Arakezuriの多彩さを味わえる1stフルアルバム『PORTFOLIO』

ゆびィンタビュー | 2021.03.20

生々しくエネルギッシュなバンドサウンドと、繊細かつ鮮やかに響くハーモニー。そこに乗るのは泣き虫でくよくよしながらも高い青空に熱視線を送り続けるという、弱さが生んだ気高い言葉たち――。ライブハウスシーンで着実に実力を積み上げている滋賀発の4ピースロックバンド、Arakezuriが満を持して初の全国流通盤をリリースする。『PORTFOLIO』というタイトルのとおり、Arakezuriの多彩さを味わえる1stフルアルバムは、彼らの心情や思想、バンド人生が色濃く表れた作品となった。バンドにとってキャリア初のインタビュー。バンドの成り立ちやアルバムの話題からも、一筋縄ではいかないマインドを持った4人であることが伝わってくるはずだ。

PROFILE

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Arakezuri


2017年結成。滋賀県を拠点に活動する、4ピースバンド。
ホーム・ライブハウスは、浜大津B-FLAT(ビーフラット)
自らを「弱虫ロックバンド」と表し、誰しもが抱える弱さや焦燥を前のめりに代弁しながら、聴く人の心を揺り動かすヒューマニティー・ロックが真骨頂。
背中を押してあげるのではなく、自分の背中を自分で押して帰ってもらうことが、Arakezuriにとってのベストライブ。
「頭でじっくり考えるより、動きながらいっぱい感じる」というチャレンジングなモットーを掲げ、バンド三昧の日々を目下奮闘中。

  • Arakezuriの機材車は軽自動車だそうですが、男の子が4人乗っていたら、それだけでぱんぱんじゃないですか?
  • 石坂 亮輔(Gt/Cho)

    ほんまぱんぱんっす。テトリスやったら全部消えてます(笑)。
  • 宇野 智紀(Ba/Cho)

    イッサ(石坂)くんの空間把握能力がすごくて、隙間ないくらいめっちゃ綺麗にテキパキ収納してくれるんですよ(笑)。
  • 石坂

    Arakezuri結成したての時、使える車がそれしかなくて。「軽でやれるとこまでやってみよう」と使い始めたら、4年経っても全然余裕で使えてしまった、という(笑)。
  • 白井 竣馬(Vo/Gt)

    乗り換えるタイミングを逃したまま、このままでええか~ってなってます(笑)。
  • (笑)。Arakezuriはまず2017年2月に3ピースで結成されているんですよね?
  • 白井

    智紀とイッサは高校時代に地元のライブハウスで知り合ってるので、付き合いは長くて。それで2016年の終わりあたりに、僕の組んでたバンドもイッサの組んでたバンドも解散したんですよね。直感的に「ずっと4ピースでやってきたから、3ピースが組みたいなあ」と思って、人間として好きで、一緒にバンド組めたらええなあと思ってたイッサにベーシストとして入ってもらって。
  • 石坂

    突然「ベース好き?」ってLINE来て。バンドやってて音楽聞いてたら好きに決まってるやないですか。「好きやで」と返したら「バンド組まへん?」って……あ、これ俺ベーシストやなと(笑)。めちゃくちゃ気ィ狂うてんなあと思ったけど(笑)、まあ面白そうかなと思って加入を決めました。
  • 宇野

    竣馬くんが前に組んでいたバンドは、現役高校生で滋賀でいちばん大きいライブハウスでワンマンをするくらいの、僕ら後輩からしたらヒーローで。でもそれがどんどん失速して(笑)、解散して、新しく始まったのがArakezuriなんですよね。当時ふたり(白井と石坂)はめちゃくちゃ尖ってて(笑)。
  • 白井

    後輩と距離を取られてることはつねづね感じてました(笑)。
  • 宇野

    それで僕の組んでたバンドは活休することになったタイミングで、急に竣馬くんから電話があって「4ピースがしたいからベースで入ってくれ」と言われて。2018年の1月からサポートでベースを弾き始めました。
  • 石坂

    1年弱の3ピース期間を経て、俺は結局ギターに戻るという(笑)。
  • 白井さんの3ピース欲は1年弱で満たされた、と(笑)。
  • 白井

    3ピースバンドは個々のメンバーが活躍できていいかな、観てる側も観やすいんちゃうかなと思ったんですけど、自分のやりたいことをやるうえで「ギターもう1本欲しいな」と思うことが多すぎて……(笑)。この1年弱で4ピースの良さに気付けたので、逆に良かったなと思います(笑)。
  • 石坂

    そのわりにリードギターに求めるものは「いけてるやつ」とか「かっこいいやつ」とか「なんでもええ」「いい感じのものを」って感じなんですよ(笑)。それはリズム隊に対してもそうなんですけど。
  • 白井

    前に組んでたバンドが、俺が「こういうふうに弾いて」と言ったらその言葉のままになっちゃって、俺ひとりでやってるような感じがしてピンと来なくて。だから俺の「いい感じのフレーズ入れて」に対するレスポンスで作っていったほうがいいものができるなあって。みんなで作るほうが、自分では作れないものが作れるから楽しいんです。
  • 2018年4月からサポートドラマーとして活動するようになった椿さんは、石坂さんの大学の後輩に当たるんですよね。
  • 椿 佑輔(Dr/Cho)

    イッサくんは3つ上なんですけど2年休学してて、僕が2回生の時に3回生やったんです。だから授業被ることが多くて、イッサくんは強面やし年上やから同期からほんのりビビられてて(笑)。そんななかArakezuriの3ピース時代のデモ音源を大学で聴く機会があって「かっこええなあ」と思ってたら、授業被った時にイッサくんから話し掛けてくれたんです。
  • 石坂

    3ピース時代のドラムが抜けてドラムを探してるタイミングで。Arakezuriの音楽的に、歌詞に理解のある、コーラスがちゃんとできるドラマーを探さなあかんなと思ってたんです。そんな時にボイトレの授業でめっちゃ歌うまいやつがおって、それが佑輔やったんです。前々からドラムを叩いてる姿をちらほら大学で見掛けてたので、まず手始めに課題の個人制作でドラムを叩いてもらって、そしたらArakezuriの音源を聴いてくれてたことを知って。「じゃあ入って!」と(笑)。
  • 椿

    僕にとっての初めてのオリジナルバンドなんです。叩くことが決まって、音源を一気に全部もらって、それからというもの隙があればその音源を聴いて。どんどんArakezuriの沼にはまっていきましたね。
  • 運命的な出会い。石坂さん2年休学していてラッキーでしたね。
  • 石坂

    ほんまっすよ。このために休学してたんやなと思ってます(笑)。
  • そして2018年8月に宇野さんと椿さんの正式加入を発表。翌月ライブ会場限定ミニアルバム『結果論』をリリースします。Arakezuriで不思議なのは、ライブハウスから生まれた音楽であることは明確で、ジャンルとしては「歌ものギターロック」にはなるんでしょうけど、似たアーティストやバンドが思い当たらなかったことなんですよね。
  • 石坂

    全員楽器を持つきっかけはあるし、音楽も大好きなんですけど、「影響を受けた音楽」みたいな明確なルーツみたいなものがあんまりなくて。いまいちばん自分たちがかっこいいと思っていることをやっている。高校の頃からそれだけなんですよね。
  • 白井

    全員のやりたいことを合わせた結果がArakezuriというか。
  • 誰かから受けた影響というよりは、各々の感性や人生で築き上げられている音楽なのかもしれないですね。
  • 石坂

    そうですね。だからこそメンバー全員が「この曲は何のために演奏してるのか」を理解してなあかんし、そのためにも「歌心」は必要不可欠で。
  • 宇野

    それぞれの曲で伝えたいこと― ―歌詞はもちろん、それぞれのメンバーがどういう演奏をしたいのかは、メンバー全員でちゃんとすり合わせて共有してますね。それがバンドにとっての軸というか。
  • 石坂

    それがArakezuriにとって絶対的に大事な部分なんです。もともとよく話し合いをするバンドやから、お互いの気持ちが無意識的に刷り込まれてるんですよ。
  • 白井

    高校時代に地元のちっちゃいライブハウスで先輩バンドが、ちゃんと自分の思っていることを歌にしていて、俺それを観て泣いて。自分もこんなふうに、ちゃんと中身のある歌を歌いたいなと思って、それを今もずっと続けてるんです。メンバー全員でそれを共有してるから、3人も僕と同じくらい曲について話せるんですよね。
  • Arakezuriの演奏が全員同じ方角を向いているのは、それが大きく影響していそうですね。初の全国流通盤『PORTFOLIO』、とてもロマンチックなアルバムでした。ライブの定番曲や再録曲もあるのでバンドの歴史も見えますし、でもしっかり『PORTFOLIO』としての物語も存在していて。曲間、曲順含めてとても丁寧な作品作りだと思います。
  • 宇野

    音源を作らないままどんどん曲が増えてきたので、ここで1回ちゃんとかたちにせなあかんなって。1本のライブを作るようなイメージで組み立てていきました。頭5曲でどんどん加速していって、6曲目でインタールードの「冬夜の梁」を挟んで第2幕をスタートさせて……どうつないでいくかめちゃくちゃ真剣に考えましたね。
  • 石坂

    1曲目の「prelude」から歌心があるバンドやと示したかったし、なによりArakezuriというパンク感やロックンロール感のある名前から受けるイメージを覆したかったんですよね。1曲目から綺麗なハーモニーを入れることで「いやいや、荒削りちゃうやん!」と裏切られてほしかった(笑)。「俺らを表すものは名前だけじゃない」と伝えられたらなと思ったんですよね。
  • 宇野

    というのもあり、『PORTFOLIO』というタイトルなんですよね。現状のArakezuriはこれを聴けばわかると思います。
  • アレンジの凝り方にもバンドの歴史が見えますよね。「ファンファーレ」や「桜」はシンプルに聴こえるけれど、コードやフレーズ、展開など、かなりギミックが感じられたので比較的最近できた曲なんだろうなと。
  • 宇野

    「ファンファーレ」と「桜」はリモートで作ったんですよ。2020年は作曲に割く時間が増えたので、こだわる量も増えたのかな。
  • 白井

    俺らの音楽はわかりやすいのも強みやけど、ただのわかりやすいじゃないんだぜ、みたいなのが「ファンファーレ」では伝えられたらいいなと思って。
  • 宇野

    「桜」はミックスの時にGReeeeN感を出したいってエンジニアさんにお願いして(笑)。僕らの学生時代ど真ん中の卒業ソングと言えば!なので、その感じの憧れはあったんですよね。
  • 白井

    コロナ禍で卒業式ができひんというニュースをみて、自分の卒業式について思い返したり、卒業式ができひんまま卒業する子たちがおるんやなー……と思って。コロナ禍があったからこそ生まれた曲やなと思いますね。
  • 「桜」はライブシーンというよりはArakezuriが持っていたポップ要素が全開になった曲なので、そういう意味でもコロナ禍ならではかもしれませんね。また、過去曲を再録できたのもバンドにとって良かったのではないでしょうか? 特に「結果論」はライブでたくさん演奏してらっしゃいますし。
  • 宇野

    「結果論」は特に、ライブをするたびに顔が変わる曲なんですよ。昔はぶん殴るような気持ちで演奏してたけど、最近は「聴いてくれる人の鏡になれたらな」という気持ちに変わっていて。
  • 石坂

    たぶん昔は、「結果論」を自分たちにしか演奏してなかったんですよ。でもライブで演奏を重ねるごとに、自分たちの心身に「結果論」が持つ意味が浸透していって。その結果「この曲の意味をお客さんにちゃんと伝えなあかん」という前のめりの気持ちが出てきたんですよね。そういう感覚がいちばん強い曲は「結果論」なんですよ。
  • 椿

    自分の感情だけではなく、「自分以外の人もこういう気持ちを抱えてるんやろな」と思いながら歌えるようにもなって。視点が増えたら、感情まかせにならなくなった。この曲でひとつの道筋を提案できたらなと思うんです。
  • 生きていると「この人生で良かった」と思う瞬間はありますが、それは苦労が報われた時、幸せを味わえる時がほとんどなんですよね。でも「結果論」は転んだ状態でそれを叫んでいる。それがすごく異端でもあり、凛々しいとも思ったんです。
  • 白井

    3ピース時代に作った曲なんですけど、バンドもうまいこと動かされへんし、バイト先は潰れちゃって、新しいバイト先は金銭がルーズで、日払いの派遣の面接に行って……その帰り道に思ったことが「結果論」なんです。だから「この人生で良かった」と思いたい、という願望で書いたんですよね。でも月日を経て、当時は願望だったことが少しずつ現実味を帯びてきてる。だからその時その時の感情で歌えるのかもしれないです。
  • 「結果論」が願望へと導いてくれてるのかもしれないですね。
  • 宇野

    それはすごく感じますね。現に「結果論」きっかけで、バンドの名前も広がっていったんです。
  • 単体でも存在感のある「結果論」ですが、その前にインタールードの「冬夜の梁」と「セブンスター」があるので、なおのことドラマチックに響きます。「セブンスター」はArakezuri初のラブソングになるのでしょうか?
  • 宇野

    初めてではないんですが、じつはこれ、俺の失恋の歌なんですよ(笑)。
  • へえ、そうなんですか!
  • 宇野

    4年付き合った彼女と別れるタイミングで東京遠征があって、竣馬くんと一緒に先輩の家に泊まりに行って。別れそうやなー……という話をしながら3markets[]の「セブンスター」を流してたら、あんま煙草吸ってへんけどセブンスターを吸うか、という空気になって、コンビニまで買いに行って。そのエピソードが元になった曲なんです。
  • 白井

    初めて自分じゃない話で曲を書いたんです。Arakezuriで自分の恋愛を歌いたいとは今のところ思わないから、「セブンスター」はメンバーの話やったから歌えたところはありますね。すらすらっと書いてみたら意外とええもんが出来て、でも自分の話じゃないからちゃんと智紀にも確認してもらって。
  • 宇野

    竣馬くんから加入の電話があったとき、その彼女と一緒にいたんですよ(笑)。だからそういう子との失恋がArakezuriで曲になるというのは感慨深いというか。しんみりしちゃいますね(笑)。
  • 石坂

    アレンジもそぎ落としまくって、いちばんシンプルにしました。女性コーラスは滋賀の後輩の女の子に入れてもらって。そういうのは俺らに似合わんなと思いながらも、アルバムのバランスを考えると入れたほうがええなと思ったし、「こういうこともできますよ」とちゃんと見せとかなあかんなと踏み切りました(笑)。
  • ラストの女の子の叫ぶようなコーラスが、より楽曲に深みを出していると思います。そして、これまで積み重ねてきたことや、新しい挑戦も、<弱いことは何よりも弱さに寄り添える/優しいことなんだ>というArakezuriの核となるスピリットを詰め込んだ「テンダー」があるからこそ説得力が増すのではないでしょうか。
  • 白井

    この曲を作ったのは2018年の終わりとか2019年の頭くらいかな。ずっと思っていたことを日記のように漠然とさらさらと書いていったのが「テンダー」なんです。作ったタイミングで強い想いを込めたというよりは、自分がたまたま吐いたものがライブで演奏していくごとにどんどん成長していった感覚があるかな。ナメられたらあかんと思ってピンピンな感じでいたんですけど、いろんな経験を経てそういう生き方は自分には似合わへんなと思って。だから書けた曲やなと思います。
  • 弱さを認められなきゃ、「クアトリーセンチュリー」みたいな痛快でユーモラスな曲は書けないでしょうしね。
  • 宇野

    ちょっとチョケれるタイプの曲作っちゃいました(笑)。
  • 白井

    結構気に入ってる曲です(笑)。<夢で飯は食えてないけど>って10年後も歌うのちょっとなあと思ったんで、曲を作った当時の25歳の話としてまとめたんですよね。だから、この先歌えなくなることを目的にした曲でもあるんです。
  • 2年ぶりの音源リリースにして初の全国流通盤。達成感と同時に新たなスタートを迎えるタイミングだと思いますが、心境としてはいかがでしょう?
  • 宇野

    もう、やっと出せた!って感じですね。やっとこのCDを持って走り回れる。ほんまは2020年に6曲入りくらいのミニアルバムを会場限定盤としてリリースするつもりやったんですよ。それが伸びて伸びて今回のアルバムに入るかたちになったんですけど。
  • 『PORTFOLIO』を作りなさい、という思し召しだったのかもしれないですね。
  • 白井

    ほんまそうですね。何事も起こることには意味があると思うので。『PORTFOLIO』はコーラスもたくさんあるし、メンバー全員が歌いながら楽器弾くのが難しい(笑)。細かいところまで凝れたなあって思います。お客さんが歌える部分もたくさんあるし、みんなで歌って、みんなのうたになってほしいんです。
  • 椿

    このご時世でお客さんはライブで歌われへんしマスクせなあかんから、早く前みたいにみんなで一緒にライブハウスで歌いたいですね。コロナ禍の影響で解散せざるを得なかった友達のバンドもいっぱいいるんで……一刻も早く収束してほしいです。
  • ミュージックラバーズの総意だと思います。では最後に、「夢」をたくさん歌うArakezuriが、今追いかけている夢とはどういうものでしょう?
  • 白井

    いろんな夢はあるんですけど……結局最終的に辿り着くのは「死ぬまでずっとバンドを続ける」なんですよね。こういう会場でライブしたいと思ったりしてた時期もあるんですけど、やっぱ音楽をやっているまま死ぬのがええなって。
  • 椿

    うん。じいちゃんになってもバンドしてたい。
  • 宇野

    ずっとバンド続けて、オッサンなったら渋い感じになりたいな(笑)。
  • 石坂

    好きなことをやってる人がいちばんかっこいいと思うんですよ。思想をしっかり持って、これからも音楽続けていきたいですね。

【取材・文:沖さやこ】

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リリース情報

PORTFPLIO

PORTFPLIO

2021年03月31日

ChunChun RECORDS

01. prelude
02. ファンファーレ
03. 最愛の日々を越えて
04. 信じる明日へ
05. クアトリーセンチュリー
06. 冬夜の梁
07. セブンスター
08. 結果論
09. 再会を願って
10. 桜
11. テンダー
12. 此処にいる

お知らせ

■配信リンク

『PORTFPLIO』
https://orcd.co/arakezuri



■ライブ情報

漢巡り こけら落とし2MAN「スリーマン」
04/15(木)東京 渋谷CRAWL
w / KAKASHI

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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