりあえず作って2曲出したんですけど、やっぱり同時期に作った曲だと、指向性というか「こういうものにしたい」っていうのはあって、その中の1曲っていう感じだったので。だからアルバム作るときは、そのほかのムラがある部分を補完していく形で新しい曲が出来ていった感じですね。
峯岸:まず最初が「獣」なのかな。「獣」は種がずいぶん前にあったんですよ。「透明造花」の種と「獣」の種が一緒に上がってきたぐらいだった気がするんですよね。だから、それは結構前からあって。でも順番的には、そのあとに種が出来てきた「亡き王女のための水域」のほうが早く完成しました。で、「斜陽」はいちばん最後。「水域」のレコーディングが終わったときにまだ出来てなかったので。
――なるほど。たしかに「獣」と「亡き王女のための水域」には今回のアルバムのいちばん濃い部分が出ている気がします。
「獣」っていう曲、受け取ったふたりはどう感じましたか?
峯岸:「獣」のデモは今と形が全然違ったんですよ。最初はもっとおおらかで壮大な、なんか粛々と壮大な感じの曲になるんだろうなって思ったら、なんか転がるような曲になりましたね。
ナカシマ:でも自分の中には作った最初からこういう生き生きとした感じがあって。だからイメージどおりになったと思います。生命を感じるようなものにしたかったんですよね。
――まさに生命力ですよね、この曲って。生命の残酷な部分も含めて、生きるっていうことを描いている気がする。
ナカシマ:何か対比だとは思うんですけど。生命にフォーカスを当ててるけど、歌ってることは死であるみたいなところがあって、「獣」は。
――生命っていうものを書こうというときに、生と同時に死を見てしまう、しかもそれをある種の獰猛さをもって描くっていうのはユニークだなと思います。
峯岸:普通は「元気出していこうぜ」みたいな感じですもんね。こういう切り口はないですよね。
――まあ元気は元気というか、<まだ食欲は絶えない>とか、全力で生きている感じはしますけどね。「水域」も生と死を描いていると思うんですけど、この2曲というのはナカシマくんの中でつながっていたりする?
ナカシマ:気持ち的には全部繋がってる気はしますね、このアルバムは。でも「亡き王女の水域」については「架空船」のアンサーソングに近いような感じで書いたんです。だから、どちらかと言うと「架空船」と繋がってるっていう感じがするかな。
原:「水域」はバラード……バラードというか、テンポがこんなに遅い曲って初めてで。ナカシマは「ゆっくりな曲が作れないな」とか昔言ってたんですけど、それがすごく良くて。メロディもいいし、新鮮ですよね。
――この曲はどんどん複雑に展開していくかと思いきや、最後にすごくきれいなところに戻ってくるじゃないですか。あれは面白いですよね。
峯岸:中盤では結構複雑なことをやってるんですけど、ラストのサビなんかはきれいですよね。僕的にはそこがいちばん気持ち良かったんです。もうこれでしょうっていう感じでしたね。その前でもうすごいことやってるから。なんていうか、曲に寄りたかったのかな。寄りたい気持ちはあったと思いますね、今までより。
ナカシマ:それはある。
――「曲に寄る」っていうのは?
峯岸:曲がなりたい姿。「水域」もそこで複雑にしちゃうともったいないというか、おまえはその姿になりたいんだろうっていうほうにしたかった。今まではちょっと、プレイヤーのエゴというかわがままが強かったかもしれないですね。
――ナカシマくんが生と死というテーマを描こうと思ったのには、何か理由があったりするんですか?
ナカシマ:おいしくるメロンパンの歌詞は、わりとずっとそういう感じで来てるなって思ってて。今までは無意識でやってたんですけど、今回は意識的にそういうところに焦点を当てて書いてみようかなっていうのがありましたね。死は誰にでも平等だし、普遍性は絶対あると思うんです。だから書きやすさもあるし。なので、取り扱ってます、生と死を(笑)。
――「獣」にしろ「水域」にしろ、死んでいく者と残される者がいて、ナカシマくんの視線はどっちに注がれているんだろう。
ナカシマ:今回両方とも見てましたね。残される側の立場っていうのが今まで多かったんですけど、死んだというか、いなくなった側の目線も半分はあって。その対比っていうのは意識しました。「獣」も最初、生まれたての獣がどんどん大きくなっていって、また新しい命が……っていうとこで終わってるんですけど……。
――だから、命が連鎖していくというか。そういうイメージで、生も死もつながっているんだよっていう感じですよね。もちろん死も描いているんだけど、そこに向かって突き進む生のエネルギッシュさみたいなものもちゃんと描かれていて、それが今までとは違うなという気がしました。
ナカシマ:違いますね。ちょっとでかいこと言うと、芸術とかの文化って、社会情勢とかに反比例する構図じゃないといけないんじゃないかなって思ってるんですよ。世の中が落ち込んできたときはできるだけ明るいものを出さなきゃっていう意識がどっかにある。これを作っていた去年とかは世の中がズーンってなってたじゃないですか。そこで、無意識ですけど、結構明るい……明るいとまでは言わないですけど、わりと希望がを感じられるようなものにしようと思ったのかな。
――明るいというとまたちょっと語弊があるかもしれないけど、生々しいというか。こう、肉を食ってる感じ(笑)。
ナカシマ:そうですね。『theory』っていうタイトルは、すごく表面的に見た、社会の整ったあり方というか「こうするべき」っていう常識だったりとかって意味ですけど、それをあえてタイトルにすることによってその生々しさがさらに浮き彫りになると思ったんですよね。死もそうですけど、逃れられないようなこと? 社会でもそういう何か理不尽なことっていうのがたくさんあって、そういうものについて語っている感じはします。
――うん。今なんかまさにそうで、世界にはすごく生臭いこともあったり残酷なこともあるけど、でも生きてるってそういうことだよね、みたいな。それってすごく文学的ですよね。「獣」の1行目の<春は母胎である冬の亡骸を食んで健やかに>って、もはや文学。およそポップソングの歌詞ではない(笑)。
ナカシマ:この歌詞からこのアルバムが始まるって、いろいろ大きいなと思います。
原:でも歌詞、難しいですよね。
峯岸:漢字が?
原:漢字はもちろん難しいんだけどさ。読めなかったりしたもん。聴いて「ああ、こう読むんだ」みたいな。わからない単語とかありますからね。でもこの曲自体は生き生きとした感じがすごい伝わってくるし、それを聴いた上で歌詞を読むと、なんとなくこういう感じかな、みたいなのはわかる。
――ああ、たしかに音と一体になって伝わってくるものはあるかもしれない。
ナカシマ:歌詞の書き方はそこまで変わってはいないと思うんですけど、何か表現したいものがかなり明確になった上で書いてるって感じがあって。今までわりと美術性っていうものを重視して書いてきたと思ってるんですけど、それ以外のメッセージ性みたいなのもちょっとは意識するようになったかなって。
――うん。抽象度が下がったっていうか。
ナカシマ:そうですね。
――それによってこの5曲がはっきりと繋がっているように見えてくる感じもありますよね。既発の「透明造花」と「架空船」も、ここに入るとまた違う色合いを帯びて、「そういうことだったんだ」っていう発見もあるし。
ナカシマ:うん。本当にパズルのひとつだったんだなっていうのは、あとから見渡すと思いましたね。今回「循環」っていうテーマがわりとあって。循環するものとしないもの――「獣」は循環するもので、「透明造花」はしないものっていう対比で作った曲だったんで、その2曲はお互いが補完し合っているんです。だからアルバムの1曲目と2曲目で2つが説明できるっていうのはわかりやすい並びになってるんじゃないかなと思います。
――そういう、アルバム全体でのトータリティみたいなものってこれまで意識していた?
ナカシマ:今までも一応意識しようとはしてたんですけど、今回はかなりそれが実現できた気がします。すごくコンセプチュアルになってますね。
――もうひとつの新曲「斜陽」は、そこまでの4曲とはまた全然違う印象を受けるんですが。
ナカシマ:これは4曲出来て、なんとなく軽いの欲しいなと思ったんですよね。なんか、締めのラーメンみたいな感じの曲にしたかった。
峯岸:最初はナカシマが「セカンド(=『indoor』)の曲みたいなのを作りたい」って言ってて。その雰囲気は保ちつつも、それとは全然違う曲になりましたけど。
原:うん。最初にデモが上がってきたときはもっとシンプルな感じで、まさにあっさりだったんです。そこから、作りながら少しずつ色を付け足していったというか。それで最終的には、ほかの4曲に比べたらあっさりした雰囲気ではあるんですけど、ちゃんとその4曲となじんで、しっかり最後を締めてくれる1曲になってすごく良かったなって思います。
――うん。曲調は違うけど、歌詞で歌ってることはやっぱりほかの4曲と繋がってる感じがするし。
ナカシマ:そうですね。それまでどちらかといえばファンタジーだったものが、自分側に来るっていう感じで終わるというのが、なんだろうな、広げた風呂敷を畳んで自分にちゃんと集約していくっていうか。そういう作りになってるなあって、あとから聴いてみると思います。
――あっさり、淡々としているのに、最後に向けてどんどんエモーショナルになっていく感じもいいですよね。<振り返らないで>のリフレインとか。
峯岸:あそこはおいしくるメロンパンのクセが出たなっていう感じですね。やっぱりあそこも最初はああじゃなかったんで。それまでポップなままでずっといってて、ライブでもシンガロングできちゃうんじゃないかぐらいの感じだったんですけど、ナカシマが「いや、やっぱりそうじゃなかった」って言って、<振り返らないで>のあのシークエンスはあんなふうに変わっていって、それで最後、また「獣」に戻っていくというか。5曲目が終わって、また獣に帰ってくるっていうことを考えたんですよね。あのまま終わっちゃうと帰ってこれないというか、循環しないなって思って。この曲は冬なんですけど、アルバムが春で始まってまた冬が暮れていって、あのリフから始まってまた春が芽吹くっていう、なんか永遠に聴けるような流れが作りたかった。
――もう、まさに生命というか世界そのものっていう感じですね、そのイメージは。生命が連鎖して世界が循環していくみたいな。そういうとなんか哲学っぽくなっちゃうけど、今生きている実感ってそういうものでしょっていうことですよね。
ナカシマ:うん、そうですね。
――仕掛けとしてそうしましたという感じじゃなくて、結果的にそうなってるっていう必然が感じられるのでいいと思います。難しいことやってんなって思う人もいるかもしれないですけど。
峯岸:うん。だから「届けたい」っていうのも、そういう人が多いんじゃないかなっていう気がしているからなんですよね。悔しいなって。
――でも、この作品ポップですよ。
峯岸:本当にそうなんですよ。なんなら俺、上がってると思うんですよね、ポップさが。
原:うん、聴きやすいよね。
ナカシマ:最低限、メロディは大衆音楽として絶対キャッチーじゃないといけないとは思ってますし。歌詞とかコードやリズムがどれだけ複雑になっても、メロディさえキャッチーならなんとかなるんじゃね?みたいなのがあって、それは意識してますね。そこは絶対に欠かしちゃいけないなって思って。
――意識しているし、自信もあるんじゃないかと思いますけどね。今回ジャケットもナカシマくんが描いていて。これもすごくきれいで、ある意味ポップですよね。
ナカシマ:そうですね。最初は真っ赤にしてやろうかなって思ってギリギリまで迷ってたんですけど、結構生臭い感じのことをメッセージとしては出してるんで、『theory』というタイトルに合わせて、ガワはきれいな、理路整然とした感じにしました。でも、中身はすごいドロドロしてるよっていうので、このパッケージをパカッて開くとめっちゃ赤いんです。盤も赤で。そういう、外側と内側というのを意識して作りましたね。
――内容的にもビジョン的にも、まさに到達点というか、今後のひとつの基準になる作品が出来たんじゃないかなと思います。
峯岸:うん。なんだろう、もうちょっとこの付近で、何かを見つけに行きたいみたいな感じですね。まだ塗りつぶせてない気がするよね。もっとあるでしょって思うんですよね。このラインに。
ナカシマ:だから次はね、ちょっと足踏みしている感じかもしれない(笑)。
――これを深堀りするみたいなイメージ?
峯岸:ああ、深堀り、下に行くかな。『グアム』っていうタイトルの……。
――それ、全然深堀りじゃない(笑)。
ナカシマ:『グアム』っていうタイトルで、全曲レゲエ調で、っていうのになるかもしれない(笑)。

【取材・文:小川智宏】

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リリース情報

theory

theory

2021年01月20日

RO JAPAN RECORDS

1. 獣
2. 透明造花(MV)
3. 亡き王女のための水域
4. 架空船(MV)
5. 斜陽

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

おいしくるメロンパン「theoryレコ発ワンマンツアー2021 ときめき★セロリアル~育ってきた環境が違えども~」
2021/01/31(日) 神奈川 F.A.D YOKOHAMA
2021/02/07(日) 宮城 仙台Rensa
2021/02/11(木・祝) 兵庫 神戸チキンジョージ
2021/02/13(土) 山口 LIVE rise SHUNAN
2021/02/26(金) 石川 金沢vanvanV4
2021/02/28(日) 長野 松本ALECX
2021/03/13(土) 静岡 LiveHouse浜松窓枠
2021/03/20(土・祝) 群馬 高崎clubFLEEZ
2021/03/26(金) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2021/03/28(日) 北海道 札幌Sound lab mole
2021/04/10(土) 沖縄 Output
2021/04/16(金) 大阪 心斎橋BIGCAT
2021/04/17(土) 香川 高松DIME
2021/04/24(土) 福岡 DRUM LOGOS
2021/04/25(日) 熊本 B.9 V2
2021/05/08(土) 愛知 名古屋THE BOTTOM LINE
2021/05/13(木) 東京 Zepp DiverCity

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