地元、横浜でも広いステージを駆け抜けた!小田和正ツアー、横浜アリーナ、ファイナル。
小田和正 | 2011.11.15
小田和正の“空間の把握力”に、圧倒された一夜だった。
横浜アリーナは日本でも有数の大きな規模を持つ会場だが、小田はその隅々にまでエネルギーを届ける。会場を埋めた1万2千人のひとりひとりと、直接コミュニケーションを取ろうとする。通常では無理なコミュニケーションの形態だからこそ、アリーナ・ライブは音響装置も演出も特別なものを使うのが常だが、小田はひたすら“人力”でこれを成し遂げようとする。フロアに渡り巡らされた“花道”を歩きながら歌う。ときには、走る。花道からフロアに降りて、オーディエンスにマイクを向けたり、握手したり、至近距離で笑顔を見せたり、スタンドに手を振ったり、リズムに合わせてピョンピョン飛んだり。
ツアー終盤の東京ドーム公演も見たが、そのときも小田は自転車に乗ったりしながら、何万人ものオーディエンスと直接コミュニケーションを取ることにトライしていた。そこにいたすべての人に小田の笑顔と歌が届いたかどうかは分からないが、90%の人には届いていたように感じたものだ。だから、横浜アリーナが、狭く見える。狭いなんてことは絶対にないのだが、今、目の前で歌い。動き回る小田を見ていると、狭く感じるのだ。それは、彼の目が確実にひとりひとりを捉えようとしているからだ。見ていて、僕も何度か彼と目が合ったと感じた。おそらく、この夜、アリーナに来た人たちも同じように感じたのではないだろうか。別の言い方をすれば、小田の“空間の把握力”は想像をはるかに超えていて、ここでは95%のオーディエンスが小田の音楽と笑顔に直接触れたのではないかと思った。それも、外部の演出の力をまったく借りずに、小田という人間の力だけでアリーナの全体をつかんでいたのだった。そして、その空間に自分もいるのだということが、この夜の感動の原点だったように思う。
地元での最終日ということで、この日だけ「MY HOME TOWN」が演奏された。
「近頃は、ツアーに出たり、アルバムを発表するたびに、『おそらく、これが最後か』と言われます。まだ頑張れそうですかね?」と小田が笑いながら観客に問いかけると、大きな歓声と拍手が起こる。
日替わりメニューの弾き語りコーナーでは、「昨日は『秋の気配』をやったんですが、昨日も来た人がいたら癪に障るから、今日は僕が初めて作ったオリジナルをやります」と言うと、観客から『秋の気配』も聴きたいと声が上がる。すると小田は、「じゃ、両方やりますか」。さらには、楽器のトラブルで自分のギターの音が出ないことが分かると、バックのギタリストの方を見て、「ギター一本だけで歌うから」と「僕の贈り物」をハンドマイクで歌い出す。トラブルも気にせず自然体で歌うのは、自分がこの瞬間に為すべきことをよく知っているからだ。
「来年はみんなの気持ちを持って。東北地区に行ってきます。今日はどうもありがとう」と言ってアンコールの最後は、ひとりでギターの弾き語り。その見事なスリーフィンガーの澄んだ音色と確かなリズムに、また驚かされる。
終演後、楽屋でお会いした小田さんに「後半の方が、声がよく出ていてびっくりしました」と言うと、「そうなんだよ。いくらでも出るんだ」と笑顔で答えてくれた。
間違いなく、まだ頑張れます、小田さん!
【撮影:菊地英二 】【 取材・文:平山雄一 】
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