CHRONICLE、音楽×物語×アートの壁を乗り越え完成した始まりのアルバム『CHRONICLE』

CHRONICLE | 2021.03.17

 アニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』のコンセプトデザインや小説『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』の装画などで知られるイラストレーターのloundraw、ORESAMAのコンポーザーとしても活動中のHIDEYA KOJIMA、男性ボーカリストのT.B.Aの3人からなる音楽アート集団・CHRONICLEが1stアルバム『CHRONICLE』をリリースした。音楽と物語とイラストをミックスさせた新世代ユニットの結成の経緯からアルバム制作にまつわる話を聞いた。

――まず、1stアルバムがリリースされたばかりの心境から聞かせてください。
KOJIMA:やっと形になったなという感覚が強いですね。シングルの1曲目「宇宙」を2019年6月に出してから、かなり間が空いてしまいましたが、僕ら3人が納得できるものができた。ぜひ、皆さんに、CHRONICLEとはどういう音楽なのかを聴いていただきたいなと思ってます。
loundraw:僕としても、ようやくできたなと思っています。そもそも、“物語”と“音楽”を掛け合わせるという時点で、すごく難しくなるなとは思っていたんですね。それがこうして、アルバムという1つの形になった。なので、「やっと」という思いもありますし、「本当にできたな」という、どこかびっくりしているところもあります。いわば、ユニット内でメディアミックスを完結させるということでもあるので、どういう制作フローで進めればいいのか、3人の中でも悩みましたし、だからこそ、これだけの時間もかかって。そういう意味で、「本当に作れたんだ」という驚きがありつつ、素直に嬉しいですね。
T.B.A:「宇宙」からの約1年9ヵ月間で僕らが考えてきたことを、やっと1つにまとめられたなと思っています。アルバムには、いろんな景色を見せられるような、いろんなジャンルの曲が入っているので、これからを含めて、僕らの歴史を感じていただけたらと思います。
――改めて、その“歴史”の始まりをお伺いしたいと思います。loundrawさんの発案で結成されたユニットという認識でいいですか。
loundraw:厳密にいうと、僕とKOJIMAくんがほぼ同時なのかなと思っていて。僕自身としては、イラスト以外での表現をやりたいっていう話はずっとしてきた中で、偶然、KOJIMAくんに会って。KOJIMAくんの曲を聴かせてもらったり、僕が描いているものを見せたりする中で、何か一緒にできたらいいねっていう話になったのが、CHRONICLEがスタートするきっかけになってますね。そこから、T.B.Aという良い声のボーカルの子がいるよと、ライブを見に行ったのがはじまりですね。
KOJIMA:僕的には、音楽は目に見えないものって言われますけど、イラストやアニメーションは、一時停止したらその瞬間を切り取れるものだなと思ってて。音楽で一時停止すると、残るのは無音しかない。そういう意味でも、音楽で、一瞬を切り取って目に見えるものを作りたいという感覚があって。だから、loundrawくんのイラストと映像と共に1曲を作り上げていくことで、そういう一瞬を作ってみたいという部分もありましたね。そういう話をしながら、T.B.Aの声を初めて聴いた時に、僕らの表現する音楽に必要不可欠な声だと思いまして、一緒にやろうって声をかけて、3人で始まっていった感じですね。
――T.B.Aさんはこのユニットでデビューする新進気鋭のシンガーということ以外のプロフィールは伏せられていますが、声をかけられた時はどう感じましたか。
T.B.A:正直、不安しかなかったです(笑)。僕は地方で細々と音楽をやっている身だったので、既にプロとしてやっている2人と仕事することになった時に、僕でいいのか?っていう不安が一番大きかったですね。でも、アルバムの制作を経て、3人で話し合いながら作っていけて。今となっては、「僕を見つけてくれてありがとう」っていう感謝が一番大きくありますね。
――3人が集まって、制作はどのように進んでいったんですか。
KOJIMA:まず、CHRONICLEの軸となる“物語”の部分をloundrawくん中心に作り上げていって。歌詞は、そのストーリーからインスパイアされながら、とりあえず、1つ楽曲を作っていく作業を進めていきました。基本的には、僕が楽曲の原型を作って、loundrawくんが歌詞を書き、T.B.Aが声を乗せるっていう流れで何曲も作っていきました。
――YouTubeには『CHRONICLE』の予告編アニメ映像がアップされていますが、『CHRONICLE』という全体の物語があるということですよね。
loundraw:そうですね。全体としての設定や大きな流れ、結末がありますね。それはメンバーにも共有しているんですけど、あくまでも大きな骨子の部分だけであって。歌詞はあの予告編に出ているメインキャラクターを描いているものもあれば、サイドストーリーみたいなものもあります。あと、物語に紐づいてしまうので全部は話せませんが、1つのテーマとして、“声”というものがあって。声は形ないものですけど、人を勇気づけたり、熱い気持ちにさせたりすることができる。そういう意味では、すごい力があるなと思っていて。目には見えないけど、確かな存在で、人を動かす力がある“声”というものを軸にしたお話になってますね。
――サウンド面に関しては、KOJIMAさんはどう考えていましたか。CHRONICLEに関しては、世間がイメージするディスコやファンクではないですよね。
KOJIMA:僕がディスコに出会ったのは、音楽を作り始めて少し経ってからだったので、CHRONICLEでは、それ以前に聴いてた音楽……BUMP OF CHICKENなどのロックバンドや日本のポップミュージックの記憶が色濃く出ているなと思います。それに加えて、自分主導の音楽ではなくて、物語やイラストのBGMというか、背景に回れる楽曲というか。物語やイラストからインスピレーションを受けた音楽も作りたいっていうところが根底にあったんですね。だから、今後、ディスコやファンクが思い浮かぶシチュエーションがあればやりますけど、今回の場合は、それ以外のいろんな情景が見えてきたので、普段、僕が作っている音楽とは違うものが出来上がってきたんだと思います。
――では、アルバムを作り終えた今、「CHRONICLEとはどんなユニットですか?」と訊かれたら、どう答えますか。
KOJIMA:僕がこの10曲を3人で作って感じたのは、いろんな時代や、いろんな情景を表現できるアーティストだなってことですね。最初は、1つの物語を軸にしていると、そこにとらわれてしまって、制作が行き詰まるんじゃないかって感じていたんですけど、それはむしろ、逆だったんですね。いろんな時代があって、いろんなシチュエーションでの物語があるからこそ、楽曲的にはすごくバラエティに富んだものを作れた。学校なのか、田園風景なのか。夜なのか、朝なのか。楽曲でも、いろんな時間帯やいろんな情景を、1つにとらわれずに表現することができた。そこは歌詞も歌も一緒だと思っていて。おそらく3人とも、今までにやってきてないこともチャレンジしていると思ってるんです。そういう意味でも、いろんな情景を表現できるユニットだなと思います。
T.B.A:10曲目の「三番線」を作った時に思ったのが、僕らはそれぞれ違うことができる枠がある中で、その枠を飛び越えられるグループだと思いましたね。
KOJIMA:「三番線」はクレジットがCHRONICLEになっていて。アルバム9曲を作ってきた中で、その流れを1回ぶち壊して、もっとみんなで密接に寄り添って楽曲を作ろうってなって。曲の原型を持ってきたのはT.B.Aだったりするんですね。
T.B.A:そうなんですよ。loundrawくんがイラストと歌詞、KOJIMAくんが曲と編曲で、僕が歌うっていう枠組みがはっきりしている中で、それを飛び越えていけるなって実感できて。ある意味、すごく自由なユニットだと感じています。
loundraw:自分たちのなかで役割分担はありますが、最後の曲でその役割が入れ替わった時に、決して、嫌な感じがなかったんですね。そもそも、それぞれの人間性をいいと思っているから、その人が作る別のものも受け入れられるし、一緒に作っていきたいなって思える。そういう意味で、ちょっと話がズレちゃいますけど、すごく仲良いユニットだなって思いました(笑)。
――あはははは。お互いへのリスペクトあるからこそ、信頼できるし、仲がいいんですね。
KOJIMA:この3人、すごい我が強いし、かなり個性的ではあるんですよ。でも、ユニットをやるからといって、それを1つになだらかにしていくのは面白くなくて。そういう我はちゃんと出していこうって思うんですけど、この3人は、ちゃんといいところはいいっていうし、違うっていうところは違うって言えて。言い争いとか、論争になるのではなくて、しっかり3人で話し合って詰めていけて、1つにできる。それが仲がいいってことだと思う。お互いを理解して、尊重しつつも、自分のこだわりを強く持っているのが、この3人の特徴かなって思います。
――では、アルバムに収録された全10曲の中で、特に自分の我が出たなって思う曲を1曲ずつ挙げていただけますか。
T.B.A:僕はやっぱり、メロディも僕が作った、最後の「三番線」ですかね。9曲録ったあと、今までの枠組みを外して、「3人でいいもの作ろうぜ」「自由に作ってみようぜ」「最高の1曲にしよう」っていう流れがあった中で、今までの9曲のKOJIMAくんのサウンドを、言い方は悪いですけど、完全に無視して、僕の性癖を丸出しにした曲を作って(笑)。僕のやりたいことを完全にメロディに表現したし、僕自身が自然とこの曲には出ちゃってますね。
KOJIMA:T.B.Aの癖というか、個性がかなり強く出ている楽曲だなと思いますね。最初は、アコースティックギターとボーカルのみのデモを聴かせてもらって。特に、衝撃というか、驚きだったのが、CHRONICLE名義で作る、アルバムの最後を締め括る曲を4拍子ではなく3拍子を持ってきたことでした。ここで、一発ぶちかましてやろうというか、印象に残る曲を絶対に作ってやるという熱意を強く感じましたし、僕自身も、普段はやらないアプローチを盛り込んでみて。3人としての新しい曲なんですけど、一人一人も新しいアプローチができた1曲になってると思います。
――3人だから3拍子だった?
T.B.A:いや、正直、3人のことにはちなんでないです(笑)。それまでの9曲とは、全く違うアプローチをしたいなと思って、CHRONICLEの色として3拍子を出すとすれば?っていう解釈で作りましたね。
――歌詞には1曲目「宇宙」にもある<「何度何度でも生きる」>というフレーズが入ってます。
loundraw:そうですね。アルバムの最後の曲で、これまでを包括するような、でも、決していやらしくなく、意味のあるフレーズとしてこれまでの歌詞に入るような曲したいなと思って。
KOJIMA:僕らの始まりの曲である「宇宙」で始まり、10曲目の「三番線」でまた「宇宙」に戻る。「三番線」が「宇宙」への架け橋になっているし、何回も何回も輪廻していくようなアルバムになってますね。
――では、loundrawさんの我が色濃く出たのは?
loundraw:「呼吸」ですかね。歌詞を書いたのはかなり初期だったので、たくさん直したんですよ。今も上手くなったとは言えませんが、今よりもずっと苦労していた時期で。逆に言えば、歌詞を書くうえでのテクニカルなことを省いて、自分がこういうことを描きたいということを一番純粋に書いている歌詞なんじゃないかなと思っていて。一番自分の思いが表れているかと思います。
――「宇宙」では主人公が“生命”の“理由”を探していましたが、「呼吸」では<今も息をする理由を僕はもう知ったよ>と歌ってますね。
loundraw:「宇宙」と対になるようなイメージの曲なんですけど、「呼吸」はもう生きる理由には気づいていて。でも、物語で大切なのって、結末のそのあとだと思っているんですね。めでたし、めでたしの後が、永久に幸せとは限らないないとも思う。生きる意味、息をする理由を見つけたあとにどうなるかは、今後、お話として描けていけたらいいなと思います。
KOJIMA:楽曲的にも「宇宙」を引き継ぐ要素もあって。僕が一番最初にCHRONICLEの楽曲を作るときに感じた印象として、壮大であり、静かなところからスタートするっていうのがあったので、「呼吸」も、かなり穏やかなスタートから、サビで一気に青空に飛び出すような感覚で作ってますね。基本的にCHRONICLEの楽曲は情景を思い浮かべて作ることが多かったんですけど、この曲は本当に大空をイメージして作っていきました。
T.B.A:loundrawくんが作る歌詞は、物語を伝えることに主軸を置いていると思っていて。だから、僕の歌い方も物語を伝えるという方向に意識が向いているんですけど、「呼吸」が一番、語りに近い歌い方をしてますね。自分が呼吸をしてきた歴史を思い返しつつ、今、自分が生きている理由を探している。その物語の中で、Aメロは昔を思い出してるっていう情景を伝えたいと思いながら歌っていて。サビの部分では、自分が生きることに対して、どれだけ強く考えているかっていうことを表現できたらなと思って歌っていました。
――最後にKOJIMAさんはいかがですか?
KOJIMA:「full name」ですかね。他にもあって。「轍の唄」や「深層サーチャー」には、僕が好きなフレンチハウスの要素も入れたり、自分が普段やってるダンサブルだったり、リズムを強く意識した試みをしていたんですけど、「full name」は僕の中で天に近い、雲の上のお話のようなイメージがあって。
――ゴスペル(聖歌)のようですよね。
KOJIMA:そうですね。神聖にしたかったので、たくさんのボーカルを重ねていて。T.B.Aのいい声をどうやったら最大限活かせるか。重ねるっていうアプローチはかなり興味があったんです。実験的な面もあったし、チャレンジでもあったし、僕の描きたい場面でもあったし。正直なところ、作ってみて、アルバムに入らなくてもいいって思ったところがあったんですね。僕の感覚を試してみたいっていうところで、他の曲とは違うアプローチで作っていて。でも、みんな気に入ってくれて、アルバムに入ることになって。ほんとに嬉しいんですけども、自分のやりたいこと、3人ならこうなるんじゃないかってことを表現できたんじゃないかなって思います。
T.B.A:歌ってる時、ものすごく気持ちよかったです。自分の声が重なっていくにつれて、曲の神聖度が増していって。他の曲に比べて、ファルセットの要素が出ていて。自分で言うのもアレですけど(笑)、綺麗な部分が活かせてる曲なんじゃないかなと思いますね。
loundraw:歌詞はタイトルにある通りですね。すごく神聖なメロディだなと思った反面、ここに抽象的で綺麗な言葉を乗せたら、多分、それは誰の記憶にも残らない、ただ綺麗なだけの曲になってしまうと思って。ちゃんとそこに、すごく現実味のあるリアルなモチーフを持ち込みたいなと思ったときに、名前ってすごくクローズな存在だなと思いました。個人的にずっと昔から、名前って不思議だなと思っていたんですね。ずっと繋がってきた部分と、名付け親がつけた名前がくっついて、その人独自の呼び名になるのがすごく面白いなと思っていてたので、結構、昔の自分の気持ちが入っていて、僕は懐かしい感じがしますね。
――3人の個性がミックスされた全10曲が揃って、リスナーにはどう聴いてほしいですか。
loundraw:ある種、人生の浮き沈みというか。楽しいことがあって、辛いことがあって、でも、頑張って生きていくみたいなものを意識しながら、曲順を提案していったので。そういう感じで聴いてほしいなと思います。
T.B.A:僕が曲順を考える上で意識したのが、ライブをするならっていうのに焦点を置いていて。アルバムを1つの作品として、1つのライブとして聴いた時に、どういう曲順にしたら飽きないかっていうことを考えて並べたんですね。あとは、アルバムの真ん中に入っている「救世主」が重要な役割を担う、ターニングポイントになっていて。ぜひ、アルバムを通して、頭から最後まで順番に聴いてほしいなって思いますね。
――今、ライブというお話がありましたが、今後はライブも考えてますか。
T.B.A:したいですね。
KOJIMA:まだ正直構想の段階ですけど、アルバムを1枚作ったことで次に考えるのは、リアルタイムで表現できるかっていうところですね。リアルタイムかつこの3人で表現するやり方が固まった時には、もちろんライブをやりたいなと思っています。ゼロではなくて、準備は進めているので、ぜひ、期待してもらえたらなと思います。
loundraw:やはりCHRONICLEというものは、ただの音楽でもなくて、ただの物語でもなくて。2つの要素がくっついているっていうことに1番の意味があって。それは、体験を提供するということだと思っているので、ライブに関しても、ただ曲を演奏すればいいという話でもないと思うんですね。物語も、ただストーリーだけが文字で出ればいいという話でもない。曲を聴いて、物語を見て、面白いって思えるもの。既にまた難しくなりそうだなって思っているんですけど(笑)、始まりという形でアルバムを1枚作ってみて、ちゃんと2つが両立できるものを作るべきだなと思いました。
――最初に感じてた難しさは乗り越えたわけですもんね。
loundraw:そうですね。そもそもできるのか?というところから始まって、1つ、形にできたことはすごく大きいと思っていて。次はこれをどう届けていくか、アップデートしていくかが課題だと思うし、ちゃんとそれに向き合いたいなと思いますね。
KOJIMA:音楽が、少しずつ目に見えるものになっている感覚はあります。今回に関しては、アルバムのジャケット1枚をとっても、ユニット内で完結しているのがものすごく大きい部分だなと思っていて。アルバムの一瞬を切り取ったものがあのジャケットだと思っているし、あの1枚の絵は、アルバムの一瞬と全てを表現しているなと思います。
loundraw:ジャケットは「宇宙」と対比になってて。青色の「宇宙」に対して、夕方の赤い色。コンセプトとしては、音楽を通じて、自分と世界は繋がっているんだよっていうことを示したいなと思っていたんですね。スピーカー群がいろんな声の象徴としてあって、地面から渋谷の街に向かってコードが伸びている。音楽を聴いてる時は、イヤフォンだと1人だと思うんですけど、その先にはライブがあったり、もしくは、「この曲いいよね」っていう形でみんなと繋がれる。そういう意味で、音楽や芸術は特別だなと思うし、それをちゃんと絵にできたなと思います。
KOJIMA:1つの壁は越えましたよね。音楽とイラストが複合した曲を作るっていうことは達成したんですけど、きっとここから、3人は新しいことをやっていくと思う。また大きな壁がいくつも登場すると思うんですけど、この3人なら乗り越えられるし、乗り越えるたびに、当初の目的は、もっともっと具現化されていくかなと思ってます。

【取材・文:永堀アツオ】





CHRONICLE 1stアルバム『CHRONICLE』-SPOT CM-

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リリース情報

CHRONICLE

CHRONICLE

2021年03月03日

Sony Music Labels

01.宇宙 -album ver.-
02.いつか飛べなくなるとして。
03.深層サーチャー
04.轍の唄
05.救世主
06.呼吸
07.夕景
08.full name
09.ヒカリ
10.三番線

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