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斉藤和義、唯我独尊と自然体。極上のステージで観客を魅了した日本武道館2DAYS

斉藤和義 | 2014.02.27

 雪が残る牛ヶ淵をカメラに収める初老の紳士を横目に、武道館へと向かう。日曜日ということもあり早い開演時間ではあるものの、ずいぶんと日が伸びた。頭上に迫りくる桜の枝も春の準備を始めている。“生の歌が聴けるなんてまだ信じられない”と、これから始まるライヴに胸を高鳴らせながら話す声がした。視界が開けた先に止まっていた大きなツアートラックに、長い旅の途中を実感する。

 全国55都市62公演で14万人を動員するロングツアー『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2013-2014 “斉藤 & 和義”』の38公演目。いつものようにピンと張られた日の丸。武道館での公演は自身5度目ではあるものの、斉藤和義には間違いなくこのステージが“似合う”はずだ。

 扉が開き、隅倉弘至(B/初恋の嵐)・辻村豪文(G/キセル)・藤井謙二(G/The Birthday)・玉田豊夢(Dr)・高野勲(Key)らバンドメンバーが登場。斉藤が現れるや、歓声はひときわ大きくなった。普段はラフなイメージの斉藤だが、この日はまさしくロックンローラーの出で立ちだ。20年のキャリアをもつ彼ゆえ、佇まいからして年季が違う。ライヴは最新作『和義』の1曲目を飾っていた「カーラジオ」から幕を開けた。斉藤自身のリアルな体験と思しき心象風景に織り交ぜた理想が、強い説得力を伴いながら聴衆に迫りくる。冒頭からパワー全開のバンドサウンドに乗せた、これでもか、これでもかというほどの無骨な愛情は、一気に観客を呑みこんだ。

 『イエーイ』。熱狂を鎮めるリラックスしたMCは、肩に力の入らない斉藤の掛け声から始まる。この日は時の人をもじって「佐村河内和義です(笑)」と挨拶。昭和40年代生まれのミュージシャンがこぞって取り入れそうなセンス溢れる時事ネタには、苦笑・爆笑が入り混じった。東西のスタンドに小さく手を振る斉藤、「最後まで楽しませてもらいますので、よろしくお願いしまーす」。

 最新アルバム『斉藤』と『和義』を携えた今回のツアー。アルバム収録曲を中心にした構成ながら、斉藤自身も交えたバンドとしての側面が大きく打ち出されている。気心知れたメンバーと繰り広げるバリエーション豊かなステージは、切なさを掻き立て、心に覆ったベールを引き剥がし、そして時にはアダルトなムードで観客を酔わせた。また一方で、長いキャリアの中で幾度となくブレイクポイントを迎え、ファンを増やし続けている存在ながら、ここ武道館という大会場でも、手の届く範囲で音楽を鳴らす。そんな姿勢にも、揺るぎなく我が道をゆく彼らしさが貫かれていた。もちろん、もはや名物といっていいエロティック・トークも随所で炸裂。“おいなりさん”や“夢の精”をモチーフに、“エロい”とは似て非なる助平ぶりを心おきなく発揮した。

 「2011年、ドラマ『家政婦のミタ』の主題歌ともなった……栃木県出身! かんぴょうの名産地! 斉藤和義、歌います!」。ギター・藤井の粋な曲紹介からの「やさしくなりたい」でライブは後半に突入。現在の彼にとって大きな転機となったこの曲の、誰もが知るめくるめくイントロから会場は熱狂の渦へ。熱のこもったプレイ、サウンドの要は辻村のギターだ。マイナーのメロディ、速いテンポで、ここまでヒットした曲はあまり記憶にない。そんなことを考えながら、メジャーになりすぎたこの曲のメッセージを真摯に伝える斉藤の歌が何より印象的だ。

 続いて畳み掛けるように「月光」。歌はさらに熱を帯び、斉藤は客席に向かい手を伸ばす。広いライヴ会場で繰り広げられるドラマの中に、誰もが自らを投影したことだろう。大きな手拍子が沸き起こり、一体感を生んだ「Hello! Everybody!」。己が信じるものに忠実に、ひたすら我が道を行く斉藤、卓越したギタープレイヤーとしての本領も露わに。阿吽の呼吸で観客との交歓を図った「Always」で会場を幸福感で満たし、本編が終了した。

 アンコールの声に応え、白いギターを抱えた斉藤が再びステージに。『また今年もいろいろあると思うので、またどこかでお会いしましょう』。今年のさらなる展開を示唆した斉藤。ライヴの締めくくりは彼の代名詞といってもいい「歩いて帰ろう」だ。子供番組からこの曲がヒットし、早20年。ひとりの男の葛藤とやるせなさを描いたこの歌を何気なく口ずさんだ子供たちは今、どんな大人になっているだろう。そしてその大人たちはどんな思いでこの曲を子供へと伝えていくのか。世代不問な訴求力を伴った大きなメッセージを残してステージは終わった。客電が点き、大きな声で共に歌う観客に向け、思わず出てしまったと思しき肉声で『サンキュー!』と叫んだ斉藤。ステージを去る彼の背中を万感の思いで見送る。

 ツアーはこの後、雪を溶かす春を超え、4月29日の沖縄コンベンション劇場公演まで続く。斉藤の生の歌声に触れる若者、かつて子供だった大人、さまざまな思いを抱えた人々が、この先も彼の歌を待っている。

【取材・文:篠原美江】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 斉藤和義

リリース情報

斉藤

斉藤

2013年10月23日

ビクターエンタテインメント

01.やさしくなりたい
02.Hello! Everybody!
03.ワンモアタイム
04.メトロに乗って
05.罪滅星
06.今夜、リンゴの木の下で
07.ひまわりの夢
08.パズル
09.かげろう
10.月光

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リリース情報

和義

和義

2013年10月23日

ビクターエンタテインメント

1.カーラジオ
2.恋のサングラス
3.Cheap & Deep
4.Happy Birthday to you!
5.流星
6.MUSIC
7.天使の猫
8.Always
9.それから
10.メリークリスマス

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お知らせ

■ライブ情報

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2013-2014 “斉藤 & 和義”
2014/02/28(金)島根 島根県民会館 大ホール
2014/03/06(木)静岡 静岡市民文化会館 大ホール
2014/03/08(土)三重 三重県文化会館 大ホール
2014/03/09(日)岐阜 長良川国際会議場 メインホール
2014/03/15(土)富山 富山オーバード・ホール
2014/03/16(日)長野 ホクト文化ホール (長野県県民文化会館)
2014/03/20(木)長崎 アルカスSASEBO 大ホール
2014/03/22(土)佐賀 佐賀市文化会館 大ホール
2014/03/23(日)大分 iichikoグランシアタ
2014/03/25(火)愛媛 宇和島市立南予文化会館 大ホール
2014/03/29(土)秋田 湯沢文化会館
2014/03/30(日)山形 酒田市民会館「希望ホール」
2014/04/04(金)千葉 市川市文化会館 大ホール
2014/04/06(日)山梨 コラニー文化ホール (山梨県立県民文化ホール)
2014/04/13(日)北海道 函館市民会館 大ホール
2014/04/15(火)北海道 苫小牧市民会館
2014/04/17(木)北海道 旭川市民文化会館 大ホール
2014/04/19(土)青森 リンクステーションホール青森 (青森市文化会館)
2014/04/25(金)大阪 大阪城ホール
2014/04/26(土)大阪 大阪城ホール
2014/04/29(火・祝)沖縄 沖縄コンベンション劇場

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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