前作『MILESTONE』から1年半ぶりとなるニューアルバム『It’s A DRAMA』のリリースを翌週に控えたPUSHIMが開催した一夜限りのプレミアムなライブが、恵比寿のリキッドルームで行われた。

フロアは既に、ジャパニーズレゲエ界の大先輩、RANKIN TAXIがセレクターのMartin-Kinooの飛び入りMCとして充分あっためており、おのおの自分らしくオシャレした女性や、意外と文系チックな男性も入り交じり、RANKIN兄さんの「PUSHIM 出てこーい！」に呼応する。とてもアットホームなムードだ。そこへグリーン系のトップスと赤いパンツ、腰にはタオルを巻いた装いでPUSHIMが登場。１曲目に選んだのは実質的なデビュー曲「Brand New Day」であった。近作「夕陽」でもアップデートされた初心というべきワン・ドロップでシビれさせてくれた彼女の今のモードをリアルに映し出している。肉体をダイレクトに揺さぶるベース、カラリと乾いたギターとドラム、必要最小限のフレーズを効果的に挟んでくるキーボードという編成のタフで卓越した演奏は、艶やかでコシのあるPUSHIMの歌とともにうたっている。自身初のUstream中継ということもあり、目の前のファンはもちろん、PCの前にいる人たちにも心を飛ばしているような力強い歌唱が早くも胸を熱くする。

　イントロで女性ファンの嬌声が上がった「Strong Woman」は、醒めた関係を自ら終わらせる女性の潔さが同性にはなおのことカッコよく聴こえるのだろう。そして季節が一気に夏になるようなサウンドとAOR的な洒脱を兼ね備えた「Anything For You」からは彼女の同級生でもあり、EGO-WRAPPIN’のサポートバンド、GOSSIP OF JAXXの武島聡（Ts）が参加。「Forever」「夕陽」と、ルーツレゲエのニュートラルなグルーヴがフロアを自然にひとつにしてゆく。一人ひとりの自由な魂がそこで感応しあっているような感動的な光景だ。「夕陽」を歌う前にニューアルバムのリリースとタイトルを告知した彼女は「It’s A DRAMA」の使い方を「進学、結婚、そうや、RANKINさん還暦！“It’s A DRAMA”」、オチに「私、めでたく離婚しました！　It’s A DRAMA！」ときっついギャグ？で笑い飛ばした。

　ゆったりしたグルーヴながら渾身の歌唱を届けるPUSHIMは「楽しんでんのか?？」とフロアに問いながら、間違いなく本人が制御不能な楽しさにヒートアップしているのが見てとれる。そこへ「ゲスト呼ぼうかな？親愛なる二人組です！」とEGO-WRAPPIN’中納良恵と森雅樹を招き入れると、「ホンマに（二人と楽曲を制作したのは）勉強になって」とおなじみの生真面目さを見せる。相対して謙遜しながらも、とぼけた雰囲気の中納と、ボ・ディドリー風の四角いギターを携えた森。喋りもずっと聞いていたいぐらいのぶっちゃけた楽しさ！ドラムのカウントとホーン隊のフレーズが流れ込むと、緩やかなビートに乗せPUSHIMも中納も大地を揺るがす力強いという言葉すら凡庸に聞こえる歌声を調和させていく。PUSHIMのコシとバネのあるハスキーボイス、中納の空に突き抜けていくようなイノセントボイス…どんな悲しみや絶望の中にあっても、その瞳の熱は絶えさせない……震災後の今、おのおのが力強く生きていくために自分の中のHEATを信じるしかない。それを歌でここまで覚悟させるこの小柄なモンスター二人の底知れなさに自然と涙が溢れた。ともに尊敬し、おのおのカバーもしている美空ひばりの「リンゴ追分」（EGO-WRAPPIN’はスカタライツの「RINGO」をカバーしている）はUKマナーなスカアレンジで時空を越えた名曲として新生。歌い手としての二人の破壊力たるや！昭和歌謡の楽曲としての強度と相まって、凄まじい化学反応を起こしていた。熱狂がピークに達する中、「EGO-WRAPPIN’の曲聴きたくないかー？」と、ビッグチューン「くちばしにチェリー」が放たれ、フロアのダンスはさらに加速。全力で歌いきったPUSHIMと中納はハグで互いのパフォーマンスへの賞賛と感動を表現する。

　余力を残していない感じのPUSHIMが、再びひとりで歌ったのは「くちばし?」からの流れもいいダンスホールチューン「Jamaica Jamaica」。そして本編終盤にはニューアルバムから、彼女の決して器用とはいえない生き方や、母親への愛、そして自分にとっての歌とは？をスタンダードな趣きのバラードで表現した新曲「That’s my blues song」が静かに熱く届けられる。本編ラスト前のMCで「震災から２年経つね。私たちはそれでも日々ご飯食べて寝て、仕事してそれは素晴らしいことやけど、まだまだ頑張ろう。毎日を悔いなく生きるということが私たちの使命やろうから」と力強く話し、そして悲しみが人を強くするし、愛することをやめないでと願う「ルネサンス」で、慈愛に満ちた歌声を隅々まで行き渡らせた。歌。人間の声。その計り知れない力。

　Ustreamの中継が終わり、「ちょっと気楽に歌わせて」と本音？が出たアンコールでは、ASKAの名カバー「はじまりはいつも雨」を鍵盤のみでしっとりと歌い、アンセミックで明るい「Love This Music」で本当の終演を迎えた。

　<ジャパニーズレゲエの女王>という表現が小さく感じるほど、今の日本というある意味ゲットーのような荒地にしっかり足を踏ん張り、ここで歌うことの意思を全身全霊で見せてくれたこの日の彼女。その誰も踏み込んでいない世界観は、新作『It’s A DRAMA』が世に放たれ、浸透していくであろう今後に大きな希望を感じさせてくれるものだった。生きよう、日々を。

【取材・文：石角友香】