渋谷、師走の日曜日。ワンマンライブツアー「ケラケライフツアー2013」最終日。
　ライブハウスDuo music exchangeの前には多くの花が並び、開場を待つ人々でごった返していた。この日は一般チケットのほかに学割チケットも設けられており、そのメイン層となる10代と思しき若者を中心に幅広い世代のファンが見受けられる。カップルはもちろん、女性同士、男性のグループ、お一人様、そしてサンタクロースの姿もチラホラ。ケラケラのメンバーによるフレンドリーな直筆メッセージ入りポスターがあちこちに貼られ、観客を出迎える。会場全体がどこか和やかな雰囲気なのは、そのせいだったのかもしれない。

　ゆっくりと客電が落ちる。同時に沸き起こる拍手。それがポジティブなオーケストレイションに合わせ、手拍子に変わる。サポートメンバーに続いてMEME（Vo）、ふるっぺ（B）、森さん（Dr）がステージに登場。スポットの中に立つMEMEがピアノをバックに静かに歌い始めた。スローな歌い出しからの「スターラブレイション」が一気に加速、瞬く間に観客をヒートアップさせるという鮮やかな幕開けだ。満面の笑みをたたえる森さん。ふるっぺはといえば、ステージ狭しと動き回り、観客を煽り、トレードマークの帽子が何度もフワッと浮き上がるほど。気がつけば立ち位置以外にもふるっぺ専用マイクスタンドが用意されている。冒頭からすでに汗だくの男性陣。桜のような鮮やかなピンク色の衣装に身を包んだ紅一点・MEMEも、ジャンプし、タンバリン片手に腕を振るも、まったく呼吸を乱すことなく、もちろん笑顔を絶やすことなく、ケラケラのヴォーカリストとしての存在感を見せつけた。

　自分が落ち込んだ時、ファンに「そういう時こそ“笑ったもん勝ち”だよ」と励まされたというエピソードからの「笑ったもん勝ち」では、観客ひとりひとりの顔を見るように、客席ギリギリのところで歌い、「君となら」ではありったけの思いを空に開け放つように声を響かせたMEME。曲のスケール感をひときわ広げたのは、この人の歌声によるところが大きい。他方、どこまでも自然体のキャラクターで笑わせながら、「ゆらり花火」ではサイケデリックなプレイを繰り広げたふるっぺ、森さん。曲のラストでMEMEがステージを降り、ステージ上がさらにエキサイティングな様相をみせる中、露わになる2人のプレイヤーとしてのプライド。それはケラケラが紛れもなくバンドであることを強く印象づけるものだった。

　演奏が続く中、ゆっくりとステージに戻ったMEMEのシルエットが浮かび上がる。いわば2部構成のようなこの日のステージ。慈しむように歌い会場をしんとさせた「Station」からのポエトリー・リーディング、そして「友達のフリ」へと続く流れではMEMEの多彩な表現力の前に立ち尽くす観客。一転、ユニークなメンバー紹介を盛り込んだ「ピッピッピ」からはケラケラ・ライブの本領発揮。この緩急のバランス感覚に長けた展開も特筆すべきものだ。さらに東京公演のみのスペシャル企画として『スターラブレイション ダンスコンテスト』の応募作品を公開。コンテスト優勝者であるダンスチーム・E-SPYSが登場、キレのあるダンスで「スターラブレイション」に華を添えた。今日のステージは大人数でのエンターテインメントにはあまりにも狭いが、ケラケラのそう遠くない未来のライブ絵図が想像できるシーンがいくつもあった。ダンスチームの中央でみせたMEMEの飛びきりの笑顔を、いつかもっと大きな会場で。

　終盤はMCで笑わせる「たこ焼きソング?大阪で生まれたからって?」、大きく拳が振られた「恋花火」、タオルの花が咲き乱れた「ろーりんぐでいず」という怒涛の展開に。このワンステージですべてを出し尽くす。そんな表情で演奏に臨むふるっぺ、森さん。タフなのはMEME。一瞬たりとも不安要素を感じさせず、もっともっと観客に近くあろうとする。「自由に歌って踊って、ウワーッとはしゃいでもらえたら」。観客の活き活きとした後ろ姿を見て、ライブ冒頭でMEMEが語った言葉がいっそう真実味を帯びているのがわかった。

　アンコールでは、ここ渋谷で路上ライブをやっていた1年前を振り返ったMEME。今回のツアーＴシャツを着てデビュー曲「さよなら大好きだったよ」を熱唱した彼女は、客席にいる同じTシャツ姿の女の子たちと、どこか似ていた。「みなさんと“親友”のようなバンドになりたい」とは、きっとそういうことなのだろう。年明けにリリースされる最新曲「ひとつだけ」（映画「『僕は友達が少ない』主題歌）で、笑顔とともにたくさんの投げキッスを振りまき、ライブは終了。マイクをはずし、肉声で挨拶した3人は手を振りながらステージを後にした。それは楽しい時間を過ごした友達との別れ際のように。

【取材・文：篠原美江】