バンドに真摯な4人の足跡をたどる「angstrom」ツアー、最新公演を観た!
androp | 2019.10.04
作品ごとに、ライブごとに、振り返るとandropは常に変化し、そして進化をしてきたバンドであった。都度、バンドに必要な新要素を取り込み、トレンドもトラディショナルも、先鋭も自己再発見も真摯に飲み込み、それらを昇華させ、自身の音楽性としてアウトプットしてきた。そこに我々は意外性を含め、時に驚喜したり、歓喜したり、納得したり、次への展開へと想いを馳せたりしてきた。とはいえ、それらはすべて、決して行き当たりばったりではなかった気がする。興味を持ったものをしっかりと吟味し、試行錯誤し、どう融合させ、馴染ませ、自身の音楽性としてアウトプットしていくか?そこには非常に気を使ってきたように映る。だからこそ彼らの音楽性は作品ごと/時期ごとに変わり、様々な音楽性のどれもが「androp然」としていて、自然と馴染んで響いていた……そんなことを改めて感じさせられた、彼らの自由度が再確認できた一夜でもあった。
今回の全国ツアーは「~1.0pm」というタイトルからもわかるとおり、彼らが毎年のワンマンツアーの際に掲げてきた「angstrom」の記念すべき10回目を飾るもの。当初は東名阪のみの予定だったが、特別にメンバーの出身地や所縁の地である横浜、岡崎(愛知)、京都での追加公演も行われた。
各会場あえてセットリストを変えて挑み、新たなPAチームと回った今回。ツアー初日の恵比寿LIQUIDROOMでは、リリース絡みのツアーではないこともあり、歴代の楽曲から偏りも縛りもなく幅広くプレイ。それらの楽曲からは、彼らの10年というしっかりとした足跡のなかで、いろいろな時代/時期の彼らを感じられつつも、決してそれらをトレースするのみにあらず。活動歴を重ね、センスやスキルもビルドアップしてきた現在の彼らならではの趣があり、アレンジや展開、構成や起用楽器などのフレキシブルさも併せて楽しむことができた。
スーッと客電が落ち、ステージ背後中央から場内へと一条の光が射す。まるで宇宙もしくは深海に漂っているかのような空間に流れる神秘的なSE。そこに男女の通信交信の声が重なっていく。その内容は、過去のangstromツアーのスケジュールのカウントアップだ。そんななか、ステージにメンバーのシルエットが……。そういえば、初期の頃はスモークとライトで彼らの顔がはっきりと認識できず、シルエットばかりを追いかけていたことを思い出す……。ドラムの伊藤彬彦のキックに合わせて、虹色のライティングが点滅を始める。そこから音像を現したのは「ShowWindow」であった。のっけからダンサブルなナンバーが会場に一体感を呼びかける。そこにキラキラと泳ぎ回る佐藤拓也のギターが色彩感を与えていき、会場も手を上げ、その手を伸ばし、クラップも交え呼応していく。続いて、その育まれた一体感を前田恭介のスラッピーなベースが切り裂いていく。中から現れたのはビッグビートに移る際のサビでの開放感がたまらなかったファンキーな曲調の「Boohoo」だった。グイッと引っ張られていくような同曲特有の強引さに場内が引き寄せられていく。
序盤は勢いを保ちつつも、大らかなビートでエレクトロニカルな楽曲たちが連射された。ダウンチューニング気味の重めの前田のベースソロから「Amanojaku」に入ると、情報量の多い内澤崇仁のヴォーカルが緊迫感を宿して場内へと歌い放たれていく。その先に現れる約束の地のような安堵感への導きは格別。このバランスこそが現在の彼らだと再確認できた。
この日は土曜日。そのシチュエーションにぴったりの「Saturday Night Apollo」では、本来のチルっぽいセクシーさと、ディスコでシティポップな音楽性から、この日はウェーブを始めエレクトロニカルなアレンジへとシフト。ここではサポートキーボーディストである佐藤雄大のソロも耳を惹いた。
「ツアー初日なので気合充分。何年ぶりにやるんだろう?っていう懐かしい曲も今日はやります」と内澤。その言葉のあとの「Sorry」では、ウェーヴィーなシンセ音を多用したサウンドに乗り、会場もたゆたっていた。
ここからは初期の曲が続いた。「Merrow」は彼らがポストロック的な手法を多用していた最初期のナンバー、3拍子を交えて、ゆったりと広がるダイナミズムが魅力的な曲だ。時代はさらにさかのぼっていく。1stアルバム収録の、こちらも展開が複雑なポストロック的なアプローチの「Tonbi」では、「ああ、最初の彼らはこんな難しげな音楽をポップに聴かせているのに長けていたバンドだったなぁ……」なんてことを再確認させてくれた。ここでは佐藤拓也のエモいギターと、内澤の柔らかく優しげなファルセットが久しぶりに楽しめた。
「いやー、この曲を実際ライブで聴いたの初めてかも……」と、長めのイントロから始まった、めったにやらない「Noah」では、《サヨナラなんて言えないよ》の気持ちとともに、その切なさが場内いっぱいに広がっていった。
「angstromも1.0まで成長した。今日はそれこそ0.1のときの曲もやってみた。10年やってきていろいろと曲を作ってきたけど、あの曲を再びやってみたいと思わせるのが自分たちのすごいところ」と佐藤拓也。「0.1から10回で、ようやく1に辿り着いた。これからも、振り返ったときにやりたくなる曲を作っていきたい」とアコギに持ち替えた内澤が続ける。
ここからは温かくナチュラルな曲が続いた。「Hanabi」がロマンティックに幻想的に抱き寄せてくるように、終わってしまう夏に慈しみを込めて歌えば、「Letter」では前田の4ビートから伊藤のシャッフルがセッションのように絡み、そこにラップ調のフロウを交え、マイクスタンドを両手で包みながら歌う内澤の姿も。また同曲ではオルガンのソロも交えたアドリブ感のあるインタープレイも会場を惹き込んでいった。夜の雰囲気の曲は続く。そのファンキーな雰囲気で会場をゆっくりと横に揺らせた「Blue Nude」では、キャッチーなフレーズと、ジャジーでセクシーかつユニークな一面が際立ち、同じく躍動的でファンキーな「Digi Piece」では、前田がカオシレーターに持ち替え、佐藤雄大のオルガンソロとアウトロの佐藤拓也のファンキーなギターカッティングが際立っていた。
「今回のツアーは過去最高に楽しそうな気がする」と佐藤拓也。「いろいろとあるけど一緒の時代を共有できてうれしい」と内澤が繋ぎ、「Hikari」へ。背後のライトの神々しさと相交わり、温かくも力強く響いた。
後半戦は、ライブがキラキラと乱反射し、曲ごとにぐんぐんと生命力を帯び、それが育まれていく幾つもの名場面に遭遇した。そんな生命力溢れる伊藤のビートに佐藤拓也のギターが絡み、まずは「Prism」が輝き始める。「さぁ、未来へと走り出そうよ!」とぐいっと腕を引っ張れば、レイブライクでインダストリアルなビートが流れるなか「World.Words.Lights.」へ。佐藤拓也もカオシレーターを用い参戦。緊迫度を上げ、興奮度のさらなる上昇にかかる。これなんてまさにオリジナルとは全然違う!! 現在の彼らならではのアプローチを見た。またスタジアムクラップがノンストップで鳴り響くなか続く「MirrorDance」では、会場を踊らせ、回らせ、跳ねさせていった。同曲の後半は会場も交えての大合唱。皆が歓喜の歌声を轟かせる。スタジアムライクなナンバーは続く。この日、最大の一体感とハイライトを生んだのは「Run」であった。会場も一体となって歌い、手を挙げ、雄々しく誇らしく、場内いっぱいに歌を響かせていった。まるで《どこまでも行けるよ》という歌詞を体現してくれているかのよう。そして、「行こうぜリキッドルーム!!」(内澤)と、この日最大のバウンスを生んだのは本編ラストの「Voice」。《君の/生まれた声で歌ってよ》の歌詞に乗せて、皆が思い思いの形で声を上げていたのも印象深い。
アンコールは1曲。しかしそれはとても尊かった。佐藤雄大のピアノを基調とした「Koi」。場内の隅々にまでその愛しい気持ちが広がっていき、会場の一人ひとりが至福感に包まれていくのを見た。「行ってきます。また音楽で会いましょう」(内澤)という優しい再会の誓いを会場に残し、この10年を経たからこその現在地を表現したライブは幕を閉じた。
バンドの足跡や遍歴を感じさせつつも、現在と未来をもさらに楽しみにさせてくれた、この日のandrop。「one-man live tour 2019“daily”」が6月末に終了し、そこまで間が空いていないながらも、前回のツアーの温かさや身近さともまた違い、ある種対照的にロックバンド然とし、音楽性を駆使したライブを展開していたのも興味深かった。
彼らの10周年イヤーはまだまだ続く。そしてそのゴールとも言える来年1月11日、12日の昭和女子大学人見記念講堂でのライブでは、バンドの歴史と今の彼らの表現力をどこまで楽しめるのか?その辺りもますます楽しみになった一夜でもあった。ちょっと気が早いが、10周年のゴールを迎えたときのメンバーの成し遂げた顔と、そこに寄り添えたお客さんたちのうれしそうな数々の表情。その光景へと想いを馳せている自分がいた。
【撮影:Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)】
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リリース情報
Koi
2019年02月27日
ユニバーサルミュージックジャパン
02.For you
リリース情報
daily
2018年12月19日
ユニバーサルミュージックジャパン
02.Blue Nude
03.Blanco
04.Saturday Night Apollo
05.Canvas
06.Home
セットリスト
one-man live tour 2019
“angstrom 1.0 pm”
2019.9.7@恵比寿LIQUIDROOM
- 01.ShowWindow
- 02.Boohoo
- 03.Amanojaku
- 04.Saturday Night Apollo
- 05.Sorry
- 06.Merrow
- 07.Tonbi
- 08.Noah
- 09.Hanabi
- 10.Letter
- 11.Blue Nude
- 12.Digi Piece
- 13.Hikari
- 14.Prism
- 15.World.Words.Lights.
- 16.MirrorDance
- 17.Run
- 18.Voice
- 01.Koi
お知らせ
androp -10th. Anniversary-
member page Special Live 2019
2019/12/14(土) 青森 八戸ROXX
androp -10th. Anniversary live-
2020/01/11(土)、12(日) 東京 昭和女子大学人見記念講堂
Let’s go to the 30th LUCKY
~androp 10周年コラボワンマン!~
10/22(火・祝) 千葉 LOOK
明大祭
「Meiji Rock Festival“andropにKoiをする”」
11/02(土) 東京 明治大学和泉キャンパス 第2校舎 6番教室
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。