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野外ならではの趣向も凝らし、地元・横浜でツアーの完走を果たした小田和正

小田和正 | 2012.06.07

 横浜の観光名所のひとつ、赤レンガ倉庫の海側に位置する赤レンガパーク。細長い地形を考慮して、客席のエリアの真ん中にステージが設けられ、さらに入場口から見て前後に長い花道が設置されている。「なるべくお客さんの近くに行きたい」という、小田のコンサート方針に沿ったレイアウトだ。この日の観客数は12000人。潮風が心地よい中、「グッバイ」でスタートする。開演前、自分の座席はセンター・マイクに対してどの方向なのだろうと不安に思ったが、いざ始まると杞憂に終わる。静かにステージが廻り始めたからだ。ワン・コーラス目の中頃には、小田の姿が自分の真正面を通過する。

 2曲目で、早くも攻めに転じる。客席に降り、揉みくちゃになりながら「ラブ・ストーリーは突然に」を歌う。ファンにマイクを向け、サビを歌ってもらう。しかしこの日の観客はいつにも増して熱狂的。駆け寄ってきた人達に囲まれ、身動きとれなくなる場面も…。

 「せっかく野外なのだからぴったりの曲を何曲か選んだ」と、そう前置きして始まったのは「Re」。確かに歌詞の中に光と風が感じられ、ぴったりだ。最近のツアーでは聴いた記憶がない「青い空」が演奏されたのは、ファンにとって特別な思い出となったことだろう。ここまで全国を回ってきた今回のツアーとは、かなり異なるセット・リストのようだ。そして周囲の景色とシンクロしたのが「たそがれ」。この日は曇りで夕日に染まる風景とはいかなかったが、野外ライヴで暮れなずむ時間帯に選曲されることの多い曲だ。

 今回のツアーは昨年の5月に始まり、延期となった東北での日程を今年の4月から回った。そのすべてのファイナルが今日だ。東北の直前に、少しでも被災した人達を励まそうと書かれたのが「その日が来るまで」だった。次に演奏されたのがこの歌で、そこには “僕には歌うことしかできないけど”という等身大の言葉が綴られていた。ここで前半は終了し、「ご当地紀行」と呼ばれるビデオ・コーナーへ。これまでツアーで回ってきた各地のオフの樣子が、ダイジェストで紹介される。ふらりと街中に現れた小田の、歯に衣着せぬ言動に会場が爆笑したりという、楽しい時間を過ごす。

 ビデオのなかの小田が、みんなで「ふるさと」を歌おうと提案し、立ち見エリアまで満員の客席が“♪わーすーれーがーたきぃ”と応えると、ここからライヴの後半戦が「僕らの街で」でスタートする。「やさしい雨」では演奏を務めるファー・イースト・クラブ・バンドとストリングスの面々が、楽器だけではない才能、コーラスの見事さを発揮する。そして無数のしゃぼん玉が舞うという、野外ならではの演出も。小田やバンドのメンバーは、可能な限り花道を渡り、すべての席の人々と密にコミュニケーションしようとする(アンコールの時に一番遠くまで移動して観てみたが、小田がすぐ近くまで来てくれる感激はひとしおだった)。

 「Yes-No」のイントロのサックスの咆哮は、さらなる熱狂への扉を開ける。「キラキラ」の後半では、さほど幅のない花道を、なんと小田が自転車に乗って疾走し始めるではないか! 観客は驚きとともに大歓声でその姿を迎えた。この曲をぜひこの場所で聴きたいという、多くの人々の期待に応えるように歌われたのが「my home town」だ。地元・横浜への想いを歌ったもので、スクリーンには十代の頃の小田の写真も。最後に「hello hello」。澄みきった歌声が夜空に溶けていく。ただ、そのあと始まったアンコールは、なんと計7曲という大ヴォリームだったのだ。

 軽快なラテン調の「またたく星に願いを」からスタート。小田にしか作れないであろう独自のスケール感を持つ「YES-YES-YES」。そしてさきほど歌った「その日が来るまで」を、ここで再度、演奏することとなる。柔らかなストリングスの響きと小田の歌声…。この時、闇に包まれていた客席が、光の絨毯と化し、静かに揺れ始める。実は出演者には知らされていなかったスタッフの計らいに、事前に配られたサイリュウムで協力したものだった。歌い終わった小田は「驚いたね」と、素直に心境を言葉にした。そして日本という国の行く末も案じつつ「生まれ来る子供たちのために」を聴き、この日のライヴはすべてのメニューを終了と思いきや、「さっきあまりに素敵だったので」と、小田がもう一度「その日が来るまで」をやろうと提案する。そして会場に歌声が響く。この日のライヴのひとつの目的は、心をひとつにしてこの歌を全員で歌い、想いを東北へ届けることだったのかもしれない。でも歌い終わっても名残惜しそうに、“♪君が好き 君が好き”と、声をマイクに乗せていた。

 昨年スタートした『”どーも どーも” その日が来るまで』の全日程は、こうして終了した。総動員数は74万人。
MCの中で、「今回のツアーは自分にとって、これまででもっとも意義あるものだった」とハッキリ語っていた小田。でも手応えを感じたのなら、次は必ずそれを越えようとしてきたのが彼の音楽人生だ。さらなる新曲を携え、ステージに戻ってくる日も遠くはないだろう。

【取材・文:小貫信昭】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 小田和正

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リリース情報

どーも

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2011年04月20日

アリオラジャパン

1. 君のこと
2. グッバイ
3. 若葉のひと
4. hello hello
5. 誰れも どんなことも
6. こたえ
7. やさしい雨
8. さよならは 言わない
9. 今日も どこかで
10. 東京の空

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セットリスト

  1. グッバイ
  2. ラブ・ストーリーは突然に
  3. こころ
  4. 正義は勝つ
  5. Re
  6. 青い空
  7. たしかなこと
  8. 緑の街
  9. たそがれ
  10. その日が来るまで(新曲)
  11. Medley
    (1) 僕らの街で
    (2) 愛を止めないで
    (3) the flag
  12. やさしい雨
  13. Yes-No
  14. キラキラ
  15. 伝えたいことがあるんだ ?19の頃
  16. 今日もどこかで
  17. 東京の空
  18. my home town
  19. hello hello
ENCORE
  1. またたく星に願いを
  2. ダイジョウブ(HALF ver.)
  3. 言葉にできない
  4. YES-YES-YES
  5. その日が来るまで(新曲)
  6. 生まれ来る子供たちのために
  7. その日が来るまで(新曲)

お知らせ

■ライブ情報

HIGHER GROUND 2012~FINAL~
2012/07/29(日)海の中道海浜公園 野外劇場

情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMMER TIME BONANZA’12
2012年8月11(土)夢の島公園陸上競技場

靫公園MUSIC FESTA FM COCOLO~風のハミング~
2012年9月15(土)靱公園センターコート特設会場(大阪市西区靭本町)

※その他ライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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