揺るがないバンドのスタンスを提示した、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの武道館ライブ
ASIAN KUNG-FU GENERATION | 2012.03.07
武道館二階席の隅々にまで、オーディエンスが詰め掛けている。アリーナはオール・スタンディングで、こちらも満員。リスナーの立場に立ってセレクトされたベスト・アルバム『BEST HIT AKG』を掲げたスペシャル・ライブの開演だ。
注目のオープニングは「迷子犬と雨のビート」。『BEST HIT AKG』には未収録のミディアム・テンポのロック・チューンからのスタートに、アジカンの自信を感じる。それを裏付けるように、演奏もPAも立ち上がりからハイクオリティ。アジカンは武道館を完全に手中に入れて、すべてのオーディエンスがストレスなく音楽を楽しんでいる。
ステージ・セットに目をやると、古い型のテレビ・モニターが舞台全面に88台置かれ、ゆるい起伏を作っている。力強く、落ち着いた滑り出しに、会場はあますところなく熱を帯びていく。
「君の街まで」で、伊地知潔のドラムと山田貴洋のベースが安定したリズムを作り出すと、それを受けて喜多建介が溜めの効いた艶のあるギター・ソロを披露する。モニターには後藤正文の歌う歌詞が1文字ずつ映し出され、観客はスムーズにアジカンのサウンドワールドに引き込まれていく。
興味深かったのは「夜のコール」。ギター・ソロで喜多がステージにひざまずく。彼が感情をむき出しにするのは珍しい。そんな光景に、後藤は思わず笑顔を見せる。観客も大いに盛り上がる。バンドもオーディエンスも心を開いて、今日のライブを楽しんでいる。歓びの波動が、何重にも広がっていく。9曲目の「真冬のダンス」では、シブい選曲にフロアがどよめいた。
「ベスト盤のツアーなんですけど、今の曲はベストに入ってません。でも、好きな曲なんです。僕がベストの選曲をやるとしたら、入れたいと思う(笑)。浪人のときに東京に出て来て、驚いたのは雪。静岡では降らない。新聞配達のアルバイトをしていたある日、雪が降った。公園に雪の積もった滑り台がぽつんとあって、それを見て、自分がこのままダメになるんじゃないかと思って泣けてきた。そんな心象風景を歌った曲です」。後藤はライブでは滅多に曲の背景を語らないから、会場はしーんと聞き入る。
「告知をします。今、宮古や石巻にライブハウスを作ろうっていう“東北ライブハウス大作戦”をやってます。物販や募金のお金が、アンプやマイクやスピーカーになる。トートバッグは、三陸の仮設住宅のお母さんたちが作った。それに僕が絵を描いてます。あれ?話が長い?醒めちゃった?」と言うと、場内から笑いと拍手が起こる。
「曲に行こう・・・あ、ごめん、次はアッパーな曲じゃないし(笑)」。
バンドとオーディエンスがしっかりとコミュニケーションを取りながら進むライブは心地よい。オーディエンスが求めるものと、バンドが表現したいことが、いいバランスで両立している。これが今のアジカンの懐の深さだ。後半は『BEST HIT AKG』の収録曲が続き、ライブはいよいよ佳境に入っていく。
中でも「リライト」、「ループ&ループ」、「君という花」と続くシークエンスは凄かった。アジカンの人気を決定付けた4つ打ちリズムのダンス・チューンは、そのまま彼らの演奏のクオリティが進化していった歴史でもある。この3曲の演奏の順番は、発表順とは逆で、そのあたりにもバンドの自負が表われていて興味深かった。「君という花」ではスクリーンにPVが映され、オーディエンスがぴょんぴょん飛び跳ねながら追っかけコーラスを歌い出す。本編は「海岸通り」で最高にヒートアップして終了。
アンコールは、ニューシングル「踵で愛を打ち鳴らせ」から。繊細なアンサンブルは、CDのサウンドを見事に再現している。この曲をレコーディングしたときのメンバーの手応えが伝わってきて、感動的だった。さらに、太いビートの「新しい世界」では大きなスクリーンにメンバーが映し出され、エンディングでは武道館の灯りがすべて点されて9500人の笑顔が浮かび上がった。
鳴り止まない拍手に、もう一度、メンバーが登場。いきなり後藤がひとりで未発表曲をギターで弾き語り始めた。震災に当たって後藤が感じた音楽の無力さと、そこからの出発を歌った曲だ。メンバーは緩やかに、それに合わせる。会場は聴き洩らすまいと歌詞の一句一句に耳を傾ける。
「今日はどうもありがとう。もう1曲やります。『新世紀のラブソング』!」。シーンのオピニオン・リーダーにふさわしいメッセージを持った名曲が、武道館いっぱいに響く。震災を経ても色褪せないリリックが、文字どおり♪恵みの雨♪のようにフロアに降り注ぐ。素晴らしいベストライブになった。
「今日はどうもありがとう」と深々とお辞儀をする後藤の姿が、88台のモニターに映し出されて、ライブは終わった。
ちなみに、翌日の武道館2日目のダブル・アンコールは初期の傑作「遥か彼方」と「羅針盤」だった。バンドの成熟を示すコンセプチャルな「新世紀のラブソング」とは対照的な選曲で、どちらも揺るがないバンドのスタンスを表わしていて、小気味よい2DAYSになった。
【取材・文:平山雄一】
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リリース情報
セットリスト
- 迷子犬と雨のビート
- Re:Re:
- アンダースタンド
- 君の街まで
- 夜のコール
- アフターダーク
- 或る街の群青
- ブラックアウト
- 真冬のダンス
- ムスタング
- ソラニン
- マーチングバンド
- 惑星
- 融雪
- 藤沢ルーザー
- リライト
- ループ&ループ
- 君という花
- さよならロストジェネレイション
- 海岸通り
- 踵で愛を打ち鳴らせ
- 転がる岩、君に朝が降る
- ワールド ワールド ワールド~新しい世界
- タイトル未定(新曲)
- 新世紀のラブソング