必要最小限の電力の中、”今すべきこと”を改めて気づかせてくれた、山崎まさよしの最新東京ライブ
山崎まさよし | 2011.04.22
4月6日。六本木の高台にあるSuntory Hallへと向かった。今日はここで山崎まさよしのライヴが行なわれる。
会場へと続く桜の坂を登りながら、ふと、今年初めて桜に目を向けた自分にハッとした。いつもなら、桜が咲くのを指折り待っているのに。桜がその 枝いっぱいに花を咲かせ、花びらがそっと風に乗って舞い落ちる儚い瞬間が大好きなのに。今年は桜が花を咲かせていることにさえ意識が向かなかった のだ。
それは確実に3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震のせい。多くの人の尊い命を奪い、大きな爪痕を残し、今もなお余震が続く日本。 テレビやラジオから新たな被害が告げられる中、不安だけが大きく膨れ上がり、買い占めや風評被害という哀しい現実を考えさせられ、自分がどうある べきかを自問自答する日々。地震以降、予定されていたライヴが何本も中止や延期となった。“娯楽”である音楽やライブ。エンタテイメントな仕事に 関わる者誰もが、自粛すべきか否かの葛藤に苦しんだことだろう。
実際この日、山崎もライブ中のMCの中で、そんな葛藤があったと語った。
自分が今、やれることは何か。その答えはステージに立つことだった。しかし。被災地では多くの人たちがいまだ普段の生活を取り戻してはいない。その現実を思うと、やはりまた葛藤が始まる。その繰り返しだったことだろう。
会場には義援金を募る募金箱が置かれ、会場の電気は必要最低限に押さえられていた。
19時10分。オーケストラが定位置に着き、チューニングが行なわれた。もうその音だけで吸い込まれるものがあった。
ステージ下手からゆっくりと現れた山崎に大きな拍手が寄せられた。いつものように慣れた手つきでアコギをかつぐと、彼はコントラバスの音にアコ ギと声をそっと乗せた。
届けられたのは「あじさい」。1997年の11月にリリースされた『STEREO 2』からの選曲だ。そう。この日は、15周年を記念した特別なライヴとあり、当日演奏した中で1番古い曲では1996年の4月にリリースされた1stアル バム『アレルギーの特効薬』から「心拍数」が届けられたりもしたのだ。そして、2005年に10周年を記念して全国7カ所を一緒にまわった服部隆 之とRush Stringを迎え、オーケストラクションを率いた本当の意味での“生ライヴ”だったのである。
もちろん。両隣には山崎のステージではお馴染みのベーシストの中村キタローとドラム・パーカッションの江川ゲンタも。
厳かな雰囲気の会場にピッタリのシチュエーションだ。オーケストラの生の音圧とダイレクトにぶつかってくる山崎の声が、胸の奥の方でじんわりと 広がっていくのが感じ取れた。客席に着席した状態で聞き入るファンたち。山崎は、“今日はライブというよりコンサートですね”と語ったが、まさに そのとおり。息をするのも惜しい程に、その音と歌に引き込まれていく感覚だった。
こんなときだからかもしれない。“もしも悲しい出来事があなたに起こったのなら、いつまでも寄り添っていてあげたいよ”と愛しい人に向けて歌わ れる「ぼくのオンリーワン」も、オンリーワンに対する愛ではなく、もっともっと大きな愛に聞こえてきた。ほんわかとしたあたたかな空気に心を癒さ れた瞬間だった。
4曲目の「星に願いを」から、中村キタローと江川ゲンタを呼び込み音を届けた。「ふたりでPARISにいこう」では曲中で江川との寸劇的なやり とりを交わし、会場を盛り上げていた山崎。彼自身が、このライヴをとても楽しんでいたのが、何よりも心地よかった。その他にも、この日は、本編で 「津軽海峡・冬景色?おふくろさん」、アンコールではギターを持たずに届けた「Georgia on my mind」のカバーや、Suntory Hallにちなみ、あまりにも有名な“ドゥドゥドゥビ?ドゥビドゥバ?♪”のCMソングを届けてくれるなど、トークも含め随所に彼らしいお楽しみを散りば めていたのも印象的だった。
後半はコンサートからライブへ。12曲目に届けられた「Fat mama」からは客席は手拍子とともに立ち上がり、コンサートからライヴのノリへと変わっていった。
“この場所始まって以来だと思います、この大騒ぎ(笑)”と嬉しそうに、ナント、“大騒ぎコール”を始める山崎。心から音楽を楽しんでいた山崎とファンたちに心を打たれた。
“今日、やってくれてありがとう!” 会場から山崎にかけられた言葉に対し、彼は、“とんでもない。こちらこそありがとう”と即座に返した。その言葉に拍手が起こった。飾ることのない山崎ならではの、とてもあたたかなやりとりだった。
“今出来ること”を精一杯頑張ること。それこそが、“今すべきこと”なのだと教えられた気がした。
帰り道、夜の空に柔らかく浮かび上がる桜の花に自然と目が向いた。綺麗だな。
ふと、いつもの自分の心を取り戻せた気がした。それは、確実に山崎まさよしの歌の力のせい。何にも代え難いあたたかな時間を、彼はこの日、多くの人に与えてくれたように思う。
【 取材・文:武市尚子 】
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