“ヤツらはホント、遊び場作りの名人だなぁ...”
　かりゆし58のライヴを観る度にそう思う。この場合の遊び場とは、アミューズメントパークや遊園地といった類の、全てが与えられ、それに従っていれば自然と楽しみに行き着くものとは違う。どちらかといったら人力で遊ぶ遊具だけがポンと用意されていて、それを各々が好き勝手に使い、遊び、自らで楽しみを作り出すタイプ。ステージから楽曲という名の遊具と、ライヴ会場というフィールドが用意され、そこで各々が自分次第に楽しむ。なんかそんな遊び場だ。
そしてこの日、代官山ユニットにて行われた、仲良しバンドの四国の四星球(スーシンチュウ)の主催2マンライヴ『四星球方向性会議　?島人、海人、四星人?』でも、かりゆし58は、素敵な遊び場を我々に提供してくれ、彼らの放つ、シチュエーションと物語性豊かな楽曲の上、みんなが思い思いに歌い、踊り、楽しんだ。

　この日の彼らは、登場した時点から、その持ち前の大らかさを全開にしていた。そこが地下のライヴハウスであることをすっかりと忘れてしまうぐらいの、ダイナミックな楽曲で、我々に広い広い遊び場を提供してくれた彼ら。1曲目は「アンマー」だった。彼らの代表曲にして、昔から人気の高い、母親に対するリスペクト感たっぷりのナンバーだ。1曲目から、この曲の登場には、少々意外な気もしたが、初見の人も多いであろうこの日に、多くの人が既知のこの曲は、逆につかみにぴったりの気もした。レゲエ調のダウンビートに乗せられ、ゆったりじわじわと染み込んでくる同曲。通常のライヴハウス以上に、クラブでも対応できるようにと、ミッドとローの効きが非常に良い、この日の会場に、同曲が心地よく響き渡る。上手(かみて)ギターの新屋行裕のギターソロが、ゆっくりと楽曲の景色を広げていく。「やりましょうか?!　遊びましょか?!!」と腕を挙げ、会場に一緒に遊びを誘うボーカル&ベースの前川真悟。そこから入ったアウトロでは、下手ギターの宮平直樹のカッティングと、ドラムの中村洋貴のシャープでタイトなドラミングにて、楽曲に更なるエンディング風景が加わっていく。続いては一変。これまた初期の曲、「愛と呼ぶ」が会場にタオルの大旋回を巻き起こす。ここでは宮平のダウンカッティングが冴え、会場に疾走感を寄与。勢いのある曲に引っ張られるように会場全体が楽しそうにバウンスを始める。1曲目にダイナミズムと心にジーンとくる、彼らの面目躍如な曲、そして2曲目に彼らのもう一つの真骨頂と言える、バードエッジで疾走感のある曲が飛び出し、そのふり幅広いナンバーの連発に、早くも会場は、提供された彼らの広い遊び場で、思い思いにの遊びに耽り(ふけり)始める。

　前川がしゃべる。「みんな昨日までは別々のところにいたけど、今日、ここに集まったってことは、ここで昨日は見えなかった景色を見に来たんでしょう?」と、会場全体の＜楽しもう＞という気持ちを引き出しにかかる。続いて、会場を夏の風景へと誘い出した、現れたラテンポップが各人にそれぞれの踊りを誘発した「サマーソング」、レゲエのカッティングの心地よさと彼ら独特のスケール感を堪能させてくれた「ナナ」、先週末、宮古島でライヴがあり、その時、生まれたての風にも出会い、そこで思いっきり呑んで騒いで楽しんで、まさに青春をエンジョイしたことが伝えられ、「遊ぶのに本気になるのが青春。ここには青春がある。この時間、この場所で一緒に本気になって遊ぼう」と会場中を誘い、次曲の「青春よ聴こえているか」に入る。

　中盤以降は、比較的初期のナンバーも発せられた。モータウンビートに会場が弾んだ「オリオンビーチ」、2人のギタリストが弾きながらアクティブに動き回る中、夏の空の下、また、新しい恋でもしたい気持ちにさせられた「夏草恋歌」、カウパンクノリのロデオサウンドの上、不可能なことでも挑戦すれば、いつかは乗り越えられる、希望を与えてくれた「南に舵をとれ」の初期のナンバーの3連発には、会場も思い思いにエンジョイ。また、後半では、”まだまだいけるから、さぁ、走り出せ!!”と、我々の可能性が無限大なことを思い起こさせてくれた「証」、そしてラストは、新屋もアコギに持ち替え、1日の終わりに、この日一日の充実した時間をゆっくりと振り返らせてくれる「オワリはじまり」が、会場の大合唱と共に、この日の彼らのライヴを締めくくらせた。

　彼らがステージを去り、会場が再び明転すると、みんなの満足そうな顔があった。そうそう、一生懸命、楽しく遊んだ後って、自然とこんな楽しさがこぼれるような表情と、なんか”遊びつくしたゾ!!”といった満足感があるんだよな...と、みんなの嬉しそうな顔を見ながら、そんなことを思った。
　彼らは、この秋から来年の2月まで『かりゆし58　ハイサイロード ビヨンド 2013-14』と題した全47都道府県を回るツアーを行う。きっと各地で、その土地ならではの、彼らと我々との遊び場が築かれていくことだろう。
　さぁ、今度はみなさんの地元で、是非彼らと一緒に遊ぼうではないか。楽しさがこぼれるような満足そうな笑顔と、とびっきりの爽快感、そして何物にも代えられない充実感が、そこでは待っているはずだ。

【取材・文　池田スカオ和宏】