初の日比谷野音ワンマン。plentyの全国ツアーがスタート
plenty | 2012.04.20
18時少し過ぎの日比谷野外大音楽堂。まだ仄かに空は明るく、鳥のさえずりが周囲から聞こえてきたりもする。そんな空間でライブをスタートしたplenty。ツアー初日であるためセットリストの詳細は記さないが、最新アルバム『plenty』の収録曲を中心としつつ、過去の作品の曲も交えた内容で展開した。照明やマイクを除くと、ステージ上に置かれていたのはドラムセット、ギターアンプ、ベースアンプのみ。シンプル極まりないステージで江沼郁弥(vo,g)、新田紀彰(b)、サポートメンバーの中畑大樹(Dr)の演奏が豊かな情感、物語、風景を紡ぐ様が、ただただ圧巻。夢のように心地よい体験であった。
ひたすら曲を演奏するplenty/腕を振り上げたり激しく踊ったりするわけでもなく、じっと集中しながら曲と向き合い続ける観客……いつもの通りの独特なムードのライブであったが、この日の野音はいつにも増して特別なものがあった。ようやく桜が満開を迎えたが、日が暮れるとまだ冬の面影を残す空気が漂っている4月初頭。ひんやりとした透明な刺激が、plentyの曲たちに抜群に美しい色合いを添えていたように思う。plentyの音楽は、リスナーの集中を誘う。曲の中に深く潜り込んで行くような感覚を届けてくれる。そういう体験をいつにも増して加速する作用が、この日の野音の空気にはあったように思う。
演奏の合間、水を飲んだりチューニングをしたりするひと時も、plentyのライブは静かだ。しかし、決して突き離しているわけではなく、むしろ非常に親密で和やか。バンドと観客が緊密に繋がり続けている。彼らのライブを一度でも観たことがある人ならば、よく知っているだろう。例えばこの日の江沼による最初のMCの雰囲気は、次のようなものであった。「今晩は、plentyです……」、暫くの間を挟み、ふと思い出したかのように「晴れて良かった……ちょっと寒いけど」とつぶやくと、観客の間に和やかな笑いが広がった。淡々としているようでいて、実は温かいこのコミュニケーションに包まれるのは、何とも言えず幸福であった。そして、随所で印象に残る江沼のMCがあったことも紹介しておこう。
「野音で初めてのワンマン。いろんなアーティストがライブをしたこのステージに立つというのは……嫌です(笑)。夢が1個なくなっちゃったから。だから本当はやりたくなかった。でも、夢は増やすこともできるからさ」。
「なんかさあ、どうですか日々生きていて? 変な意味じゃなく(笑)。俺はよくめんどくさいやつって言われる。リハーサルとかレコーディングとかですぐにワーッ!ってなっちゃうから。でも、周りの人たちは黙って見てるんだよね。前はそれが嫌だったけど、最近、それが素晴らしいことだと思いました。ベートーヴェンの言葉で“優れた人間ほど苦しい境遇を耐え忍ぶ”っていうのがある。周りの人を尊敬する。これからもよろしく。話、まとまっている(笑)?」。
正直さ、素直さがありのままに滲むこれらの言葉は、江沼が書く曲の実像と重なる。plentyの音楽の源泉に触れたような気がするMCであった。
plentyのライブはいつもであれば本編のみで、アンコールは行わない。しかし、この日は歓声に応えて再登場した。「アンコールをやろうか迷ったけど、やろうと思って。盛り上がる曲じゃないけどサービス……じゃないな。誤解しないで」という言葉を江沼が添えて聴かせた曲は、この日、この場所で聴くのに実にふさわしいものであった。
「また会いましょう。さよなら」、演奏を終えた彼らは手を振り、一礼してステージを後にした。今回のツアーが充実したものとなる予感を、終始示したライブであった。plentyは現在、まさに全国の各地を回っている。観る機会がある人は、ぜひ足を運んで欲しい。忘れられないひと時を過ごせるはずだ。
【取材・文:田中大】
【撮影:柴田恵理】
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