その日は通常のライヴと違うため、午前中から動き始めた。都内の最寄り駅に11時半に着き、日差しの眩しさにふと上を見上げると、雲ひとつない青空が広がっている。暑い。上着を脱ぎ、Tシャツ姿になって電車に乗った。何度か乗り継ぎし、富士山駅の次が富士急ハイランド駅で、改札を出るとすぐに入口があった。
　SEKAI NO OWARIセルフ・プロデュースによる初の野外ワンマン・フェスティバル「炎と森のカーニバル」は10月12日（土）~14日（月）の３日間で行われた。会場は「富士急ハイランド？」と明記され、すべてが謎のベールに包まれていた。
　富士急ハイランド内を通り抜け、少し山間の坂を登ると（途中に機械仕掛けのドラゴンが設置されていた！）、コニファーフォレストという広大な敷地に辿り着く。開演３時間前に現地に着いたが、既に多くの観客で賑わっていた。

　ステージ近くの広場には火が焚かれ、飲食やフェイス・ペイントができるブース、DJ LOVEを模した大道芸人のショウ、ウサギの被り物をした案内役が待ち構え、まるで「不思議の国のアリス」の世界に迷い込んだ気分に陥った。さらに今回はドレス・コード（＊強制ではない）があり、観客を眺めているだけでも心底楽しい。ネコ耳を付けた軽装から、全身に包帯を巻いた人、顔にしっかり白塗りした女性もいて目が合った瞬間ゾクッとした。

　それからだだっ広いメイン会場に入ると、ステージ上に高さ30mの巨大樹が目に飛び込んできて、これには度肝を抜かれた。開演時刻17時半に近づくにつれ、日も刻々と沈み、巨大樹の緑と茶の色彩が闇に溶け込んでいく様子も幻想的だ。それと引き換えに、日中の暑さがウソのように底冷えする寒さが押し寄せてくる。

　定刻を過ぎたころ、始まりの鐘を合図に、スクリーンには炎、樹木、動物など森をイメージしたアニメが流れはじめた。でかい火柱が上がり、ステージには水晶のカーテンのような雨が降り注ぐ演出が施され、早くも観客の興奮はマックスに！１曲目「Love the warz」の演奏中にも10数本の火柱が何発も上がり、続く「虹色の戦争」では会場入口で配られたLED内蔵のリストバンドが曲のテンポに合わせてカラフルに点滅し、電飾のお花畑が眼前に広がる。オープニングから数分で夢見心地に浸る一方で、DJ LOVEが「寒くない？」、Saoriが「動いて温まろう！」と観客を気遣う言葉をかける。すると近くにいた小さな男の子が「さぶい、さぶいー！」と大声で叫び、周囲を和ませた。
　この日は本当に幅広い世代の人たちが訪れていた。中高生はもちろん、小さな子供から親世代まで。セカオワの音楽は客層を選ばない。ショウが進むにつれ、その思いは確信に変わっていく。スクリーンで曲の導入にアニメを活用したり、演奏中に歌詞がリアルタイムで流れたり、誰もが容易に曲の世界観に没入できるように考え抜かれていた。

　中盤にはダンサー４人を従えたDJ LOVEのワンマン・ショウ。メンバー自らも仮装して（Fukaseはドラゴン、Nakajinは狼、Saoriは白鳥、DJ LOVEは牛）、「Death Disco」「broken bone」とポップかつアッパーな曲調で激しく盛り上げた。個人的にもっとも印象深かったのは、その次に披露された「深い森」だ。スクリーンには「僕は地球と共存していきたいんだ」という日本語訳が映され、ハッと我に返った。ここには剥き出しの大自然と前代未聞のファンタジックな世界が隣り合わせになっている。そういうロケーションに身を置いているからこそ普段の生活では意識しない、あるいは忘れてしまいそうな壮大なテーマが逆に確かなリアリティを持って迫ってきた。

　そう言えば、彼らが昨年出した１stアルバムのタイトルはずばり『ENTERTAINMENT』である。エンターテイメントとは直訳すれば娯楽だ。人をとことん楽しませ、ワクワクさせなきゃいけない。アンコールの「スターライトパレード」「Fight Music」「インスタントラジオ」を終え、最後には花火が打ち上がった時、すべての観客が笑顔でそれを眺めていた。これ以上ないほど楽しかった。そう思えば思うほど、ちょっとショッキングな「天使と悪魔」のアニメシーンや、スクリーンに映された歌詞のメッセージが頭から離れなかった。現実を真正面から見据えて、圧倒的な夢を描き上げること。彼らが届けたかったエンターテイメントを体現するためにも、ここは最上級の場所だったと言えるだろう。微に入り細にわたる演出の妙も、セカオワのリアルかつドリーミーな楽曲を宝石級に輝かせていた。

【取材・文：荒金良介】
【撮影：上飯坂 一】