洋画音楽カヴァー・シリーズ第3弾、通算９作目となるアルバム『Miss AOI - Bonjour,Paris!』を携えて開催中の手嶌葵コンサート2013?Miss AOI Bonjour,Paris!?の東京公演。客電が消え静まり返った場内に『Miss AOI - Bonjour,Paris!』のオープニングナンバー「Bonjour,Paris!」が流れると、一瞬にして観客を美しい街並みが広がるパリの景色の中へと誘う。そこへ笑顔を浮かべながら登場した手嶌葵。パリの街並みをスキップするように軽快に歌い始めると、そこはもうパリ、といった空間に包まれた。

　“こんばんは。本当に暑いですね。皆さん大丈夫ですか？ 私は35、6度の福岡から参りました。今日は皆さんとゆっくり、ゆっくり、過ごせればいいなと思います”と涼し気な口調であいさつ。メンバー紹介を挟んで、『Miss AOI - Bonjour,Paris!』収録曲の中から披露していった。パーカッション、ピアノ、アコギによる良質なサウンドに加え、もともと透明感ある美しい歌声は、フランス語の歌詞によってさらに耳を撫でるような心地よさ。観客はリラックスして生で聴く『Miss AOI - Bonjour,Paris!』の世界に浸った。

　数日前に実家の庭でバーベキューをして楽しんだというエピソードで場内が和んだ後、それまでとは一転、ピアノの伴奏で歌い始めた映画主題歌や、J?POPの名曲をカヴァーするなど過去の作品の楽曲からセレクトされた。

　“18歳でデビューした頃はこういうふうに皆さんの前で歌うことがなかなか思い描けなくて。デビューして５、６年はツアーにも恵まれずにいましたが、今は一生懸命、楽しく歌わせていただいています。なおかつ各地で美味しいものもたくさん食べさせていただいています（笑）”とツアーについて語り、映画の楽曲をカヴァー。誰もが知っている楽曲だからこそ、手嶌葵というシンガーの圧倒的な歌唱力、特徴がより浮き彫りになり観る者を魅了した。

　ジブリ作品のオリジナル曲ももちろん披露。映画『ゲド戦記』の挿入歌であるデビュー曲「テルーの唄」に対して、“とても難しい曲です。監督の宮崎吾郎さんが詞を書いてくださって、谷山浩子さんが曲を作ってくださいました。おふたりとも本当に心の温かい方で、18歳の私に優しくいろんなことを説いてくださって。思い出深い曲であり、未熟だなと思ってしまう原点の曲でもあります”と当時の想いを語った後、聴き手を包み込むような歌声で歌った。

　“私の一番大好きな曲であり、皆さんの前でこうやって歌う機会をいただいた、始まり、そして終わりに歌いたい曲を歌って、感謝の気持ちを表したいなと思います。本当に暑い中、今日はありがとうございました”と言い、本編ラストは「The Rose」で飾った。

　可愛らしい人柄が垣間見えるMCを含め、“手嶌葵ワールド”で観客を魅了。『Miss AOI - Bonjour,Paris!』の世界観だけではなく、MCを挟んでブロックごとに手嶌葵のさまざまな歌の世界を魅せていった。そのどの楽曲も、言葉ひと言ひと言を紡いでいくように丁寧に歌った彼女。シンプルな編成だけれども人の温かみを感じるサウンドに乗って、観る人の心にすーっと入って響かせる。何の雑味のない歌声は、心を浄化するような清々しさと癒しがあり、気づけば心が元気になっていた。そんな手嶌葵の“歌の力”を感じたステージだった。

【取材・文：牧野りえ】