androp初のアリーナ単独公演。鮮やかな音と光に満ちたライブの模様をレポート
androp | 2014.04.04
ステージを覆っている巨大な紗幕。表面には波形と球体が脈動する映像が投影されている。その動きを見つめていると期待は自ずと高まっていく。この大きな会場にandropはどのような空間を生み出すのだろうか? やがてオープニングSEが流れ、切って落とされた紗幕。淡いライトに照らされたステージ上に4人のメンバーたちが立っていた。内澤崇仁(Vo & G)が歌い始めたのは「Singer」。瑞々しい音色と声が会場の隅々にまで沁み入っていく。やがて佐藤拓也(G & Key)、前田恭介(B)、伊藤彬彦(Dr)の演奏も合流し、一気に奥行きを増したサウンド。観客の手拍子も加わり、美しい音像が壮大に描き上げられたオープニングであった。
力強いドラムのビートと共にスタートした2曲目「RDM」。分厚いグルーヴィーなバンドサウンドが放たれ、観客はますます興奮を露わにしながら身体を揺らし始める。シャープなベースのスラッピングが先陣を切り、熱いサウンドを高鳴らせた「Boohoo」。不敵に轟くヘヴィなサウンドが激しい手拍子を誘った「Lit」。踊る人々のエネルギーが会場全体を清々しく揺らした「Bell」……次々奏でられるサウンドの全てが、客席にいる我々の身も心も震わせて止まなかった。
「改めまして今晩は。andropです。すげー!」、挨拶をした内澤が感慨深そうに会場全体を見渡す。「すごいとしか言いようがないよ、この光景。今日は初めてやる曲、演出がたくさんあります。俺たちが観たいくらい。でも、こっちから見る景色の方がすごいはず。羨ましいでしょ?(笑)。今日はどこまでも届くように演奏します。最後までよろしく!」と語って「Colorful」へ。起伏に富んだ展開、多彩なリズムの変化が、観客の興奮を加速する。透明感溢れるメロディとダンスビートが絶妙に融合していた「Nam(a)e」。点滅するライト、飛び交うレーザー光線、スリリングなサウンドが一体となった「Plug In Head」。展開するにしたがって徐々に熱を帯びていくような演奏が圧倒的であった「Six」。多彩な質感の曲が煌いていった。
「関係ない話だけど……。今日、タクシーで来たんです。行き先を告げたら神宮球場に着いちゃって(笑)」という微笑ましいハプニングの報告で観客を和ませた後、androp結成前にこの会場の目の前の歩行者天国でストリートライブをやっていた思い出を語った内澤。「“いつかここ(代々木競技場第一体育館)でやりたい!”と思ってました。6年越しで中に入れました(笑)。andropを始めた頃は下北のスタジオで、ライブの予定もないのによく練習していたんです。初めてみんなで集まって合わせた曲の内の1つをやろうと思います」と語り、「Tonbi」がスタート。ステージ後方のスクリーンに映し出されたムービーとサウンドがシンクロしながら広がっていく。続いて演奏された「Bright Siren」や「Puppet」も、映像やライティングがステージをドラマチックに彩る。視覚効果とサウンドを劇的にリンクさせた演出に息を呑まされるひと時であった。
「Light along」を演奏した後、再びインターバル。プロフィールを明かしていなかったandrop活動初期のことに触れつつ、各メンバーをフルネームで紹介した佐藤。「今日は1万人以上来てくれています。1人1人のみんながいて大きな塊になっていることを忘れずに、1人1人に音を1万通り放とうと思います!」という彼の宣言と共に突入した後半戦。シンプルながらも豊かな質感を帯びたバンドサウンドが冴える「Under The Sun」「Pray」「Roots」を披露した後、今度は内澤が観客に語りかけた。「音楽をずっとやっていると“これで正しいのか?”と思うことが多々あって。でも、今日こうやってステージができて、たくさんのみんなが来てくれて、間違ってなかったのかなと思って。感動してます。これからも僕らの音楽を求めてくれる人がいる限り、僕らの音楽を誠実に届けていきたいです。『period』というアルバムを出して、これからどこへも行ける気がしています。これからもよろしく!」。andropの今後の活動へ向けての力強い意思を感じる言葉であった。
レーザー光線が激しく飛び交う中、アグレッシブなサウンドを轟かせた「Sensei」を皮切りに突入した終盤戦は、五感の全てを刺激する音と光が溢れ返り続けた。明滅する円形のグラフィックが幻想的だった「Human Factor」。回転するミラーボールが無数の光の粒子を放ち、会場全体がエネルギッシュなダンスで揺らいだ「World.Words.Lights.」。イントロが始まるや否や、刻まれるリズムに合わせて観客が全力で手拍子をした「MirrorDance」。そして「One」で生まれた一体感は、本当に素晴らしかった。演奏がスタートすると客席内に投下された数個の大きなバルーン。破裂したその中からは、たくさんのカラフルな小型風船が現れた。それを手にした観客たちは、満面の笑みを浮かべながら踊る。「一緒に歌おうぜ!」と内澤が呼びかけると、アリーナ席はもちろん、スタンド席の後方からもたくさんの歌声が起こる。会場全体が文字通り「1つ」になるのを感じた場面であった。
「このステージ、この瞬間が“生きてて良かった”と思える時間です。君たち、君がいたからこそ、このライブができたと思ってます。この時間が君たちにとっても“生きてて良かった”と思える時間だと嬉しいです。最後に、ここに集まった証しを残したいんだけど、まだまだ元気ある? 声出せるか? 一緒に歌ってくれ!」と内澤が呼びかけ、本編ラストに届けられたのは「Voice」。会場全体から最大級の合唱が湧き起り、誰も彼もが夢中になって飛び跳ねて踊った。客席に向って膨大な量の紙吹雪が発射され、その表面にレーザーの光が反射してキラキラと輝く。「お前らの歌だ。歌え!」と内澤がマイクを観客へ向けると、歌声はますます高まっていく。あの場にいた全ての人々が「歌」という1つの美しい結晶と化していった。
《♪アンコール アンコール もう一度声を聴かせてよ》、「Encore」の一節を繰り返しながら手拍子をする観客。その声に応えてステージに戻って来たメンバーたち。秋に予定されているワンマンツアーの告知などをした後、4人は想いを語った。「こんなにみんなと一緒になれた経験は、これからの僕にとって大事になると思います。みんなも今日の経験を大事だなと思って生きていってくれれば嬉しいです」(前田)。「よく訊かれるんです。“なんで大きい会場でやるんですか?”と。今日、立ってみて分かりました。大きいところでやるって、いろんな面で挑戦なんです。“まだまだ挑戦を続けるぞ!”という気持ちです」(佐藤)。「バンドを始める前から前田は友だちなんですけど、まさかこんなところでできるとは……。前田がいたことをはじめ、みんなのおかげです。前田くんをはじめ、みんなありがとう!(笑)。貰ってばかりの人生なので、これから少しでも音楽で返していけるように頑張ります!」(伊藤)。「いろんな気持ちがあるけど言葉が出ない(笑)。ありがとうしか出ないけど……ありがとう! ライブをやる度にいろんなものを貰って。ありがとうしか言えないから曲で返そうと思うんです。またすげえいい曲が書ける気がします!」(内澤)。
「僕はもともとギタリストで、andropを始めてからボイトレの先生に出会ったんです」……「Missing」を演奏する前に曲が生まれた背景について語った内澤。上京したばかりの頃、悪い人に騙されてばかりだった彼の様々な相談に乗ってくれた恩師。歌、音楽、ステージに立つ者としての心得も教えてくれたかけがえのないその人は、1stアルバム『anew』をリリースする2ヶ月前に亡くなってしまった。その悲しみの中で作ったのが「Missing」。辛くてどうしても歌うことができなかったこの曲は、ずっと封印されていたのだという。そして話は続いた……「「Voice」を出して、みんなと音楽を共有して、もっともっと届くボーカリストになりたいと心から思った瞬間、「Missing」から逃げてる自分に気づいたんです。“今だったら歌えるんじゃないかな? 向き合ってみたい”と思ってシングルにしました。この曲にはいろんな想いが詰まっています。大切な人って、いつまでもいると思わないでください。大切な人って、大事な時に気持ちを伝えられないことがあるんです。だからこそ一瞬を大切に生きて欲しいです。ここにいる1人1人に届いたらいいなと思って歌います」という言葉を添えて「Missing」。奏でる1音1音、歌う言葉の1つ1つに心をこめていたこの曲は、まるで清らかな祈りのようだった。観客は耳を傾けながら瞳を静かに潤ませていた。
肩を組み合って手を振り、「どうもありがとうございました!」と挨拶をした4人は、客席を背景に記念撮影。本来はこれで終演を迎える予定だったようだが、メンバーたちは名残惜しそうにずっとステージ上に残っている。「もう1曲やっていいかな? 終わりたくねえんだよ。マズい? いろいろ大変?」、突然スタッフと相談を始めた内澤。「OKだって!」と報告をすると、「ありがとう!」という声が客席内のあちらこちらからステージに向けて届けられた。「最初に俺らが合わせた曲です」と言い、ラストに届けてくれたのは「Image Word」。観客が左右に振る腕の揺らぎが、何とも言えず優しい風景を作り上げる。それを眺めながら演奏する4人は、心底幸福そうな表情を浮かべていた。
何度も手を振り、お辞儀をしながらステージを後にしたメンバーたち。「どうもありがとうございました。また会おうね。風邪ひかないで帰ってね」という言葉を残し、最後にステージ袖へと向かった内澤を観客の拍手と歓声が見送る。andropとファンの間にある固い絆を窺わせるとても温かいエンディングであった。
【取材・文:田中 大】
【撮影:太田好治、橋本塁(SOUND SHOOTER)、笹原清明】
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リリース情報
period【初回限定盤】(CD+DVD)
2014年03月05日
ワーナーミュージック・ジャパン
1.Singer
2.Voice
3.Lit
4.RDM
5.One
6.Light along
7.Six
8.Sensei
9.Melody Line
10.Neko
11.Time Machine
12.Under The Sun
13.Missing
14.Stardust
[DVD]
documentary
studio live
1.One
2.Lit
3.Voice
お知らせ
one-man live tour“period”
2014/08/30(土)Zepp Nagoya
2014/08/31(日)Zepp Nagoya
2014/09/06(土)Zepp Sapporo
2014/09/13(土)Zepp Fukuoka
2014/09/23(火・祝)Zepp Tokyo
2014/09/24(水)Zepp Tokyo
2014/09/27(土)Zepp Namba
2014/09/28(日)Zepp Namba
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。