自身を投影させる歌の数々が渋谷クアトロを「解け巡らせた」、OverTheDogsのワンマンライヴ
OverTheDogs | 2011.11.24
手元にある方は、ぜひ今一度、彼らの1stアルバム『トケメグル』のジャケットを見返して欲しい。そこにはフェアリーテールのような架空の街のミニチュアが全面を飾っているはずだ。そして、この日のOverTheDogsのレコ発ワンマン・ライブは、まさにその街の窓ひとつひとつの中で営まれているであろう、人々の物語が思い浮かんでくるものであった。
この日の彼らのステージはクラブクアトロ。過去4回のワンマンを重ね、その度にキャパシティを大きくし、この日は彼らの中でも最大規模となった。にも関わらず、この日も会場は超満員。
ニューアルバムの曲を中心に、どれだけみんなの中を各楽曲が<トケメグル>かも、楽しみに彼らの登場を待った。
結論から言うと、この日の彼らはニューアルバムに収録していた12曲中、11曲の楽曲をプレイ。これらの曲を中心に2回のアンコールを含む全17曲が、この日の会場中を「トキメグらせた」。加え、この日は、亀田誠司、佐久間正英、いしわたり淳治の3人のプロデューサーを迎え、作品性たっぷりに作られていた二ューアルバムの内容とは、また違った、この5人のみでの極めて「OverTheDogs劇場」的なライヴが繰り広げられた。
幻想なSEの中、メンバーが現れ、ステージが徐々に白色のライトで発光していき、その中から1曲目の「イッツ・ア・スモールワールド」が始まる。ニューアルバムの1曲目も飾っていた同曲。作品同様のダイナミズムが会場全体にワイドな光景を想い浮かばせる。と思いきや、作品通りは冒頭の部分のみ。その後、演奏が止み、ボーカル恒吉のアカペラでの歌に変わる。そして、16小節歌い終わると、再びダイナミックな演奏にバックオン。会場を再び美しい世界へと惹き込んで行く。いきなりのライヴならではの演出に、”ライヴでは作品とはまた違った自分たちらしさを出してやる”との意気込みを感じる。そして、鍵盤の星が幻想的なシンセで繋ぐ中、その雰囲気を壊し、中から疾走感溢れる「カフカ」が現れると、会場も”待ってました!!”とばかりに、フロア前方の密度も更に濃くなっていく。続けて、ドラムの田中のブレイブ感あふれるロールから「みぎてひだりて」に飛び込むと、ボーカルの恒吉もギターを置き、ハンドマイクを使い、歌の世界観をジェスチャーも交え歌い伝える。そのまま星が美しいピアノで繋ぎ、「ラバーボーイ ラバーガール」にイン。哀愁メロディと歌謡曲的メロディが主題の中、同曲のBメロが力強くガツンとフロアを強襲する。
この日は、ライヴ全体のトータル感にもこだわるように、曲と曲の間には、あえて次の曲のイントロデュースのような演奏が、星の鍵盤を中心に、ギターの樋口、ドラムの田中からも見られた。そして、その伴奏に乗せて、次の曲のテーマやモチーフ、そして関連づいた話をするのは、ボーカルの恒吉。それを経たが故に、続く曲たちに会場中の多くが感情移入していき、より曲の描く物語性や世界観へと会場中が誘われていくのが分かる。
中盤に於いても、いきなり会場を星空的世界へと誘った「さかさまミルク」、メンバー1人ひとりが、”もし自分が○○だったら”との独白(ちなみに田中はボーカルだったら、樋口がサイヤ人だったら、星はまっすぐな髪の毛だったら、佐藤はジャニーズの一員だったら)、そこにフロアの1人1人が自身の”もし○○だったら”を思い浮かべる中、「メクルの本」へ。この何気ない各人の独白が、実は次の曲の伏線であったことに、歌が始まると会場中が気づく。このように恒吉は、次の曲のヒントを会場に時々投げてくる。そして、それに会場の1人1人が思ったり、想いを重ねたり、自身の場合を考えたりさせる中、曲に入る。そして、歌が始まると、その自身の浮かべたこととその歌との連鎖性やリンク性を知り、そこからなおのこと曲への感情移入やシンパ性が育まれていく。ライヴにおける彼らの親和性のメカニズムを私なりに分析するとこうなるだろうか。
ライヴの話に戻ろう。何もナイーブなだけが彼らではないと言わんばかりの「星に何万回」、輪廻性やエターナル、永遠性が会場中に広がった「メテオ」、佐藤と田中のリズム隊による8ビートの疾走感も気持ち良い「普遍ソング」等が場内に高揚性与える。そして、曲のラストに向かうに連れ、グイグイと会場を惹き込んで行った「神様になれますように」、更に加速度を上げるように、歌謡曲的メロディに佐藤のダウンピッキングが会場全体に疾走感を加えていった「なりみみ」、打って変わって会場にポップ色を広げた「うた」、1人1人がこれから先の遠い未来へと夢を馳せ、その際の自分を歌に佇ませた「本当の未来は」を歌い上げていく。
アンコールは1曲。ドラマティックなイントロの「おとぎ話」が始まると会場中から嬌声が上がり、疾走感のあるサウンドと共に、哀愁と日常と不変性も走り出し、当たり前のことにも何か理由があり、何かしらの物語があることを会場中に再び教えてくれる。何かをリセットし、何かをリスタートさせるかのような曲に、会場も同調を示すように、終始一緒に歌う。
この日のライヴにて恒吉は「メテオ」に入る前に、星の奏でる流麗に鍵盤に乗せ、同曲の主旨を説明してくれるかのように、「流れ星が生まれ変わって人になる。人が生まれ変わって星になる。そう考えると、死ぬということはそんなに寂しく感じない」と語ってくれた。彼らの歌は、ショッキングなことも、大げさなドラマ性も、インパクト重視の言葉や特別な人々の物語が描かれているわけではない。しかし、聴き終えた者にキチンと印象的な歌フレーズや物語を残し、聴く者の胸に、これからの自分の営みを広げてくれるものばかりだ。
さぁ、もう一度、ジャケットを見返して欲しい。そして、どこでもよいので、その中の建物の一つの窓をよく見つめて欲しい。そこには、あなたが彼らの歌を聴いて頭の中に投影した、自身の生活している姿が映っているのではないだろうか?
P.S. ごめん。全く気づかなかったけど、この日のライヴが行われた、2011年11月11日って、「ワンワンワンワンワンワン」だったのねん。オバ犬らしいワン(笑)。
【 取材・文 : 池田スカオ和宏 】