“現時点での、あるゆえの集大成” 1st E.P.『私以外、騒音』

ゆびィンタビュー | 2021.02.03

 男女4ピースバンド・あるゆえが、1月20日に、1st E.P.『私以外、騒音』をリリースした。2019年に結成したあるゆえにとって、1stシングル「ライブハウス/毒を塗って」以来のリリースとなる今作は、コロナ禍以降に制作されたという「騒音楽」のように、ボーカルである紫月(Vo)の個人的内面を曝け出しつつも、バンドの原点を改めて見つめ直すといった役割を果たしているとのこと。メンバーとしても「現時点での、あるゆえの集大成」と自信を持って言えるほどの手応えを感じている楽曲についてはもちろん、初インタビューということで、「あるゆえってこういうバンド」という部分についても探るべく、色々と訊いてみた。

PROFILE

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あるゆえ


東京・下北沢を拠点として活動する男女混合4人組バンド。
Vo.紫月が発する“今の私”を吹き込んだ強烈なリリックと、感情剥き出しのパフォーマンス、そして力強く疾走感がありながら、空気をヒリつかせるようなシリアスな演奏がリスナーに衝撃を与える。

高校生限定コンテスト「Schools Out 2018」の決勝大会で出会った4人が集結し、2019年11月より活動をスタート。
12月に初ライブを行うが、1st Single『ライブハウス/毒を塗って』が会場で即完売。
「ライブハウス」のMusic Videoを公開後、タワーレコードバイヤーの間で瞬く間に話題となり、タワーレコード渋谷店未流通作品コーナー「タワクル」にてCD展開スタートするも、入荷初日に完売。
梅田大阪マルビル店では未流通作品ながらデイリーチャート4位にランクイン。
また、結成からわずか8ヶ月でRO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2020夏優勝アーティストに選出、 COUNTDOWN JAPANの出演権を獲得する。さらに、フジテレビ「Love music」内の次世代アーティストを紹介するCome musicでも取り上げられるなど、早くもメディアからも注目を集めている。
2021年1月20日、1st E.P. 『私以外、騒音』をリリース。タワーレコード梅田NU茶屋町店、タワーレコード名古屋パルコ店でタワクルランキング1位を獲得。1月23日に予定していた自主企画イベント1st E.P.『私以外、騒音』リリース企画あるゆえpre.『音楽よ私を生かせ』は延期が決定している。

  • そもそも、どういった関係性の4人が、どういう音楽をやりたくて「あるゆえ」というバンドを結成したんですか?
  • さのひろのしん(Dr)

    僕と拓永と紫月が同い年で、それぞれ違うバンドで出場していた、高校生限定のバンドオーディションの決勝戦で出会ったんです。それで、各々のバンドが解散したタイミングで、一緒にバンドを始めました。その時にはまだベースが見つかっていなかったので、僕の高校の後輩であるありさを誘いました。
  • 拓永(Gt)

    僕だけは、会場ではふたりとは話してなかったんですけどね。東京の怖い人たちだ……と思っていたし(笑)
  • 紫月(Vo)

    いやいや!当時の拓永は髪色も赤くて怖かったからね!(笑)私は音楽で食べていけるようになりたかったので、解散後にSNSでバンドメンバーを募集したんです。そこでリアクションをくれたのが、さの君と拓永でした。
  • ありさ(Ba)

    私はそのオーディションに出場はしていなくて、観客として観に行っていたんです。その時に紫月さんの歌声を聴いて、一緒にバンドをやりたい!と思って、長文のDMを送りました。
  • さの

    ありさは良い意味で、バンドに対する理想や方向性っていうのを持っていなかったんです。だから、僕たちが進む方向に対して素直かつ器用に向かってくれそうだなっていうのもあって、一緒にやることにしました。でも、当時この4人でバンドを始めるとなった時には、“こういう音楽をやりたい!”っていう明確なビジョンはなかったですね。バンドで飯を食っていけるようになる、っていうことくらいしか決まっていなかったです。
  • 紫月

    そうだね。あと決まっていたのは、ジャンルはロックということと、ポエトリーリーディングの楽曲を持つ、カッコいいバンドになる、ということでしたね。
  • でも、バンド一本で食べていくカッコいいバンドになる為の最初の一歩として、4人の中で共通のビジョンがなければ、進んでいくのは難しいと思うのですが。
  • さの

    うちは紫月のボーカルがとにかく強いんですよね。オーディション当時からその魅力を強く感じていましたし、この歌についていけばどうにかなるんじゃないか?っていうのは思っていました。
  • 拓永

    作曲に関しては、主に僕とさののふたりが行っているんですけど、メロディの作り方には2パターンあるんです。ひとつは、紫月の歌声や歌詞を想像しながら作る場合。もうひとつは、ふたりで好きに作りつつも、紫月の歌詞がいい感じにこちらの予想を裏切ってくれる、という期待を含めた音を作るんです。だから、紫月に渡せばなんとかなるだろう、という考えはずっとありますね。
  • 紫月さんに寄せる期待と信頼が厚いんですね。
  • 紫月

    全部ダメ出しされることもありますけどね。「騒音楽」に関しては、歌詞もメロディも何回も作り直しましたし。
  • 今作を作るにあたっては、何かコンセプトはあったんですか?
  • 拓永

    紫月が書く歌詞の情景は、夜だったり深夜だったり明け方だったり、時間帯を想起させるものが多いということもあって、そうした時間の経過を感じられる作品にしたいと思っていました。それに加えて、紫月の人生観や生活感を色濃く出した作品にしようという考えがありましたね。
  • 確かに、前作「ライブハウス/毒を塗って」は、どちらかというとベクトルが外向きのイメージなんですけど、「騒音楽」と「馬鹿みたい」が特にそうですが、今作は人間の内面を曝け出すような楽曲が引っ張っていっているように思います。
  • さの

    コロナという状況もあったので、外の世界に向けた曲というよりは、書く歌詞も自然と主観的になっていったようには思います。だから、今作は時代や時期を踏まえた歌詞とメロディになっていると思いますし、この先こういう音楽をやっていきたいという今後に向けたビジョンが含まれている訳ではなくて、今、自分たちができることが詰まっていると思います。
  • 拓永

    今の時世に対しての楽曲を作りたいという意識があったので、「騒音楽」はテンポ感に関しても、熱量を乗せやすくするためにアップテンポにしました。5曲の中で、一番外を向いていると思います。
  • ありさ

    そうした熱量を維持させた上でも、ボーカルを崩してはいけないという意識は第一にありましたね。
  • ということは、全曲コロナ禍に入ってから制作されたんですか?
  • 紫月

    いや、「みえるものは」と「生活夜」は結成当時の頃からあった楽曲です。「騒音楽」と「馬鹿みたい」と「ここに居る」は、コロナ禍に入ってから作りました。
  • 拓永

    イメージとしては、バンドが結成してから現在までの集大成のような作品です。だから、未来に向けてというよりは、“あるゆえ、第一章”という意味合いが強いです。
  • なるほど。歌詞で言えば、<騒音/音楽>という意味合いの対比だったり、<救えよ/生かしておくれよ>という命令と懇願の対比だったり、具体性と物語性の対比だったり、楽曲に於ける様々な部分で二面性が表れているように思うんです。語感の強さに於いても、紫月さんの根本的な強さが故なのか、それとも強がりが故なのかでいえば、どうなんでしょう?
  • 紫月

    うーん、両方ですね。本音としての強さもあるし、強がっている部分もありますし。自分の中に“弱さを持った自分”と“強さを持った自分”が居て、そのふたりを自然と対峙させることが多いのかもしれないです。
  • さの

    だから、歌詞の中での主語が定まっていないことが結構あるんですよ。
  • 紫月

    確かにそうだね。対立性をあえて描き出しているというよりは、自然に出てきているんだと思います。自分自身がライブハウスによく行っていたこともあって、バンドのボーカルとしてステージの上にいる時の自分と、オーディエンスとしてフラットな状態でいる自分の、どちらの気持ちも分かるんです。だから、発信している時の感覚と、受け取る側としての感覚、その両方が曲の中で共存しているんだと思います。
  • 拓永

    ストレートに全てを歌い切るだけではなくて、相手に言葉を投げかける面と、自分の感情を正直に曝け出す面があるという両面性は、あるゆえの良さだと思ってます。
  • さの

    ん?何を言いたいの?っていう時もありますけど(笑)。でも、捻ってあるほうがカッコいいと思いますしね。
  • 紫月

    だからかもしれないんですけど、聴く人によって曲の解釈が違うんですよね。歌詞の意味を考えることで、想像力を働かせて音楽を聴くのって楽しいですし、良いことだと思います。だけど、それこそ「騒音楽」を聴いたリスナーの人から「救われました!」というコメントを貰ったりもするんですが、私としては、自分の歌で誰かを救いたいとは思っていないんですよね。
  • 歌詞の中でも<寄り添い合う優しさなんて要らない>と歌っていますしね。
  • さの

    ライブでも「私の曲で誰かを救いたいわけじゃない」というようなことを言ってます。
  • 紫月

    言ってるね(笑)。まあ、馴れ合いして良いことってあまり生まれないと思いますし。
  • 拓永

    綺麗なことを歌っていても面白くないしね。
  • さの

    でも、制作の段階でも歌詞の意味を説明されることが殆どないので、歌詞を受け取ったみんなの解釈が違うが故に、制作中にテンパることも多々あります(笑)
  • 紫月

    私の物事の捉え方が独特だからね(笑)。でも、ありさと私は結構似ていると思います。ありさの方が真面目ですけど。
  • さの

    ありさの世界観は、紫月以上に独特かもしれないね。
  • ありさ

    私の場合は、授業中に、紫月さんの歌詞をノートに書いたりするんです。そうやって歌詞の世界観に浸った上で、ベースのフレーズを考えてみたりしています。例えば「騒音楽」では、Cメロに入るところで落ちる部分があるんですけど、その流れを聴いて“沼に落ちる”というイメージが湧いたんです。そこで、“その沼から抜けてサビの部分で這い上がっていく”という自分なりのストーリーを作った上で、それに合うフレーズを考えました。
  • 紫月

    うんうん。ありさのそういう想像力は凄いと思いますし、私の頭の中にある原案的なものをありさに伝えると、しっかりと形にしてくれるんです。
  • 言葉にできないものを言語化したり表現したりしてもらえるというのは、いい関係が築けている証拠ですね。「ここに居る」は、5曲の中で唯一ポエトリーリーディングのみで構成されていて、最もダウナーな楽曲ですよね。「渋谷」という街をテーマにして、こういうテイストの楽曲に仕上げたのはどうしてですか?
  • 紫月

    今までの楽曲は、例え暗い部分があったとしても、最終的には明るい部分が見えて終わっているんですよ。だからその逆というか、胸糞悪い曲ではあるんですけど、最初から最後までちゃんと暗い曲を作りたかったんです。私自身、渋谷が本当に嫌いで、その場にいるだけでも落ちちゃうんです。そういう意味でも、暗い気持ちになりますね。
  • 拓永

    自分が落ち込んでいる時に「ライブハウス」や「騒音楽」を聴いても、ピッタリとハマらないんですよね。だから、そういう落ちた気分の時にも聴ける曲を作りたいと思ったんです。
  • 紫月

    こういう短い曲であれば沈みすぎないし、自分自身がそういう曲が好きだということもあり、やりたいことができた!という気持ちです。自分も病む時はとことん病むタイプの人間なので、リスナーの人にも私と同じタイプの人がいたとすれば、安心できると思いますし。
  • 拓永

    人に聴いてもらいたいというのは後々出てきた感情で、結局は自分たちが欲しいと思ったから作ったんですけどね。
  • 4人共、そういう楽曲を好んで聴いていたんですか?
  • 拓永

    いや、主に僕と紫月ですね。僕は、きのこ帝国をよく聴いていました。
  • あ、だからバンド名が「あるゆえ」なんですか?
  • 拓永

    いや、意味を持たないバンド名にしようと思いながら自分のプレイリストを見ていた時に、たまたま見つけたのがきのこ帝国の曲だったんです。
  • さの

    だから、有名なバンドの曲はダメだって!(笑)
  • ははは!図らずも意味を持ってしまったんだ(笑)。話を戻すと、あるゆえのバンド性の芯となる部分は、「誰かの為ではなく、あくまで自分が鳴らしたい音楽をとことん鳴らしていく」っていうところなんでしょうか。
  • 紫月

    そうですね。「バンドで食べていけるようになる」というのも、自分がやりたい音楽を作りながら、ご飯を食べていけるようになりたいっていうことなので、流行りに乗って売れたい!っていう意識はないですね。
  • そこの意識は強くあるんですね。今作の後半に収録されている「みえるものは」と「生活夜」は、前半の2曲とはまたガラリと雰囲気が変わりますね。
  • 紫月

    この2曲はライブでもよくやっているということもあって、リスナーの方にも好評なんです。
  • 拓永

    この2曲に関しては、僕が主体になってメロディを作っていたので、ちょっと暗いと言うか、綺麗さの中に陰湿さがあるんですよね。そういった、あるゆえを結成した当時に考えていたバンドへのイメージを、作品に残しておきたいと思って作りました。あるゆえの個性が詰め込まれている楽曲だと思っています。
  • 音の重ね方や厚みに関してはかなり作り込んでありますよね。
  • さの

    これは、今だからできたというか、楽曲に対しての理解を4人で擦り合わせたからこそだと思います。しっかりと話し合いながら、ブラッシュアップしつつ作っていったので、その分完成度の高い楽曲に仕上がっていると思います。
  • 紫月

    折角なら、ライブで聴いてきたものとは違う曲を聴かせたかったですしね。
  • 初心をそのまま世に放つのではなく、初心に「今の自分たちが鳴らす意味」を詰め込んだ作品なんですね。では最後に、今作を完成させたことで、これからどういう風になりたいといったビジョンは見えてきましたか?
  • さの

    あるゆえは、紫月が歌えば全部あるゆえだと思っているので、ジャンルというよりは「紫月=あるゆえ」という形を確立させたいですね。
  • ありさ

    自分自身、想いを言葉にするのが苦手なので、それらをベースを通して伝えられるアーティストになりたいです。
  • 紫月

    バンドの名前に意味を持たせたくなかったっていう話に繋がるんですけど、色んなジャンルの音楽をやりたいですね。今作はこういうテイストだったけど、もしかしたら次作はラブソングかもしれない。そういう真逆のアプローチだとしても、躊躇いなくやっていきたいと思ってます。
  • 拓永

    確かに色んなこともやりたいけど、どうせならひとつのことをとことん突き詰めていきたいとも思っています。今回「騒音楽」のような魂の込もった楽曲が生まれて、今作を作る上で新しく生まれた想いもあるので、それらをしっかりと成長させきってから、次のステップに進んでいきたいですね。

【取材・文:峯岸利恵】




あるゆえ - 1st E.P. 私以外、騒音(Album Trailer)

tag一覧 J-POP EP ゆびィンタビュー 女性ボーカル あるゆえ

リリース情報

私以外、騒音

私以外、騒音

2021年01月20日

01.騒音楽
02.馬鹿みたい
03.ここに居る
04.みえるものは
05.生活夜

お知らせ

■配信リンク

『私以外、騒音』
https://narisome.lnk.to/aruyue_souon

iTunes、レコチョク他主要配信サイト、及びApple Music、Spotify、LINE MUSIC、AWA、dヒッツ他主要音楽ストリーミングサービスにて配信中!

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