クリープハイプ、中野サンプラザホールに挑む。
クリープハイプ | 2013.07.05
メジャー・デビュー以降、目覚ましい成長力を見せているクリープハイプの最新ツアー、「クリープハイプの窓」のファイナルを中野サンプラザで観た。
このところのクリープハイプは、ちょっとクセのあるバンドのテイストを変えることなく、独自のポップを開拓するシングル作りを目指してきた。一方でバンド内部に目を向けると4人の関係性が変化して、いい意味で互いに競い合うようになった。その結果、より広い層のリスナーに注目されるようになり、ライブでの伝達力も大幅にアップした。迎えたファイナルの中野サンプラザは、バンド史上最大規模の会場になるが、あっさりソールドアウト。BGMが落とされ、メンバーはそのままゾロリとステージに登場する。なんの演出もないオープニングに、会場は静かな緊張感に満たされる。
ボーカル&ギターの尾崎世界観が「やりますっ!」とひとこと言って、自分のギター一本で♪嫌い 嫌い 嫌い 嫌い 嫌いと突き放したって 結局ここに帰ってくるんだよ♪と「あの嫌いのうた」のサビをイントロ代わりに一人で歌い出す。そのフレーズが終わると、尾崎が「帰ってきたよ!」と叫び、バンドの演奏が始まる。コードを掻き鳴らす尾崎、そこに色彩を加える小川幸慈のギター、長谷川カオナシのベースは太いグルーブの中心になり、小泉拓のドラムが尾崎の歌を背中からプッシュする。そうした一人一人の役割がはっきりしているので、サウンドは以前よりずっと整理されていて聴きやすい。そのサウンドから軽々と抜け出す尾崎のハイトーン・ボイスが、バンドのキャラクターを決めている。さらにそこに長谷川のハーモニー・ボーカルが加わると、男性バンドには珍しいエッジの効いたボーカル・サウンドが生まれるのだ。そんなバンドの個性を、クリープハイプはたった1曲でオーディエンスにプレゼンすることに成功した。オーディエンスはバンドのダイナミックな実像を前にしてシーンと聴き入り、演奏が終わると少し間を置いて拍手と歓声が上がったのだった。
「ありがとう! こんばんは、クリープハイプです。みんな、 緊張してる? 今日はメンバーは電車で来たんです。でもファンに見つかるとカッコ悪いから、中野の手前の高円寺で集合して、そこから車でここまで来ました。そんな感じのバンドなんで、みんなも緊張しないで、楽しんで下さい。名曲がいっぱいありますんで、どんどんやります。 最後まで楽しんでいってください」と、尾崎。
中盤の注目は「チロルとポルノ」や「蜂蜜と風呂場」などの 懐かしいナンバーが並ぶセクション。尾崎の生活観や恋愛観がむき出しになった名曲たちだ。クリープハイプはこの時期のエッジーな世界を基に、新しいポップを創造しようとしている。言ってみれば“クリープハイプの原点”がここにある。
ふと周囲のオーディエンスの口元を見てみると、これらの歌をあまり一緒に歌っていない。それで、彼らはクリープハイプの以前のアルバムをあまり聴きこんでいないことがわかる。ライブ会場が急に大きくなったことを反映して、初めてクリープハイプを観に来た人が多いのだろう。しかし、クリープハイプの歌を聴く彼らの表情は真剣そのもので、これからバンドとともに音楽を楽しみながら成長していく大切なファンになっていくだろうことが想像できた。それはこの“クリープハイプの窓”ツアーのテーマである「バンド活動の基礎を固めるために、多くのリスナーにバンドの魅力を知ってもらう」ことと一致していて、このツアーの成功を意味していたのだった。
「みんなもバイト行ってるときとか、悔しい思いをしていると思う。僕もそんなとき思ったことを歌にしてみました」と、「明日はどっちだ」が始まる。これもまた、クリープハイプの姿勢の原点になっている。思うようにならないこと、それに対して無力な自分を、クリープハイプはずっと歌ってきた。
夢の中で出会った女性に恋する男を描いた「ATアイリッド」では、長谷川がリードボーカルを取る。「みなさん、寝るのは好きですか? 私は起きてるのと同じくらい、寝るのが好きなんですが、そんな歌を書きました」というMCに笑いが起こる。終わると尾崎が、「こんなところでライブができるなんて、本当に夢の中にいるような感覚ですよ」。
ここからライブは終盤へ。クリープハイプ初体験のオーディエンスが多いだけに、怒涛の盛り上がりとはいかないが、終始バンドがリードしてサンプラザは熱くなっていく。
尾崎は、急速に膨れ上がった状況に戸惑いもあったと言いながら、「今、目の前にいる人たちを大事にすると決めた」とステージで語る。その人たちのために、「1本1本終わるたびに、次のライブに向けてメンバー同士で真剣にミーティングをしました。いいツアーだった。これからも全力でやります」。
アンコールでは、間もなくリリースされるニューアルバム 『吹き零れる程のⅠ、哀、愛』のラストを飾る「傷つける」をじっくり歌う。ダブル・アンコールの心に沁みるラブバラード「さっきの話」では、尾崎の刻むギターのリズムが素晴らしく、バンドとしての成長と並行して、個々のパフォーマンスの成長も感じられて頼もしかった。そしてなにより、クリープハイプのちょっと変なラブソングが、これだけ多くのオーディエンスの心を打ったのが、いちばん感動的だった。
【取材・文:平山雄一】
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セットリスト
クリープハイプの窓
2013.6.21@中野サンプラザホール
- あの嫌いのうた
- 週刊誌
- SHE IS FINE
- 左耳
- ABCDC
- 愛の標識
- HE IS MINE
- チロルとポルノ
- 風にふかれて
- 蜂蜜と風呂場
- グレーマンのせいにする
- 明日はどっちだ
- おやすみ泣き声、さよなら歌姫
- オレンジ
- 憂、燦々
- ATアイリッド
- イノチミジカシコイセヨオトメ
- 手と手
- ウワノソラ
- 身も蓋もない水槽
- 社会の窓
- 傷つける
- さっきの話
お知らせ
Talking Rock! FES.2013
2013/07/19(金)なんばHatch
rockin’on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013
2013/08/03(土)国営ひたち海浜公園
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO
2013/08/16(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
Re:mix 2013
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SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2013
2013/08/31(土)山中湖交流プラザ きらら
OTODAMA’13 〜音泉魂〜
2013/09/07(土)大阪・泉大津フェニックス
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。