クリープハイプ、ソールドアウトとなった東京キネマ倶楽部2DAYSライブ。その2日目の模様をレポート!
クリープハイプ | 2012.12.06
クリープハイプに、東京キネマ倶楽部はよく似合う。ステージの左サイドに設置された“飾り階段”や、ステージ背後のカーテンのドレープは、クリープハイプのドラマ性に満ちた楽曲のイメージを無理なく広げてくれる。
4人のメンバーがぞろっと出て来ると、「キャー」という歓声とざわざわしたどよめきが起こる。フロントのメンバー3人がドラムの前に集まって何か確認した後、それぞれの位置に付くと、尾崎世界観がひとりでギターを掻き鳴らしながら♪嫌い 嫌い♪と歌い出す。「あの嫌いのうた」は、クリープハイプのライブの幕開けを告げるのにふさわしい歌だ。世界に邪魔され、うまくいかないことに噛みつく、愛に飢えたクリープハイプの挨拶の言葉は、「嫌い」なのだ。
その昔、孤高の天才アーティスト・プリンスの口癖は「I hate you!」だった。プリンスはいつもこの言葉を、ステージから観客に吐いていた。尾崎はプリンスほどナルシストではないが、カン高い声で“拒絶の言葉”を実にリアルに歌う。続く「リグレット」のエンディングで尾崎が手招きすると、オーディエンスは「ウォー!」と反応して、フロアにモッシュの渦が巻き起こったのだった。
「こんばんは、クリープハイプです。昨日に比べたら、おとなしい気がしますよ。こっちはただの“2日目のライブ”にする気はないので、協力よろしくお願いします」と尾崎は東京2DAYS2日目の客をいきなり挑発する。続く「蜂蜜と風呂場」は、「ハチミツとクローバー」の作者が聴いたら腰を抜かすようなエロく切ないナンバー。これを若いオーディエンスが尾崎と一緒に歌うのを見ていると、不思議な気持ちになる。この時、尾崎はこの日初めて、にこりと笑った。彼の右頬のエクボから目が離せない。
タイトな小泉拓のドラム、エモーショナルな長谷川カオナシのベース、鋭くカラフルな小川幸慈のギター、そしてそれらを引き裂く尾崎のボーカルは、自信に満ちている。バンドのパワーが爆発したのは、中盤だった。長谷川がハモったり、時にはリードボーカルを取ったりしながら、4人は一体感を増していく。中でも「転校生」は、ギリギリの孤独感を描く秀作。ワンコーラス目の途中で、突然、尾崎が歌うのを止めた。「ギターが出ない」とスタッフの方を振り向く。会場に緊迫した空気が張り詰める。「あ、コードが抜けてただけだ」と尾崎に笑顔が戻る。何事もなかったように、最初から演奏が始まる。一見、バンドも観客も和気あいあいで盛り上がっているように見えるが、その下には互いの緊張感があって、急上昇まっただ中のバンドらしいライブなのだと改めて思い知った。
そんなテンションの中、クリープハイプはライブを力強くリードしていく。会場はモッシュに加えてダイブも始まる。が、若い女性オーディエンスが前に詰めかけているせいか、しばしばダイブの下の人垣が崩れて危険な場面もあったりしたが、あっという間に18曲目の「SHE IS FINE」までを歌い切った。
「ひとつ、話があります。イヤな感じになるのを承知で言います。ライブ中に一緒に歌ってくれる気持ちはありがたいけど、僕の歌を100%聴いて欲しい。クリープハイプの歌は、僕ひとりで大丈夫だから、信じて聴いてください。死ぬ気で歌ってます。どうぞ、よろしくお願いします」。会場は、尾崎のこの衝撃的な言葉を、息を呑んで聞いている。「残り2曲、一生懸命、歌います」。
そして「オレンジ」に続いて、尾崎が最後に歌ったのは、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」だった。以前、インタビューで「これが最後の歌だったらって思ってる自分を、外から客観的に見たらって考えて書いた」と尾崎が語っていたこの歌は、“他人と一緒に歌う歌”ではない。先の衝撃発言の後だけに、それが身に染みてわかる。声を出さずに、尾崎の歌に合わせて口を動かしている男性オーディエンスがいる。歌に聴き入りながら、涙が頬を伝っている女性オーディエンスがいる。感動的なライブ本編の終わりだった。
アンコールで尾崎はさらに言う。
「アンコール、ありがとう。最近、『クリープハイプはメジャー・デビューして変わったな』とか『大人のいいようにされてる』とか言われがちだよ。でも、そんなことはない。このバンドを信用してくれて大丈夫。そんなに簡単に変われるんだったら、メジャー・デビューに10年以上もかかってないから。だから、そういう新曲を作ったんですよ。やり残したことがあるなら、それを取り戻す。そんな気持ちで歌います」。
痛快なビートに乗せて大量の言葉を吐くAメロと、大声で愛を叫ぶサビを持つ新曲に対してオーディエンスは初めて聴いているとは思えない激しいリアクションで応える。尾崎の音楽に賭ける姿勢と、新曲リリースが楽しみなアンコールとなった。
バンド自身も、オーディエンスとのコミュニケーションも、激動期にあるクリープハイプの“現時点での最高”を提示した東京キネマ倶楽部2DAYSの2日目だった。
【取材・文:平山雄一】
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