A夏目、ロングヒット中の「東京の冬」誕生秘話

A夏目 | 2021.03.30

 2021年上半期のヒット曲で気になったのが、A夏目(あなつめ)による「東京の冬」。熊本在住の現役高校生ラッパー(リリース時)による時代をあらわしたポップソングだ。  2月10日、冬うたとしてリリースされた本作。きっかけは、ABEMAで放送されたオリジナルリアリティーショー『恋する?週末ホームステイ 2020冬 Tokyo』への本人参加だった。実体験を描いた甘酸っぱい青春ラブソングなのだ。


 その勢いは大きく、ストリーミング時代のヒットの指標である『LINE MUSICリアルタイムランキング ソングTop100』(2021年2月10日1時付)で1位を記録している。楽曲としてのクオリティが高く、SNSで広がり、各種プレイリストでも話題となりロングヒットした冬うたといえば、昨年2月にリリースされたRin音「snow jam」が思い浮かぶが、実はA夏目とRin音は同じレーベルメイトでもある。そこで、A夏目が音楽をはじめたきっかけ、「東京の冬」誕生秘話などを聞いてみた。

――A夏目、すごい印象的な名前ですよね。
A夏目:国語の授業のときに、名前を何にしようかなと考えてたんです。ちょうど夏目漱石が題材だったのですが、地元の熊本に住んでいたという話があって。“夏目”ってなんかいいなって思ったんですよ。でも、アーティスト活動するにあたって、検索で引っ掛かりやすい名前にしたいなと思って、アルファベットと漢字を組み合わせてみました。大文字の“A”を“あ”って読んだら、アルファベットでも五十音でも一番先頭になることに気がついてA夏目にしました。
――ああ、なるほどねえ。いまおいくつなんでしたっけ。
A夏目:18歳です。
――まさにネットネイティブ世代だ。A夏目さん世代、ここ最近面白いアーティストが集中して登場してきましたよね。
A夏目:17歳、18歳、19歳ぐらいで特徴的な人が多いというか。TikTokなどでも特徴が強めな人の方がバズりやすいですよね。まったく新しいこと、誰もやっていないことをやることが大事だと思っていて。世代的に増えているような気がします。
――音楽活動は最近はじめたんですか?
A夏目:最初はラップバトルからでした。はじめたのは中学2年生くらい。きっかけは高校生ラップ選手権をお兄ちゃんに観せてもらって、かっこいいなと思いました。曲を作りはじめたのは去年の1月ぐらいから。
――もともと言葉で表現することに興味があったんですか。
A夏目:そんなでもなかったんですけど、かっこいいって思ったんですよ。最初にT-Pablowがバトルしてるところを観て。はじめて観たら怖いじゃないですか? でも、武力じゃなくて言葉で勝負してるんですよ。喧嘩をするわけでもなく言葉でやる感じがすごいなって。
――カルチャーであり、ルールある中でね。
A夏目:僕はスポーツが得意じゃないし、体も大きくなくて。なんか身体能力の面で不利じゃないですか。これまで何も自信を持てなかったから。でも、言葉だったら対等になれるというか。体格とか関係ないじゃないですか。めちゃくちゃ怖くて強そうなムキムキな人にも勝てるし、そんなところがラップバトルの面白さで。
――熊本のラップシーンは、どんな感じだったんですか。
A夏目:熊本はめっちゃダークなヒップホップというイメージで。熊本のラッパー界隈というか、コミュニティに入ったことは無いんですよ。熊本のラッパーさんも全然知らないし。福岡の方が知ってるというか。ちょっとポップなジャパニーズヒップホップ的なシーンがあって。Rin音さんとかクボタカイさんがいて。
――そこでつながっていくのですね。
A夏目:熊本でラップバトルやりたくて探したんですけどなかなか無いんですよ。でも、佐賀にあって、まずはそこから。福岡のラッパーさんたちがバトルにくるんですよ。そこでクボタカイさんが優勝してて。かっこいいなと思って、音源を聴くようになって憧れたのが最初ですね。
――バトルの現場から広がっていったのですね。
A夏目:バトルから入ったので、僕はびっくりするくらいラップを知らないんです。ラッパーを名乗ってる人で、たぶん一番ラップを知らないと思います(苦笑)。
――新世代ってことですよ。自分でラップをクリエイトするにあたり、A夏目らしさを表現されてきたと思うんですけど、工夫や努力されたことはどんなところですか。
A夏目:まだ、誰も表現したことがない表現をしようと思っていて。たとえば、言い方を変えてみたり。遠回しな表現じゃないですけど、ちょっと一捻りして自分流の言葉を意識しています。


――A夏目さんの楽曲は、いろいろな言葉の言い回しで物語を作っていく感じがありますよね。
A夏目:そういうのが大好きなんですよ。今まで聴いたことない形で音楽にハマったときが気持ちいいんです。
――今年も音楽界隈では、たくさんのいい曲が誕生しているのですがA夏目さんの「東京の冬」が素晴らしくいい曲で。
A夏目:ありがとうございます。とても嬉しいです。
――構成やサウンドとのハマり具合も独創的で。楽曲は、遠く離れた高校生たちが週末だけホームステイをするリアリティー番組『恋する?週末ホームステイ』への参加の結果、いろんなことを経験して生まれた曲なのですか。
A夏目:そうですね。体験談というか、自分の身で感じたことを思うまま書きました。これまでの曲は、空想というか自分とは離れたところで作っていたんですけど、「東京の冬」は自分の身に起こったことを表現しました。
――スムーズに言葉が出てきた感じで。
A夏目:今までより素直だと思うんですよ。わかりやすい、ストレートな表現になっているので。スラスラと書くことができました。


――歌い出し冒頭のフレーズから魔法がかっていて。言葉が活きているんですよ。
A夏目:<my stay real 完璧だ 嘘じゃない魔法よりの手品>ですね。あとは<貴方に勝るもの1つもないけど 寂しさの数は劣ってくれ>も気に入ってます。
――そこ、グッとくるなあ。この楽曲ができたことで、表現や創作方法が進化した感じはあった?
A夏目:進化したのは、わかりやすくなったことでしょうね。
――なぜわかりやすさが、生まれたのだと思いますか。
A夏目:番組の中で、自分の好きな人に音楽を聴かせるときに、いつもその場で片耳のイヤホンで聴かせるじゃないですか。あのとき、歌詞を見せているわけではないんですよ。これまで自分の曲は、聴いてくれている人によって捉え方が違うみたいな作品が多かったので。でも、それだけじゃ伝わらないと思ったんです。その場でまさに隣という距離間で曲だけで聴かせているので。それもあって、自分の思いをストレートに書くようにしました。
――楽曲を通じてリスナーにもストレートに刺さっている理由ですよね。番組を観ていないリスナーにも広がっている状況だと思いますから。
A夏目:ありがたいですよね、本当に。
――YouTubeなど、再生回数もめっちゃ伸びています。
A夏目:本当にびっくりです。
――「東京の冬」の良さがありながらも、昨年はE.P「この夜のこと」もリリースされていました。改めて聴いてみて、どんなところに自分らしさを感じますか。


A夏目:歌詞の言い回しですね。「2分の1世紀少年」は自分節が爆発してると思います。あの曲だけ「どういう意味かわからない」って言われるんですよね(苦笑)。自分でもちょっとわからなくなってきてるんですけど(笑)。
――ははは(笑)。ラップの場合、意味ももちろんなんだけどライミングやフロウが大事だったり、それこそ受け手の経験値によって意味が変わってきますからね。この楽曲の面白さは、そこにあるのだと思います。
A夏目:自分も音楽を聴くときとか、まったく意味がわからないけど、どうにか自分のなかで意味を作ろうとしているんですよ。考え方次第ですよね。
――けっこう言葉は、どんどん出てくるものなんですか。
A夏目:全然出てこないです(笑)。よく散歩するんですよ。畑のふちを、ずっと往復してます。それで思い浮かんだり。
――普段、本を読んだり映画を観たり、自分のなかでインスピレーションを高めていったりとかは。
A夏目:映画もアニメもドラマも、ほぼ何も観ないです。でも音楽は聴く、みたいな。映画などでインスピレーションを受けるより、日々の生活のなかで見出すというか。何気ない会話とか、普通にお母さんや先生が「100歩譲ってこうだよ」って話していたことから「99歩までは許せるのかな」みたいなフレーズが浮かんだり。
――学生生活や日常が、言葉の宝庫なのかもしれないですね。自分自身のオリジナルの世界ですもんね。
A夏目:そうなんですよ。


――さらにABEMAでの『恋ステ』のようなご縁や経験の場があって、表現も広がると。
A夏目:そうですね。ドラマもちゃんと観たら変わるかもしれないです(笑)。映画やアニメ、小説などもね。
――ほんと可能性に満ち溢れた10代ってことですよね。もともとはサッカーやってたんでしたっけ?
A夏目:ほどほどに部活としてやってました。
――小中学生時代は、どんな子どもでしたか。
A夏目:“変わってる”って言われてましたね。庭の先に崖があるんですよ。その崖を2時間くらいよく歩いてました。ひとりで往復して。妄想で遊んでるんですよ。頭のなかで怪獣とかを考えて“デュクシデュクシ(※バトルの効果音)”っていいながら、ずっと往復して歩くっていうのを毎日のようにやってました(笑)。
――楽しそう。ラップの言葉作りにも結び付いてそうですね。
A夏目:そうなんです。なので、畑のふちとか歩くと言葉が出てくるんですよ。
――「東京の冬」もなんですけど、トラックも面白いですよね。トラックメーカーTaro Ishidaさんから届いたサウンドにリリックを乗せていく感じなのですか。
A夏目:そうですね。
――コーラスの印象的なハイトーンが印象深くって。これは、どんなふうに。
A夏目:あれは、Ishidaさんのアイデアですね。実は、Apple Musicだけ英語の歌詞が表れるんですよ。僕も歌詞を知らなかったので、歌詞をみて翻訳したら、ばっちり合ってるんですよ。内容も。“私たちが、ずっと恋していたころに戻ろう”みたいな。“私たちが長い間、恋したことによって生まれた痛みを差し引いてあげましょう”みたいな意味で。
――A夏目さんの物語を俯瞰して見ている感じが面白いですね。いやあ、よくできた曲だ。自分のなかでも満足度が高かったですか。
A夏目:最初は今までやったことないようなストレートな表現だったので、歌いながら違和感があったんです。これ大丈夫かなみたいな。自分じゃないような気がする感じで。でも、いい評価をいただけているので、よかったなと受け止めています。
――ちなみに昨年リリースしたEP『この夜のこと』で、A夏目さんの推しポイントは。
A夏目:「貴方のドラマと私のシネマ」ですね。いちばんテーマがしっかりしていて、最初から最後まで物語として作れたなと思っています。
――めっちゃいい曲ですよね。作品作りにも慣れてきたタイミングな曲で。
A夏目:そうですね、やっと慣れたくらいです。
――自分でもトラックを作ってみたいとか。
A夏目:トラックは絶対に作らないですね、僕(苦笑)。絶対に作らないと思います。
――二回言った(笑)。こういうサウンド感が欲しいとか、Ishidaさんと話しあったりはするのですか。
A夏目:今のところは無いですね。でもIshidaさんすごくて。思ってたサウンドが届くんですよ。Ishidaさんから送られてきた瞬間に「めっちゃ作りたい!」って思います。
――最近、面白いなと思った曲やアーティストは。
A夏目:大橋ちっぽけさんを最近知って、いいなって。めっちゃ聴いてます。思ったことをかっこつけずにバッっていう感じがストレスなくて。
――対バンでライブで観たいね。ちなみに2021年、まだまだ大変な時代が続きそうですが、どんな年にしていきたいですか。
A夏目:いろんな音楽を作りたいです。いろんな面を魅せたいなって思っております。ちょっとダークな曲とかもやってみたいし。
――言葉って、ダークな面が連なっていても、一瞬でも光があると意味合いが変わってきたりしますし。楽しいことを悲しい言葉で表現できたりもしますもんね。
A夏目:めっちゃダークな感じで愛を歌うとかですね。
――Rin音さんやクボタカイさん以外にも、目標とするミュージシャンっていたりしますか。
A夏目:Creepy Nutsが、めちゃくちゃ大好きです。本当にすごいですよね。誰にも真似できないと思います。キャラの設定から音楽性から。何十回、何百回とCreepy Nutsの曲を聴いていて、1年前から聴いている曲でも、ふいに「ここの歌詞は、あれと意味がかかってるわ」みたいな発見があるんですよ。それがやっぱりすごいですよね。
――普段の生活の中でリラックスしたいときは何をしてますか。
A夏目:Mrs. GREEN APPLEを聴きます。1番好きなのがミセスですね。まず大森(元貴)さんの歌唱力の表現のすごさ。最初にミセスを知ったのが「春愁」という曲で。めっちゃ卒業に寄り添ってくれる優しい曲なんですよ。そのときに初めて大森さんを知って、ミュージックビデオを観て優しい方だなって。ふと、その1ヵ月後くらいに「Wanted! Wanted!」を目にして。大森さんがめちゃくちゃはっちゃけてたんですよ。僕の中のイメージとは真逆で、自分のなかでがっかりしたんですよ。あんなに優しく紳士な方だったのにって。でも、そこからハマっていきました。いろんな面があるんですよね。曲によって容姿も変わっていくし。ミセスって青春のキラキラしたのも歌うし、優しいバラードも歌うし、ダークな悪い感じも歌っていて。その影響もあってか、ひとつだけじゃない多様な音楽が大好きですね。

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

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東京の冬

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2021年02月10日

ROOFTOP

01.東京の冬

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この夜のこと

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2020年11月11日

ROOFTOP

01.この夜のこと

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ずっと大好きなMrs. GREEN APPLEを検索してますね。あとはクボタカイ、Rin音、asmi、恋ステ(笑)。 そして、ビリー・アイリッシュ。かっこいいですよね。音楽面についてが多いですね。 それと食べ物系で、金目鯛やロブスターを検索してました。ただ食べたかったんです(笑)。渡り蟹、ウニや牡蠣も(笑)。

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