amazarashi LIVE TOUR 2014「あんたへ」。追加公演をレポート!
amazarashi | 2014.02.10
18時。まだ明るい会場。ステージには、いつものように白色の紗幕がかかっている。うっすらと見えるのは、アンプの光。赤と緑の点が、瞬いていた。
ステージの中で、ゆらりと新しい光が揺れながら移動していく。暗転。映像が暗闇に浮かぶ。バンドのロゴ。4つ打ちのリズムがフロアに響く。バンドがサウンドを放つ。オープニングを飾ったのは「まえがき」。最新アルバム『あんたへ』でもオープニングを飾る1曲で、ライヴは幕を上げた。
2月1日、土曜日。『amazarashi LIVE TOUR 2014「あんたへ」』。1月11日からスタートした、東名阪と福岡・札幌を回る全国ツアー。その追加公演が、この日、Zepp DiverCity Tokyoで行われた。
彼らにとって何度目かの全国ツアー。ツアーを重ねる度、キャパシティーはもちろん、徐々にライヴ本数を増やしているamazarashi。今ツアーでは、最終日の札幌公演まで、約1か月かけ全6公演を行った。
ステージの中央に、amazarashiのキーパーソン、秋田ひろむの姿が浮かんでいる。ステージ天井からの1本の薄い光が、彼の輪郭を描き出していた。その身体から、歌詞が猛スピードで暗闇に飛び出していく。このバンドのすべての詩曲を手掛ける秋田ひろむの世界観は、持て余した自我への自問自答パターンを筆頭に、自らに向けられたものが多かった。ほとんどがそうだったと言い切ってもいいだろう。しかし最新アルバムでは、その視点が自分以外の人間に向けられるようになった。この作品の最初を飾る「まえがき」は、秋田ひろむからの“あんたに向けて歌うんだ”という意思提示だったのではなかろうか。その変化した意思が、この日のライヴでは、最初から映像にもしっかり現れていた。
2曲目の「ジュブナイル」は、楽曲に合わせてアニメーションを展開。東欧やロシアあたりを彷彿させる、殺伐として影のあるティストのオリジナルアニメーションは、既に彼らのライヴの名物だ。主人公の青年。文字を書きなぐっている。その文字は、まんま「ジュブナイル」の歌詞だ。秋田ひろむ本人だろうか。こんなストーリーを見せてきたのも、新たな試みだ。これまでは本人とリンクするわかりやすい要素がなかったように思う。サビ。天井からの光の筋が、それぞれのメンバーを浮かび上がらせる。ここまで“バンド像”をはっきりと見せたことも初めてでは? あったかもしれないか、少なくとも私には、新しい光景だと思わせるほどに、とても印象に残った演出だった。
アップチューンが続く。「奇跡」。ステージ上から、細いケーブルの先につけられた電球のようなライトが降りてきて、波を打つように動き始める。メロディーに見えたり、自分のバイオリズムとリンクしたりする光の点描の起伏。目の前では、楽曲のタイトルが、漢字、カタカナ、ひらがなで現れ、四方八方に霧散していく。前述した光の点描が、チカチカと瞬く。その様に、あぁ、これは、奇跡と未来の破片なのかもしれないなぁ……なんてロマンチックなことを思ってしまった。
映像の一環として、楽曲の文字や歌詞を出し視覚として伝達することで、曲のテーマがわかりやすくなり、メッセージも強く伝わるようになる。そういう意味では、とても効果的な演出だと思うが、その半面、リスクもはらんでいると私は思う。音楽の醍醐味のひとつでもある、イマジネーションが限定されてしまうと思うのだ。しかし、amazarashiのライヴはその逆。歌詞を映し出すという、ある意味、ネタばらしに近いような形をとっても、答えを断定させない。否、出来ないと言った方が正しいだろう。むしろ、言葉の数々から、イマジネーションが広がっていくのである。そこがとても面白いし新しい。今や、このバンドの価値のひとつにもなりつつあるライヴでの映像演出。それは、秋田ひろむの歌詞の独創性、そしてストーリーテラーとしてのクオリティーがあってこそ成立しているのだと、改めて痛感した。
そんな彼の才能を最も感じた瞬間が、この曲だった。
「冷凍睡眠」。中盤で演奏されたこの曲は、秋田ひろむが以前から挑戦を続けてきたポエトリーリーディングという手法を、突き詰めた1曲である。情景と情熱を交差させ、マシンガンのように畳みかけるスピード感は、曲調豊かな最新アルバムの中でも、目立って異色だ。この曲での演出は、脈打つ心臓のイメージ映像や心電図波形を使うなど、この日、いちばんのシュールさ。前述したふたつのファクターとは別に、枝が広がるようなマークのモチーフが重なったが、それが静脈に見えてくるような、こちらのイマジネーションさえも見事にコントロールしていくような、圧倒的な世界だった。
この曲が終わったところで、秋田ひろむは、言葉を放った。
「ありがとうございます。青森で暮らしてると、なんてワイの人生はつまんないんだろうと思うんですけど、音楽続けてて良かった、生きてて良かったと思う日がたまにはあって。今回のツアーでは、そういう日がたくさんあって……感謝してます」
こう言って、最後に次の曲を告げた。
「終わりで始まり」
優しいメロディーにのせ綴る自分のこと。その自分の向こうに、家族や友人の姿が見える。ピュアでそして人肌のような温かさが特徴で、明日という未来が感じられるポジティヴな1曲である。ポジティヴさを感じる分、その切実さが苦しくて、切ない。言葉が稚拙だが、笑顔で泣いているような曲、かも。
この曲とリンクした映像は、最新アルバム『あんたへ』のジャケット。ジャケットを飾っていた人物が、歌い出す。あぁ、このジャケットの人物も、やっぱり秋田ひろむだったのか。ここにも決意表明があったんだな、なんて、シャイなこのバンドの変化を感じられて少し嬉しくなったり。アルバムの世界観が、Zepp Diver City Tokyoをゆっくり満たしていく。客席に、ピュアな感情が満たされていくのがわかる。それはまるで、向こうの世界にいた何かが、こっちの世界に初めて寄って来た、親しみを持って距離を縮めて来たようだった。
全部で16曲を披露し、amazarashiはステージを後にした。静寂の中でスタートするライヴ、ほとんど微動だにしない観客は、これまでのライヴと同様だったが、明らかに違いもあった。まずは客層。より幅広くなった。特に増えたのが、20代前半くらいの若年層。オフィシャルグッズのTシャツを着て、首にもグッズのタオルを下げたような男の子がたくさんいた。そしてその男の子と同世代の女の子。後方で見守るように佇んでいる姿がたくさんあった。スタンディングだったという理由を考慮しても、明らかに“フェス層”が増えたように思った。昨年の夏、初めて出演した夏フェスの影響が出ているのだろう。さらには、演出に“自分達”という要素を、どんどん入れ込むようになってきたのも特筆すべき部分だろう。バンドの肝が据わったともとれるが、自分達が少し前に出るようになり、演出の可能性が広がったし、結果、演出のファクターを整理することになり、バンドとしてのフットワークがあがった印象を受けた。この“バンドとしてのフットワーク”は、amazarashiというバンドの未来図には欠かせないファクターだろう。圧倒的な世界観を、異なる環境の中で、どれだけ再現していけるか。これが、デビュー以降のこのバンドのひとつの課題だったと思うが、その課題を機材面だけでなくクリアできることを提示したのが、今回のツアーだったのではなかろうか。
もっとたくさんの「あんた」へ、amazarashiの世界を知ってもらうために。知ってもらった「あんた」への感謝の気持ちのために。そのために、彼らは少しずつ、自分達を見せ始めた。
これからのamazarashiは、もっと切実で、そしてきっともっと優しい。
【取材・文:伊藤亜希】
リリース情報
セットリスト
amazarashi LIVE TOUR 2014
「あんたへ」
2014.2.1@Zepp DiverCity Tokyo
- まえがき
- ジュブナイル
- 奇跡
- つじつま合わせに生まれた僕等
- ドブネズミ
- ミサイル
- 匿名希望
- あんたへ
- 真っ白な世界
- 冷凍睡眠
- 空っぽの空に潰される
- 無題
- 千年幸福論
- 終わりで始まり
- あとがき
- 僕が死のうと思ったのは