ネクストブレイク候補と熱い視線を注がれているBlack petrolのルーツと今後のビジョンとは

Black petrol | 2021.04.16

 スリリングでアバンギャルド。ファンキーでメロウ。緊張と緩和で耳を奪う高い演奏力や、哀愁も激情も描き出す表現力で、ネクストブレイク候補と熱い視線を注がれているBlack petrol。彼らは関西を拠点にする2MC+5人の楽器隊からなる7人組。ジャズ/ヒップホップ/R&B/ファンク/ポップ/ロック/エレクトロ……ありとあらゆる音を縦横自在に飲み込んだサウンドは圧倒的な個性にあふれている。今回は、リーダーでギター担当のJaymopp、MCのひとりであるSOMAOTA、サックスを担当するDaiki Yasuharaにインタビュー。今年2月から3ヵ月連続で配信リリースした「TABU」「astral pumpkin」「God Breath feat. NeVGrN」の制作背景や、バンドの基本姿勢などを語ってもらった。

――2017年に母体が結成されたそうですが、その経緯から教えてください。
Jaymopp:結成というか、大学のジャズ研究サークルの仲間たちでインストゥルメンタルのヒップホップをやってみようということで始まりました。
――同じ2017年に、MCのふたりが加入したそうですね。
Jaymopp:最初はサックスをメインにして、インストでヒップホップをやるのも面白いと思っていたんですけど、単純にMCを入れてみたいなと思って。SNSを通じて(MCの)SOMAOTAと出会ったんですけど、そのときにSOMAがサイファーをやっていて、そのサイファーの子たちを集めて、その中からふたりに参加してもらって今の形態になりました。
SOMAOTA:もうひとりのMCのONISAWAくんは枚方サイファーのメンバーだったんです。僕は関東育ちなんですけど、関西に来てラップしたいと思ったときに最初に繋がりができたのが枚方サイファーで。僕の知ってる中でいちばん格好良いラッパーは誰かな?と考えたときにONISAWAくんだったので、最初は、ONISAWA君以外も何人か連れて会いに行きました。
――SOMAOTAさんとONISAWAさんのふたりにした決め手は何だったんですか?
Jaymopp:SOMAOTAに関してはテクニックがいちばんあったというのがポイントです。ONISAWAは、SOMAOTAとの声のコントラストで選びました。聴いてる音楽の話が合って面白いと思う奴がこのふたりだったという感じです。
――ラップの声が高い方がSOMAOTAさんですよね。
Jaymopp:そうです。低い方がONISAWAくん。
――バンド結成当時は、どのような音楽性をめざしていたんですか?
Jaymopp:最初はスタンダードジャズを自分たちでヒップホップにアレンジしてみよう、という感じでした。そもそもは僕がチャールズ・ミンガスの「Moanin’」という曲をヒップホップにしたいなと思ってやり始めたバンドなんです。ただ、サックスのDaiki Yasuharaは当時のメンバーではないんです。
――安原さんが加入したのはいつですか?
Daiki Yasuhara:2019年の春頃です。サックスを吹いてたメンバーが脱退したのと、Jaymoppと(ドラムの)Alminと仲が良かったのもあって誘われました。サックスは中学高校と吹奏楽部でやってて、大学からジャズ研に入ったんです。
――安原さんはどのようなタイプのサックスが好きなんですか?
Daiki Yasuhara:歌モノのバックでスタジオミュージシャンの人が吹いてるものがすごく好きです。シンプルなコード進行でもこんなメロディックなソロを吹けんねや、みたいな。一番好きなのはビリー・ジョエルの「Just The Way You Are」のサックス。フィル・ウッズというミュージシャンなんですけど、えげつなく好きですね。
――SOMAさんがラッパーとして影響を受けたアーティストは?
SOMAOTA:一番はケンドリック・ラマーです。日本だったらKID FRESINO。
――ケンドリックのどのようなところに惹かれますか?
SOMAOTA:ケンドリックは、最初の出会いが『To Pimp A Butterfly』の「Alright」と「u」のMVだったんです。単純にラップがめちゃめちゃ上手だし、いろんな声を使ってるし、リリシストやなと思ったのが大きいです。英語でもラップをやってみようと思ったのも彼の影響が大きいです。
――ONISAWAさんは、どんな感じのヒップホップが好みなんでしょうか?
SOMAOTA:ONISAWAくんは、特に90sを幅広く好んで聴いている感じです。日本語ラップだったら仙人掌とか田我流とか。リリカルなラップであったり、サグで悪いラップだったり、ヒップホップマナーに則ったラッパーが好きな印象があります。たとえばウータン・クランで言ったらONIくんはゴーストフェイス・キラーが好きで、僕はメソッドマン。僕のKID FRESINOに対して、ONIくんはC.O.S.Aみたいな。そういうふうに上手いこと分かれてますね。
――今回の3ヵ月連続配信リリースは、どのようなプランから始まったんですか?
Jaymopp:去年の秋頃にアルバムを作ろうという話をしていて。僕もちょうどケンドリック・ラマーとかMoment Joonとかにハマっていた時期だったので、何か1個テーマを設けて音楽を作りたいと思っていたんです。そこで、とりあえず3曲レコーディングしてみようということになって作った曲です。
――そのテーマはどのようなものだったんですか?
Jaymopp:ラッパーって自分のことをラップする人が多いじゃないですか。何としてもお金を手に入れるとか、自分の生き方を歌うとか、社会にメッセージするコンシャスなラップもある。でも、バンドだしなと思って。だったら、ひとつのストーリーを作って、ラッパーのふたりにはそのプロットに沿ったラップをしてもらおうと思ったんです。
――主人公を設定して、そいつがどう生きてきたか、どう生きていくかを描こうと。
Jaymopp:まさにそれです。それこそケンドリックの『To Pimp a Buttefly』を日本でもやってみよう、みたいな。でも、リスナーの人たちには、そのことをあまり伝えたくなくて。リリックを聴いてもらって、“これって繋がりがあるのかな?”と思わせた方が芸術的で格好良いんじゃないかなって(笑)。
――これまでに2枚のEPをリリースしていますが、わりとコンセプチュアルに作ることが多いんですか?
Jaymopp:楽曲に関しては、毎回狙って作るわけじゃなく、偶発的にできるんです。そうして出来上がった曲を並べて、そこからイメージを広げていく感じ。でも、今回はそれを初めて逆でやってみたんです。コンセプト先行で曲を作るっていう。
――その作業は楽しかったですか?
Jaymopp:めちゃくちゃ楽しかったですね(笑)。ただ大変なところもありました。今までみたいに、単純に格好良いことをやろうとか、メロウなことをしようというんじゃなくて、誰かに聴いてもらっていることを考えたので。聴いた人がどう感じるかを、音楽という枠組みじゃなく伝える難しさ。そのアーティストのことや、その作品が気になるっていうものにしたいと思ったんです。
――第一弾配信曲「TABU」は、どのようなサウンドをイメージして作ったんですか?
Jaymopp:普段、僕が好きな海外のジャズミュージシャンとかヒップホップアーティストのドラムパターンを参考にすることが多くて。最初はファンキーな感じで始まるんですけど、それはスナーキー・パピーをイメージしていて。後半にかけてベースが電子音っぽくなるところからはアンダーソン・パークをイメージして作りました。


――続く「astral pumpkin」は、どのような楽曲をめざしたんですか?
Jaymopp:「TABU」は、銀行強盗の悪友ふたり組の物語なんです。で、「astral pumpkin」は、その悪友ふたり組がいた街の10数年後の話という設定です。悪友ふたり組のようなゲトーにいる若者たちは、10年後とかには誰もその街に残ってないんじゃないかと思って。というのも、捕まったり、失踪したり、儲けた金で遠くに引っ越したりして、ゲットーと言われてる街の20年後は、奪われた人しか残っていなんじゃないかと思ったんです。
――そういう体験があるんですか?
Jaymopp:もちろん僕が体験したことではあるんですが、コンセプトのあるアルバムなので、聴いた皆さんの判断にお任せしたいところですね。色々な人がそれぞれ経験したものの中でその作品のストーリーに思いを馳せる時間が一番作品に触れ合っていただけてると思うので、あくまでストーリーのプロットに触れるぐらいしか出来ないですね。
――この曲を聞いた時に、破綻とか破滅みたいなものがテーマなんじゃないかと思いました。
Jaymopp:ONISAWAのヴァースは何もなくなった街のきれいなところを歌ってるんです。対して、SOMAOTAのヴァースは奪われているときの描写なんです。
――第三弾シングルの「God Breath feat. NeVGrN」は、男女の別れを描いたラブソングですか?
Jaymopp:そういう解釈もありだと思います。でも、実はそれとは違うテーマがあって。ONISAWAのヴァースで、それだとちょっと引っかかる表現が出てくるんです。そこから、これって本当は男女のラブソングじゃないんじゃない?と思ってくれるリスナーが出てきたら嬉しいです。
――歌詞の2番は、SOMAOTAさんが女性目線でリリックを書いています。自分以外の誰かになりきって書く作業はどうでしたか?
SOMAOTA:面白いですね。僕はわりと得意な方だと思いますし、ONIくんもわりとできるタイプなんです。そういう憑依型の作詞が好き。ただ、このリリックを書くときは、近くに住んでる女の子にインタビューしに行きました。その方が少しは説得力が出るかなと思って。さすがに僕が想像で全部書いたらキモいと思うし(笑)、男が思う女性像が強すぎるだろうと思ったので。
――今回の3曲だけでもカラーの違うサウンドを展開していますが、楽曲を制作する上でこだわっていることは何ですか?
Jaymopp:完全に何かのジャンルにカテゴライズされるような曲は作らないようにしています。メンバーそれぞれが聞いてきた音楽を全部混ぜたものを作りたいというか。ヒップホップというよりミクスチャーの感覚に近いと思うんですけど、ロックバンドとかヒップホップバンドとかレゲエバンドではない、もっとパーソナリティーがあるバンドにしたいんです。すべての音楽がそのバンドの楽曲になり得る、ジャンルになり得るっていう。それが僕らのコンセプトです。
――最後に、今後のビジョンを教えてください。
Daiki Yasuhara:もっとバンドとしてビッグになって、コロナ禍が落ち着いたら、自分らのお客さんがいっぱいの前でライブしたいっていう思いはめちゃめちゃありますね。
SOMAOTA:僕は、Black petrolを海外リスナーに向けて届けたいなっていう思いがあります。海外の音楽が好きで影響を受けたメンバーも多いから、実際にそういう場所で演奏できたらいいなと。
Jaymopp:僕は、バンドの楽器陣で他のラッパーのサポートもしたいなと思ってます。ライブのサポートとか、バンドで楽曲提供とか。たとえばKID FRESINOのトラックを作っているのは、サポートミュージシャンたちだったりする。そういう感じで、楽器陣はサポートミュージシャン的な役回りでラッパーの人たちと共演して欲しい。あとは、単純に家族とかに喜んでもらいたいです(笑)。
――家族に認められるようになりたい、ということですか?(笑)
Jaymopp:身近にいる大事な人に届いて欲しいということです。まだ出会ってないお客さんの中には、僕らと同じ思いをしている人とか、同じ経験をしている人はいると思うから、そういう人たちに届いて欲しい。そうして、より多くの人たちを支えられるような音楽を作れたらなと思います。

【取材・文:猪又 孝】

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