SEが流れる中、ステージに現れた江沼郁弥（Vo・G）、新田紀彰（B）、サポートドラムの中畑大樹（VOLA & THE ORIENTAL MACHINE）。各々に準備をした後、スタートした1曲目は「蒼き日々」。奥行き深い世界を描き出す3人のアンサンブルが美しい。2曲目は「ACTOR」。新田による印象的なベースラインが先陣を切り、シャープなビート、骨太なギターリフが合流する様が刺激的であった。そして、「最近どうなの？」「おりこうさん」「DRIP」……豊かな質感のサウンドが次々奏でられ、客席にいる我々の集中力はどんどん研ぎ澄まされていく。plentyのライヴは飛び跳ねたり、拳を振り上げたりといった盛り上がり方はあまり起こらない。身体を激しく動かすよりも、じっくり耳を傾けながら心の奥底を熱く沸き立たせたくなる。そういう醍醐味を、前半戦の時点で改めて強く感じた。

　そして、いつものライヴと同様、曲間で何かが語られることもほとんどなかった。この日、江沼が最初に喋ったのは、6曲目「能天気日和」を始める前のインターバル。暫くの沈黙の後、ふと彼が発したのは一言、「今晩は。plentyです」。その後は何も喋らず、ひたすらギターのチューニングに没頭し、「次行きます」と演奏をスタート。しかし、素っ気ない印象は全く受けなかった。音楽にじっくり向き合う喜びがひたすら我々を満たし、親密な一体感が場内いっぱいに広がる。起伏に富んだ展開が刺激的だった「理由」。透明感溢れるメロディを響かせた「人との距離のはかりかた」。シャープなビートを刻んだ「少年」……などなど、あらゆる曲がかけがえのない魅力を煌めかせていた。「枠」が怒涛のエンディングを迎えた時、観客達は大きな拍手を彼らに送った。

　サンドアートグループSILTが追加制作したパフォーマンス映像がステージ上に投影された「空が笑ってる」、青空と砂浜の風景が映し出された「ひとつ、さよなら」……後半戦は視覚効果に彩られた2曲からスタート。そして、張りつめた空気を漂わせながら精緻なアンサンブルを構築した「スローモーションピクチャー」、天高く飛び立つかのようなダイナミックな展開が素晴らしかった「待ち合わせの途中」、真っ赤なライトに染まったステージ上から力強いサウンドが放たれた「砂のよう」……などなど、多彩な曲に浸り切り、客席の誰も彼もが時が経つのをすっかり忘れていたに違いない。「あいという」を演奏した後、「次の曲で最後です」と江沼が言うと、静かなどよめきが場内に広がった。「人がすごいですね。うん。楽しかったです。新田選手、何か？」、江沼に促された新田が「いっぱいですね。嬉しいです。ありがとうございます」と挨拶。その様子を見て、「いいやつです」と江沼がポツリとつぶやくと、観客の間から和やかな笑いが起きた。

本編ラストに披露されたのは「傾いた空」。エモーショナルなサウンドが会場全体を震わせ、熱いクライマックスへと雪崩れ込む。演奏を終え、ステージを後にした彼らを、観客の拍手が包んだ。その音はいつまでも止む気配がない。plentyがアンコールをやるのは稀であることを大半の観客が知っているはずだが、拍手の音はどんどん大きくなっていった。すると、ステージ袖からメンバー達が再登場。「ありがとうございます。あっ、すぐに静かになった」。拍手がピタリと止んだことを江沼が指摘すると、観客は爆笑。「気を遣わせてしまいまして（笑）。ツアーをやってきました。いろんなことがありました……あったかな？　1ヶ月くらい回りました。でも、パッと出るエピソードはないな……俺は楽しかったよ」。時折長い沈黙を挟みながら江沼が語る。すると観客から「おめでとう！」という声がかかった。「そう。誕生日がありまして。24歳になりました。本当は24になるんだけど、勘違いしていて。25になると思っていて。24を2年やるんだよ（笑）。……何曲かやります。本日は日曜日」。そして始まったのは、《キライでしょ？月曜日は...》という歌い出しの「明日から王様」。続いて、透明感溢れるサウンドの「東京」。そして、ラストを飾ったのは11/7にリリースされる最新EPの3曲目「ETERNAL」。バンドが一丸となり、大きくうねりながら展開する様に心奪われた。「ありがとうございました。plentyでした。さよなら。お元気で。また何処かで」。江沼が言い、3人がステージを後にすると、観客の間から再び拍手が起こった。あの場にいた誰もが、心地よい余韻を噛み締めていた違いない。

【取材・文:田中 大】
【撮影:岡田貴之】