amazarashiの渋谷公会堂でのライブをレポート!
amazarashi | 2013.06.14
「数年前に……」
ライヴ終盤。秋田ひろむは、そう言いかけて、ふと言いよどんだ。「……いや、何でもないです」と、口をつぐむ。「喋ってよ!」と客席から声がかかる。彼らのステージには珍しく、くすくすと笑いが広がる。歓声が上がる。しかし、秋田ひろむは、しばらくの無言の後「……次の曲」とだけ言って、演奏に戻った。
この日のMCはこれだけだった。結局、彼が喋ろうとしたことが何だったかは、わからなかった。ひょっとしたら消化不良に感じた人もいたかもしれない。でも、その数秒間から僕が感じ取ったのは、愛おしさすら感じるほどの「amazarashiらしさ」だった。彼らが鳴らしている音楽はコミュニケーションへの渇望そのものだ。うまいこと社会を渡っていけない側、取り残された側、それでも膨れ上がる思いを抱えた側の人間に寄り添うのが、彼らの音楽だ。その根源の部分は、怒りと絶望を抱えて歌詞を書き溜めメロディーに乗せて歌っていたデビュー前の頃も、アルバムがチャート上位にランクインし多くの人に受け入れられるようになった今も、変わらない。そういうことを改めて感じた。
東名阪を回るライブツアー「amazarashi LIVE TOUR 2013 『ねぇママ あなたの言うとおり』」の東京公演として、渋谷公会堂のステージに立ったamazarashi。初の2days公演となった今回もチケットは両日ソールドアウト。僕が訪れたのは、追加公演として行われた6月1日。開演予定時間からしばらくして、暗転し、歓声の中ライヴが始まる。
一曲目は“僕は盗む”。半透明のステージ幕の向こう側に一列になった5人の姿が浮かび上がる。上下に動くLEDのドットイメージが色とりどりに光る演出から、アニメーションのMVが大写しになった“ジュブナイル”へ。これまでのライヴと同じく、映像をふんだんに取り入れた演出が展開される。大写しになる映像世界と、その向こう側にぼんやりと見える5人の姿、そして照明が相まって、独特の陶酔感を生み出す。曲によってはステージ後ろの幕にも映像が投射され、立体的な世界を描き出す。メディア・アートとしての完成度も、彼らのライヴの大きな魅力の一つだ。
秋田ひろむによる詩の朗読から始まった“風に流離い”では、乱雑に書きなぐったような歌詞の言葉が画面に大写しになる。一つ一つのフレーズが、鮮烈に飛び込んでくる。二日連続のステージで喉を酷使していたせいか、秋田ひろむの歌声はかつてなくしゃがれていて、しかしその分、必死さを伴って響く。
セットリストは、最新アルバム『ねぇママ あなたの言うとおり』を中心に、『千年幸福論』『ラブソング』の2枚のアルバム、そして『0.6』『爆弾の作り方』『アノミー』というこれまでの作品から幅広く選ばれた楽曲群。“つじつま合わせに生まれた僕等”や“光、再考”など初期の曲も披露された。特に印象的だったのは中盤の“ラブソング”からの流れ。激しく明滅するフラッシュが眩しい “デスゲーム”、そして轟音ギターのインターバルから雪崩れ込んだ“ムカデ”。荒々しく歪んだサウンドが、バンドのタフネスを感じさせる。再びドットイメージが灯され、LEDが羽ばたく鳥の形に転じた“春待ち”も美しかった。
終盤は、“未来づくり”から“パーフェクトライフ”へ。amazarashiのナンバーの中でも、包容力のあるメロディーを持った優しい楽曲だ。そして、ステージ後ろで松明の炎が燃え上がった“カルマ”へ。その後に、冒頭に書いたちょっとしたハプニングがあった。
秋田ひろむは、動揺していたようにも感じられた。その後に突入した“この街で生きている”では、ちょっと声が上ずっていた。歌詞を飛ばした箇所もあった。でも、そんな全てを含めて、この日のamazarashiのライヴはそれまでになく生々しかった。ラストは、この日に披露した全ての曲が走馬灯のように巡る映像が鮮烈な“性善説”。胸を揺さぶられるような強い余韻を残して、この日のステージは幕を閉じた。
8月には初のフェス出演となる「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO」への参加も決定している。amazarashiは、彼らなりのやり方で、少しずつ外へと開けてきている。その見据える先が、とても楽しみだ。
【取材・文:柴 那典】
リリース情報
セットリスト
amazarashi LIVE TOUR 2013
「ねぇママ あなたの言うとおり」
2013.6.1@渋谷公会堂
- 僕は盗む
- ジュブナイル
- アノミー
- 空っぽの空に潰される
- 風に流離い
- つじつま合わせに生まれた僕等
- 光、再考
- ラブソング
- デスゲーム
- ムカデ
- 春待ち
- 未来づくり
- パーフェクトライフ
- カルマ
- この街で生きている
- 性善説
お知らせ
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO
2013/08/16(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。