“ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES.”も、迎えて今年で９回目。メンバーがリスペクトするアーティストや、ともにシーンを盛り上げてきた盟友バンド、あるいは今後のシーンを一緒に歩むことになるニューカマーたちを招いて開催する、文字どおりアジカンの手作りイベントだ。
早い話が、一緒にやりたいバンド、メンバーが見たいアーティスト、アジカン・ファンに紹介したい新進バンドを呼んで、夏の一日をおおいに楽しもうというのが趣旨。会場内にメンバーがバーを開いたり、フェスの原点ともいえるスピリットが、ステージばかりでなく、会場のあちこちに満ち溢れているのが、アジカンらしい。第一日目を観たのだが、そんなアジカンのピュアな心を正確にキャッチしたオーディエンスが横浜アリーナに集結して、ロック三昧の10時間となった。

　トップバッターは、注目の女子バンド、ねごと。「２年前は観客としてNANO-MUGENを見に来て、出たいと思っていたら、いまここに立ってます」というボーカル＆キーボード蒼山幸子の言葉から、まだ大学３年生という若いバンドの感謝と感激がストレートに伝わってくる。「ループ」、「カロン」、「メルシールー」など現時点での代表曲を惜しみなく繰り出すセットリストが痛快だ。いきなりの大ステージに、アンサンブルなど追いつかない部分はあったが、潔いステージングに大きな声援が上がっていた。

　ユニークなスタイルのDJ、オオルタイチ、実力派の磯部正文BANDなど、順調にフェスは進んでいく。ASH with Kensuke Kitaではアジカンのギタリスト喜多建介がこのイベントで交流が始まったUKバンドASHに参加して演奏。ミュージシャンシップを発揮する。

　中盤のハイライトは、the HIATUSだった。幻想的な「Snowflakes」から始まったステージは、圧倒的な演奏力を背景に複雑多彩なサウンドワールドを展開。大半をセカンド・アルバム以降の曲で構成したセットリストはアグレッシヴな内容で、“お祭り”らしからぬ緊張感でフロアを攻め立てる。２年前に出場したときもそうだったが、the HIATUSはNANO-MUGENに特別な思い入れがあるようだ。いい意味でのライバル意識が炸裂して、フェスに強烈なアクセントを加えていた。

　そんなthe HIATUSとは対照的に、THE RENTALS with ASH / GOTCHはお祭り騒ぎ。ユーモアたっぷりのコール＆レスポンスを繰り広げて、会場を沸きに沸かせる。そして、次はいよいよアジカンの登場だ。

　１曲目「新世紀のラブソング」のドラムのループが鳴る中、音楽への情熱に満ちたこのビッグ・フェスのホストバンドにふさわしい風格を漂わせて、メンバーが登場。応えるオール・スタンディングのアリーナと、スタンドを埋めた大観衆が、ひときわ大きな雄たけびを上げる。その熱の中心にあるのは、アジカンに対する信頼感だ。

　ロックにヒップホップのコラージュ感覚を取り入れたアジカンのニュースタイルが完全にバンドとして昇華されて、まさに最先端のコミュニケーションが現出する。

続く「マジックディスク」では、ドライなドラム・サウンドが音楽の真ん中にどっしりと陣取り、揺らぎのあるギター・サウンドが全体を大きく包む中で歌われる言葉たちが、まさに“新世紀のリアリティ”を与えられる。ロックとしての理想の形を眼前にして、オーディエンスたちは解放され、喜びの声をバンドに返す。震災前に作られたアルバム『マジックディスク』の曲たちが、震災という困難にさらされても耐えうる真実に裏打ちされていることを証明していて感動的だった。だから、余計にボーカル後藤正文のMCがリアルに響く。

「正直、今年はNANO-MUGENをできないんじゃないかと思いました。これがどれだけいいフェスになっても、東北の復興には何の役にも立たないかもしれないけど、なんとか自分の中の復興をしようと気合を入れて、自分たちが積み上げてきたものを取り戻せたらいいなと思ってます。それを元に、助けが必要な人たちのところに行けるんじゃないかと。今日は集まってくれて、ありがとう。みんなも、自分を蘇えらせて、生き返って帰ってください」。

　新曲「All right part2」、終盤は「ループ＆ループ」、「リライト」、「君という花」という人気曲を連発してイベントはピークを迎え、ラストは「ソラニン」で爽やかに締める。バンドも会場もイーブンに音楽の楽しみを共有していて、堂々のパフォーマンスだった。僕はそこにアジカンの今と、未来への底力を目撃できて、とても嬉しかった。

　この日の最後に登場したのは、アジカンがリスペクトするUSAバンドのWEEZERだった。まるで仲の良い友達のイベントに参加しているような、世界を代表するバンドとは思えない愉快なステージングは、このフェスの精神をよく表わしていた。ってか、えーっ、こんなにリラックスしていいのですか?(笑)。が、しかし、90年代以降のロックシーンをリードしてきたオリジネーターとしての魅力を、しっかり伝えていたのはさすがだった。　

楽しい一日を過ごさせていただきました。アジカン、ありがとう！

【 取材・文：平山雄一 】