そこに鳴るの到達点、その名も『超越』。創造と挑戦、バンドの5年を振り返る!

ゆびィンタビュー | 2021.04.01

 デビュー作から5年、そこに鳴るが完成させた1stフルアルバム『超越』。今作はバンドの魅力を濃縮したベスト作的な一枚に仕上がっており、鈴木重厚(Gt/Vo)、藤原美咲(Ba/Vo)の男女ツイン・ボーカルを武器に、超絶テクニカルな演奏とラウド系も真っ青のデカい音圧を掲げたサウンドは唯一無二。他方、歌メロが際立ったアプローチや情景描写力に長けた曲調もあったりと、バンドの振れ幅を多彩なカラーで見せつけた全9曲。約31分というボリュームだが、その中身は紛うことなきフルアルバム級の密度を誇っている。今回は過去5枚のミニアルバムを振り返りながら、今作で辿り着いた境地について、じっくりと語ってもらった。

PROFILE

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そこに鳴る


 緻密に構築されたアンサンブルと超絶テクニカル重厚サウンドに、男女の幾重にも重なりあう独特のメロディー&ハーモニーが絡み合う孤高の“そこに鳴る”サウンドは、見る者全てに衝撃を与える。
 超絶テクニックに裏付けられたストイックで驚愕唯一無二のサウンドは日本国内に止まらず高く評価されている。

  • 今回は過去5枚のミニアルバムを振り返ってもらったあとに、今作の話をうかがえればと思います。まずは1stミニアルバム『I’m NOT a pirolian』から。


  • 鈴木

    ほんまに初期衝動というか、なんちゃってでタッピングを始めたら、それが代名詞的なものになった――その皮肉をアルバム名には込めてます。この作品はKOGA RECORDSから出すことが決まる前にあった曲を録った感じですね。今と比べるとアレンジのスキルがないから、逆にそれが面白いのかなと。
  • 藤原

    当時、私は大学を卒業して、就職活動をしているタイミングだったんです。もしレーベルが決まらなければ、このバンドを終わりにしようと話してて。バンドにとっては崖っぷちでした。この作品があったから、今の自分たちがいるという。
  • いい話ですね。そして、Benthamとの全国ツアーを経て、2ndミニアルバム『YAMINABE』が出ます。この頃になると、ノレるリズムが増えてきた印象です。


  • 鈴木

    ここにも昔の曲があって、「6月の戦争」「UTSUNOMIYA」「pirolin」「draw」はそうですね。ポップな曲を作ってほしいと言われて、「エメラルドグリーン」「内緒にしててよ、醜い私のことを嫌っても」の2曲はシンプルでわかりやすい曲にしました。ノリやすいのは、サビでシンプルにずっと同じビートにしたり、当時メインストリームで流行っていた4つ打ちをそれっぽくやってみた結果ですね。
  • 藤原

    私はリリースツアーの印象が強くて。正式メンバーのドラムがいなくなり、翌々日からツアーが始まるタイミングで、いろんな人に力を貸してもらったんですよ。
  • 鈴木

    Benthamのタカさん(鈴木敬/Dr)とかな。
  • 藤原

    そうそう。3日間ぐらいで曲を覚えてもらい、ライブ当日の朝にスタジオに入り、なんとかライブを1本も飛ばさないようにしたくて。ほんまにちゃんと回れたので、当時は必死でした。
  • 3rdミニアルバム『METALIN』はメタルに振り切った曲調もあり、そこはバンド的には挑戦でした?



  • 鈴木

    そこに鳴るは客観的に見たらJ-POPではないかもしれないけど、僕の中ではJ-POPど真ん中やと思ってて。曲を作るときの価値基準として、小さい頃は音楽が嫌いやったんで、その頃の自分を振り向かせたいという気持ちが強いんです。何も知らない自分でも響く音楽、なおかつ、その次の深い音楽に繋げられる位置付けでありたいんですよ。当時KEYTALKが全盛期で、僕らのお客さんの中にその流れで来た人もいるので、そのニュアンスも入れたくて。加えて、メタルって聴いた瞬間にメタルってわかるじゃないですか。当時NOCTURNAL BLOODLUSTにハマッてて、めちゃくちゃポップやなと。サポート・ドラムの真矢がラウド寄りだったこともあり、メタルのポップさとギターロックのポップさを合わせたら、とてつもないJ-POPができるやろうと(笑)。
  • 藤原

    バンドとしては迷走と言ったらあれやけど、これからどうしようと思ってて。そのあとの『ゼロ』『一閃』『超越』と続きますけど、そこに鳴るの根っこはこの作品でできたのかなと。
  • 鈴木

    ああ、たしかに。ドラムの方向性とか特にそうやな。
  • 藤原

    ドラムもそうやし、音のヤバさも。かつ曲の幅もグッと広がったし、「family」と「sayonara blue」が1枚の作品に入ってるのもすごいなと(笑)。
  • 4thミニアルバム『ゼロ』の頃は作為のない制作を意識したそうですね?



  • 鈴木

    今までが作為ありありやったんで、自分がいいと思うものをナチュラルに出そうと。「掌で踊る」のMV再生回数が増えたこともあって、何をしたら売れるじゃなく、自分の中のものをどれだけピュアに出せるかが大事やなと。
  • 藤原

    そのままの自分たちを見せる感じですかね。同期を入れた曲もいいなあと思いました。
  • このあたりで自分たちの芯が固まり、5thミニアルバム『一閃』はどうですか?


  • 鈴木

    「掌で踊る」のヒットがあったので、その路線でさらに味を濃くしてみようと。こうして振り返ると、考えているようで、いちばん考えなかった作品かもしれない。
  • 楽曲的には4つ打ちのリズムが増えてますよね?



  • 鈴木

    そうなんですよ! ハマるリズムを探してたら、全曲そうなっちゃって。当時は自分の中でブームやったんかな。
  • 藤原

    楽器のレコーディングをここから変えたので、このバンドにがっちりハマる音になってると思います。ベースの攻撃力も格段に上がったし、曲に合う音作りができました。
  • 鈴木

    『ゼロ』で曲が定まって、『一閃』でサウンドが定まった感じはありますね。これ音圧はデスコアぐらいあるんですよ。シングル「complicated system」で一度音圧を下げたんですけど、『超越』でまたデスコアぐらいにしました。


  • その『超越』ですが、どんな作品に仕上がったと思います?
  • 鈴木

    ベストアルバムみたいな。ちょっとポップになったのかな。前作よりも聴きやすくなって、曲のテイストは昔に戻った気がしますね。『I’m NOT a pirolian』、『YAMINABE』、それより前みたいな。かっこいい系なんだけど、メロディが踊れるというか、チョケてる感じがして。
  • 藤原

    たしかに。レコーディングのときはそこまで感じなかったけど、間口の広いアルバムになったかなと。長い期間聴けるというか、音はデスコア寄りで演奏は自由奔放やけど、メロディは聴く層を限定しない。
  • メロディに普遍性があると?
  • 藤原

    ああ、そうですね。
  • 鈴木

    Every Little Thingが初めてハマッた音楽で、Do As Infinityも好きやったし、その系統のちょいクサのメロディが出てきたのかなと。もともと芯にある好きなメロディはそういう感じなんですよ。
  • なるほど。今作は現時点でそこに鳴るの集大成的な1枚だなと。らしさはありつつ、全曲キャッチー度は増しているし、なおかつ1曲1曲の輪郭も鮮やかになり、ドラマ性も高まった印象です。


  • 鈴木

    そうですね。カオスな曲はよりカオスで、シンプルな曲はよりシンプルに振り分けられるようになりました。「white for」はわかりやすいJ-POPみたいなフォーマットではあるけど、ふとそういう曲を作りたいという衝動に駆られて。ギター、ベース、ドラムがガチャガチャ鳴ってることがアイデンティティになってたけど、それがなくなったときに自分のアイデンティティとなる曲を作れるのかなって。極端に言うと、ギター1本でもいい曲を書けなきゃいけないから。
  • 「white for」は純粋にいい曲ですよね。


  • 藤原

    「もう二度と戻れないあの頃に」(『YAMINABE』収録)を録ったときよりも、「white for」のほうがより歌に向き合えたというか。以前より冷静に録れたので成長できたと思います。
  • 今作のラスト2曲「white for」、「black to」の流れも大きな聴きどころです。特に後者は情景が見える映画的な曲調が素晴らしくて。
  • 鈴木

    シネマティックですよね。メロディはそこに鳴るができる前にあったものなんですよ。ふと鼻歌でも出てくるメロやから、改めて曲にしてみました。メロは当時のものやけど、アレンジはナウですね。
  • 「Lament moment」はイントロからカオスな演奏が爆発してますけど、<この調べを手にとった理由はただ/あまりにも長過ぎる希有な冬を乗り越えるため>と抑え切れない感情を綴った歌詞ともちゃんとリンクしています。


  • 鈴木

    歌詞は自分の現状をそのまま書きました。
  • 何があってもやり通すぞ、という揺るぎない信念を感じました。
  • 鈴木

    自分の感覚やセンスはなぜか信じ切れているところがあるので、そこは大丈夫という気持ちはありますね。それ以外は自信がないタイプなんですけど。
  • この曲のベースも爆発してますよね!
  • 藤原

    はははは。誰が聴いてもわかるように弾きました。ベースって、意識しないと聞こえないことが多いじゃないですか。
  • 鈴木

    1発で「これがかっこいいベースの音ですよ!」っていう。それが逆にポップですよね。
  • 振り切ればポップに響くと。「avoided absence」は歌声と演奏がせめぎ合う融合感にも圧倒されました。
  • 鈴木

    それはミックスでしょうね。デスコアの音圧だから激しく感じるのかもしれない。透明感溢れるイメージでやったんですけどね。
  • 藤原

    はははは。
  • 「天秤の上で」は今作の中でも明るい曲調で、ギターはマスロック的なアプローチですね。
  • 鈴木

    これは2012年に作った曲なんですよ。コードは当時よりも明るくなりました。
  • 作品の中でいいフックになってますよね?
  • 鈴木

    そうなんですよ。昔の曲って、なんだかんだいいんですよね。メロディアスな曲で、これは使えるなと。自分で歌えるキーじゃないから、藤原に歌ってもらうほうが合うと思って歌ってもらいました。
  • 藤原

    9年前の曲なので、昔のピュアな感じに今のそこに鳴るのアレンジが乗っているところが面白くて。途中のDjentっぽいギターの刻みも昔なら絶対入ってないと思うから。そのバランスも面白いなと。
  • わかりました。アルバム名『超越』もインパクトがありますけど、バンドとして何か乗り越えた、あるいは乗り越えたいものがあったんですか?
  • 鈴木

    毎回ええ曲やなと思えるように作ってるけど、何かを乗り越えられたかどうかはわからなくて。そう思えたら、ここまでやってないかもしれないし、乗り越えたいという願望かもしれない。なんで『超越』にしたんかな?
  • 藤原

    1年近く前に付けたから……なぜこれにしたかは覚えてない……。
  • だけど、アルバム名と歌詞の内容は繋がってますよね。
  • 鈴木

    たしかに。曲を見渡したときにどんな言葉が出てくるかなと思ったら、『超越』という言葉が出てきたんですよね。
  • <覚悟という名の諦念が僕の心を生かし続ける>(「Lament moment」)、<過ちをまた 犯してしまおうとも/何度でも また 紡ごう>(「black to」)と歌詞にあるとおり、現実から逃げずに前に突き進もうという強い意志を感じます。
  • 鈴木

    そういうマインドはありますね。人間性ができているほうじゃないし、上手く世の中を渡っていけるタイプではない分、愚直に誠実に生きるしかない――その感覚は近年強くなってます。自分の至らなさに絶望するタイミングが多々あるので……共感してもらえるかわからないけど、この歌詞に共感してもらえたらうれしいなと。
  • 弱さをさらけ出していたり、綺麗事だけじゃないリアルな歌詞は多くの人の共感を呼ぶと思います。できれば歌詞を読んで、今作を聴いてほしいなと。
  • 鈴木

    そう言ってもらえると、頑張って書いた甲斐がありますね。歌詞に免疫がついて、いろんな歌詞をいいと思えるようになったことも大きいかもしれない。世の中の真理を得たい気持ちがあって……こういう考えが真理なんじゃないか、その気持ちを歌詞に落とし込んでいるので、よりヒューマン感は出てると思いますね。

【取材・文:荒金良介】

tag一覧 J-POP ゆびィンタビュー アルバム そこに鳴る

リリース情報

超越

超越

2020年10月07日

KOGA RECORDS

01.Lament moment
02.Mirage
03.complicated system -new system ver.-
04.avoided absence
05.天秤の上で
06.極限は刹那
07.永遠の砂漠
08.white for
09.black to

【初回盤付属DVD収録内容】
2019.6.21 東京新代田FEVERにて行われた「一閃」release tour ~ULTIMATE IMPACT~ワンマンライブの映像全10曲収録
01.pirorhythm stabilizer ~only your world~
02.業に燃ゆ
03.夏の落とし物
04.azure frust
05.諦念
06.絶対的三分間
07.re:program
08.掌で踊る
09.生存
10.さらば浮世写し絵の如く

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

LIVE “超越” ONEMAN EDITION 2021
02/21(日)新潟 CLUB RIVERST
02/27(土)福岡 Queblick
02/28(日)広島 CAVE-BE
03/11(木)宮城 仙台enn 3rd
03/12(金)愛知 名古屋APOLLO BASE
03/28(日)大阪 アメリカ村DROP
04/03(土)東京 下北沢シャングリラ<TOUR FINAL>

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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