レビュー

KANA-BOON | 2020.03.05

 疾風怒濤の7年間。けれどもその間、ひと時たりとも音楽を、バンドを、対峙するべき聴き手との関係性をおざなりにもなおざりにもせず、クソがつくほど生真面目に、バカがつくほど正直に、こつこつ紡ぎ続けてきた彼らの足跡がここにはっきりと立ちのぼる。常に最善を尽くして向かい合い、その時その瞬間の最高を着実に叩き出しながら前に進むというのは、決して容易いことではないだろう。その決して容易くはない“最善”と“最高”がぎっしり詰め込まれた文字通りのベストアルバム、それが今作、すなわちKANA-BOONにとって初となるベスト盤『KANA-BOON THE BEST』だ。

 2013年9月のメジャーデビューに先駆けてリリースされた初めての全国流通作品『僕がCDを出したら』から2019年6月リリースの13thシングル「まっさら」まで、全シングルの表題曲にアルバムやミニアルバムからの代表曲28曲と、ボーナストラックとしてインディーズ時代の楽曲であり今回新録音された「スノーエスカー」、さらに新曲「マーブル」を収録した計30曲2枚組。ボーナストラックを除けばほぼ時系列に忠実に並べられていることもあって、今作を通して聴くにKANA-BOONというバンドが歩んできた道のりと、それに伴う進化のグラデーションを追体験するかのような如実さで感じることができる。一躍、彼らを話題の中心に押し上げたキラーチューン「ないものねだり」に始まり、メジャーデビュー曲「盛者必衰の理、お断り」を筆頭に「結晶星」「フルドライブ」「なんでもねだり」と畳み掛けるDISC 1からは、KANA-BOONがシーンに登場するや瞬く間にトップランナーとしてスターダムを駆け上っていく勢いが、また、彼らにとっては原点回帰でもありターニングポイントともなった3rdアルバム『Origin』の先行シングル「ランアンドラン」でスタートするDISC 2からは改めて自分たちの足元を見つめ、音楽的な幅をいっそう豊かに広げていく朗々としたたくましさが、いきいきと伝わってくるのだ。

 それにしても1曲1曲、もれなくクオリティが高い。初期こそ扇情的な四つ打ちがバンドの代名詞のようにも語られていた彼らだが(もちろんそれも大きな武器だ)、それだけに留まらない本領につくづくと舌を巻いてしまう。古賀隼斗(Gt/Cho)のスケール感と繊細さを併せ持つ華やかなギタープレイ(「スノーグローブ」の健やかな牽引力たるや!)や、リリースを重ねるごとにみるみるバリエーションを増やして演奏の土台を頼もしく支える小泉貴裕(Dr)のリズムさばき(「ディストラクションビートミュージック」の躍動感は彼に依るところがとても大きいと思う)、そして何より谷口鮪(Vo/Gt)の傑出したソングライティング力と伸びやかにして無二の歌声。それらが絶妙に噛み合って生み出されてきた楽曲たちに共通するのは、枯れることのない瑞々しさと、どんなに悲しみや切なさをたたえようとも、どこかきっぱりと前を向いた潔さだ。葛藤もあっただろうし、逡巡もたくさんしてきただろう彼らの7年間。けれど、音を奏でることだけは揺るぎなく喜びに満ちていたはずだと勝手に確信する。

 昨年11月に飯田が脱退、KANA-BOONは3人になった。今作のリリースは彼らがデビュー5周年を迎えた2年ほど前から計画されていたというから、たまたまタイミングが重なったことになるわけだが、このベストアルバムが彼らにとってひとつの集大成であることは間違いない。4人のKANA-BOONを第一期とするならば、彼らはすでに第二期を進み始めている。それは同時リリースされたニューシングル「スターマーカー」に明らかだ。今作のDISC 2のラストを飾るボーナストラックにして新曲の「マーブル」も然り。アコースティックな手触りも印象的なこの曲には大切な過去への思慕と惜別、変わらぬものを抱えながらも変わることを選んだ自身の決意が、柔らかくも生々しい息遣いで歌われている。<住み慣れた街を出るような/着慣れない服で歩くような/寂しさと胸の高鳴りがマーブル模様/交じっている>と心情を描写した冒頭の一節の的確な筆致に目の奥が熱い。

「僕らは僕らで曲をフルサイズで仕上げた時点で100点を出しているつもりでいつもやってるし、毎回、大満足してるんですよ。でも、その先があるんやってことを今回知れたので」

 これは「スターマーカー」のインタビューで谷口が語ってくれた言葉だ。言うなれば今作は普遍の100点満点集であり、これからの彼らと、彼らが生み出す音楽を測る手強い指標となるのかもしれない。新たな一歩を踏み出したKANA-BOONの新章に俄然、期待が募る。

【文:本間夕子】





KANA-BOON 『マーブル』Music Video

リリース情報

KANA-BOON THE BEST

KANA-BOON THE BEST

発売日: 2020年03月04日

価格: ¥ 3,200(本体)+税

レーベル: Ki/oon Music

収録曲

[DISC 1]
01.ないものねだり
02.さくらのうた
03.盛者必衰の理、お断り
04.1.2. step to you
05.ウォーリーヒーロー
06.羽虫と自販機
07.結晶星
08.フルドライブ
09.生きてゆく
10.シルエット
11.スノーグローブ
12.なんでもねだり
13.ダイバー
14.talking
15.スノーエスカー(新録曲)
[DISC 2]
01.ランアンドラン
02.Wake up
03.Fighter
04.バトンロード
05.ディストラクションビートミュージック
06.涙
07.彷徨う日々とファンファーレ
08.アスター
09.夜の窓辺から
10.ネリネ
11.春を待って
12.ハグルマ
13.まっさら
14.眠れぬ森の君のため
15.マーブル(新曲)

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