映像とサウンドをリンクさせた圧巻の空間。チケット完売、amazarashi、渋谷公会堂レポ。
amazarashi | 2012.02.10
開演予定時刻を少し過ぎた頃、SEが流れたりすることもなく、いきなり客電が消えた。次の瞬間、ピアノの音が流れ、秋田ひろむによるポエトリー・リーディングが始まった。同時に、ステージを覆った幕には花や水鳥、赤ん坊といった映像が次々映し出されていく。そして、そこから本日の1曲目である「デスゲーム」に突入。切迫感あふれる歌と演奏が力強く放たれていく。一般的なライヴなら、ここでステージを覆っていた幕が落とされ、ライトに照らされたメンバーの姿が目に飛び込んでくるところだろう。が、amazarashiのライヴは違う。ステージを覆っているスクリーン代わりの半透明の幕はそのまま。時おり光の加減で、幕の後ろで歌い演奏している秋田ひろむ(Vo&G)をはじめとするバンドのメンバーの姿がぼんやりとは見えるものの、最後までその全貌を顕わにすることはない。あくまでも音楽で楽曲の世界観を視覚的アートとリンクさせながら真摯に伝えていく。それが(今後のことはわからないけれど、現時点での)amazarashiのライヴ・スタイルだ。
1月28日、渋谷公会堂。amazarashiにとってはこれが3回目のワンマンライヴとなる。もともとメディアへの露出が極端に少なく、ライヴの告知も必要最小限。それでもわずか3回目のワンマンで渋谷公会堂を満杯にしてしまうというのは、やはり異例のことに違いない。が、amazarashiの作品に触れたことのある人なら、それは特別驚くことではなく、納得できる現象に違いない。生きていくことに根ざした多くの人が感じる感情を鮮烈な言葉で表現し良質な音楽にまで昇華させたamazarashiの作品には、衝撃と感動とカタルシスがあり、実際、聴き手を世界に惹き込み、ライヴ会場にまで足を運ばせる強力な力があるのだ。
さて、ニューアルバム『千年幸福論』を核にしたこの日のライヴは、ホールという特性を活かし、昨年9月の恵比寿リキッドルームの時よりもさらに進化した、緻密でより凝った魅せ方になっていた。「アノミー」ではエモーショナルな演奏とPVにもなっているアニメーションの映像がより密に一体化して迫力を増し、「美しき思い出」では半透明の幕に映し出された映像に加え、ステージ後方にも小型スクリーンが出現。その小型スクリーンには別の映像が映し出され、映画の3Dとはまたちょっと違う立体感覚の中で秋田が切実な声で歌っているという、なんとも不思議な空間がそこに生まれた。ショートストーリー仕立ての「ピアノ泥棒」では、ステージ奥上方のスクリーンにピアノの映像が映し出され……と思ったら、それはなんと、映像ではなく本物のピアノが宙づりにされていた!というトリッキーな演出もあり、度肝を抜かれた。一方で、歌そのもの、演奏そのものもライヴならではの熱さとグルーヴを伴って、聴き手に迫ってくる。また、「つじつま合わせに生まれた僕等」に入る前、秋田はアコースティックギターのチューニングを念入りにおこなったのだが、そんなちょっとした場面にも“ライヴ”を感じ、今amazarashiと同じ時間同じ空間にいるのだとふと実感して、うれしくなったりもした。
「やっと渋公に来れました。わいがみんなに伝えられる確かなことなんてそんなにないだろうけど、それでも、誰にも期待されてなかった人間が、なんとか踏ん張って、しがみついて、渋公のステージに立てたことは、みんなの励みになるんじゃないかなと思ってます。無気力でまるで生きている死体。だけど確かに、わずかながら空には光が差し……(中略)。理解しがたいと言われても、他に道など無い。ありがとうございました」
ステージにたいまつを灯し幻想的な「カルマ」を届けた後、秋田は体温を感じさせる声でそう言った。この日最初で最後のMC。そして、そのあとに披露されたのは「未来づくり」と「千年幸福論」。すべてのものは形を変え、やがては終わりを迎える。それでも千年続く愛情や幸福を求めてしまう、人間の性(さが)にも似た想いを表現した「千年幸福論」では、この日使われたすべての映像がフラッシュバックするように流れ、熱のこもった秋田の歌が終わる頃、オープニングとこのラストが1本の線で結ばれ、1つの物語を目撃したような気にもなった。その物語とは、“人間とは”という深い物語だ。
感動に包まれた会場は、しばらく誰も立ち上がることができず、終演後に流れた新曲もみんなその場に座って聴いていた。
聴覚と視覚と想像力と心を刺激する圧倒的なライヴだった。映画は総合芸術だとよく言われるけれど、amazarashiのライヴも新たな総合芸術、と言ってもいいかもしれない。ただ、言うまでもないが、この圧倒的な世界が成立しているのは、秋田ひろむの言葉と歌があるからこそ。それがなければどんなに素晴らしい映像アートがあったとしても、むしろ浮くだけで、この世界は表現できない。改めて思った。すごいバンドだ、amazarshi。
3月16日にはSHIBUYA-AX、3月23日には大阪umedaAKASOで追加公演も決定。
【取材・文:赤木まみ】
リリース情報
セットリスト
- プロローグ
- デスゲーム
- 空っぽの空に潰される
- アノミー
- つじつま合わせに生まれた僕等
- 美しき思い出
- ピアノ泥棒
- 冬が来る前に
- 爆弾の作り方
- 夏を待っていました
- ワンルーム叙事詩
- 奇跡
- コンビニ傘
- 古いSF映画
- カルマ
- 未来づくり
- 千年幸福論
お知らせ
amazarashi LIVE「千年幸福論 追加公演」
2012/03/16(金)SHIBUYA-AX
2012/03/23(金)umeda AKASO
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください