梅雨明けを待たず最高気温が32度を超えた７月12日、一足早い真夏の夜の夢を、今年もEGO-WRAPPIN’が見せてくれた。「野音はTHE GOSSIP OF JAXXとやるから、ドカンと！」と最新シングル『BRIGHT TIME』のインタビューをした際に言っていたが、その言葉通り最高にハジけたライヴになった、日比谷野音ワンマン「Dance, Dance, Dance」。虹と文字を組み合わせた電飾を背景に、中納良恵(Vo)と森雅樹(G)はTHE GOSSIP OF JAXXと共に姿を現した。

　まだ熱気を孕んだ空気の中、歓声と手拍子を遮って始まったのは、歌詞に合わせて中納が紙吹雪を舞わせたナンバー。まだ黄昏れてもいないので照明もないけれど、幕を掛けたパーティータイムに優しく誘う歌に、満席の場内は心地良さそうに揺れ出した。
　「ありがとう！」と歌い終わった中納が手を挙げると間髪いれず末房央のドラムがカウントを取り、「転がるピアノが聴きたい人！」という中納に歓声が起こった。ハタヤテツヤのピアノは勿論、ドラムもベースも軽快に揺れて転がる曲の途中で、クラリネットでソロを取った武嶋聡を中納が「タケちゃん！」と紹介し、リズムに合わせて手を振れば、ウェーヴのように場内も沢山の腕が波を描いた。

　程よく盛り上がったところで、ゆったりとしたレゲエ・ナンバーで和ませる。ドロップビートに身を任せているオーディエンスに、「Everybody、元気ー！」と中納が声を掛ければ「YEAH！」と盛大なレスポンスがあり、森がギターで繋いだ次の曲はそのテンポを柔らかな歌で受け継ぎながら、次第にアグレッシヴな展開となって思いがけない盛り上がりを呼び起こした。一段落したところで中納が「こんにちは！」とMC。野音のワンマンは５回目で「Dance, Dance, Dance」と銘打って3回目。このタイトルにしたのは3年前、無罪判決が出た大阪のクラブ「NOON」風営法違反問題が起こったからオーディエンスと会話しながら説明。そして「これから日が沈んでいい感じに。たっぷりやりますから」と沸かせた。

　その言葉通り中納が自ら曲に合わせて踊り出すとベースの真船勝博がハジけ、武嶋はSAXをブロウする。目まぐるしく変化していく曲の中で森はザクザクとしたギターでご機嫌なソロを聴かせ、中納は自分でエフェクターをかけて味を加える。遊び心満点の曲にオーディエンスは大喜びだ。そして映画「ブルースブラザーズ」でキャブ・キャロウェイが歌ってお馴染みになったナンバーから最新アルバムからのヘヴィなファンク・チューンへ。
　前半戦のピークを続く3曲で極めると一転、森が椅子に腰を下ろしてドブロの枯れた音を鳴らし、中納はピアノを弾きながら伸びやかな歌を聴かせた。息の合ったバンドとの演奏で踊らせると同時に、良質な歌と演奏で魅了する、それがEGO-WRAPPIN’であることを強く感じさせた数曲だった。

　このライヴ前に最終回を迎えたTVドラマ「リバースエッジ 大川端探偵社」のことを話した後は当然そのテーマ曲。アコースティック・ヴァージョンで聴かせた頃には、ようやく黄昏れて電飾が映える頃に。中納が退場している間に森が缶ビールを開け、「ギターウルフみたいに一気しようと思ったけど無理」と笑わせる。そんな間に準備していた中納とともに登場した骸骨模様の全身タイツのダンサーたちが盛り上げると後半戦にスイッチオン。このバンドの面目躍如と言える緊張感のあるナンバーから新曲、そしてお馴染みの曲たちへと見事な流れで続け、そのあいだに小気味のいいジャムやソロまわしで曲を膨らましてく。ライヴの醍醐味をこれでもかと味わって至福の時間を過ごしているオーディエンスには、この２時間があっという間。

　「楽しかった！　来年も！」と言ってステージを降りた彼等がアンコールに応えたのは数分後。予定時間を超過していると説明しながら、中納と森の二人だけで歌った最新シングルの曲「サニーサイドメロディー」は、鳥肌が立つほどに素敵だった。素直にどこまでも広がる中納のヴォーカルと、飾り気なく響く森のギターが織りなすサウンドが、心から美しいと思えた瞬間だった。だからこそ、ここから膨らんでいくEGO-WRAPPIN’サウンドの可能性は無限大なのだ。ライヴで垣間見せた素顔のような二人のサウンドに、改めて期待を抱いた夜だった。

【取材・文：今井智子】