独特の柔らかく優しいナイーブな歌声と、願いや祈りを感じさせる、聴く者を包み込む歌世界を持つ5人組ロックバンド、OverTheDogs。
近年各方面にて話題となっていた彼らが、この度メジャーデビューアルバム『トケメグル』をリリースした。＜人の生＞という大きくエターナルなサイクルを様々なタイプの鍵盤の効いたロックサウンドにて伝えてきた彼ら。更に今作では自身らに加え、亀田誠治、佐久間正英、いしわたり淳治の著名プロデューサー陣と共に、実に「トケメグル」感たっぷりなアルバムを作り上げた。

EMTG : まずはこれまでの経緯から教えて下さい。

恒吉 : 最初は佐藤も含め3人組で始めたんです。その時は僕はドラムで。そこから紆余曲折があり、2005年ぐらいからボーカリストになったんです。で、しばらくは4人組で演っていたんですが、常にピアノが欲しいとは思っていて。2008年に遂に星と出会い、今のメンバーが揃ったんです。

EMTG : OverTheDogsの音楽性の特徴の一つとして、ピアノが挙げられますが、何故、装飾豊かなキーボードではなくピアノを?

星 : 恒吉が自分の声や歌に合う楽器ということで必然的に行きついた感はありますね。恒吉の声って、ピアノやストリングスといった古典楽器が似合うんですよ。ギターにしてもエレキもですがアコギも似合うし。なので、その辺りは自分たちの特性として意識的に入れてるかな。

EMTG : あと、みなさんの音楽性って、センシティブでナイ―ブなところもあれば、力強さや疾走感、かと思えばダイナミックでワイドな面もあり、さまざまですよね?

恒吉 : それはたぶん、僕自身が自分という人間が分かっていないところからきてるんでしょう(笑)。歌詞は特に色々な切り口になったり、雰囲気になっちゃう。音楽面では、みんな性格もバラバラだし、生きてきた道も年齢も違うし、それが合わさって面白いものが出来てるんじゃないかな。

樋口 : 一緒にバンドを演っていること以外は、けっこうみんな好みもバラバラですからね。それらが合わさり、一つのものを作り上げる際に、化学反応やトケメグった結果でしょう。

星 : みんな郊外や下町で育っていて、それらが生み出すメロディや空気感が新鮮なんでしょうかね。バシッとしていない空気＋凄くきれいなメロディで、歌詞もけっこう新鮮でというバランス。このバンドが持つ、その心地よさが僕は凄く好きなんです。

佐藤 : 同じものでも角度や違った人が観ると違った解釈を持ちますからね。それを各々が持っていて、ブレンドし合った結果かなと。なので、メンバー間でぶつかり合いもあるし。”これだ!”と思い、提案しても採用されなかったことも多々あるし(笑)。

EMTG : あと、恒吉さんの歌い方にも特徴がありますよね。優しくて柔らかくて、博愛を感じさせる歌い方で。

恒吉 : 歌の内容に関しては、どちらかといったら自分の願望かな。憧れというか。

樋口 : 例えばジョン・レノンの不特定多数に向けての博愛と違い、恒吉の場合はもっと身近ですよね。身の回りの人同士というか。それが繋がり合って、最後にはみんなが同じ気持ちになってくれたらというか...。

恒吉 : 基本、1対1×何百、何千、何万ですから。僕と私、君と僕の世界観の延長ですね。

EMTG : その辺りは、サウンド面にもしっかりと現れていて。

星 : こんな優しい声で歌われたら、あんまり乱暴なアレンジには仕上げられないですよ(笑)。”この声をどうやって活かすか?””この歌の世界観を活かすか?”は常に考え、アレンジをしています。

EMTG : 今回のメジャーデビューアルバム『トケメグル』は、芯がキチンとありながらも、色々なタイプが揃いましたね。

恒吉 : ありがとうございます!”どう感じてもらったか?””捉えてもらったのか?”聴いた方々の反応が非常に楽しみなんです。これまでは特に反応も気にならなかったけど、この作品に関しては非常に楽しみ。あとは、どの曲を気に入ってもらえるかにも興味があるし。みなさんそれぞれ”これぞOverTheDogs!”って曲も違うだろうし。

星 : ”ようやくみなさんの手元に行くんだな…”というのが、今の率直な感想です。毎晩聴いてるけど、いっこうに聴き飽きないし。メンバーの中でも僕が最もこの作品のファンですから(笑)。ホント、色々な人に届いて欲しい。

樋口 : どの曲もタイプや肌触りが違うのに、通して1枚の作品として成立しているのが凄いなと。自分たちでもかなりの自信作です。

EMTG : リズム隊はいかがですか?

佐藤 : ”ガムシャラにレコーディングやライヴを繰り返してたら、気づけば完成してた”って感じかな(笑)。それぞれ録ってきた各曲が、曲順通りに並び、聴いた際にはちょっとした感動でした。ライヴでもよくプレイしてた曲もようやく入ったし。

田中 : 今回は3人のプロデューサーさんに色々な角度からの自分たちを引き出してもらえましたからね。それぞれの方で作り方も録り方も違ったし。自分たちに今まで無かった面も多分に入れ込められたし。自分たちでも新しい発見が色々ある作品になりました。

EMTG : 実際に3人の方々と一緒にやっていかがでした?

恒吉 : 著名で自分たちの世界観や作品観を持ってらっしゃる方々だったんで、最初は、”もう少し自分たちらしくなくなっちゃうかも…”なんて懸念もあったけど、みなさん僕らの意見をキチンと尊重しながら進めて下さいましたからね。もちろん新鮮な部分もあったけど、基本見ているビジョンは一緒でした。今回若干、エレクトロっぽい要素がある曲もあるんですが、それにしても、僕らも”今回はそのようなテイストも入れたいな…”なんて思っていたところに、プロデューサーさんからの提案だったし。

星 : そのエレクトロのテイストにしても、適度な色付け程度な加え方だったんで、ホント自分たち＋αだし。自分たちでは見えなかったところを多分に引き出してもらえたって感じかな。”おおっ、あの楽曲がこんなになったのか!!”的な感動も多々あったし。更にポップさや自分たちの世界観を広げたり、伝わりやすくしてくれた感は凄くあります。

EMTG : ちなみに今回のタイトルの『トケメグル』は、トキメキとカケメグルを合わせた造語ですか?

恒吉 : いや、これは解けるの「トケ」と、巡るの「メグル」を合わせたものです。いわば人生のサイクルというか。解けるって、けっして解けるだけでゼロにはならないじゃないですか。氷も解けて水になって新しいものに生まれ変わるし。命もそうで。一見終わっちゃったように見えたものが、実はそこで終わりじゃなく、また新しい何かに生まれ変わる。そんな、解けて、巡っていく、そんな想いを込めて、各曲作っていったんで。あと、解けるは、解決の解でもあるし。一つ何かを解決したら、また新しい何かが出来あがっていく。その2つの意味を込めて作った言葉なんです。

EMTG : 最後に今作の聴きどころを教えて下さい。

田中 : 曲順にしても、ある種自分たちが、”これらをライヴで演ったら…”に近いんで、これを聴いてライヴの流れや自分たちを思い浮かべて欲しいですね。

佐藤 : まさに聴きどころばかりの、自分たちのベスト盤的な1枚に仕上がったかなと。あとは、中に「気まぐれしりとり」みたいなくだけた曲や、「つきもの」では恒吉がドラムを叩いていたり、遊び心にも富んでいるんで、その辺りにも注目して下さい。

樋口 : 僕のギターソロやギターもですが(笑)、この中の1曲1曲が、そのジャケットの街の窓の中の一つひとつの生活や物語だったりでもあるので、その辺りも感じながら色々な楽しみ方をして下さい。

星 : 今作は、いわば一本キチンと芯のある短編集というか、短編が合わさった1冊の本といった感じかな。最後に向けて広がり、希望でキチンと終わっているし。聴き終わった後に一本の映画を観終わった感に浸ってもらえると嬉しいです。

恒吉 : 全力でトケメグりながら作ったんで、みなさんにも是非トケメグリながら聴いてもらいたいな。色々なトケメグり方があるんで、自由にトケメグって下さい。

【 取材・文：池田スカオ和宏 】