今、KANA-BOONほど時代の追い風を受けている新人バンドは他にいない。メジャーデビューしてまだ8ヵ月。尋常でない速度で新木場コーストにたどり着いたKANA-BOONは、近い将来、“ニューカマー”から“ロックヒーロー”と呼ばれる日が来るだろう。その物語のはじまりが初の全国ワンマンツアーの初日、5月17日新木場スタジオコーストだった。

　全公演即日ソールドアウトとなった今回のツアー。ここ東京公演は特に高い倍率を勝ち抜いてチケットをゲットしたファンが集まっている。開演を告げるアナウンスの後、わっと前へと押し寄せる人波。メンバーが登場すると、そのエネルギーは一気に爆発した。

　「踊れーー！」と煽るボーカル・ギターの谷口鮪。シンプルなリズムに合わせて、フロアからは一斉に腕が高く突き上がり、頭が上下する。「初日東京コースト、よろしくどうぞ！」と、手短かに言い放った谷口。準備運動も助走もない。いきなり全力疾走のライブへと突入していった。これまで不特定多数のロックファンが入り混じる各地のフェスで、瞬く間にリスナーを自分の味方にしてきたKANA-BOONの圧倒的な浸透力は、まさにこれだ。それは思わずゾワリ…と畏怖のようなものすら感じる光景だった。

　1曲ごとに前の曲の記憶を上書きするようにヒートアップしていく会場。小泉貴裕（Dr）が4つ打ちのリズムを強く叩きつけ、古賀隼斗（G）が大きく一歩前に出てステージに際に立つと、耳慣れない荒々しいリフで始まったのは「ウォーリーヒーロー」だった。曲がわかるとお客さんが一斉に手拍子で後押し。曲間のブレイクではウォー！と太い雄叫びが響く。様々に表情を変えながら曲に疾走感を与える飯田祐馬のプレイもいい。「ソッ!!」という、お囃子のような谷口の声を合図にサビでは古賀と飯田もコーラスをとる。いたってシンプルな4ピースバンドの姿だ。それが一瞬にして何千人の心を掴み、躍らせてしまう。これだからロックはいい。そしてKANA-BOONはそんなロックのひとつの理想形を体現するバンドなのだ。

　今回のツアータイトル「ご当地グルメ」ツアーにちなんで、MCでは各地で美味しいものを食べたいという話に。「ワンマンだからふだんは喋らない人にスポットをあてようか」（谷口）と、白羽の矢が立ったのはギターの古賀。前日にメンバーみんなで食べたもんじゃ焼きの食レポをするはずが、「クリームソーダがめっちゃおいしかった」と話し出す。これにはメンバーも失笑。「このポンコツ野郎が！鏡ばっかりチラチラ見やがって（笑）」（谷口）、「運転中にミラーを見ると絶対に目が合う（笑）！」（飯田）と、こぞって古賀のナルシストぶりをイジり倒していた。このMCの責任をとるべく、古賀は、江頭2:50ならぬ“コガシラ2:50”を披露する流れに。そして、コガシラがダミ声で「お前らー！行くぞーー!!」と叫ぶと、そのまま「1.2. step to you」に突入した！さすが関西出身バンド。オチも完璧だ。この曲はライブの定番だけに、メンバーもお客さんの反応を楽しむ余裕がある。真っ赤なライティングを背中に受けて浮かび上がった4つのシルエットは、さっきまでの等身大で語るやんちゃなバンドマンたちとはひと味もふた味も違う風格が漂っていた。

　乱暴な言い方をすれば、KANA-BOONの楽曲はライブで盛り上がる曲ばかりだ。この日も披露された、メジャーデビュー曲「盛者必衰の理、お断り」や「結晶星」、さらにはKANA-BOONの名前を一気に全国区へと押し上げた「ないものねだり」、そして最新シングル「フルドライブ」も含めて、どれもがピカイチの輝きを放つがゆえに、果たしてどの曲がこの日の盛り上がりのピークだったかを判断するのも難しい。これは各地のフェスでKANA-BOONが何度も生み出してきた景色そのものだった。
　しかし、ワンマンにはワンマンの見せ方がある。
　その意味で、この日のライブではそれを意識したメリハリのあるセットリストだったのが印象的だった。ベースが足早に鳴らす16のリズム、軽快なドラムの8ビート、むせび泣くギター、それら多彩な音色が全てフィナーレに向けて繋がっていく。谷口の“歌”を軸に聴かせるナンバーがあったのも特筆しておきたいポイントだ。そうしてワンマンに相応しいかたちで構成されたKANA-BOONのステージはとても新鮮だったし、そこに“フェスのKANA-BOON”とは違う魅力を発見できたことがうれしかった。

　この後、残り全国各地10公演のライブを経て、KANA-BOONは再び東京Zepp DiverCityに帰ってくる。一回り大きくなった4人の姿を見られる日を今から首を長くして待ちたい。

【取材・文：秦理絵】
【撮影：TEPPEI】