レビュー

手嶌葵 | 2017.01.06

 昨年4月にタイアップ曲、トリビュート参加曲を集めた『Aoi Works ~best collection 2011-2016~』、9月には幼少の頃から親しんできた“本”をモチーフにしたオリジナルアルバム『青い図書室』を発表。さらに月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の主題歌「明日への手紙」で「東京ドラマアウォード2016」にて主題歌賞を受賞、10月公開の映画「永い言い訳」(原作・脚本・監督/西川美和)の挿入歌「オンブラ・マイ・フ」(ヘンデル作曲のオペラ楽曲)を歌唱するなど、デビュー10周年のアニバーサリーイヤーも幅広いフィールドで活躍した手嶌葵。楽曲の世界にしっかりと寄り添いながら、聴く者に様々な光景を想起させるボーカリゼーションは、ここにきてさらに豊かさを増している。

 現在の音楽シーンのなかで独自のポジションを築き上げている彼女の2017年最初の楽曲は、1月8日(日)からNHK BSにてスタートするプレミアムドラマ「女の中にいる他人」(主演・瀬戸朝香)の主題歌「赤い糸」。作詞作曲を山本加津彦(東方神起「サクラミチ」、ふくい舞「アイのうた」など)、編曲・プロデュースを坂本昌之(平原綾香「Jupiter」、徳永英明『VOCALIST』シリーズなど)が手がけたこの曲は、タイトルどおり“運命の赤い糸”をテーマにしたバラードナンバーだ。
 
 美しい波紋のように広がるピアノのフレーズ、憂いを帯びたストリングスの音色に続き、♪もしもわたしが違う顔をした人でも/きっとあなたは気付いてくれるはずでしょう♪というフレーズが聴こえてきた瞬間、聴き手は強く「赤い糸」の世界へと引きずりこまれる。そして、人を心から愛し、一緒にいたいという願いは時空を超え、♪このまま世界が消えてもわたしのすべては/あなたと♪という究極とも言える思いへと至る――ここにはとてつもなく深遠な愛が描かれているが、彼女の歌は決して大仰にならず、きわめてシンプルに楽曲の世界を聴き手に伝えている。すぐそばに寄り添って語りかけてくるような歌声、一つひとつのフレーズをていねいに手渡すような表現力も絶品。“シックな抒情性”と称すべきボーカルを際立たせる、クラシカルな雰囲気のサウンドメイクにもぜひ注目してほしい。

 身近なトピックを詰め込むことで共感を誘うカジュアルなラブソングが目立つ現在のシーンにおいて、壮大な愛の世界をリアルに描き出せる手嶌葵の存在はきわめて貴重。「赤い糸」は、彼女のシンガーとしての魅力を改めて浸透させることになるはずだ。

【文:森 朋之】

tag一覧 シングル 女性ボーカル 手嶌葵

リリース情報

[配信]赤い糸

[配信]赤い糸

発売日: 2017年01月08日

価格: ¥ 0(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

01.赤い糸

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