音楽クリエイター・johnのソロプロジェクトTOOBOE。聴く者を虜にしてしまう希有な存在のルーツやこだわりを紐解く

TOOBOE | 2021.03.18

 「春嵐」はじめ、ボカロPとして投稿した数々の楽曲がYouTubeでミリオン再生を突破している音楽クリエイター・john。作詞・作曲・編曲にイラストや動画制作まで自らすべてを手がけ、シンガー・yamaのメジャーデビュー曲「真っ白」やシングル「麻痺」の生みの親としても注目を集めるなど、マルチな才能を発揮する彼が、2020年9月にはソロプロジェクトTOOBOE(トオボエ)を立ち上げ、「赫い夜」「毒」「憂鬱」と、病みつき必至の配信シングルを立て続けにリリースしている。挑戦的で刺激的なサウンドの真ん中を歌謡曲的な歌心で貫き、聴く者を虜にしてしまう希有な存在のルーツやこだわりをつまびらかにしてみた。

――“幼少より様々な音楽経験を経て”という文言がオフィシャルサイトにありますが、詳しく教えていただけますでしょうか。
john:小さいころからピアノを習っていまして。その後、家にあったギターを触るようになったんです。鍵盤楽器と弦楽器だと勝手は違いますけど、ピアノで弾く音はギターでどうやって出すんだろう、って探るのが楽しくて。コード譜を見ながら、いろいろな曲をコピーして遊んでいました。
――楽器に触れるのが好きだったのですね。
john:小さいころから好きだったし、今も好きですね。暇さえあれば、ギターを触っていたりします。あるとき親にパソコンを買ってもらったこともあって、DTM(パソコンを使用して音楽を作成編集すること)を始めてからは、自分の好きな曲を自分なりにDTMで再現する、っていう遊びもしていました。そのときに、こういう質感の曲はこういう楽器やメロディ、コードを使えばいいんだ、っていうことを学べていたんだと思います。
――少年時代に自然と創造力が磨かれていったことで、作詞・作曲・編曲、イラストや動画制作とマルチな才能を発揮するに至ったのでしょうね。
john:ひとりで黙々となにかを生み出すのが、昔から好きで。学校にいるときも、授業中、配られたプリントの裏に絵を描いたりもしていました(笑)。
――作詞や作曲に関して、影響を受けた作家やアーティスト、作品を挙げるなら?
john:作詞に関しては、たぶん一番影響を受けているのは作家の奥田英朗さんですね。出版されている書籍は全部網羅していて、学生のころはいつも読んでいました。独特な言葉選びとか皮肉がユーモラスで、嫌みがないんですよ。あと、コメディ映画も好きですね。洋画だったらマリリン・モンロー主演の『お熱いのがお好き』とか……邦画だと三谷幸喜さん監督作品とか。人間の悲哀や切なさを笑いで吹き飛ばしてしまうような精神性に、惹かれるんです。アーティストで好きなのは、スガシカオさん。自分で曲を作るようになったら、山崎まさよしさんとか、斉藤和義さんにもハマりましたね。
――そうした根っこがあるからでしょうか、2019年4月にボカロP・johnとして初投稿した「インフェリオリティー」は、デビュー作にしてとても洗練されていたように思います。


john:実は、「インフェリオリティー」は何千曲と作った上で投稿した曲だったんですよ。
――何千曲、ですか!?
john:基本的には趣味で作って、自分で聴くだけでしたけどね。ボーカロイドに出会ったのは、今から3年前くらいのことで。自分が歌う曲とボーカロイドを使う曲では作り方がまったく違っていて、使用するボーカロイド=初音ミクに歌ってほしい曲を書いている、という感覚なんです。
――yamaさんに提供するのと同じように、初音ミクというアーティストに提供しているような。実際、ボカロ曲、yamaさんへの提供曲、ご自身の歌唱曲と、ガラっと異なる印象を抱きます。
john:得意とする音域だったりキャラクターだったり、それぞれに違うので。その人が歌って初めて成立して、なおかつ聴き手に楽しんでもらえるもの、喜んでもらえるものを作りたいな、ということを意識しながら曲を作っています。


――それにしても、ボカロ曲を初投稿するまでに何千曲も作っていたことも然り、わずか1年間でボーカロイドのフルアルバムを3作(『ANGRY DOG』『ROSE』『ミゼラブル』)リリースしてきたことにしても然り、驚異の作曲ペースです。
john:考えている時間は長いんですけど、いざ曲を作るためにパソコンを立ち上げたら、そこからはあまり時間がかからないし、できたらすぐ世に出したくなってしまうんですよね。あとは、それまで自分の声で曲を作っていた身としては、ボーカロイドで曲を作るにあたりやりたいことがたくさんあって創作意欲が途切れなかったから、という理由もあります。
――2020年9月には、ソロプロジェクト・TOOBOEを立ち上げ、「より大きな“邦楽”という舞台に身を投じ、自身の楽曲はもちろんの事、様々なアーティスト様への楽曲提供に尽力していきたいと考えております」と所信表明されたわけですが、そう決意するに至ったきっかけというのは?
john:もともと僕は弾き語りが好きだし、“邦楽”という舞台は憧れでもあったんですよね。加えて、ありがたいことに何曲かニコニコ動画で殿堂入りして、YouTubeでミリオン(100万回再生)を達成して、アルバムを3枚作って、ボーカロイドで自分がやれることはやりきったぞというタイミングで、yamaさんへの楽曲提供の話があったりもしたので。より新たに音楽に向き合うという体験もしていきたいな、と思ったんです。
――いざ新たに音楽に向き合ってみて、今はどんなことを感じているのでしょうか。
john:TOOBOE名義で自分が歌う曲に関しては自由にやらせてもらっていてありがたいんですけど、タイアップだとか楽曲提供だとかでオトナが関わってくると、いろいろな要望もあり、それなりの妥協点もあり。でも、決められた枠組みの中でどれだけ自分の好きなことをやるか、っていうギリギリのラインを攻めるのは嫌いじゃないし、向いているような気はします。
――テレビ朝日『お願い!ランキング』3月度のオープニングナンバー「おまつり」の作詞・作曲・編曲を担当されていたりもしますが、そうしたタイアップや、yamaさんへの楽曲提供などを通して、見つけるもの、気づくこともあったりして?
john:たくさんあります。タイアップや楽曲提供にあたって、いただくテーマとか方向性とか、自分ではこういう曲を作らないだろうな、っていうものもあって。引き出しが増えるし、新しいチャレンジができるチャンスでもあるんですよ。yamaさんに楽曲提供するにあたっては、「春を告げる」などを生み出したくじらさんのあとを引き継ぐ形だったのでもちろんプレッシャーはありましたけど、yamaさんの新たな側面を知ってもらう機会にはなったと思っています。


――結果、配信シングル「真っ白」にしろCDシングル「麻痺」にしろ、たくさんの方たちに受け入れられて、愛されていますから。TOOBOEとしては、配信シングルを立て続けにリリースされていて。ミドルテンポなR&Bナンバー「赫い夜」、ロックチューン「毒」、憂鬱な言葉たちがとんでもなくキャッチーに響く「憂鬱」と、それぞれガラリと異なる表情に魅了されてしまいます。
john:根幹にTOOBOEらしさを残したまま、同じ味つけはしないように心がけているので。そう感じていただけたなら嬉しいです。
――洋楽的な要素やモダンなサウンドアプローチの真ん中には、懐かしの歌謡曲的な耳なじみのよい歌心があって、それがTOOBOEらしさなのかな、という気がするのですが……。
john:そうですね、うん。歌謡曲だったり、もっと言うと演歌だったり、日本人のDNAに染み込んでいるようなメロディラインはたくさん吸収してきたし、それを自分なりの解釈で曲にまとわせたい、と思っていて。歌にしても、歌謡曲的なこぶしを敢えて入れて歌っていたりはします。


――また、「赫い夜」だったらDJスクラッチ、「憂鬱」だったら二胡の音色など、“鮮烈な印象を残すなにか”を楽曲にしのばせてもいますよね。
john:TOOBOEでは僕を中心としたチームで楽曲制作を行っていて、1曲に1トラック、目立つ楽器を入れようと決めているんですよ。だから、「毒」には思いきり歪ませたベースが入っているし、そういう楽器の音が次第に楽曲を支配するようになるのが面白いなっていう。


――もう狙い通りで、気づけばTOOBOE中毒になってしまいます。「憂鬱」の<憂鬱な気分になっちまおうぜ>なんてかなりのパワーワードで、気軽に口ずさんでしまうメロディの力も恐ろしい。
john:コロナ禍で作った曲で、当時の自分の気分はすごく沈んでいたから、いつにも増して暗い歌詞になってしまったんですけどね。でも、それこそ哀しさをコメディに変えてしまえという精神で、カジュアルに聴こえるようにいつもより高めの音域で歌って、全体的にどこか間抜けっぽい雰囲気に作り上げてみました。


――光を完全に見失ってはいなくとも……john名義、TOOBOE名義の楽曲のタイトルや歌詞に、諦めや寂しさ、哀しみが色濃く、生々しく滲むのは、どうしてなのでしょうか。
john:もともと諦めやすい性格だということもあり、先ほどお話しした奥田英朗さんや三谷幸喜さんの作品の影響もあり。単なるハッピーエンドではなく、諦めながら少しの希望を見出せるような終着が、自分にとってはリアルなんですよね。大好きなスガシカオさんも、言葉をオブラートに包まず生々しく書く方なので。そこは、見習ってもいます。
――だからこそ聴き手が共感できるし、心の拠り所にできたりもするのでしょうね。さて、今後に向けてはどんな未来を思い描いているのでしょうか。
john:今後も新しい側面をどんどん見せていきたいし、普段応援してくださっている方たちと触れ合える機会を今年は作っていけたらいいな、と思っています。そして、自分の曲で、自分の声で、なにかしらの企画とタイアップしたり、アニメやドラマ、映画の主題歌や劇伴を担当したり、経験できることはどんどん前のめりで挑戦していきたいですね。

【取材・文:杉江優花】

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お知らせ

■配信リンク

「赫い夜」
https://linkco.re/r1GHVyZg

「毒」
https://linkco.re/g5BpCcsS

「憂鬱」
https://linkco.re/emegfFDm



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