デビュー15周年を迎えたかりゆし58のターニングポイントとは

かりゆし58 | 2021.03.16

 かりゆし58がデビュー15周年を迎えた。2005年に沖縄で結成され、翌年1stミニアルバム「恋人よ」でデビュー。その後、「アンマー」「ナナ」「さよなら」などのヒット曲を生み出してきた彼らは、ロック、レゲエなどを混ぜ合わせたサウンド、人生の機微をストレートに描いた歌詞によって、幅広い層の支持を得ている。 2015年から局所ジストニアの治療のため休養していた中村洋貴(Dr)も昨年1月に復帰し、アニバーサリーイヤーを最高の形でスタートさせたかりゆし58。15周年を迎えた心境、ターニングポイントとなった楽曲、最新配信シングル「HeartBeat」の制作などについて、前川真悟(Vo/Ba)、宮平直樹(Gt)に聞いた。

――昨年、ドラマーの中村洋貴さんが復帰。15周年をメンバー揃って迎えられて、本当に良かったですね!
前川:それがいちばんですね、本当に。復帰を宣言したのは2019年で、翌年の1月にステージに立って。1年かけて徐々に慣れていったというか、いい形で15周年を迎えられたので。かりゆし58もそうだし、個人的にもすごくいい状況で過ごせたんですよ、去年は。
宮平:他のバンドと同じようにライブはできなかったんですけど、1年かけてこれまでの活動を振り返りつつ、15周年に向けて少しずつ進んできて。その感じがよかったんですよね。
前川:うん。去年は音楽家の居場所、表現者、エンターテインメントに関わる人たちの存在意義みたいなものを問われた年だったと思うんです。自分たちもバンドをやる意味をもう一度見つめ直したし、今年で40歳になることも含めて、自分自身と向き合う時間もあって。音楽やバンド、家族と結婚式をやり直した感じというか。
――音楽、人生との関りを改めて実感し直した、と。
前川:そうですね。自分たちの過去の作品を聴き直すこともけっこうあって。一晩中、かりゆし58の曲を聴いたりもしたんですけど、ナルシズムとかではなく、「ちゃんと聴けるな」と。現状に不安がないわけではないけど、歌うべき曲を歌ってきたなと感じたし、自分たちのバンドを信じられたというか。いい禊になりましたね。
宮平:周りの友達からも「あの曲、久々に聴いたけどいいね」と言われることもあって。「電照菊」という楽曲がきっかけになって、「おきなわの花」のアンバサダーに任命してもらえたり、いろんな広がりもありましたね。
前川:地元から声をかけてもらえるのも嬉しいんですよね。ライブハウスから人が遠ざかってるなか、「ここで歌って」と呼んでもらえるのはありがたいです。
――かりゆし58の曲がたくさんの人の心に根付いていることの証左ですよね、それは。デビュー当時、今のような状況を想像できてました?
前川:どうでしょうね。もともとは「自分の人生を真っ当に生きたい」というところから始まったんです、このバンドは。当時24歳くらいだったんですけど、「30歳までに家族や親に胸を張れるようになろう」というのがスタートだったので。ありがたいことにたくさんの人に曲を聴いてもらえるようになったんですけど、本当にいろんなことがあって……。
――急に知名度が上がって、ストレスがたまりまくってた時期もありましたからね。
前川:ありましたね。ORANGE RANGE、HY、MONGOL800と比べられて、「かりゆし58もみんな知ってるでしょ」と言われて、「いやいや、そんなに売れてないです」とか(笑)。
宮平:よく比べられてました(笑)。
前川:世の中の変化も大きかったんですよ。CDが売れなくなって、配信、サブスクが中心になって。いまやSNSで無料で音楽が聴ける時代ですから。TikTokなんて15秒だし、どうしたらいいだろう?って試行錯誤した時期もあったし。変われなかったところが自分たちの芯なのかなと思ったりしますけどね。自分たちの過去の曲に「あなたたち、ちゃんと根っこがあるよ」と教えてもらったというか。
――なるほど。宮平さんはどうですか? 音楽やバンドとの関わり方は時期によって変わってる?
宮平:俺は2年遅れでバンドに入ったんですけど、最初の頃はスタッフのみなさんに「次はこの時期にリリースするから」とスケジュールを決めてもらって、それに合わせて動いてて。5周年を過ぎた頃から自分たちのペースで動くようになって、だいぶ変わってきましたね。アルバム「8」(2013年)からは真悟以外のメンバーも曲を作るようになったし、メンバーとしての意識も強くなってきて。最初の5年くらいはバイト感覚でした(笑)。
前川:東京のスタジオで毎晩毎晩、曲を作ってアレンジしてたこともあったしーーそのとき培ってきた栄養が今のスタミナになってるんですけどねーーある程度経験を積んで、ロジックを使って曲を作ろうとした時期もあって。いろんな先輩方と出会って、「そこにあったものを蘇生させるのが歌だよ」という言葉をいただいたり、全部の経験がタメになってますね。
――おふたりのなかで、ターニングポイントになってる曲は。
前川:タイミングによって、いくつかありますね。世の中とかりゆし58を繋いでくれたきっかけは「アンマー」だし、そもそも「恋人よ」という曲が出来なければ、スタートラインにも立てなかったし。「ウクイウタ」も大きいですね。この曲のタイミングで直樹が入ってくれたんですけど、その頃って、かなり大変だったんですよ。スタッフの方にきついダメ出しされて、それをメンバーに伝えて……という時期で。
宮平:中間管理職だね(笑)。
前川:(笑)。行裕(新屋行裕/Gt)なんて「こんなに楽しくないのに、やる意味ある?」みたいになってたんですけど、友達に「「ウクイウタ」、いい曲だな」と言われて、気持ちが切れずに済んだんですよ。行裕は「ウクイウタ」じゃなくて、「さよなら」を挙げてましたけどね。「いちばん売れた曲だから」って。
宮平:ハハハハハ(笑)。
――(笑)。宮平さんにとっての分岐点は?
宮平:やっぱり「アンマー」ですね。バンドにとっても大事な曲ですけど、僕はサポートをやるかどうか迷っていた時期で。ジョギングしてるときに、どこかの店からこの曲が聞こえてきて、「これは導きかもしれない」と勝手に思って、バンドに参加することにしたんですよ。
――配信シングル「HeartBeat」についても聞かせてください。まずタイトル曲「HeartBeat」は、メンバー全員で作詞して、それぞれのパートを自分で歌った楽曲です。
前川:作曲は行裕なんですけど、ワンループをみんなでシェアして、それぞれ歌詞を書くというやり方ですね。メロディの捉え方も歌詞の書き方もすごく自由だったし、音楽は楽しいなと改めて実感できて。
宮平:曲の流れもいいし、それぞれのキャラクターも出ていて。俺はちょっとラップをやってるんですよ(笑)。雰囲気が変わるパートだったから、ラップが合うんじゃないかなと。
前川:サポートドラマーの(柳原)和也が歌ってるのもいいしね。あと、洋貴の歌詞もいいんですよ。<道のりの先 止まってた時間が動きだす>という歌詞は彼以外には歌えないし、説得力とリアリティがあって。15周年のはじまりに相応しい曲になりましたね。
――「小麦色恋心」「あいをくらえ」「掌」は、リモートで制作したそうですね。
前川:はい。直樹、和也は東京、行裕、洋貴、僕は沖縄にいて。データをやりとりしながらアレンジを作ったんですけど楽しかったですね。普段のレコーディングは、曲を作った人のイメージに沿っていくことが多いんですよ。リモートだとお互いの演奏を聴いて、「このフレーズはどうしてここで鳴ってるのか?」を汲み取らないといけないんだけど、それがすごくおもしろくて。
宮平:自宅で録ってたので、時間を気にせず、ずっとやってましたね。いつの間にか違う方向のアレンジになってたり、おもしろかったです(笑)。
――「あいをくらえ」は新屋さんがメインボーカル。新屋さんの歌、どんどん良くなってますね。
前川:腹から声が出るようになってますね。僕自身も最近、歌のコツを掴めるようになって。行裕も何かを察知して、いろいろがんばってたみたいです。
宮平:筋トレしたり、はりきってましたね。肺活量が上がったみたいだし、体の使い方もわかってきて、それが歌にも出てるのかなと。
前川:「あいをくらえ」は、かりゆし58史上、いちばん音符が少ないんですよ。ギターの速弾きとか、ドラムの手数とか、見せ場を作れば作るほど、ズレにつながるような気がして。この曲は「お互いにいちばん気持ちいいところ以外、音を鳴らさないようにしよう」と実験してみたんですよ。
宮平:最初は「こんなに音が少なくていいのかな」と思ったんですけど、全員の音が重なるとひとつのフレーズになったり、いろいろ発見もあって。
前川:「掌」も、あえてそこまで熱量を高めてなくて。以前は「サビはキーを高くして、演奏もガーッと盛り上げないと」と思ってたんですけど、そこまでやらなくても届くなと。
――ひとつひとつの音の説得力が増しているんでしょうね。5月からはワンマンツアー『ハイサイロード2021-バンドワゴン-』がスタート。
前川:状況と折り合いを付けながらのツアーになると思いますね。洋貴の復帰を言葉でしか示せていないので、初日からファイナルまで一緒に周るのが当面の目標です。
宮平:去年は配信ライブやアコースティックライブをやらせてもらって。バンドでツアーを回るのはだいぶ久しぶりですね。どうなるんだろう……。
前川:(笑)。去年、いろんな人と一緒に演奏するなかで、ベースにも歌にも力が入り過ぎてたことに気付いて。以前よりもちゃんと歌詞を届けられると思ってるし、ベースに関しても、和也のドラム、洋貴のリズムをしっかり聴いたうえで演奏できるんじゃないかなと。今まで以上にバンドらしいライブになると思います。
――ここからまた、新しいスタートですね。
前川:そうですね。どんな状況になるかはわからないですけど、ずっと続けていきたいので。もしかしたら和也がバンドに入るかもしれないし。
宮平:(メンバーの)子供が入ったりね(笑)。
前川:BEGINの(比嘉)栄昇さんの息子さん(比嘉舜太朗)もドラムを叩いてるからね。彼が初めてバンドでコピーしたのは、かりゆし58の「オワリはじまり」なんですよ。そうやって音楽と人をいいサイクルでつなげていきたいですね。

【取材・文:森朋之】

tag一覧 J-POP シングル インタビュー 男性ボーカル かりゆし58

リリース情報

HeartBeat

HeartBeat

2021年02月22日

Living,Dining&kitchen Records

01.HeartBeat
02.小麦色恋心
03.あいをくらえ
04.掌

お知らせ

■マイ検索ワード

宮平直樹(Gt)
秘祭・奇祭
日本には秘密の祭り、変わった祭りがたくさんあって、それを調べるのが好きなんですよ(笑)。沖縄の新城島に「アカマタ クロマタ」と呼ばれてる祭りがあって、それが本当にヤバいらしんです。ただ、地元の人に聞いても「その話はできない」と言われるし、どんな祭りなのか全然わからないんですよね(笑)。

前川真悟(Vo/Ba)
フリーループの映像
アルバム「バンドワゴン」を出した後、知り合いのトラックメイカーやラッパーとやりとりして、個人的に曲を作るようになって。それをTuneCoreにアップするときに、フリーで使える動画をくっつけてるんですよ。1分くらいの短い映像が多いんですけど、なんとなく曲の雰囲気に合うものを選んでます。



■ライブ情報

ハイサイロード2021-バンドワゴン-
05/08(土)東京 Zepp Tokyo
05/14(金)大阪 なんばHatch
05/15(土)福岡 DRUM LOGOS
05/28(金)愛知 ダイアモンドホール
06/19(土)沖縄 ミュージックタウン音市場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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