amazarashiの渋谷公会堂でのライブをレポート!
amazarashi | 2012.12.12
amazarashi。
青森県むつ市在住の秋田ひろむ(Vo/G)を中心としたバンドである。聴く者に容赦なく切り込んでくるシリアスな歌詞、そのメッセージ性、アカデミックで誠実なメロディー、曲調に関係なく緊張感をキープするサウンド、キーボードの繊細でロマンチックなフレーズ、ジャケット&アーティスト写真替わりのイラストや映像の独特の世界観は、メジャーデビュー以前からかなり注目された存在だった。2011年ファースト・フルアルバム『千年幸福論』をリリースしてからも、メディア露出はほとんどなく、その実体は、以前ベールに包まれたままであった。
そんな中で、彼らが“バンドとしての存在の確かさと稀有さ”を強烈に印象付けたのがライヴである。
2012年初頭。前述したアルバムのリリースを受け、渋谷公会堂でワンマンライヴを敢行したamazarashi。即日完売したこの日のライヴは、サウンドとライティング、そしてステージ全面を覆ったスクリーン替わりの紗幕に映し出された様々な映像、さらには宙づりにされた本物のピアノなどで作りだした異空間が、聴き手に絶大なインパクトを残しイマジネーションを刺激し続けるものだった。秋田ひろむという表現者の自我が、目の前で次々と剥き出しになっていく、壮絶なハイクオリティーのライヴであった。しかも、この日が彼らにとって3度目のライヴだったということを後に知り“このストイックさをキープするのは、精神的にもきついだろうな、ライヴを重ねるのはなかなか難しいんじゃないか”と思ったのが正直なところだ。
しかしながらそれは杞憂だった。
重ねて正直、余計なお世話だった。amazarashiは、タフだった。想像以上、否、これまでのセオリーを覆すくらいに。
2012年。彼らは、春に前述した『千年幸福論』ツアーの追加公演を東京&大阪で開催。6月にセカンドフルアルバム『ラブソング』を発売し、夏には東名阪ツアーを展開。追加の福岡公演も含め全国4カ所でライヴを行った。このライヴも東名阪でチケットが完売した。
そして2012年11月30日。金曜日。
amazarashiは、再び渋谷公会堂に出現した。
暗転。会場の中をぐるぐると足音が回る。前回の渋谷公会堂には無かったサラウンドシステムの演出で、期待感を一瞬で鷲掴みにされた。もう耳も目も脳も気持ちも、完全に彼らにロックオンされた状態だ。最初の数分、否、1分以内に、観客をロックオンできる……つまり、自分達の世界に引きずり込むことができるのが、amazarashiというバンドの実力だろう。観客に甘えない姿勢が、スバ抜けたクオリティーにつながっている。さらには、ロックオンされたまま最後まで絶対に離さないスリリングさが、彼らのステージの最大の魅力か。ステージには紗幕。そこに、断片的に映像が映し出されていく。まだ全体像は見えない。チラリチラリと、照明が視覚に入ってくる。歩いていた足音が駆けだす。映像と照明、音響がリンクしていく。秋田ひろむのポエトリーリーディング。「冬が来る前に」。そして「初雪」へ。映像は、アニメーションの女の子。モノトーンの彼女が吐く、白い息。目を凝らせば、紗幕の後ろ、少女の口元から、Co2(おそらく)の白い煙が出ている。イラストが少しずつ色をつけていく演出も印象的だった。「奇跡」では、歌に合わせて、歌詞を形成する言葉の数々が、ステージ空中に浮かびあがっては消えていく。この手法は、彼らのライヴ中、多彩なバリエーションで登場するamazarashiライヴの象徴的な映像手法であるが、この日は、ライティングとばっちりリンクしていて、非常に鮮烈だった。繰り返される ♪ 奇跡 ♪ という言葉が、血のように真っ赤に染まったステージに溶けるように消えていく様は、理想が現実の中に沈んでいくような刹那をイメージさせた。
この“壮絶なハイクオリティー”を堪能するには、観る側にも相当の腹の括りとタフさが必要になる。メンバーの表情もほとんど見えず、MCもヒトコトで1回だけ。徹底的に、気軽さやフレンドリーを排除しているからだ。ゆえに、敷居が高い。彼らは、気軽さを必要としているバンドではないし、それでも今現在、渋谷公会堂クラスを即完できるのだから、実績も十分だと思うが、秋田ひろむは、今よりもっと広い世界に、amazarashiの空間を持っていこうとしているのではないかと思った。
そう感じたのは「ラブソング」から「夏を待っていました」の流れ。映像ではオリジナルのアニメーションが展開されたが、「ラブソング」はシリアスなストーリーが感覚と感情にドスンと降りてくる内容。エンディングの“救いのなさ”が、今の日本の現実と重なると思ってしまったのは、それだけ彼らの作った世界観が完成されたものだったからだろうか。それとも私の深読みか。でも深読みもamazarashiのライヴの醍醐味だしな。続く「夏を待っていました」では、前曲に登場したあるキャラクター(ちょっとネタばれすると、てるてる坊主です。しかもヒーローです)の原風景を想像させるストーリー。楽しかった子供の頃の思い出を優しくなぞり、最後に希望の象徴ともとれる花を咲かせるシーンがあったが、このシーンで、咲いた花の中心に、ステージの中心にいた、秋田ひろむの姿が浮かび上がった。
これだけ鮮明に“自分の姿”を印象付ける方法は、新境地だったと思う。歌と映像に連続性を持たせる事で世界観をわかりやすくデフォルメした演出の中に、飛び出してきた秋田ひろむの実像。既にある程度完成している世界観に、違和感なく実体を入れ込むためのアイデアだったのではあるまいか。
このアイデアは、別のシーンでは、このように構築されていた。
ライヴの終盤。「真っ白な世界」。空中に浮かぶスノードーム。中では雪だるま達が遊んでいた。間奏でスノードームが徐々に大きくなり、ステージ上をスノードームが覆ってしまった。スノードームの中で演奏するメンバー達。ステージを駆けまわっていた雪だるま達は、最後には、メンバーと重なることなく、ドラムを挟むようにして止まった。ステージの広さやメンバーの立ち位置まで計算された映像の精度に驚くと同時に、彼らのライヴでは珍しいキュートな見た目が新鮮だった。季節柄+ロマンチックなメロディーとの相乗効果で、キャッチーこの上ない視覚効果だった。こういう側面を印象的に打ち出す事ができるようになったのは、ライヴを重ねた自信と新たな欲求が出てきたからなのではないかと、私は思っている。
バンドの実像が、少しずつ見えてきた。否、実像を少しずつ見せてきた。この2つのシーンに代表される取り組は、amazarashiの次なる展開へのヒントになるのではなかろうか。
最後の曲は「終わりで始まり」。秋田ひろむは、ステージにただ一人残り、アコースティックギターの弾き語りで披露した。
暗転するステージ。静寂と闇が包む会場。席から動こうとしない満員の観客から、しばらくすると大きな拍手が起こった。
最後に、この日、唯一の秋田ひろむのMCを紹介しておこう。
「ありがとうございます。あの……amazarashiもこの先、どうなるかわかんないですけど、いけるところまでいってみようと思います。……今日はありがとうございました」
2013年。5月から6月にかけ、東名阪のツアーが決定している。
【取材・文:伊藤亜希】
リリース情報
セットリスト
amazarashi LIVE「0.7」
2012.11.30@渋谷公会堂
- 冬が来る前に
- 初雪
- ワンルーム叙事詩
- 奇跡
- 空っぽの空に潰される
- カラス
- さくら
- ピアノ泥棒
- つじつま合わせに生まれた僕等
- ラブソング
- 夏を待っていました
- ハルルソラ
- 美しき思い出
- 真っ白な世界
- クリスマス
- 終わりで始まり Acoustic
お知らせ
amazarashi LIVE TOUR 2013
2013/05/31(金)渋谷公会堂
2013/06/08(土)なんばhatch
2013/06/09(日)名古屋ダイヤモンドホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。