「コブクロが帰ってきたぞーっ！」

　ステージ袖から飛び出してきた小渕の第一声。黒田は両手を高く掲げながら現れた。「おかえりー！」と5万人の大歓声に迎えられ、ライブは「轍」からスタート。この瞬間を待ちに待っていたみんなの手拍子と歌声が、とてつもないパワーとなってステージに向けられている。「潮騒ドライブ」では、青空の下で大きく手を振りながら心地よいメロディーを堪能した。

「このステージに立てるのを本当に楽しみにしてました。復帰第1弾をフリーライブという形にしたのは、僕らが始めたストリートライブもいわばフリーライブだから。もう一度始める時もストリートと同じようにやりたくて、この場所にしました。今日はどうかストリートを見に来たと思って楽しんでくれないですか!?」

　小渕が投げかけた言葉で、会場の空気は一気にリラックス。ステージと客席エリアに実際の距離はあっても、心の距離はすごく近くに感じられる。２人のハーモニーが際立つ「未来への帰り道」、爽やかな風を感じながら体を揺らした「コイン」。とてもアットホームなムードだ。MCになると、小渕は「暑いね、大丈夫？」とお客さんの体調を気遣いながら何度も感謝の言葉を口にしていたが、一方の黒田は「暑ない！今度暑い言うたらそのベスト脱がすからな(笑)。暑いくせにベスト着やがって」と、この日も小渕の衣装をいじり倒す(笑)。オープニングからすでに炎上していた衣装バトルだが(笑)、1年ぶり、感動の復活ライブもやっぱりいつものコブクロらしく進んでいった。

　ライブ後半、まずは小渕が友人のために書いたという「手紙」、迫力の歌声に会場中が圧倒された「流星」、そして壮大な世界観を描いた「To calling of love」。黒田の優しくて力強いボーカルに小渕の声がそっと重なっていく瞬間には、どの曲であっても、何度耳にしても、鳥肌が立つような感動がある。この「To calling of love」は、エンディングに向けた黒田の素晴らしいフェイクが圧巻だ。この日一番と言っても過言ではない、拍手喝采。しかしこの後、黒田がおもむろに喋り始めた。

「…謝らなければならないことがあります」

　会場はざわめき、小渕も何のことかはわかっていない表情。

「僕、あれだけリハしてきたのに…、マイク持ち替えるの忘れてました(笑)！なんか俺、緊張してたんかもー(笑)！こんなこと今まで１回もなかったのにー(笑)！」

　なんでも最初の2曲をワイヤレスのマイクで歌ったら有線に持ち替えるはずだったのに、すっかり段取りを忘れてしまっていたのだという。10年以上歌ってきて初めてだという黒田の痛恨のミスに会場は大爆笑となったが、この日のステージに対する素顔の気持ちを垣間見たようで、結果的にはなんだかグッと来るハプニングとなっていた。

　いよいよライブも終盤戦。1年分の思いをぶつけ合うように、「Summer rain」、「神風」、「memory」と会場がひとつになって盛り上がった。そしてアンコール。「この歌を作った時も僕らはもしかしたら立ち止まっていたのかもしれない。迷っていたのかもしれない。でも…」と、声を詰まらせる小渕。 「休みに入って2?3か月は何していいかわからなかったけど、人伝いに、「黒田が待ってるよ」と聞いて。黒田もちょっとずつ音楽の勉強したりしてお前を待ってるから頑張れと言われ、そうか…、そうなんだと思ったらみんなの顔が見えてきて…今日ここに辿り着きました。ありがとう！」

　アンコールの1曲目は「YELL?エール?」。もう一度ここからという思いが詰まったこの日の歌には、言葉では表わしきれないほどの感謝と決意が込められていたように思う。アンコールの2曲目、ファン投票でも堂々の第1位を獲得した「ココロの羽」ではスクリーンに歌詞が映し出され、5万人が手を繋いで一緒に歌った。曲の後半になるとまず小渕がギターを抱えたままステージから降り、続けて黒田も歌いながらみんなの元へ。小渕は広大な客席エリアをほぼ一周する勢いで走り回り、短い時間ではあったが、本当の意味でのストリートライブの距離感を共有することが出来た。

「これからもよろしく、ありがとう！コブクロでした！ありがとう！」

　途切れることのない拍手の中、感謝の気持ちを込めた２人の長い長いお辞儀が続いた。コブクロの音楽が、またここから動き出す。記念すべきその瞬間を共に過ごせたことを誇りに思うと同時に、音楽に対する、またファンに対する２人の真っ直ぐな心にあらためて感動させられたフリーライブだった。

【取材・文：山田邦子】