1stフルアルバム『CRYAMY-red album-』の真意、4人に問う。

ゆびィンタビュー | 2021.05.10

 4ピースバンド・CRYAMYの1stフルアルバム『CRYAMY-red album-』が、3月3日にリリースされた。2017年に結成されて以降、これまでタイトにシングルをリリースしてきた彼らが満を持してリリースしたアルバムは、廃盤となった作品からの再録も含めた全16曲入りというボリューム満点の作品となっている。自他問わず、「人間」という存在に真っ直ぐに向かい合っているからこそ起こる感情の起伏を音楽にしているCRYAMY。そこには苛立ちや諦観も含まれているが、全てを放棄するような投げやりな音楽では決してなく、「それでも生き抜いていく」という希望がある。そんな彼らの現時点の集大成ともいえる今作は、どのような経緯で生まれたのか?そして、どんな想いの先に生まれた作品なのか?作品のみならず、CRYAMYの音楽に対する姿勢を紐解くべく、メンバー全員に話を訊いた。

PROFILE

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CRYAMY


弾き語りで活動していたカワノがオオモリユウトをドラマーとして誘い、その後フジタレイがバンドに参加、2018年5月にベーシストとしてタカハシコウキが加入し、ライブ活動を開始。
バンド名の由来は「cream」にちなんだ名をつけようとしたカワノのスペルミスから。

  • CRYAMYは、2020年6月に自主レーベル[nine point eight]を立ち上げていますが、それは今作のリリースも視野に入れた先の活動を見据えてのアクションだったんですか?
  • カワノ(Gt/Vo)

    いや、もっと単純ですね。今までインディーズでやってきた中で、バンドとしての看板はありますけど、自分たちの拠点としての名前が欲しかったんです。一緒にレーベルをやってくれてる会田さん(MG)との出会いも飲みの場でしたし、そこから徐々にライブを手伝ってもらうようになったという経緯があるので。派手なことをしたいというわけではなかったです。


  • タカハシ コウキ(Ba/Cho)

    自主レーベルを設立した前後で、何かが変わった感じでもなく、ずっと好きなことをやってますね。
  • オオモリ ユウト(Dr)

    個人的には、自主レーベルの設立自体よりも、そこから全国流通できるようになったということのほうが大きいです。
  • カワノ

    バンドとして大きくなっていきたいという意識は、もちろん無いわけではないですけど、売れる/売れないというベクトルでの上昇志向よりかは、“なるようにしかならない”という冷静な視点を持っていますね。僕としては、バンドとして必死になるところはそういうところではないと思っていますし。
  • フジタ レイ(Gt)

    うん。いい意味で何も考えてないし、やることはずっと変わらないと思ってますね。
  • 自分たちの拠点を築いたという変化はあれども、音楽制作に対するスタンスの変化はなかったんですね。その上で、フルアルバムを作ろうという構想はいつ頃からあったんですか? ボリュームとしても、16曲入りというかなりの気合の入り方だと思ったのですが。
  • カワノ

    もともとは、12曲入りくらいのボリューム感にする予定ではあったんです。でも、再録曲と新曲の曲数が同じだとして、そこについて誰かに何か言われたら腹が立つなぁと思ってはいて。時期的にもコロナ禍になって、リリースしたシングル2作品も含めて、曲も徐々にたまっていって、結果16曲になっていたという感じです。
  • オオモリ

    アルバムを作りたいという思いは、結成当初からありましたね。その頃からデモの曲を再録して入れるということも決まっていたので、カワノ君と知り合って以降のこの5年間は、ずっと編曲のことを考えてました。


  • じゃあ、まさに満を持してのリリースなんですね。
  • オオモリ

    録り終わったあとの解放感ったらなかったですね。視力が上がった気がしましたもん(笑)。
  • フジタ

    道端の花がやたらと綺麗に見えたりしてね(笑)。
  • タカハシ

    だから、スタジオに入って編曲してない期間って、今が初めてなんですよ。
  • カワノ

    今はスタジオに入ってクリックを鳴らして練習してるんですけど、ようやくバンド練習をしてるって感じだよね(笑)。
  • オオモリ

    本当にそう。ライブに関しても、ぶっつけ本番を重ねるに重ねて今の感じになっていったので、練習をするという時間が新鮮なんですよね。
  • 手応えとしてはどうでした? 長年の試案の成果を出せた実感はあります?


  • オオモリ

    リズムのバリエーションは結構増えたと思ってます。コンセプトが被った曲ひとつもないですし。
  • タカハシ

    今までリリースを重ねるごとに生まれていった「次はこうしたい」という気持ちが、今作でも上手く出せたんじゃないかなとは思ってますね。
  • フジタ

    うーん、俺はどうなんだろうな。あるとは思うんですけど、「これだ!」と言葉にできるものは今のところないかもしれないです。もうちょっと時間が経てば出てくるのかもしれないですけど。
  • カワノ

    CRYAMYって4人とも好きな音楽が違うんですけど、そういうルーツの違いも含めて、自分が想像していなかった音楽が相乗効果的に生まれるのが気持ちいいんですよね。各々の持っている別々のプライドが結実して、音楽として表面化することがいちばんだと思っていますし、それができた作品だと思っています。
  • なるほど。今作は、トラック順で「HAVEN」よりも前半/後半で雰囲気がガラリと変わるのが印象的だなと思ったんです。前半は、これぞCRYAMY!といった歪みやうるささが際立ちつつも、そこに聴きづらさを感じさせないし、歌がしっかりと聴こえてくるんですよね。そこのバランスが流石だなと思いました。
  • カワノ

    ミックスとしてはかなり突っ込んだ音というか、雑味のある荒々しい音になっているとは思うんですけど、そこから僕ら好みの音にするべくいろいろと調整したがゆえのバランス感かもしれないですね。
  • フジタ

    カワノ君の声はよく通るので、こっちが割と無茶してもメロディが引っ張ってくれるんですよね。
  • カワノ

    これはちょっとマニアックな話で、僕の声って、基本的にはローにたまる声なんですけど、シャウトしたときには中音域がほぼ出ないで、高いところでザーッと倍音が出るらしいんですよ。それで、ぽっかり空いたミドル部分に楽器のアタックが上手くハマるから、謎の存在感がある声になるみたいなんですよね。あと、今回はマイクもいろいろ試したんですけど、試行錯誤の結果、プロが使うようなコンデンサーマイクではなく、ライブハウスで使っているようなものを使ったんです。
  • ほう! ライブで歌っている状態に近い歌録りだったんですね。今作には新曲も収録されていますが、「鼻で笑うぜ」はパンク色が濃かったり、「ギロチン」はフォーク感のある楽曲だったりと、バリエーションとしても豊かだなと思いました。そこのところは意識していたんですか?
  • カワノ

    バリエーションをつけようという統一した考えはあまりなくて、4人で合わせる中で、それぞれの感覚を統合しつついろいろと変わっていきますね。特に「変身」は10代の頃に書いた歌詞とメロディが基盤になっていて、もともとはBPMが低くてフォーク色の強い曲だったんです。でも、アルバムに速い曲を入れようとなってからBPMを上げて、さらに面白くしようとして変なコードを被せてみて、そこからスタジオでみんなで合わせながら作り上げていきました。
  • まさに、さっき話してくれた「個々の感性の結実」ですね。今作の中で、バンドで合わせていったからこそ、当初持っていた楽曲のイメージから離れていった曲ってありますか?
  • カワノ

    いちばんは「HAVEN」ですかね。いつもは、アレンジの理想を持った状態でメンバーに提案するんですけど、この曲だけは完成後のイメージが何にも浮かばなかったんですよ。でも、ある日見た夢の中で、僕がジャングルの川辺でギターを弾いていたら、外国人が英語で「めっちゃいい曲じゃん!」って話しかけてきたんですよ。それで、その人にアレンジが浮かばないことを伝えたら、太鼓を持ってきてビートを叩いてくれたんです。その外国人はチェ・ゲバラだったんですけど……。
  • え、まさかの人物が登場(笑)。
  • カワノ

    そうなんですよ(笑)。で、起きたあとに、彼が叩いてくれたビートに似ている曲を探してオオモリくんに伝えて、そこから編曲をし始めました。だから、「HAVEN」は予定と変わったというよりは、ゼロから生まれた曲ではありますね。


  • オオモリ

    カワノ君が持ってきたそのリズムを軸とした理想はあったんですけど、これがなかなか難しくて、結果的に自分なりのアレンジを加えて完成させたんですけどね。そのあとにもう1本考えたメインフレーズがあって、その2本柱を構築しつつ、リズムを作っていきました。
  • フジタ

    その上に乗せるギターフレーズが難しかったんですよね。最初のギターのイントロと、バンドイン後のフレーズと、歌が乗ったあとのフレーズっていう3段階があるんですけど、実はリズムもコードも全部違うんですよ。そこを考えるのはめっちゃしんどかったです。
  • タカハシ

    ベースとしては、レイ君がそういう面白いギターフレーズを持ってきてくれたので、序盤は小賢しいことをせずに支える意識で徹しつつも、Cメロあたりからは動きのあるフレーズを弾いてます。そこからレイ君とユニゾンっぽい展開に発展していくんですけど、序盤のしっとりしたバラードから変化するポイントでもあるんです。だから、ライブで「HAVEN」をやる中で、そのタイミングをきっかけにお客さんのノリが変わってくれたらいいなと思いながらやってます。
  • 一方「やってらんねー」は序盤からベースが躍動していますし、ベースとドラムのリズムが肝になっていますよね。
  • フジタ

    この曲はリズム隊で出来上がる曲だということは最初から決まってたので、ふたりがひたすら噛み合わせてましたね。3時間くらいベースとドラムが合わんっつってな、タカハシが下手くそやから(笑)。
  • タカハシ

    僕はフレーズが浮かばないときはギターで作るんですけど、この曲もその方法で作ったんです。でも、やっぱりベースに持ち返ると難しかったですね……。
  • カワノ

    ミドルテンポの曲って難しいんですよね。メロディが乗っけやすいっていうのはありますけど、遅すぎず速すぎずを意識しつつ、テイストが似通わないようにすることも考えなきゃいけないですし。
  • オオモリ

    いや、本当にそう。
  • カワノ

    でも、だからといって速いビートの曲が楽なのかと言ったらそうでもないですし、結果全部しんどいっすね。
  • オオモリ

    でも、「変身」なんて、レコーディング当日に出来たんですよ。
  • フジタ

    そうそう。ギターソロは一発録りのときに弾いたやつをそのまま採用したし、本当に早かったよね。でも「変身」は、みんなで合わせたときの勢いはそのままにしつつ、多少の修正を加えて仕上げた編曲の仕方をした中でも、すごくいいところでまとまったと思ってます。
  • なるほど。編曲は4人で行うとして、歌詞に関しては、カワノさんがひとりで作り上げているんだと思います。歌詞で言えば、例えば「鼻で笑うぜ」の<でもね、君が、生きていて良かった、って思うよ>というような他者への慈しみを持っている一方、己に対しては「HAVEN」の中にある<自分を愛せない>という言葉のとおり、自責の念が強いように思います。その相対性は、今作の前半/後半の音楽的な変化にも繋がっているようにも見えました。
  • カワノ

    自分としては、今も結成した頃の精神性を拭いきれないまま生きてはいるので、変化というものはないとは思ってます。今回のアルバムの曲順を決めるときに、社会学者の宮台真司さんの本の影響を受けたんですけど、その中で、自分の内側に対しての「これじゃだめだ」「もっとこうしたい」という欲望から、生物の成長の過程の中で、どんどんと外に向けた欲望を求めるようになる、という話が書いてあったんです。このアルバムも、そういう物にしたいと思っていたし、ひとつの命がピークに向かっていくような作品にしたかっということもあって、後編に向けて徐々に転じていく流れを作っていきました。だからこそ、ジャケットにハート=命が描かれているんですけど。なので、後半の楽曲の歌詞には、自分が理想とする人との向き合い方が投影されていると思います。でも、そこでしっとり終わらすのではなく、僕らの最初のEPの1曲目に収録されている「テリトリアル」を最後に置いたのは、それらは所詮理想であり、現実の自分はそれができていないということを気づかせる、という意味があります。この曲には個人的にも並々ならぬ想いが込められていますし、「じゃあおまえはどうなんだ?」という戒めとしてラストに持ってきました。


  • でも、外に向けて理想を放つことって、勇気のあることだとも思うんです。それを歌詞として表現したのは、やりたかったけどできるようになったからですか? それとも、自然とそういう言葉を使うようになったんですか?
  • カワノ

    あぁ。これは難しいんですけど、胸を張れるようになったからこそ言えるようになった、という喜ばしい変化は、たしかにあると思うんです。でも一方で、もっと自己検問を強めていかないといけないなとも思うんですよね。今後、作品を重ねていくにつれて、自分が表明する“理想”の明瞭度が上がって、言葉としても曲としても、理想の輪郭がはっきりすることもあるとは思うんですけど、そこで「じゃあおまえはどうなんだ?」という矛盾が起こることも絶対に避けられないんですよね。そうなると、自分ができる唯一のことは、“自分に対しての攻撃を怠らないこと”だと思いますし、それはすごく意識していることです。聴いてくれた人が、理想を言えるようになったという変化を励みにしたり喜んだりしてくれることはうれしいですし、僕自身も、これからも言い続けていきたいんです。だからこそ、自分に対しての検問を強めるという考えですし、自分の中にその考え方がある限りは大丈夫だろうと思っています。
  • なるほど。今のお話を訊いて、人間が抱く理想と現実とは二律背反ではあるかもしれないけれど、そこが拮抗しているからこそ、CRYAMYの音楽が構築されているのだとも思いました。5月からは、今作を引っ提げた全国ツアー[建国物語]も予定されているということで、楽しみです。


  • フジタ

    練習しなきゃなー!
  • オオモリ

    たしかに念願のツアーだけど、まだ万全ではないですしね……。コロナをきっかけに大きい会場でやるということもせず、俺らはコロナ前後でも変わらない場所でやっていこうとは思ってます。
  • カワノ

    僕らはしっかり足で稼いでいこうな。
  • 東京と大阪の2ヵ所で今作の再現ライブもやられていましたけど、感触的にはどうでした? アルバムの曲順がライブのセットリストに似通っていると思うんですけど。
  • オオモリ

    そうなんですけど、やってみたらムズかったっすね。
  • カワノ

    アルバムだとマスタリングで曲間なしで繋がりますけど、ライブだとチューニングや独特の間もあるし、お客さんとしてもノリにくいところもあったと思うんです。だから、アルバムの曲に昔の曲を織り交ぜていくのがベストだと気づきましたね。やっぱり生でやるものには敵わないですし、その経験も経て、ツアーをやっていきたいと思ってます。

【取材・文:峯岸利恵】

tag一覧 J-POP アルバム ゆびィンタビュー 男性ボーカル CRYAMY

リリース情報

CRYAMY-red album-

CRYAMY-red album-

2021年03月03日

nine point eight

01.ten
02.ディスタンス
03.変身
04.鼻で笑うぜ
05.普通
06.ギロチン
07.雨
08.やってらんねー
09.twisted
10.兄弟
11.HAVEN
12.まほろば
13.完璧な国
14.戦争
15.優しい君ならなんて言っただろうね
16.テリトリアル

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

CRYAMY-red album- Release Tour [建国物語]
※各地ゲストあり
05/22(土)栃木 Heaven?s Rock Utsunomiya
05/23(日)新潟 Golden Pigs black stage
05/28(金)神奈川 F.A.D YOKOHAMA
06/18(金)石川 GOLD CREEK
06/20(日)京都 磔磔
07/04(日)愛知 CLUB UPSET
07/11(日)福島 club SONIC iwaki
09/18(土)兵庫 music zoo KOBE 太陽と虎
09/19(日)岡山 CRAZYMAMA2ndRoom
09/20(月)福岡 graf
09/23(木)香川 DIME
10/03(日)北海道 PLANT
10/30(土)宮城 macana
11/06(土)大阪 ANIMA
11/14(日)東京 渋谷CLUB QUATTRO

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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