レビュー

小田和正 | 2016.04.20

連載 第118週
小田和正『あの日 あの時』


『あの日 あの時』には、オールタイムの小田和正が“今”に集約されている

 小田和正のオールタイムベスト『あの日 あの時』は、聴いていて不思議な気持ちになる。「懐かしいのに、今を感じる」、そんなアルバムなのだ。

 僕はリアルタイムで小田の作品を聴いてきた。だから不思議な気持ちになるのかもしれない。このアルバムに収められた初期の慣れ親しんだ曲の中には、アレンジを今のテイストに変更されているものがある。現在の小田のライブで演奏されているアレンジになっているものもあれば、リズムのニュアンスが変わっているものもある。なので、「懐かしいのに、今を感じる」のかもしれない。

 若いリスナーの中には、このアルバムを通じて初めてに近い感じで小田作品に触れる人がいるかもしれない。アレンジが変更されたことによって、彼らにとって小田の声は、懐かしさより“同時代のアーティスト” として聴こえてくるだろう。

 おそらく小田は、ずっと聴いてきた人にも初めて聴く人にも、懐かしさだけではなく、“今の小田和正”を感じて欲しいと考えてこのアルバムを編纂したのではないかと思う。そしてその狙いは見事に当たった。僕の個人的な感想で言えば、ビッグスケールのベストアルバムなのに、とてもリラックスして聴くことができた。

 細部には、もちろん感じるところがあった。たとえば1977年のオフコースの名曲「秋の気配」は、リズムボックスの使用によってライトな聴き心地に変わっている。このアイデアは槇原敬之が『Listen To The Music』(1998年)でカバーしたバージョンと通じるものがあり、できれば槇原に感想を聞いてみたいものだ。

 また「風と君を待つだけ」は、制作後に起こった災害に配慮して若干の歌詞変更がなされている。幅広いリスナーを想定した小田のアーティストとしての良心を感じ取ることができる。その良心は、このアルバムの隅々に至るまで届いていると僕は感じた。

 一方で、小田がこの10年間に生み出した表現方法も自信をもって取り入れられている。小田はメインのメロディに対して、カウンター・メロディ(裏メロ)を追いかけるように重ねて、メロディと歌詞の世界観を広げる大胆な手法を次々に実行してきた。それが過去の楽曲の再構成に非常に効果的に働いて、オリジナルの魅力をまったく損なうことなく、アップデイトさせることに成功している。こんな先進的なリメイクをほどこしたオールタイムベストは、前代未聞だ。それもまた小田和正らしい快挙だろう。

 『あの日 あの時』には、オー ルタイムの小田和正が“今”に集約されている。だからこれは小田のキャリアを示しながら、今の充実をも伝える金字塔になる。

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 小田和正

リリース情報

ALL TIME BEST ALBUM『あの日 あの時』

ALL TIME BEST ALBUM『あの日 あの時』

発売日: 2016年04月20日

価格: ¥ 3,611(本体)+税

レーベル: アリオラジャパン

収録曲

【DISC-1】
01.僕の贈りもの(1973)
02.眠れぬ夜(1975)
03.秋の気配(1977)
04.夏の終り(1978)
05.愛を止めないで(1979)
06.さよなら(1979)
07.生まれ来る子供たちのために(1980)
08.Yes-No (1980)
09.時に愛は(1980)
10.心はなれて(1981)
11.言葉にできない(1981)
12. I LOVE YOU (1981)
13.YES-YES-YES(1982)
14.緑の日々(1984)
15.たそがれ(1985)
16.君住む街へ(1988)

【DISC-2】
01.哀しみを、そのまゝ(1985)
02. between the word and the heart-言葉と心-(1988)
03.恋は大騒ぎ(1990)
04.ラブ・ストーリーは突然に(1991)
05.Oh! Yeah! (1991)
06.そのままの 君が好き(1992)
07.いつか どこかで(1992)
08.風と君を待つだけ(1992)
09.風の坂道(1993)
10.それとも二人(1993)
11.my home town(1993)
12.真夏の恋(1994)
13.伝えたいことがあるんだ(1997)
14.緑の街(1997)
15.woh woh(2000)
16.the flag(2000)
17.キラキラ(2002)

【DISC-3】
01.たしかなこと(2005)
02.大好きな君に(2005)
03.明日(2005)
04.風のようにうたが流れていた(2005)
05.ダイジョウブ(2007)
06.こころ(2007)
07.今日も どこかで(2008)
08.さよならは 言わない(2009)
09.グッバイ(2010)
10.やさしい雨(2011)
11.東京の空(2011)
12.その日が来るまで(2013)
13.愛になる(2014)
14.そんなことより 幸せになろう(2014)
15.やさしい夜(2014)
16.wonderful life(2016)
17.風は止んだ(2016)

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